お隣さんの強さが眩しい…/原ゆみこのマドリッド

2021.04.10 00:30 Sat
©Atlético de Madrid
「そりゃ景気づけは必要だけど、こんなご時世にいいのかしら」そんな風に私が首を傾げていたのは木曜日、いよいよ、リーガで後のなくなったアトレティコが午前中に練習を済ませると、チーム全員でバスに乗って、マドリッド郊外に遠足。ヒル・マリン筆頭株主の別荘で決起ランチを行ったというニュースを聞いた時のことでした。いやあ、コロナ感染防止政令のあるスペインでは今でもまだ、飲食店内での1テーブル人数は4人まで、テラスでも6人までに制限されているんですけどね。個人宅に外から人を招くことも禁じられていて、とりわけ週末など、ガンガン違法フィエスタが摘発されているんですが、チーム丸々にクラブ上層部が参加したら、その数、30名は軽く超えていない?
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うーん、確かに彼らはリーガでも1、2を争う数の選手、果てはシメオネ監督まで、チームの半数程はすでに感染済みですから、集団免疫がもうあるだろうと、勝手に誤解していても不思議はないんですけどね。先月から始まったワンダ・メトロポリターノでのワクチン接種会の対象はまだ、エッシェンシャルワーカーとようやく65才以上が対象になってきたところですから、選手たちには関係ないとはいえ、まあ、各試合前など、折々、全員がPCR検査を実施。陽性者のいない今なら、大丈夫だろうと踏んだんでしょうが、でもわかりませんよお。この火曜、同様に厳しい予防策を取っているお隣さんなんか、いきなりバランの感染がCL準々決勝1stレグ当日に発覚しているんですから。そう、今週はバルサ、セビージャ、アトレティコが次々とCL16強対決で敗退した後、スペイン勢唯一の生き残りとなったレアル・マドリーがエスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノ(RMカスティージャのホーム)でリバプールと火曜に対戦。ラッキーなことに私もまた、スタジアム観戦できたんですが、16強対決アタランタ戦の時とは違い、3月末にはスペインはサマータイム入ってくれたのが幸いしました。同じ午後9時キックオフでもまだ辺りが明るいうちにスタンドに着くことができたのは嬉しかったかと。
もうその頃には、前日の検査の結果で怪しかったバランはバルデベバス(バラハス空港の近く)での前夜合宿には参加せずに自宅待機、陽性が確定した後、カンテラーノ(RMカスティージャの選手)のチュストが招集されたなんてこともわかっていましたが、何せ、キャプテンでDFの要、とにかくCLでいないとマドリーの勝率が格段に落ちるという、セルヒオ・ラモスがスペイン代表戦最終日の試合後、ふくらはぎにケガをして、1カ月のbaja(バハ/欠場)が決まっていましたからね。更にバランもいないとなると、ジダン監督も相当、胃が痛かったんじゃないかと思いますが、「Hemos cambiado a Militao por Varane, 4-3-3, no hemos cambiado nada de lo que preparamos/エモス・カンビアードー・ア・ミリタオ・ポル・バラン、クアトロ・トレス・トレス、ノー・エモス・カンビアドー・ナーダ・デ・ロ・ケ・プレパラモス(バランをミリトンに代えただけの4-3-3、ウチは準備したことは何も変えなかった)」作戦が見事に成功するとは!

というのも、キックオフ前には丁度、リバプールが自分の座っている側のピッチでアップをしていたため、昨季CL16強対決では、このサラー、マネ、フィルミーノ、GKアリソンといった、名前を聞くだけでも強そうな選手が沢山いるチームにアトレティコが何度も窮地に立ちながら、最後は勝ったのよねと妙なノスタルジーを感じていた私だったんですけどね。何と、前線のフィルミーノをジオゴ・ジョタに代えただけの相手は立ち上がりから、まったく攻めて来なかったから。
それは実際、CBファン・ダイクなど、DF陣に長期負傷者大量発生、守備が弱体化していたせいでの用心だったんでしょうかね。対照的にその日は、後でルーカス・バスケスが、「奥行きのあるパスを出して長くプレーを繋いで、スペースを見つけるためにボールをサイドからサイドへと移動させた」と説明していた通り、マドリーの動きがやけに軽やか。とうとう27分にはクロースのロングパスをビニシウスが絶妙のトラップで受け、彼にしては滅多にお目にかかれない正確なシュートを決めて、先制点を奪ったとなれば…。

でも、ここは名門同士のCLカードに超満員となったサンティアゴ・ベルナベウではなく、無観客のディ・ステファノ。現地での前日練習もせず、この試合で初めて足を踏み入れたクロップ監督など、キックオフ前のインタビューで「これはスタジアムじゃなくて、練習場だ」と言っていたぐらいの地味な舞台とあって、歓声もパルコ(貴賓席)やマドリーの控え選手たちが座っている辺りから聞こえたぐらいでしたからね。こういう淋しさを感じるたび、私が遠い目をしてしまうのも仕方なかったかと。

それでも攻撃の手を緩めなかったマドリーは36分にも、アレクサンダー・アーノルドの不用意なバックパスにアセンシオが追いついて、GKの頭を越えるvaselina(バセリーナ/ループシュート)。距離が足りなかったか、アリソンをかわして、更にゴール前で押し込んでいましたが、もうこれで4試合連続得点ですからね。2年前、ヒザの靭帯断裂を治して戻って来て以来、あまりプレーに冴えが見られなかった彼ですが、もう完全に復調したと言っていいのでは?さすがに前半だけで2点のビハインドにはクロップ監督も自身のゲームプランミスを悟ったか、ハーフタイムを待たず、42分にはケイタをチアゴ・アルカンタラに代えるという、先日のセビージャ戦でロディをコレアに代えたシメオネ監督みたいな戦術訂正をする破目になっていましたっけ。

まあ、これは当たったと言っていいでしょう。というのも心を入れ替えてピッチに立った後半、早くも5分にリバプールはジョタからボールを受けたサラーがシュート。これが人垣の間を通って、GKクルトワを破ったため、スコアは2-1に。ゴールにはVAR(ビデオ審判)判定が入ったため、選手たちが祝うのには時間がかかったんですが、何せ貴重なアウェイゴール。この1点があれば、たとえそのまま負けたとしても、ホームで1-0とすれば、勝ち抜けできますからね。チアゴ効果もあって、勢いづいてきた相手に私もちょっと、不安を覚えていたんですが、大丈夫。この日のマドリーは止めを刺すことを知っていたんです。

それは20分、今度は敵の左サイドから入ったモドリッチがエリア内のビニシウスにラストパス。それをワンタッチで流し込んでしまったのですから、ビックリしたの何のって。3点目を挙げたマドリーは、うーん、その頃には普通のリーガ戦以上に勤勉に走ったためか、前線の選手にも疲れが出て、せっかく敵エリアまで着きながら、カウンターに失敗するというケースも何度か、ありましたしからね。といっても、こういうビッグマッチでジダン監督が信頼できる選手がベンチに沢山いた訳ではないため、アセンシオが、負傷から復帰が何とか間に合ったバルベルデに、ビニシウスが同郷のロドリゴに代わっただけでしたが、自陣エリアを取り囲んでのリバプール最後の猛攻も無事にやり過ごすと、試合は3-1で終了。

え、でもリバプールには2018-19シーズンのCL準決勝でバルサに3-0と負けながら、アンフィールドで4-0のremontada(レモンターダ/逆転突破)をした経験があるんだろうって?そうですね、ただ、クロップ監督も「バルサに逆転勝ちした試合の80%はファンのおかげだったが、今はそういう訳にはいかない」と言っていたように、来週水曜のホームゲームも無観客試合なのは、いくらもう、そんな状態がずっと続いているからとはいえ、かなり辛いところ。とはいえ、マドリーの方もラモスやバランは戻って来られないですから、2-0でいいとなれば、必死で喰らいついてくるはずですが、さて。ちなみにマドリーが順調に準決勝進出できた場合、今季はもう組み合わせが決まっていて、相手はポルトかチェルシー。水曜の1stレグでは後者が0-2とアウェイで勝利していたため、アトレティコのリベンジをすることになりそうですが、まだそれは先の話で、今は…。

クラシコ(伝統の一戦)が土曜に迫っているんですよ。それも両者共、リーガで好調が続いていて、3位のマドリーと2位のバルサの差は勝ち点3。首位アトレティコと2位もとうとう1差になってしまったため、どちらもここで宿敵を倒して、てっぺんに立とうと牙を研いでいるんですが、どちらが有利かというと微妙でねえ。前節のバジャドリー戦では、ジョルディ・アルバのハンドによるペナルティのスルーやオスカル・プラーノへの厳格なレッドカードがあった後の終盤、土壇場でデンベレのゴールが決まり、1-0と辛勝したバルサより、先週末のエイバル戦から、いいプレーを見せて勝っているマドリーの方が勢いに乗ってそうですが、何せ、向こうにはこのミッドウィークに試合がなかったというアドバンテージが。

とりわけ、リバプール戦の後、多くの選手が芝生に座り込むなど、ヘトヘト状態だったのを目の前で見ていますし、主力のモドリッチ、クロース、ベンゼマらは軒並み30代。ジダン監督はスタメンをリピートするようですが、しっかり体力が回復してくれるのか、ちょっと心配かと。メンバーの方では木曜のセッションではカルバハルが、アザールも先週後半からチーム練習に参加していますが、2人共、今季は復帰した途端、またケガしてリハビリ生活に逆戻りというのを繰り返していますからね。招集リストに入るかどうか、まだわからないんですが、敵もピケが急ピッチで調整中。この木曜、4月8日には長女ミアちゃん、長男アマロ君とまったく同じバースデーで次女アルバちゃんを奥さんのエリカさんが出産したグリーズマンなども張り切っているはずですし、とにかく土曜午後9時(日本時間翌午前4時)からの一戦は見逃す訳にはいきません。

そして同じ土曜の午後2時(日本時間午後9時)からはマドリッドの弟分、ヘタフェがカディスをコリセウム・アルフォンソ・ペレスに迎えるんですが、こちらはどうも、相手が大変なことになっていてねえ。というのもカディスは前節のバレンシア戦に2-1で勝ったんですが、途中、ディアカビが「Negro de mierda/ネグロ・デ・ミエルダ(黒人のクソ野郎)」と人種差別発言を受けたと訴え、一時は全員がロッカールームに引き上げるという騒ぎに。結局はピッチに戻って、試合は無事終わったものの、それから差別発言の張本人とされたカラがバレンシアは元より、世間から轟々の非難を浴びることに。

ただカラ自身はずっと、そんなことは言っていないと主張、どうやらラ・リーガ協会の綿密なオーディオ調査では、その言葉には南米系のアクセントがあったため、アンダルシア(スペイン南部)出身のカラのものではありえないとか、更に映像でカラの唇を読んだところ、言ってないとか、イロイロ出てきて、といってもディカビが嘘をついているとも考えがたいですからね。結末がどうなるのか、私も全然、わからないんですが、ま、試合の方は13位と勝ち点2差の15位の対決という、ヘタフェにとっては先週末のオサスナと似たような状況でしょうか。

一応、ここまでで勝ち点30は溜めているため、焦らなければ、そのうち彼らも残留ラインには届くんじゃないかと思いますが、今回はCBチャクラが出場停止と負傷が重なっていない上、トルコでコロナ感染隔離されているエネス・ウナルもまだ帰っていないとあって、ここ3試合連続引き分けの流れを断ち切るのは難しいかも。何にしろ、この先はマドリー、バルサと強敵が待っているため、できれば勝ち点3を取れるといいのですが…。

そして日曜午後9時から、またセビージャ(スペイン南部)に遠征して、今度はベティスと対戦するのがアトレティコなんですが、この水曜には途方もない不幸がチームを襲うことに。いえ、どちらにしろ、ルイス・スアレス、マルコス・ジョレンテ、コンドグビアは累積警告で出場停止なんですけどね。それが、たった1試合の我慢のはずだったのに、スアレスがマハダオンダ(マドリッド近郊)での練習中に左ふくらはぎを痛め、全治3週間となってしまったとなれば、もうここ10試合で4勝2分け4敗とどんどん、貯金を吐き出しているシメオネ監督のチームは、どうやって点を取ったらいい?

一応、セビージャ戦を休んだジョアン・フェリックス、カラスコ、サビッチはチームに復帰、それに母親をコロナで亡くしたトレイラもようやくウルグアイから帰って来たんですけどね。この先、エイバル、ウエスカ、アスレティック戦と、エース不在の試合が4つも続くのでは、もうリーガ優勝など、夢のまた夢のような気もしないではないんですが、予想もつかないことが起きるのがサッカー。まあ、現在6位、同じ勝ち点のレアル・ソシエダと共にEL出場圏内にいるベティスもエースのボルハ・イグレシアが前節エルチェ戦での打撲で、ほとんど練習ができていないようですし、とにかくこの試合では決して、GKオブラクにイヤな思いをさせないのが大前提。ジョアンやコレア、カラスコ辺りがゴールを挙げて、何とか首位を死守してもらいたいものです。


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