もう余裕をこいてはいられない…/原ゆみこのマドリッド

2021.03.09 18:15 Tue
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「とうとう、いざという時の保険が最後の頼みの綱になっちゃった」そんな風に私が嘆いていたのは月曜日、リーガ26節後の順位表で首位アトレティコと2位の差がたった勝ち点3しかないのに気づいてしまった時のことでした。いやあ、ミッドウィークのコパ・デル・レイ準決勝2ndレグでは延長戦までもつれ込んだバルサだけに、週末のオサスナ戦では躓くかもしれないと、ちょっとは期待をしていたんですけどね。

蓋を開けてみれば、120分の死闘の影響があったのは、エルチェに不覚を取ったセビージャと、バレンシアダービーに負けたレバンテという、傷心のコパ敗退組だけ。バルサがジョルディ・アルバと18才のカンテラーノ(バルサBの選手)、イライクスのゴールで0-2とオサスナを退けたのに歩調を合わすように、2年連続ファイナリストとなったアスレティックもグラナダにベレンゲルの後半ロスタイム弾で2-1と競り勝っているとなれば、これって、肉体的な疲れを精神的な高揚感が上回ったってこと?
まさにそのアスレティックとこの水曜、暴風雨フィロメナによる積雪のため、延期となった18節をプレーしないといけないだけに、アトレティコも全然、油断はできないんですが、マドリーダービーでの後悔を語る前にまず、弟分ヘタフェの先週末の試合がどうだったから、話していくことにすると。前節ではバレンシアに3-0と快勝、7試合ぶりの白星に意気揚々とホセ・ソリージャに乗り込んだボルダラス監督のチームは、累積警告で出場停止だったククレジャの代わりにアレニャをスタメンに入れてスタート。別にそのせいではないと思いますが、早くも前半14分にはオスカル・プラーノ、23分にもバイスマンにヘッドを浴びて、バジャドリーに2点をリードされてしまうんですから、困ったもんじゃないですか。

それでも36分には、バレンシア戦でゴールを取り戻したマタが1点を返すと、ヘタフェは後半頭から、ニヨムに代えて久保建英選手を投入。チャンスもそこそこ、作っていたんですが、シュート精度の悪さから、肝心のゴールを奪えないまま、残り6分には地面に倒れた後にマタが足でエル・アミクを引っかけたプレーにレッドカードが出されてしまうとは、まったくツイてないじゃないですか。そのまま2-1で負けてしまった彼らは15位に後退。降格圏まで勝ち点差5は変わらないものの、次節、土曜にアトレティコをコリセウム・アルフォンソ・ペレスに迎えるマドリー・ミニダービーにエースを出場停止で欠いて挑まないといけないため、再び、悪い流れに戻ってしまいそうな不吉な予感もするんですが、大丈夫。

というのも、今季の直接ライバルであるバジャドリーに負けてしまったばかりですから、あまり強気になってはいけないとはいえ、その先はエルチェ、インターナショナルマッチウィークを挟んだ後の4月もオサスナ、カディスと、五分に戦える相手が続きますからね。そこら辺でしっかり勝ち癖をつけて、シーズン終盤に胃の痛くなる残留争いをしないで済むところまで、順位を上げてほしいものですが、また不調が続くと、ボルダラス監督の首も危うくなってくるかもしれませんよ。
そうそう、その日はヘタフェの試合の後、ブタルケに試合を見に行った私だったんですが、アシエル・ガリターノ監督が復帰してから、5連勝の後、前節カルタヘナに負けていたレガネスもしっかり守るカステジョンからゴールが奪えず、スコアレスドローに。おまけに柴崎岳選手の出番もなく、ずっとベンチ代わりのスタンドで観戦という、残念な結果に終わってしまいましたが、一応、彼らは現在、昇格プレーオフ圏の4位。まだまだ来季、お隣さんで、柴崎選手の古巣でもあるヘタフェと1部で再び肩を並べられる可能性は十分あるんですが、入れ違いとかになったら、ちょっと皮肉ですよね。

そして翌日曜、丁度、午後3時からのお昼(スペインはランチタイムが午後2~4時)のTVニュースでワンダ・メトロポリターノ周辺の道路脇に大勢のファンが集結。お決まりのソーシャルディスタンスが守られていない、全員がマスクをつけていない云々という、アナウンサーの言葉はともかく、ド派手にbengala(ベンガラ/発煙筒)を焚いて、チームバスをお出迎えしているのを見たりすると、何せ、コロナ禍により、リーガの試合が無観客になって、そろそろ丸1年が経過しますからね。その気持ちは私も大いにわかるんですが、だからと言って、自分の家の近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)がいつもより、賑わっていたかというと、まったくそんなことはなし。

おかげで落ち着いて観戦することができたんですが、この日は今季前半のダービーとは真逆の始まり方をしたんですよ。ええ、12月のエスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノ(RMカスティージャのホーム)にはサンティアゴ・ベルナベウの威圧感がなかったせいか、何となくプレーを始めてしまったアトレティコの選手たちは猛反省。カラスコとトリピアーのスタメン復帰も後押ししたか、序盤から積極的に攻め上がると、前半15分には自陣からスタートしたモルコス・ジョレンテがナチョを乗り越え、敵エリア前まで爆走して、ルイス・スアレルにラストパスを送ります。ここ5試合連続ノーゴールだったエースがGKクルトワの脇を抜くシュートを決め、先制点を挙げてくれたとなれば、こんなに心強いことはありませんって。

え、それでもハーフタイムが近づいてきた42分、クロースの蹴ったCKが落ちてくるところにフェリペの腕が当たり、それをスルーしてくれた主審がVAR(ビデオ審判)にモニターで確認するよう、呼ばれた時は冷や汗もんじゃしなかったかって?その通りで、ベンゼマなども後で「Cuando el arbitro va a mirar el VAR, 90% es penalti/クアンドー・エル・アルビトロ・バ・ア・ミラール・エル・バル、ノベンタ・ポルシエントー・エス・ペナルティ(審判がVARを見に行く時、90%はペナルティなんだけど)」と言っていたように、大抵は主審のジャッジに異議があるせい。オンダ・マドリード(ローカルラジオ局)のコメンテーターらも「これはPKになりますよ」と口を揃えていたため、私も鬱々として待っていたんですけどね。

何と、エルナンデス・エルナンデス主審はボールに触れる意思がフェリペになかったと判断、ハンドによるペナルティを免れたから、どんなにホッとしたことか。マドリーもそれ以外は前半、「Había que ser más agresivos, estar más arriba, tener más presión./アビア・ケ・セル・マス・アグレシーボス、エスタル・マス・アリーバ、テネール・マス・プレシオン(もっとアグレッシブに、もっと敵陣に行って、もっとプレスをかけないと)」とジダン監督が反省していたような状態だったのもあって、アトレティコは1-0とリードしたまま、後半を始めることができたんですけどね。実際、8分にはカラスコ、その1分後にもスアレスの至近距離からのシュートがクルトワに弾かれていなければ、後々、苦しむこともなかったはずなんですが…。

どうやら、レマル、カラスコをサウール、ジョアン・フェリックスに代え、追加点を狙ったシメオネ監督より、アセンシオとロドリゴをビニシウスとバルベルデに取り替えたジダン監督の方がいい目が出たようです。というのも時間が経つにつれ、最小得点差を守るため、終盤にはあの、先日のCLチェルシー戦1stレグでもお目にかかった6人制DFラインになっていたアトレティコでは、前節のビジャレアル戦で久々のゴールを挙げた後、誰かに向けて口を閉じろというポーズ。物議を醸していたジョアンがその才能を披露する機会も作れなかったのに比べ、マドリーがどんどん優勢になっていったから。ええ、34分など、満を持してケガから復帰してきたベンゼマがGKオブラクを2度続けて強襲。幸い、この時は奇跡的なdoble paradon/ドブレ・パラドン(連続スーパーセーブ)で逃れることができたものの、まさか最後の最後になって、お隣さんの最多得点コンビにやられてしまうとは!

それは43分、カセミロとのワンツーでエリア内に入ったベンゼマへ、再びカセミロがオブラクの真ん前からラストパスを送ると、そのシュートがガラ空きのゴールに。いやもう、その時には専守防衛体制だったアトレティコの選手が周りに大量8人もいながら、狭い隙間にパスを通されていたのには、相手が上手いと言ったらいいか、守る方がマヌケと言ったらいいか、私も呆気に取られるしかなかったんですけどね。そのまま1-1で試合は終了し、これでアトレティコはここ5年間、リーガのダービー未勝利と、まあ、それは以前、2000年から2013年という14年間の長きに渡って、勝てない時代があったのも知っているため、別にいいとはいえ、ちょっと最近は、「開始1分に先制しても、どんなにいいプレーをしても、相手が1人少なくなっても、マドリーには絶対勝てない」という感覚が戻ってきた風もなきにしろあらずかと。

いえ、それでも首位のままで、マドリーとの勝ち点差5は変わっていないせいか、シメオネ監督は「me quedo con lo que estoy contando, un gran trabajo hasta el 35 del segundo tiempo/メ・ケド・コン・ロ・ケ・エストイ・コンタンドー、ウン・グラン・トラバッホ・アスタ・エル・トレインタイシンコ・デル・セグンド・ティエンポ(自分は後半35分までの素晴らしい仕事を心に留めるよ)」と言っていましたけどね。確かにこの日のアトレティコは後続に勝ち点差10以上をつけ、絶対首位を誇っていた頃のように滑らかにパスも繋がり、キャプテンのコケも「tenemos que centrarnos en el partido del miércoles, que podemos sumar puntos y nuestros rivales no/テネモス・ケ・セントラールノス・エン・エル・パルティードー・デル・ミエルコレス、ケ・ポデモス・スマール・プントス・イ・ヌエストロス・リバレス・ノー(ウチは水曜の試合に集中しないと。ボクらはそこで勝ち点を積めるけど、ライバルたちはできない)」と言っていた通り、このレベルを維持できるなら、アスレティック戦を恐れることはない?

ちなみに日曜にはバルサの会長選挙でラポルタ氏の復職が決まり、夜のサッカー番組もずっとダービーに関わっている訳にはいかなかったか、それ程、揉め事は出てきていないんですが、やっぱり一番、しこりを残したのはフェリペにハンドの判定が下されなかったこと。ええ、ピッチでもハーフタイム入りの時にルーカス・バスケスに文句を言われたスアレスが、マドリーびいきのジャッジが何度も取り沙汰されたコロナ中断後、再開した昨季リーガでの優勝をあげつらって反論したりと少々、怪しい雰囲気にはなっていたんですけどね。

試合後はマドリーの渉外担当ディレクター、ブトラゲーニョ氏からも「VARに呼ばれたのは問題のあるプレーだったからで、それを判断するのは主審だが、ウチはまたしてもエルナンデス・エルナンデス審判でツキがなかった」と漏らす一幕も。それもこれも今季序盤はエリア内でボールが手に当たった場合、全てがペナルティだったのが、どういう訳か、最近、腕が自然な位置にあればとか、意図的でなければとか、基準が変わってきたようで、審判たちですら、正直、どういうケースがハンドに該当するのか、把握できていないせい。となれば、当然、監督にも選手たちにもわかりませんから、ハンドでペナルティになれば、それはもう、アンラッキー(もしくはラッキー)だったと思うしかない?

この件に関しては翌日もマドリー寄りのマスコミなどから、あれこれ言われたこともあり、珍しくアトレティコもクラブ公式ツイッターで、「Critican hasta los aciertos...Algunos están acostumbrados a tener siempre el viento a favor/クリティカン・アスタ・ロス・アシエルトス…アルグーノス・エスタン・アコストクンブラードス・ア・テネール・シエンプレ・エル・ビエントー・ア・ファボール(ジャッジが正しかった時でも批判する。誰かさんは常に風に味方されるのに慣れているようだ)」と皮肉っていましたが、まあまあ。

それより今は水曜午後7時(日本時間翌午前3時)からのアスレティック戦に向けて準備することが肝要で、もう月曜にはマハダオンダ(マドリッド郊外)の練習場でチームはセッションを再開。今のところ、まだヒメネスのケガは治っておらず、ダービー前日、母親がコロナで亡くなったという報が届き、急遽、母国メキシコに戻っているエレーラもいないため、招集メンバーに変わりはなさそうです。今週は土曜にもヘタフェ戦、そして来週水曜には0-1で負けた1stレグからのremontada(レモンターダ/逆転突破)を目指さないといけないCL16強対決チェルシー戦2ndレグと、また週2試合ペースに戻るため、相手に合わせて、ローテーションもあるかと思いますが…いや、ホント、バルサと勝ち点差3しかないのは心臓に悪いですよね。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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