あれからもう1年が経った…/原ゆみこのマドリッド

2021.03.16 18:35 Tue
©Atlético de Madrid
「今度は皆、用心してるから大丈夫だと思うけど」そんな風に私が嫌な記憶に悩まされていたのは月曜日、TVのニュースでコロナ感染者の再増加により、イタリアの大部分に再びconfinamiento(コンフィナミエントー/外出禁止措置)が課されると聞いた時のことでした。いやあ、このパンデミックがヨーロッパで始まったのは丁度、1年前。CL16強対決アタランタ戦1stレグでバレンシアがすでに大流行していたミラノへ移動し、応援に行ったファンから地元での感染が広まった後、無観客のメスタジャで3月10日に行われた2ndレグでは、敵チームを率いるガスペリーニ監督まで、コロナの症状に悩まされていたなんてこともあったんですが、折しも火曜にエスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノ(RMカスティージャのホーム)でレアル・マドリーが迎えるのが、まさにそのアタランタなんですよ。

もちろん今や試合は全て無観客、ベルガモ(ミラノ近郊にあるアタランタのホームタウン)からファンが来ることもありませんし、大体がして、どちらのチームも選手、スタッフらは昨年9月にリーグが開幕して以来、3日に1度ぐらいのペースでPCR検査を受けて、陰性を確認していますからね。ガスペリーニ監督だけでなく、ジダン監督も先日、コロナ陽性による自宅隔離をしていましたし、選手たちもすでに抗体のある人が多いかと。それでもCLアウェイ戦では必ず、敵チームのホームスタジアムで前日練習を行っていたアトレティコが、水曜のチェルシー戦2ndレグ前にスタンフォード・ブリッジを訪れず、マハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場で午前セッションをしてから、夕方、移動するって、もしやコロナ変異種が猛威を振るっているロンドンでの滞在時間をできるだけ短くしたいから?
まあ、すでにチームの半数が感染済みのシメオネ監督のチームですから、その辺は憶測にすぎませんが、とりあえず、先に先週末のリーガ戦の様子をお伝えしていくことにすると。マドリッドの両雄が今週、CLを戦うため、どちらも土曜開催となったんですが、先にスタートしたのはホームにエルチェを迎えたマドリーの方。これがまた、アタランタとの1stレグが0-1勝利と僅差だったせいか、ジダン監督は中盤の要、クロースとモドリッチをベンチに温存、代わりにヒザの手術から復活してきたセルヒオ・ラモス、そしてバラン、ナチョを並べる3CB制を採用したのが良くなかったんですかね。前半はコンパクトに守るエルチェに付け入る隙を見つけられず、0-0のままでハーフタイムに入ります。

物議を醸すプレーが起きたのは後半序盤で、4分と8分にはラモスがマルコーネに敵エリア内で倒され、うーん、特に2回目の際など、マドリーのキャプテンは猛抗議。「Penalti clarísimo. Me voy a quedar aquí porque lo voy a tirar, ya lo verás. Juan, míralo/ペナルテイ・クラリシモ。メ・ボイ・ア・ケダール・アキー・ポルケ・ロ・ボイ・ア・ティラール、ジャー・ロ・ベラス。ファン、ミラロ(明らかなペナルティだ。PKを蹴るから、ボクはここに残るよ。見てくれよ、ファン)」とフィゲロア・バスケス主審に喰ってかかる声が、これも無観客のおかげですね。TVのマイクにしっかり入っていたんですが、この時の肝は、ラモスが相手の名前を間違っていたこと。何度もファン、ファンと呼ばれ、最後は主審自身が「私はホルヘだ」と訂正していましたが、もしやVAR(ビデオ審判)のモニターすら見に行ってくれなかったのは、それで気を悪くしたから?

ただ、13分にはエルチェのFWカリージョが当のラモスから、ゴール前でファールを受けながら、カセミロから来たボールを味方からと勘違いされ、オフサイドでペナルティとならなかったプレーもありましたから、そこはお互い様なんですが、その2分後、CKからダニ・カルボにヘッドで先制点を奪われてしまったのは大誤算。そこでジダン監督は久々の実戦復帰だったラモス、この日の先発に抜擢されたイスコ、バルベルデを下げ、一気にモドリッチ、クロース、ロドリゴを投入、システムも慣れた4-3-3に戻したところ、これがしっかり当たったんです。
もっとも時間はちょっとかかって、ヤキモキさせられたんですけどね。まずは27分、モドリッチが左から上げたクロスをベンゼマが頭で同点ゴールに。アトレティコが首位にいるため、私的にはそのまま引き分けでも構わなかったんですが、まさか後半ロスタイムに入って、本領発揮してくるとは!ええ、前節のマドリーダービーでは残り2分にカセミロとの完璧なワンツーで勝ち点1をもぎ取ったベンゼマがこの日はルーカス・バスケスのクロスから、今度はロドリゴと絶妙なコンビネーションでリーガ優勝戦線からの脱落を阻止するgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)を決めたから、驚いたの何のって(最終結果2-1)。

いや、もう彼らの土壇場の得点劇はまさしく、アタランタ戦1stレグから続いていて、その時はメンディが後半41分にゴールを挙げ、前半早くから1人少なくなっていた相手に0-1で勝利。続くレアル・ソシエダ戦も後半44分のビニシウスのゴールで1-1に追いついていますし、そしてダービー、このエルチェ戦となれば、ジダン監督が「Me gusta el carácter pero me gustaría que marcaran antes/メ・グスタ・エル・カラクテル・ペロ・メ・グスタリア・ケ・マルカラン・アンテス(選手たちに強い意志があるのは好ましいが、もっと前に点を取ってほしい)」と注文をつけたくなるのもわかる気がする?

ちなみにマドリーにとってラッキーなのは、この火曜午後9時(日本時間翌午前5時)からのアタランタ戦では0-0でも準々決勝進出となることで、いえ、相手はゴール量産が売りのチームで、1stレグではフロイラーの早期退場やエースのサパタのケガにより、ガスペリーニ監督も「ウチは守ることしかできなかった」と前日記者会見で言っていたように、かなり無害化させられていましたからね。この2試合で1度もGKクルトワを破らずに帰ってくれるとは思えないんですが、逆に撃ち合いになった場合、エルチェ戦でもベンゼマのシュート5本に次ぐ、4本を放ち、ゴール数もチームで2番目に多いカセミロが累積警告で出場停止なのは懸念の種になるかと。

実際、ジダン監督は「hay otros jugadores que van a jugar y que lo van a hacer bien/アイ・オトロス・フガドーレス・ケ・バン・ア・フガール・イ・ケ・ロ・バン・ア・アセール・ビエン(プレーする他の選手がいて、上手くやってくれるだろう)」と言っていたものの、元々、カセミロのポジションをカバーする人材はチームにいませんからね。選択肢としてはバルベルデを中盤に入れて、通常の4-3-3を維持か、3CB制リピートでクロースの1人ボランチの3-5-2かといった予想が、マルカ(スポーツ紙)などで候補として挙げられていましたが、さて。そうそう、エルチェ戦後半30分にピッチに入り、ラモス同様、負傷明けの足慣らしをしていたアザールは腸腰筋を痛め、再び3、4週間のリハビリ生活に逆戻り。1年前にチェルシーから移籍してから、これで10回目のケガともなると、もう何を言ったらいいか、私もわかりませんが、月曜夜にバルデベバス(バラハス空港の近く)の寮に合宿したメンバーには新たにマルセロが加わっています。

そして土曜は午後9時にヘタフェとアトレティコのミニダービーを見るため、再び近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)に陣取った私でしたが、一時的に2位に上がったお隣さんとの差が勝ち点5になっていたものの、その時はまだ平静だったんですよ。というのも弟分チームはここ18試合、兄貴分相手に勝利どころか、得点もしておらず。よって、アトレティコが勝てば、また8差に戻ると思っていたからなんですが、いやあ。キックオフ直後の猛攻も実りなく、前半を0-0で終わったのはともかく、サウールをジョアン・フェリックスに代えてスタートした後半もゴールが入らないんですから、困ったもんじゃないですか。

16分にはマルコス・ジョレンテが鉄板のエリア内右奥からのクロスを上げ、ジョアンのヘッドで先制点かと思わせたものの、実はその前にボールがゴールラインの外に出ていたというオチで認められなかったなんてことはあったんですけどね。シメオネ監督が19分にカラスコ、コレア、エルモーソをレマル、デンベレ、ロディへと3人一気替えした後、ニヨムがロディの脚をスパイクで踏み、VARよる見直しで一発退場となったのもあり、大体がして、リードすらしていないんですもの。この日は「La inercia del juego te lleva a retroceder cuando el resultado es corto/ラ・イネルシア・デル・フエゴ・テ・ジェバ・ア・レトロセデル・クアンドー・エル・レスルタードー・エス・コルト(僅差の時はプレーの惰性で後ろに下がってしまう)」(シメオネ監督)という、マドリーダービーやアスレティク戦の終盤で見せた悪癖こそ、出なかったものの…。

GKダビド・ソリアがオブラクのお株を奪うようなparadon(パラドン/スーパーセーブ)を連発し、デンベレの2本を含め、枠内シュートを8本も撃ったアトレティコを零封してしまうとは、これ如何に。それどころか、終盤にはCKの守備に入っていたデンベレがマクシモビッチを蹴ってしまいながら、ペナルティを取られないというツキもあったんですが、最近は抗議で簡単にイエローカードを出されてしまうのもアトレティコにはよくある話。この日もジョアン、ジョレンテ、交代してスタンドにいたエルモーソらが警告を受け、ジョアンに至っては次節のアラベス戦出場停止って、うーん、いつもファールで引っくり返されているのは彼の方だと思うんですけどね。シメオネ監督ももう少し、選手たちに口は災いの元というのを徹底させないと。

結局、試合は久保建英選手がライン際で交代出場を待つ間にスコアレスドローで終わったんですが、まだリーガは11試合もありますからね。それこそ、シメオネ監督も「hay que tener más calma/アイ・ケ・テネール・マス・カルマ(もっと落ち着かないといけない)。マドリーとバルサがこの先、もう最後まで負けないというのはわかっているんだから、焦らないで、自分たちの道を進まないと」と言っていた通り、バルサまでが月曜のウエスカ戦に4-1で勝利して、勝ち点差4に迫ってきたって、次で挽回すればいいんですよ。

逆にこのミニダービーのいい面を見れば、15位で降格圏と勝ち点差5というのは変わらずとも、ヘタフェは自信をつけることができましたしね。ただ、翌日にはクーチョが中足骨を骨折していることが判明。更に試合前日の練習でケガをしたCBカバコもヒザの半月板を月曜に手術したため、2人共、今季絶望の声が出ているのは辛いところなんですが、トリピエーに顔面をぶつけ、試合中に鼻血を出していたククレジャは鼻中隔を折っていたものの、プロテクターを着ければプレーはできるよう。日曜のエルチェ戦にはまだ、エースのマタが出場停止2試合目で戻って来られないとはいえ、兄貴分相手に10人の劣勢を凌ぎ切った根性で勝利を掴んでくれたらと思います。

え、それでアトレティコは水曜午後9時からのチェルシー戦に向けて、猛特訓中なんだろうって?いやあ、日曜は休養日に充てて、月曜からマハダオンダでのセッションが始まっているんですが、練習のビデオで一際、目を引いたのはグラウンドに置かれたマットレス。もしやこれ、1stレグではジョアンは外しながら、ジルーには見事に決められて、チェルシーに0-1の勝利を呼びこんだchilena(チレナ/オーバーヘッドシュート)の精度向上でも目指すのかと疑ってしまった私ですが、映像によると、どうやら手前の台から飛んで、ジャンピングヘッドの練習をしていたよう。

実際、1stレグが0-0だったとて、2ndレグで得点しない限り、準々決勝進出はありえませんからね。あらゆる得点の手段を磨いておくにこしたことはないんですが、できれば、延長戦には入らないでほしいかと。というのもマドリッドはまだ、午後11時から午前6時までの夜間外出禁止令が続いており、延長戦の時間帯はバルも閉まってしまうせいで、何せ、今回は延長戦で逆転勝利を挙げた昨季のリバプール戦2ndレグの直後のように、リーガやCLが中断することはまずありえませんからね。優勝争いとも無縁だったため、その時は気にしていませんでしたが、今季のようだと、日曜のリーガでも手が抜けないため、なるたけ省エネでremontada(レモンターダ/逆転勝ち抜け)ができるといいのですが…。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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