1人勝ちしてしまった…/原ゆみこのマドリッド

2020.11.10 19:05 Tue
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「別に呼んでくれなくても良かったんだけど」そんな風に私が複雑な気持ちになっていたのは月曜日、2年ぶりスペイン代表からお声の掛かったコケと初招集されたマルコス・ジョレンテがいそいそと現行バージョンのユニを着て、映像資料用の撮影に励んでいるビデオを見た時のことでした。いやあ、コロナ禍のせいで、今年は3月からの代表戦が中止、ユーロ2020も来年夏に延期になった後、ネーションズリーグで再開された9月、10月の招集リストにはアトレティコ勢が1人もいなかったんですけどね。おかげでparon(パロン/リーガの中断期間)中、じっくり体を鍛えられたのもあったか、パフォーマンスが上がってきた2人だったんですが、そのご褒美が休みなしで地獄の7連戦第2バージョンに挑まないといけなくなる代表勤務とは、痛し痒しとはまさにこのこと?

だってえ、スペイン代表の招集リストは金曜に発表されたんですが、先週末には2人も負傷者が出ていて、早々に代わりの選手を指名せざるを得なかったんですよ。そう、土曜には「15分の休みを与えたら、3シーズンは余裕でもつ」とルイス・エンリケ監督におだてられ、昨季のEL決勝、UEFAスーパーカップ、今季もリーガ、CLグループリーグに加え、代表戦でも皆勤していた、35才のヘスス・ナバス(セビージャ)がオサスナ戦で太ももの付け根を負傷。代わりにベジェリン(アーセナル)が4年ぶりに呼ばれたかと思えば、いえ、まあ、同じ土曜のベティス戦で左膝半月板を損傷したアンス・ファティ(バルサ)の場合は当人も18才と若いですし、別に勤続疲労のせいではないと思うんですけどね。

こちらは日曜になって、9月の代表合宿中に昨季、靭帯を手術したヒザを腫らして離脱したアセンシオ(レアル・マドリー)が追加招集となりましたが、中には10月の代表練習中にハムストリングスを痛め、ようやく1週間前のバジャドリー戦から復帰して、リーガとELで3試合に出た後、また代表で同じ数の試合をこなさないといけないジェラール・モレノ(ビジャレアル)みたいな選手もいますからね。正直、月曜にラス・ロサス(マドリッド近郊)のサッカー協会施設に集合、翌日にはアムステルダムに移動して、水曜午後8時45分(日本時間翌午前4時45分)からはオランダと親善試合。更に土曜にはバーゼルでスイスと、来週火曜にはセビージャでドイツとネーションズリーグの最終節ともなると、もちろん、首位のスペインにはそのまま、ファイナルフォー参加権を得てもらいたいとはいえ、はあ。
アトレティコファンにとっての気休めは今回、再招集となったモラタはすでにユベントスの選手であること、マドリーファンにしてもセルヒオ・ラモスとアセンシオの2人しか、呼ばれていないことぐらいでしょうが、とにかくスペイン以外の代表にも両チームは多数、人材を供給していますからねえ。逆に金曜にコロナ陽性が発覚し、それぞれベルギー、ブラジル代表の試合に行けず、自宅隔離期間と代表戦週間が丸々かぶるアザールとカセミロなど、不幸中の幸いだったとも言えなくはないんですが…この代表3連戦にしろ、地獄の7連戦にしろ、過密日程の諸悪の根源はコロナ。いや、まったく、イヤな時代になりましたね。

さて、そんなことを嘆いていても仕方ないので、先週末のリーガの試合を振り返っていくことにすると。この9節、土曜にプレーしたのはアトレティコだけだったんですが、何せ、相手がアウェイ4連勝中のカディスでしたからね。10月にエスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノ(RMカスティージャのホーム)でお隣さんが0-1で負けた姿もまだ記憶に新しかったため、ちょっと心配していたんですが、余裕で大丈夫。というのも相手が前半8分から、無観客のワンダ・メトロポリターノでは信じられないミスをしてくれたから。
そう、FKからのボールをコケがエリア内に上げたところ、声を出すのを忘れたか、飛び出してきたGKレデスマが味方のCBファリにぶつかられ、クリアできなかったんですよ。近くにいたジョレンテがこれを反対サイドにクロス、ジョアン・フェリックスが頭でGK不在のゴールに決めて、あっという間に先制点が入っているんですから、有難いじゃないですか。おまけに22分にはトリッピアーからパスをもらってエリア内に入ったジョレンテが、持ち前のパワーで敵DFを振り切ってシュート。当人の気迫が勝ったか、ボールはレデスマのヒザに当たりながら、ゴールになってくれたとなれば、もう勝負はついた?

でもねえ、最近のアトレティコは私の慣れているアトレティコとは違うというか、リードしても一歩引かないんですよ。それどころか、前半最後の5分間など、往年のバルサや黄金期のスペイン代表のような、圧倒的なボール支配力を見せ、ずっとパスを回していたのには驚くしかなかったんですが、退屈な展開を覚悟していた後半にもゴール祭りが続くとは、これ如何に。ええ、8分にはジョアンのスルーパスをルイス・スアレルがエリア内から決め、VAR(ビデオ審判)により、オフサイド疑惑も解消されたため、3点目をゲット。それまでもヘッドやchilena(チレナ/オーバーヘッドシュート)でトライしていた当人の努力が実りましたが、45分には途中出場の選手たちも見せ場を作ってくれます。

え、先週、バレンシアからの特例移籍が決まったコンドグビアもデビューしたんだろうって?まあ、そうなんですが、彼が出場10分でイエローカードをもらっていたのはともかく、当初はトマス(夏の市場最終日に契約解除金を払ってアーセナルに移籍)の代わりと思われていたトレイラ(アーセナルからレンタル移籍)がコレアに絶妙なスルーパス。それがジョアンに繋がって、自身この試合の2点目で締めくくっているとなれば、もしや、アトレティコ的には100満点に近い出来だったのでは?

実際、カディスのセルベラ監督も「sabemos que nuestro éxito pasa por intentar que el contrario cometa errores/サベモス・ケ・ヌエストロ・エクシートー・パサ・ポル・インテンタール・ケ・エル・コントラリオ・コメタ・エローレス(ウチが成功するかどうかは、敵にミスを犯させることに懸かっているのはわかっている)」と言っていましたけどね。この日のアトレティコはノーミスで4-0のgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)勝利、もちろん、まだしみったれ根性の抜けない私など、そのうちの1、2点、火曜のCLロコモティブ・モスクワ戦に前倒ししておけば、or代表戦明けのバルサ戦に取っておけばと思ってしまったりもするんですが、いやいや。要は「El fútbol es así. En Rusia no quería entrar y hoy ha entrado muy bien/エル・フトボル・エス・アシー。エン・ルシア・ノー・ケリア・エントラール・イ・オイ・ア・エントラードー・ムイ・ビエン(サッカーはそういうもの。ロシアではゴールが入りたがらなかったけど、今日はとてもよく入った)」(ジョレンテ)ということなんですよね。

おかげで土曜終了の時点では首位となり、1日天下を堪能したアトレティコだったんですが、翌日にはレアル・ソシエダがグラナダに勝利して、1位を奪還。それももう、相手はコロナ陽性者大量発生で、ディエゴ・マルティネス監督はおろか、トップチームの選手がリーガの規定ギリギリの7人しか、サン・セバスティアン(スペイン北部のビーチリゾート都市)に移動できず、しかもうち3人はケガを抱えていたため、後半は4人以外、カンテラーノ(下部組織の選手)でプレーする破目に。試合延期を認めてくれなかったラ・リーガに当てつけるようなalineacion indebida(アリネラシオン・インデビーダ/選手起用規定違反)をしながら、2-0と地味なスコアだったのは意外でしたが、何かこれって、大会の公平性が著しく損なわれていない?

ただ、アトレティコがビジャレアルにも抜かれ、結局、3位となってしまったのは、多分にマドリッドの弟分の責任もあって、ええ、日曜にイエローサブマリンをコリセウム・アルフォンソ・ペレスに迎えたヘタフェは予想以上にダミアンの出場停止とオリベイラの負傷休場が堪えたよう。ボルダラス監督も頭を捻って、本職CBのカバコを右SBに、このところはダミアンの前の右サイドでプレーすることの多いニヨムを左SBにしたんですが、前半11分にはもう、パコ・アルカセルに先制点を決められてしまってはねえ。16分にはアランバリのエリア外からの弾丸シュートで一旦は同点にしたものの、それから2分もしないうちに再び右サイドを突かれ、トリゲロスのゴールでビジャレアルに1-2とリードされてしまったとなれば、もう悠長なことはしていられませんって。

そう、30分過ぎにはボルダラス監督も軌道修正に乗り出し、カバコを引っ込め、FWのアンヘルを投入。右SBにニヨム、左SBにククレジャと体勢の立て直しを図ったんですが、まあ、おかげでカバコがカンカンになって悪態をつきながら、ロッカールームに直帰してしまったのはともかく、この日は守備陣にとって、厄日でしたかね。後半17分にもパコ・アルカセルとジェラール・モレノの連携で3点目を取られ、そのまま1-3で負けてしまったんですが、いやあ。木曜のELマッカビ・テルアビフ戦にフル出場した久保建英選手が残り数分だけの出場だったように、基本的にはベストメンバーを常に並べないといけないCLとは違い、ELでは適度なローテーションが可能なのはちょっと盲点だったかと。

そう考えると、コロナ被害のグラナダは別として、レアル・ソシエダもビジャレアルも選手皆が出場機会をもらえて、モチベーションも上がりますし、おかげで好調を維持できるのも納得ですが、まさにその反面教師となったのはその夜、最後の時間帯でバレンシア戦に挑んだマドリー。アザールとカセミロがコロナ陽性でメスタジャ遠征に参加できなかったにも関わらず、うーん、ジダン監督も相手がアトレティコに行ったコンドグビア以外にもパレホ、コケリン(ビジャレアルに移籍)、ロドリゴ(同リーズ)、フェラン・トーレス(同マンチェスター・シティ)と主力が根こそぎ、ピーター・リン会長の緊縮財政方針で換金されてしまい、平均年齢が20代前半になってしまった相手を侮ったとは思いたくないんですけどね。

ここ4試合、白星に恵まれていないとはいえ、昔から強いライバル意識を持つバレンシアですし、この試合を最後に代表戦週間入りとなれば、別にメンディとクロースを温存して、最近出番の少ないマルセロとイスコをスタメンに入れなくとも良かったはずですが、後悔先に立たず。実際、それも結果論で、前半23分にはマルセロのアシストでベンゼマが先制ゴールと、幸先の良いスタートを切ったマドリーだったんですが…。

前代未聞の悪夢が始まったのは30分に差し掛かろうかという頃。まだ23才ながら、第1キャプテンに昇格してしまったガヤのクロスが、臨時で右SBを務めているルーカス・バスケスの腕に当たり、ペナルティを取られてしまったのは仕方ないんですが、同じ年でバレンシアを牽引する、カンテラーノのソレルのPKは見事にGKクルトワが阻止。跳ね返りをソレルがまた撃つもゴールポストに嫌われ、転がったボールを17才のユネス・ムサーがゴールにしてるんですから、末恐ろしい。ただそれも当人がPKが蹴られる前にエリア内に入っていたとして、無効になったんですが、同時にルーカス・バスケスも入っていたことがVARで発覚し、PKやり直しになってしまったから、さあ大変!

どうやらこの時はキッカーをリピートするか、ヴァスと交代するか、選手たちとハビ・ガルシア監督の話し合いがあったようですが、ここは先週のヘタフェ戦100分に同点PKゴールを挙げたソレルが男気を発揮。「Los rivales dicen muchas cosas/ロス・リバレス・ディセン・ムーチャス・コーサス(敵はイロイロなことを言ってくる)。後ろでマドリーの選手たちがボクのPKの蹴り方はもうわかっている、絶対、止められるはずって言っていた」(ソレル)という、無観客試合ならではのプレッシャーに打ち勝ち、今度はクルトワを破って、スコアを1-1に戻します。

その後もマドリーの不運は止まらず、43分にもバレンシアのクロスをバランがクリアし損ね、地面に倒れたクルトワの胸に落ちた時にはすでにゴールの中って、ええ、VARがありますからね。結局、そこに至るプレーでチェリシェフがアセンシオに絡みついていたファールはスルーされ、2-1となってハーフタイムに入ったんですが、何と後半5分にはガヤをゴール脇でクルトワが倒し、更にはぐれたボールを負ったマキシ・ゴメスをマルセロが倒したとされ、マドリーが2本目のPKを献上って、一体どうなっている?いえ、この時も「Marcelo llega primero pero Maxi grita más fuerte/マルセロ・ジェガ・プリメーロ・ペロ・マキシ・グリタ・マス・フエルテ(先にボールに届いたのはマルセロだったけど、マキシの叫び声の方が大きかった)」(クルトワ)という、無観客試合でないと使えない手にはまってしまったという面もあったようですけどね。

再びソレルがPKを決め、リードを広げたられたマドリーはまたしても14分、今度はムサーとボールを争っていたラモスが手でボールをクリアという、途方もないミスが勃発。それにはバル(スペインの喫茶店兼バー)で一緒に見ていたウェイターさんまで、「あんなにはっきりしたハンドがあるのか!」と大笑いしていたんですが、うーん。結局、ソレルがPK3本を決めて、ハットトリックを達成することになりましたが、実際、1試合に3回、マドリーがPKを取られたのも史上初だったとか。不運もここまで重なると、反撃の力もなくなるか、その後、ロドリゴ、ウーデゴール、クロース、マリアーノ、ヨビッチと次々、投入したマドリーでしたが、そのまま、4-1で敗戦です。

いえ、それでもジダン監督は「el culpable soy yo, porque tengo que buscar soluciones/エル・クルパブレ・ソイ・ジョ、ポルケ・テンゴ・ケ・ブスカル・ソルシオネス(責任は私にある。解決策を見つけないといけないのは私だからね)」といつものように潔かったんですけどね。運の悪い日というのはホント、どうしようもないもので、加えてベンゼマが筋肉痛でダウン、ベルベルデなど、左脚脛骨にヒビが入り、全治1カ月になってしまったなんていうのはその冴えたるものだったかと。もう、バレンシア戦は大殺界だったと割り切って、ここはマドリーも代表戦週間で気分転換するしかないんですが、何はともあれ、これ以上、ケガ人は増えないでほしいですよね。

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