敵はコロナだけじゃない…/原ゆみこのマドリッド

2020.10.13 22:00 Tue
©Atlético de Madrid
「早くも犠牲者が生まれてしまった」そんな風に私が首を振っていたのは月曜日、スイス戦の翌日、ラス・ロサス(マドリッド郊外)のサッカー協会施設で行われた練習でジュラール・モレノ(ビジャレアル)とディエゴ・ジョレンテ(リーズ)が負傷、10月最後のスペイン代表戦、ネーションズリーグのウクライナ戦のためのキエフ遠征には参加せず、チームを離脱するという報を聞いた時のことでした。いやあ、来週にはいよいよCLが始まるとあって、ここ数日は代表戦明け、今週末から3週連続でミッドウィークにも予定が入り、11月のインターナショナルマッチウィークまで、息もつかさぬ7連戦となるアトレティコやレアル・マドリーの心配をしていたんですけどね。

もっとしっかり目を開いて今年残りのカレンダーを見てみたところ、11月にも代表戦が3試合組まれている上、その後はまた、CL、ELグループリーグが3週連続であるんですよ。つまり、9月末のミッドウィークリーガ週から、選手によっては連続11週、週2試合ペースになるということで、モロ、それにはまっていたのが、ビジャレアルでELに参戦するジェラール・モレノ。左のハムストリングを痛めて全治3週間だそうで、今、彼にいなくなられるのは、日本代表は2試合、それも親善試合だけで久保建英選手は帰って来られるとはいうものの、エメリ監督にとってはかなりの痛手かと。

左太ももを痛めたディエゴ・ジョレンテもレアル・ソシエダに留まっていれば、元同僚のオジャルサバルやミケル・メリーノと一緒にELで頑張るはずでしたが、イングランドではカップ戦は始まっているものの、先日、移籍したリーズはプレミアリーグに昇格したばかり。ヨーロッパの試合がないというだけ、まだマシなんでしょうが、今回のスペイン代表に限っても招集された24人中、17人が国内戦とヨーロッパの地獄のループにどっぷりはまっているとなれば、正直、11月の招集リスト発表時に一体、どのくらいが元気でいられるのか、ちょっと不安に思ってしまうのは、私だけではない?
となると、逆に9月の代表戦再開から、1人もルイス・エンリケ監督に呼ばれていないアトレティコなど、コケ、サウール、マルコス・ジョレンテ、ジエゴ・コスタらがマハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場で2週間丸々、調整に励むことができ、paron(パロン/リーガの中断期間)明けの勝ち組になれるんじゃないかと期待もしてしまうんですが、世の中、そうは問屋が卸さしません。もちろん、スペイン以外の各国代表選手が計11人もいるせいで、いやあ、ジョアン・フェリックス(ポルトガル)など、この日曜にもネーションズリーグのフランス戦でスコアレスドローを演じ、ウエスカ、ビジャレアル、スペイン戦と4試合連続の0-0街道を歩む破目に。いい加減、水曜のスウェーデン戦では白黒、はっきりつかないと、当人もゴールの祝い方を忘れてしまうかも。

そしてもう1人、心配なのは先週、お隣さんからトッテナムにとうとう移籍したベイルが負傷中で出ていないウェールズに3-0で勝った親善試合で初めて、イングランドのキャプテンを務めたトリピアーで、いえ、別に土曜のネーションズリーグでも、カラスコはプレーしていたものの、クルトワ、アザールのマドリー勢を欠いたベルギーに2-1で競り勝つなど、こちらは当人の士気も上がりそうな代表参加なんですけどね。水曜のデンマーク戦もケガせず、無事に乗り切ってもらいたいと切に私が祈っているのは、そろそろ復帰かと思われていたベルサイコが先週、再びヒザの靭帯の内視鏡手術を実施。ええ、コロナ禍でリーガが中断している最中に行ったのと同じ箇所で、その時は体内に残った補助具を抜き取るだけと聞いていたものの、予後が悪く、この再手術により、12月頃まで、実戦には戻れなくなってしまったから。
え、でもロディしかいない左SBと違い、アトレティコには右SBが3人、いなかったかって?いやあ、そうだったんですが、実はこの夏の市場でアリアスがレバークーゼンにレンタル移籍。ていうか、その彼も先週末、コロンビアのW杯予選ベネズエラ戦で、マチス(グラナダ)にタックルをかけた際に負傷し、それも腓骨骨折と足首の靭帯損傷という、全治6カ月の重傷を負うことに。手術後はマドリッドに戻って、リハビリすると言われていますが、いや、これって、インテルにレンタル移籍中にヒザの靭帯を断裂したベルサイコとまったく同じパターンかと。うーん、アリアスもアトレティコに留まっていれば、リーガ開始から3節で出番がなく、コロンビア代表にも呼ばれなかったかもしれないとか思うと、ホント、残酷な結末ですよねえ。

まあ、その辺はともかく、スペイン代表の土曜のスイス戦がどうだったかもお話ししておかないと。このネーションズリーグ3節は9月同様、バルデベバス(バラハス空港の近く)にあるエスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノ(RMカスティージャのホーム)で行われたんですが、いや、もう、風が強かったせいか、ポルトガルとの親善試合と違って、完全無観客開催だったせいか、やたら、選手たちやコーチ陣の声が響き渡ることといったら、もう。序盤から、GKデ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)がベニト((ジロンダン・ボルドー)のシュートをparadon(パラドン/スーパーセーブ)するなど、CB3人制を敷いた相手に苦労させられそうな様相を呈していたものの…。

前半14分、予期せぬところか、突破口が開けます。スイスの守護神、ヤン・ゾマー(ボルシア・メンヘングラッドバッハ)がゴールキックをショートで出すことに固執し、2度程、エリア内でのパスを繰り返した挙句、正面でもらうはずだったジャカ(アーセナル)が足を滑らせるという不運に見舞われたのが運の尽き。辛抱強く、プレスをかけていたミケル・メリーノがこのボールを奪い、あうんの呼吸でオジャルサバルに送ると、そのシュートが決まって先制点が入ったから、ホッとしたの何のって。いえ、ルイス・エンリケ監督は「El gol no es un fallo de ellos, es un gran acierto nuestro/エル・ゴル・ノー・エス・ウン・ファジョ・デ・エジョス、エス・ウン・グラン・アシエルトー・ヌエストロ(ゴールは彼らのミスではなく、ウチの策が見事に的中した結果だ)」と自画自賛していましたけどね。

後半などもオジャルサバル、ミケル・メリーノ、セルヒオ・ラモス(マドリー)、ジェラール・モレノらにチャンスがあったものの、追加点は奪えず。今月末に18歳のバースデーを迎えるアンス・ファティ(バルサ)も敵の厳しいマークに遭って、キラめきを見せることはできませんでしたしね。彼と交代で入ったアダマ・トラオレ(ウォルバーハンプトン)も初っ端、ドリブル2、3人抜きを披露したぐらいで、「nos ha faltado poco para finalizar, eso tenemos que seguir trabajándolo, yo personalmente/ノス・ア・ファルタードー・ポコ・パラ・フィナルサール、エソ・テネモス・ケ・セギール・トラバハンドー、ジョ・ペルソナルメンテ(ウチはちょっとフィニッシュ力に欠けていた。それは努力し続けないといけなくて、特にボクはね)」と当人も言っていたんですが、やっぱり、今のスペイン代表はゴール不足の感があるかと。

今月から、ネーションズリーグもようやく交代枠5人制となったのを利用して、4人目にはロドリ(マンチェスター・シティ)を入れて、守備固めをしたおかげもあり、そのまま、1-0で勝つことはできましたけどね。折しも同日、同グループ2位のドイツもケガの治ったクロース(マドリー)も出場したおかげか、ウクライナに1-2で勝利、スペインが勝ち点2差を保てたのは良かったかと。ただねえ、ホントに1週間で3試合というのは強行軍日程で、もう翌日曜の夜にはチームはウクライナへ移動。23才とまだ若い上、合宿初日のコロナ検査ではっきり陰性が出なかったため、リスボンに連れて行ってもらえず、ラス・ロサスでお留守番していたオジャルサバルなどは、「Está claro que las piernas pesan, pero se recuperan rápido en los próximos días/エスタ・クラーロ・ケ・ラス・ピエルナス・ペサン、ペロ・セ・レクペラン・ラピド・エン・ロス・プロキシモス・ディアス(もちろん、足は重くなるけど、数日で回復するよ)」と言っていたんですけどね。

月曜に会場のオリンピスキーで練習した時には、まさにそのスタジアムでイタリアを4-0で下し、スペイン代表最後の栄冠となったユーロ2012優勝を果たしたメンバーの生き残り、ラモス、ブスケツ(バルサ)、ヘスス・ナバス(セビージャ)らはもう皆、30代半ばとあって、こうも連戦が続くとちょっと辛いかも。相手も9月にはディ・ステファノでそれこそ、ラモスの2発、アンス・ファティ、フェラン・トーレス(マンチェスター・シティ)のゴールで4-0と完勝したウクライナとなれば、ルイス・エンリケ監督もローテーションを考えているんじゃないかと思いますが、さて。そうそう、ウクライナ代表に合流早々、正GKのピアトフ(シャフタール)共々、PCR検査で陽性だったGKルニン(マドリー)は2度目の検査で陰性となり、もうマドリッドに戻って、ベルギー代表から即行リターンしたクルトワと一緒にバルデベバスで練習しているそうですよ。

え、聞くところによると、ジョゼ・アルバラーデ(スポルティングCPのホーム)での親善試合はたった2500人だったのが、この火曜午後8時45分(日本時間翌午前3時45分)からのウクライナ戦には2万1000人のファンの入場が見込まれているんだろうって?その通りで、敵方の応援一色になるのは目に見えているんですが、これって、マドリッドの弟分チーム、ヘタフェのコリセウム・アルフォンソ・ペレス(1万7000人)やレガネスのブタルケ(1万2000人)が満員になる以上の人数ですからね。ルイス・エンリケ監督は「ウチを応援してくれるのではなくとも、普通の状態に近づくのは誰にとっても喜ばしいこと」と気にしていませんでしたが、いやいや、ちょっと待って。

実を言うと、土曜のスイス戦もUEFAはキャパの30%までなら、観客を入れて構わないという姿勢だったんですが、無観客だったのはCSD(スポーツ上級委員会)の意向で、コロナ再流行真っ盛りのスペインでは、少なくとも年内はスタジアムにファンを入れての試合はできないと伝えてしまったんですよ。でもそうなると、11月17日にセビージャ(スペイン南部)のカルトゥーハで開催予定のネーションズリーグ最終節、おそらく首位を争っているだろうドイツとの決戦でも地元の応援を当てにできないということで、それって、思いっきり不利ではない?

おまけに同じUEFA括りで、これは代表戦だけでなく、CL、ELにも適応。要はマドリー、アトレティコ,バルサ、セビージャ、レアル・ソシエダ、ビジャレアル、グラナダの出場スペイン勢、全てがアウェイ戦では相手チームが地元のファンの後押しを受けながら、ホームゲームは無観客という、とんでもない不公平な目に遭うってことで、いえ、どのクラブもCSDに抗議はするつもりのようですけどね。ただ、中には年内いっぱい無観客試合を想定して、サンティアゴ・ベルナベウを絶賛大改修中にしてしまったマドリーのようなチームもあって、これは応援があろうが、なかろうが実力に自信があるという意味なのか…ええ、そこまで強気になれないお隣さんが、空っぽのワンダ・メトロポリターノで苦労する風景が目に浮かぶだけに、私も無関心ではいられませんよね。

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