物議醸す“ハンド”の判定、曖昧さが生み出す「なぜ?」の連鎖
2021.03.07 22:05 Sun
現在のサッカー界で最もホットな話題。それは“ハンド”の基準だ。
VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が各国のリーグで導入が進み、Jリーグも改めて2021シーズンから明治安田生命J1リーグの全試合でVARが使用されている。
開幕から2節を終え、すでにVARによる判定の変更も出ている。7日に行われた明治安田生命J1リーグ第2節の横浜F・マリノスvsサンフレッチェ広島の一戦でも、VARが適用されたシーンが2つあった。
1つは広島の2点目、東俊希のゴール。ゴール前の混戦を押し込んだ形となり、オフサイドのチェックが入ったのだろう。すぐに試合は再開されなかったが、問題なくゴールが認められた。
もう1つは前半終了間際のプレー。横浜FMのゴール前でハンドが疑われたが、そのまま試合は続行。前半が終了するかと思われたが、VARのチェックが入り、今村義朗主審がOFR(オン・フィールド・レビュー)を行った。
そのVARだが、Jリーグは新型コロナウイルス(COVID-19)の影響もあり1年延期して運用がスタート。一方で、世界では先立って運用されているが、ここに来て様々な問題が起きている。
特に大きな問題が度々生じているのがプレミアリーグだ。
少し前では、マイク・ディーン主審がOFRによって2試合連続で選手を退場処分としたが、いずれも異議申し立てがされると、不当な退場だったとして処分が撤回される状況が起きていた。
VARはあくまでも“サポート”であり、最終的なジャッジは主審が下すものと定義されているが、自分の目で映像をしっかりと確認した上で下した退場処分が、2試合連続で誤審だったとなれば、審判の資質を疑う声が挙がってしまっても致し方ないだろう。
その一方で、多くの試合で物議を醸しているのが“ハンド”だ。サッカーの競技規則などを決める国際サッカー評議会(IFAB)は、2019-20シーズンに向けてハンドの基準を変更。「競技者の手や腕にボールが当たった場合のすべてが反則になるとは限らない」としているが、その当時は手の位置が重要な基準に。「手や腕を用いて体を不自然に大きくした」、「手や腕が肩よりも上にあった」など、不自然な場所にある手に当たった場合は“ハンド”とされていた。
しかし、2020-21シーズンに向けてはこの解釈を変更。予備動作など、人間の動きに対して自然な場合は、位置がどこにあっても“ハンド”にはならないことが決定。しかし、この結果が解釈の違いによって大きく判定の基準がブレることが起こっている。
直近で言えば、6日に行われたプレミアリーグ第27節のバーンリーvsアーセナルの一戦。ニコラ・ペペが浮かせたボールに対し、エリック・ピーテルスの手に完全にボールが触れているが、主審はハンドをとらなかった。
至近距離であり、不可避だったという理由もあるようだが、自然な位置かと言われるとなんとも言えない。しかし、映像を見た主審が“ハンド”ではないと判断したら、それがジャッジとなるのだ。
ミケル・アルテタ監督も「あれがPKじゃないのなら、誰かがこのリーグにおけるPKとは何なのかを説明すべきだ」と、不明確なジャッジに怒りを露わにしている。
少し前では、4日に行われたプレミアリーグ第33節のフルアムvsトッテナムでも問題のシーンがあった。
0-1でトッテナムがリードして迎えた62分、ジョシュ・マジャがゴールを決めたシーンだ。このシーンは、VARの結果ノーゴールの判定に。フルアムが追いついたと思われたが、ハンドをとられた。
このシーンでは、こぼれ球をトッテナムのダビンソン・サンチェスがクリア。そのボールがフルアムのMFマリオ・レミナの左腕に当たった。体の横についていた腕に当たった相手のクリアボールだが、そのこぼれ球をマジャが決めたが、ゴールは取り消されていた。
2月28日のチェルシーvsマンチェスター・ユナイテッドの一戦では、カラム=ハドソン・オドイとメイソン・グリーンウッドが競り合った際の“ハンド”が認められなかった。
試合が1分以上進んだ後にVARのチェックが入り、主審のスチュアート・アトウェル氏がOFRを実施。映像を何度見ても、ハドソン=オドイが手を出してボールに触れているが、どちらの“ハンド”にもならずに試合は再開していた。これに関しては、プレミアリーグでかつて審判を務めたマーク・クラッテンバーグ氏は「明らかなハンド」と誤審を指摘していた。
「不自然な」という曖昧な基準、そして動きに対する「不自然さ」は、主審がどう感じるかで“ハンド”か“ノーハンド”かが決まることになる。
なお、こうした“ハンド”の判定が様々な場所で物議を醸している状況を受け、2021-22シーズンに向けてIFBAは再び規則を変更。その中で、「ゴールを決めるチャンスを得る、チームメイトがゴールを決めた際の偶発的なハンドは、今後は反則とならない」とした。この基準であれば、フルアムのマジョのゴールは認められることとなる。
VARの導入により、オフサイドの明確化、見逃されたファウル、カードの対象者違いなど、明らかなミスはなくなっているが、その逆に曖昧な部分がより曖昧さを増すことにもなっている状況だ。
人間がジャッジするという部分も含めてサッカーだとはいうが、それであれば主審がジャッジを決めた理由を明確にする必要があるのではないだろうか。「なぜ?」がいつまでも残るようでは、VARによる一部ジャッジの正確性が本当の意味でプラスになるとは言えないかもしれない。
《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》
VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が各国のリーグで導入が進み、Jリーグも改めて2021シーズンから明治安田生命J1リーグの全試合でVARが使用されている。
開幕から2節を終え、すでにVARによる判定の変更も出ている。7日に行われた明治安田生命J1リーグ第2節の横浜F・マリノスvsサンフレッチェ広島の一戦でも、VARが適用されたシーンが2つあった。
もう1つは前半終了間際のプレー。横浜FMのゴール前でハンドが疑われたが、そのまま試合は続行。前半が終了するかと思われたが、VARのチェックが入り、今村義朗主審がOFR(オン・フィールド・レビュー)を行った。
このシーンでは、DF松原健の“ハンド”が疑われ、そのシーンの映像はスタジアムのビジョンでも流される状況に。主審と同じ映像を見たファンの目にも、松原の手にボールが当たっていることがハッキリと見てとれた。OFRの映像を全員が共有できることは、オープンな判定という意味でプラスと言える。
そのVARだが、Jリーグは新型コロナウイルス(COVID-19)の影響もあり1年延期して運用がスタート。一方で、世界では先立って運用されているが、ここに来て様々な問題が起きている。
特に大きな問題が度々生じているのがプレミアリーグだ。
少し前では、マイク・ディーン主審がOFRによって2試合連続で選手を退場処分としたが、いずれも異議申し立てがされると、不当な退場だったとして処分が撤回される状況が起きていた。
VARはあくまでも“サポート”であり、最終的なジャッジは主審が下すものと定義されているが、自分の目で映像をしっかりと確認した上で下した退場処分が、2試合連続で誤審だったとなれば、審判の資質を疑う声が挙がってしまっても致し方ないだろう。
その一方で、多くの試合で物議を醸しているのが“ハンド”だ。サッカーの競技規則などを決める国際サッカー評議会(IFAB)は、2019-20シーズンに向けてハンドの基準を変更。「競技者の手や腕にボールが当たった場合のすべてが反則になるとは限らない」としているが、その当時は手の位置が重要な基準に。「手や腕を用いて体を不自然に大きくした」、「手や腕が肩よりも上にあった」など、不自然な場所にある手に当たった場合は“ハンド”とされていた。
しかし、2020-21シーズンに向けてはこの解釈を変更。予備動作など、人間の動きに対して自然な場合は、位置がどこにあっても“ハンド”にはならないことが決定。しかし、この結果が解釈の違いによって大きく判定の基準がブレることが起こっている。
直近で言えば、6日に行われたプレミアリーグ第27節のバーンリーvsアーセナルの一戦。ニコラ・ペペが浮かせたボールに対し、エリック・ピーテルスの手に完全にボールが触れているが、主審はハンドをとらなかった。
至近距離であり、不可避だったという理由もあるようだが、自然な位置かと言われるとなんとも言えない。しかし、映像を見た主審が“ハンド”ではないと判断したら、それがジャッジとなるのだ。
ミケル・アルテタ監督も「あれがPKじゃないのなら、誰かがこのリーグにおけるPKとは何なのかを説明すべきだ」と、不明確なジャッジに怒りを露わにしている。
少し前では、4日に行われたプレミアリーグ第33節のフルアムvsトッテナムでも問題のシーンがあった。
0-1でトッテナムがリードして迎えた62分、ジョシュ・マジャがゴールを決めたシーンだ。このシーンは、VARの結果ノーゴールの判定に。フルアムが追いついたと思われたが、ハンドをとられた。
このシーンでは、こぼれ球をトッテナムのダビンソン・サンチェスがクリア。そのボールがフルアムのMFマリオ・レミナの左腕に当たった。体の横についていた腕に当たった相手のクリアボールだが、そのこぼれ球をマジャが決めたが、ゴールは取り消されていた。
2月28日のチェルシーvsマンチェスター・ユナイテッドの一戦では、カラム=ハドソン・オドイとメイソン・グリーンウッドが競り合った際の“ハンド”が認められなかった。
試合が1分以上進んだ後にVARのチェックが入り、主審のスチュアート・アトウェル氏がOFRを実施。映像を何度見ても、ハドソン=オドイが手を出してボールに触れているが、どちらの“ハンド”にもならずに試合は再開していた。これに関しては、プレミアリーグでかつて審判を務めたマーク・クラッテンバーグ氏は「明らかなハンド」と誤審を指摘していた。
「不自然な」という曖昧な基準、そして動きに対する「不自然さ」は、主審がどう感じるかで“ハンド”か“ノーハンド”かが決まることになる。
なお、こうした“ハンド”の判定が様々な場所で物議を醸している状況を受け、2021-22シーズンに向けてIFBAは再び規則を変更。その中で、「ゴールを決めるチャンスを得る、チームメイトがゴールを決めた際の偶発的なハンドは、今後は反則とならない」とした。この基準であれば、フルアムのマジョのゴールは認められることとなる。
VARの導入により、オフサイドの明確化、見逃されたファウル、カードの対象者違いなど、明らかなミスはなくなっているが、その逆に曖昧な部分がより曖昧さを増すことにもなっている状況だ。
人間がジャッジするという部分も含めてサッカーだとはいうが、それであれば主審がジャッジを決めた理由を明確にする必要があるのではないだろうか。「なぜ?」がいつまでも残るようでは、VARによる一部ジャッジの正確性が本当の意味でプラスになるとは言えないかもしれない。
《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》
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