まだ悲観するのは早い…/原ゆみこのマドリッド

2021.03.23 23:35 Tue
「気分転換には丁度いいのかな」そんな風に私が呟いていたのは月曜日、お昼のニュースでスペイン代表選手たちがラス・ロサス(マドリッド近郊)のサッカー協会施設に到着する映像を見た時のことでした。いやあ、昨年夏に開催されるはずだったユーロ2020がコロナ流行で1年延期となった後、9月から再開されたヨーロッパの代表戦ではネーションズリーグなるものをやっていたんですけどね。とりあえず、リーグAのグループ4で1位となったスペインには優勝者を決めるファイナルフォーがあるはずなんですが、未だに12都市開催方式や観客を入れるのかどうか、はっきりしない点が多々あるものの、一応、6月11日から、ユーロが始まることになっているため、こちらは10月に開催されることに。

その間を縫って、2022年W杯予選を進めていこうということで、スペインはこの木曜にロス・カルメネス(グラナダのホーム)でギリシャ戦、土曜にはアウェイでジョージア戦、来週水曜にはセビージャにあるカルトゥーハでコソボ戦があるんですが、何せ今やリーガの優勝争いが3つ巴で凄いことになっていますからね。先週、発表された招集リストでは当該の3チームから、コケ、マルコス・ジョレンテ(アトレティコ)、セルヒオ・ラモス(レアル・マドリー)、ブスケツ、ジョルディ・アルバ、ペドリ(バルサ)と、2008年から2012年のスペイン黄金期のように、その間、ずっとリーガの覇権を争っていたバルサとマドリー勢が大多数を占めるということは最近ではなくなり、代表チーム内にライバル関係が持ち込まれる心配も減ったと思うんですが、今は時期が時期ですし、対戦相手もネーションズリーグと違って微妙ですからね。

初招集となった18才のペドリ、昨季はマドリッドの弟分チーム、レガネスで2部降格という悲哀を味わい、今季もセビージャからのレンタルされてエイバルで頑張っている20才のブライアン・ヒル、カルバハル(マドリー)とヘスス・ナバス(セビージャ)の負傷で抜擢された右SBペドロ・ポロ(スポルティングCP)、大穴だったGKロベルト・サンチェス(ブライトン・アンド・ホーブ・アルビオン)らの初招集組、そして先週末のセルタ戦を打撲で欠場したものの、スペイン歴代最多の178キャップを上積みする機会を逃したくない34才のラモス以外、あまり熱が入らないんじゃないかと思いますが、ま、それはそれ。今は先にリーガ前節の様子を振り返ってみることにすると。
先陣を切ったのはマドリーで、土曜にバライドスでセルタと相まみえることに。これがまた、CL16強対決アタランタ戦2ndレグ快勝の余波が残っていたか、いえ、さすがに3人CF制は止めて、バランとナチョの2人に戻していたんですけどね。前半20分にはクロースが敵DF陣の密集する中、隙間を縫うラストパスをベンゼマに送り、早々と先制しているんですから、見事なもんじゃないですか。30分にもこの2人のコンビネーションがバッチリ決まり、タピアスからクロースが奪ったボールをベンゼマが2点目に変えて、リードを倍にしてくれます。

ただ、それでちょっと油断が出たか、40分にはデニス・スアレスのFKをサンティ・ミナがヘッド、GKクルトワが破られてしまったんですが、1点差で始まった後半も結構、余裕でしたかね。モドリッチがイエローカードを受けたファールからのFKで、イアゴ・アスパスにゴールポストに当てられるなんてことはあったものの、仕上げはロスタイム4分。この日、唯一の途中出場として、クロースと代わったアセンシオがまるでアタラタンタ戦のデジャブの如く、カウンターからベンゼマのアシスト受け、3点目を奪って試合に決着をつけてくれたとなれば、全然、問題ありませんって(最終スコア1-3)。
え、この日も2ゴール1アシストとノリノリだったベンゼマなのに、ここ6年、デシャン監督との確執のせいでフランス代表出禁となり、またしてもこの2週間、ゆっくり休養できるのはズルくないかって?うーん、2022年W杯後、次期代表監督就任の噂も出ているジダン監督もそれには、「ベンゼマが代表に呼ばれないのを理解できない人は多い。Pero me alegro como entrenador del Madrid/ペロ・メ・アレグロ・コモ・エントレナドール・デル・マドリッド(でも、マドリーの監督としては嬉しいことだ)」と言っていたんですけどね。今回の代表戦は南米勢が参加せず、出向組も7人と少ないため、paron(パロン/リーガの停止期間のこと)明け、4月3日のエイバル戦から始まる、CL準々決勝リバプール戦1stレグ、クラシコ(伝統の一戦)、リバプール戦2ndレグのシーズン山場ウィークへの準備も普段よりはやりやすいかも。

そしてマドリー戦の後はレガネスとフエンラブラダのクラブ史上初の2部ダービーを見に、ブタルケへ行った私だったんですが、バス停から丘の上にあるスタジアムに向かう道では、横を歩いていたカップルが「もう試合を見に行けなくなって1年経つのよね」と言っているのを耳にして、ちょっと申し訳ない気分にもならないではなし。そう、彼らは練習場からスタジアム入りするチームバスを迎えようと駆けつけた100人程のレガネスサポーターの一員で、いえ、「Puta Geta! Puta Geta!/プータ・ヘタ(ヘタフェのクロ野郎)」というカンティコ(節のついたシュプレヒコール)が聞こえてきたところから、やっぱり彼らが最大のライバルと見なしているのは、車で10分程のお隣町のチームのようですけどね。

それでも盛大にbengala(ベンガラ/発煙筒)を焚いて、やはり車で15分程、2年前に2部Bから昇格してきた弟分の弟分、フエンラブラダとのダービーに挑むチームを応援していましたが、結果は見事にレガネスの完敗。ええ、サンドバル監督から引き継いだオルトラ監督が、マルティ監督と交代した5年前の1部初昇格の英雄、アシエル・ガリターノ監督より、大声で選手たちを叱咤激励していたのが効いたんでしょうかね。後半9分にクリストバルの豪快なミドルシュートによるgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)で先制されると、32分にはプリードに2点目を決められ、ここ3試合、柴崎岳選手の出場もないまま、0-2で終わってしまったんですが、どんまい。

まだ2部は13試合も残っていますし、直接昇格のできる2位までは勝ち点差5の4位をキープしているため、まだまだ2016-17シーズンのお隣さんのように、レガネスの最速リターンは可能かと思いますが、さあて。ちなみに現在、10位のフエンラブラダは昨季、2部1年目ながら、最終節まで昇格プレーオフ出場圏を争う頑張りを披露。その運命のデポルティボ戦前にコロナクラスターに見舞われなければ、どうなっていたか、わからないんですが、今は6位と勝ち点差10の13位とまあまあのポジションと言っていいかと。今季は4チームある2部マドリッド勢ではラージョも6位とプレーオフに出場できるかもしれないんですが、19位のアルコルコンはちょっと心配ですね。

一方、翌日はヘタフェがコリセウム・アルフォンソ・ペレスにエルチェを迎えたんですが、いや、最近の流れから、まさか久保建英選手が先発するとは思わず、私も試合が始まってから、慌てて近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)に駆けつけることに。そこで最初に見たのが前半20分、セットプレーからチャクラのクリアしたボールがベルドゥに渡り、ゴール正面にいたミジャにラストパスを送られて、先制点を奪われるシーンだったとはまったくもって皮肉。それでも前節は兄貴分のアトレティコから、スコアレスドローをもぎ取ったのが、自信になっていたか、後半15分には久保選手のアシストから、ウナルがヘタフェ移籍初となるゴールで同点としてくれたから、助かったの何のって。

おまけに39分にはエリア内に落ちて来るボールをアンヘルと争ったエルチェのDFがハンドを取られ、ヘタフェはPKをゲット。これで逆転勝利に限りなく近づいたように見えたんですが…最悪です。アンヘルの蹴ったPKはGKバディアに弾かれてしまい、そのまま試合も1-1で終了。うーん、昨季の最終戦で2年連続のEL出場権が懸かったPKを失敗したマタはこの日、出場停止2試合目でいなかったんですが、彼も先日、止められていましたしね。このところ、あまりPK成功率が良くない彼らなんですが、後でボルダラス監督が話したところによると、第1キッカーはウナルだったのだとか。それをベテランのアンヘルが無視して蹴っていたのも問題ですが、せっかく勝ち点3を溜めるチャンスだったのにと思うとホント、残念なことをしたものです。

まあ、今更悔やんでも仕方ないんですし、引き分けでも順位は14位と1つ上がり、降格圏との差も6に広がりましたしね。今度は代表戦週間明けのオサスナ戦で必勝を目指すばかりですが、ちなみにヘタフェの各国代表参加選手は6人。チャクラ(モロッコ)、ジェネ(トーゴ)、ウナル(トルコ)、マクシモビッチ(セルビア)、ククレジャ(スペインU21)、そして久保選手(日本U24)となりますが、とりわけアフリカ勢とか、出入国制限や帰還後の自宅隔離措置にかからないのか、ちょっと気になりますよね。

え、それでここ10試合で8勝2分けと好調なお隣さんに勝ち点3差に迫られて、日曜のアラベス戦を迎えたアトレティコはどうだったのかって?いやあ、ワンダ・メトロポリターノでの前半はとにかく、ガッチリ守りを固めてきたアラベスを前にまったくプレーにスピードがなく、先週のチェルシー戦2ndレグからの延長でパスミスも頻発。おかげで両者無得点で入ったハーフタイムにはシメオネ監督から、相当、喝を入れられたんでしょうかね。累積警告で出場停止のジョアン・フェリックスがスタンドから見守る中、始まった後半9分、ようやく見せ場がやって来ました。ええ、トリピアーがワンタッチで上げたクロスをルイス・スアレスがヘッドで押し込み、チームに3試合ぶりのゴールをもたらしてくれるんですから、嬉しいじゃないですか。

いえ、その後はジョレンテの強烈シュートも、スアレスの一撃もGKパチェコに弾かれてしまい、追加点が入らないのにイライラ、徐々に不安感に襲われることになったんですけどね。それが37分、まさかリオハを後ろ手で払ったサビッチの肘が相手の顔に当たり、返す手で後頭部も殴っていたことが、VAR(ビデオ審判)に発見されてしまったから、さあ大変!何せ、すでに大勢は決定した後だったとはいえ、スタンフォード・ブリッジでの試合でも肘打ちで退場になっていたモンテネグロ人のCFですからね。またレッドカードかとビクビクして待っていれば、この日はイエローカードで済んだものの、ファールの場所がエリア内だったとして、アラベスのPKになっちゃったんですよお。

それもこれもオブラクは極めて優秀なGKなんですが、PKに関してはあまりいい記憶がなく、実際、2018年5月のヘタフェ戦でのファジル以来、ずっと決められ続けだったから。もうホセルが蹴る瞬間など、怖くて、現地中継でTV映像より30秒程、先行するオンダ・マドリッド(ローカルラジオ局)の聴くイアホンを私も外してしまったぐらいだったんですが、いやあ。時には奇跡っていうものが起きるんです。そう、自分の右手に飛んだオブラクが見事にPKを弾き、残り時間から考えれば、ほぼ引き分け確定だった試合を勝利に導いてくれたとなれば、サビッチなど、もうバルカン半島仲間のチームメートに足を向けては眠れない?

おかげでアトレティコは1-0で終わることができ、再びマドリーとの距離を勝ち点差6に戻すことができたため、試合後はシメオネ監督も「Todos los grandes tienen jugadores determinantes, nosotros tenemos a Oblak y Suárez/トードス・ロス・グランデス・ティエネン・ジュガドーレス・デテルミナンテス、ノシトロス・テネモス・ア・オブラク・イ・スアレス(全ての偉大なチームには決定的な選手がいて、ウチにはオブラクとスアレスがいる)」と安堵の笑顔。いえ、まあ、当のオブラクは「Los penaltis son una cosa que no se entiende/ロス・ペナルティス・ソン・ウナ・コーサ・ケ・ノー・セ・エンティエンデ(PKは人には理解できないことなんだ)。3年前、自分は6本中4本止めたのを覚えているけど、それからは全然だったし」と言っていたため、この日のセーブは単なる偶然だったかもしれないんですけどね。

それどころか、「Es mi séptimo año aquí y hay partidos que sufres, el ADN rojiblanco tiene un poco de eso/エス・ミ・セプティモ・アーニョ・アキー・イ・アイ・パルティードス・ケ・スフレス、エル・アーデーエネ・ロヒブランコ・ティエネ・ウン・ポコ・デ・エソ(このチームでボクは7年目だけど、苦しむ試合はあって、そういうのがアトレティコのDNAに少しあるみたいだね)」(オブラク)なんて聞くと、常々、「マドリーのDNAにはCLが刷り込まれている」と豪語しているお隣さんと比べて、ちょっと複雑な気持ちになってしまったりもするんですが、大丈夫。ヘロヘロになって掴んだって、余裕で圧勝したって、勝ち点3は勝ち点3なんですから。

いやま、それも日曜の夜、バルサがメッシ以外の選手も才能を開花させ、レアル・ソシエダを1-6とgoleada(ゴレアアダ/ゴールラッシュ)で一蹴しているのを見せつけられると、うーん、またマドリーを抜いて2位に戻った彼らとの差は勝ち点4だけですからね。彼らはアトレティコ同様、CL日程がなくなりましたし、4月17日にはコパ・デル・レイ決勝のアスレティック戦があることから、今季は無冠かもしれないという悲観的な予想から一気に180度転換。doblete(ドブレテ/リーガとコパの2冠優勝のこと)が視野に入ってきたなんて言われているのも、マドリーもリバプールを倒せば、準決勝はポルトvsチェルシー戦の勝者と対決、優勝候補の呼び声高いバイエルンやマンチェスター・シティ、PSGとは決勝まで会わないとあって、CLとリーガの2冠を狙えると世間が舞い上がっているのも知っていますが…二兎を追えないアトレティコにはリーガ一途に邁進してもらう他、ありません。

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