近づいて来たのは優勝だけじゃない…/原ゆみこのマドリッド

2020.07.04 16:20 Sat
Getty Images
「だんだん煮詰まってきたわね」そんな風に私が首を振っていたのは金曜日、この週末には結果の組み合わせ次第によって、エスパニョールの2部降格が決まるかもしれないという記事を読んだ時のことでした。いやあ、33節で彼らがレアル・ソシエダに負けた後、ピッチインタビューを受けたGKディエゴ・ロペスに向けられたマイクのカバーにLaLiga Smartbank(スペイン2部)のロゴが入っていたのは、単なる放送局のミスだと思うんですけどね。とはいえ、その最下位のエスパニョールとこの日曜に対戦するレガネスも彼らより、たった勝ち点1多いだけなんですよ。

ええ、火曜のセビージャ戦でもオリベル・トーレスの2発とムニルに決められ、人気のないブタルケのスタンドを背にしてはない力を振り絞ることもできず、0-3と負けてしまったマドリッドの弟分チームも現時点、残留ゾーン17位のセルタとの差は勝ち点9。このままだと、放っておいてもあと2試合でゲームオーバーとなるんですが、何せ、エン・ネシリの恩返しゴールこそ防いだとはいえ、2月にブライトワイテがバルサに特例移籍で行ってしまった後、唯一、得点が期待できるFWだったオスカルがカリージョと共にグラナダ戦で負傷。どちらも今季絶望となっているため、もうホントにタイタニック状態なんですが、金曜には1つだけいいニュースが。
それは2017年12月のデポルティボ戦での負傷以来、恥骨やハムストリングの手術を受け、ようやく完治した昨夏、2部の弟分アルコルコンとの親善試合で右ヒザのじん帯を断裂。新型コロナウィルス流行によるparon(パロン/リーガの中断期間)を経て、ミニプレシーズンで体調を整えてきたキャプテンのシマノフスキがようやく出場できるようになったと、アギーレ監督がビデオ記者会見で告げていたことなんですよ。ええ、先日はビジャレアルのブルーノ・ソリアーノも3年近くのブランクを乗り越えて復活していましたし、シマノフスキもチームが1部にいる間に戻って来られるのは不幸中の幸いだった?

いえ、もちろん当人は数字的に確定するまでは1部残留に死力を尽くす心積りでしょうけどね。ロケ・メサも出場停止となるエスパニョール戦、そして次の16位エイバルとの試合と2連勝できれば、少しはパノラマも違ってくるかもしれませんが、何せその先がねえ。セラデス監督の緊急解任により、チーム付き役員のボロ氏が暫定監督として、6度目となる出動をしているバレンシアはともかく、アスレティック、そして最終戦が兄貴分のレアル・マドリーとなると、もうその頃には上位陣の順位が確定していることを祈るぐらいしか、私もできないんですが…。

ちなみに今週はまず、そのレガネスと同じ火曜にアトレティコがバルサに挑んだんですが、妙にアクシデントが多い試合でしたね。だってえ、前半12分にはその直前、メッシのFKをクリアしたジエゴ・コスタが今度は同選手のCKをクリアしようとしたところ、ボールが太ももに当たってオウンゴールに。そんな不運にもめげず、その日は前線にコスタだけでなく、このところFW稼業に目覚めたマルコス・ジョレンテ、コレア、カラスコと、シメオネ監督にしては珍しく4人もアタッカーを並べていた甲斐があったか、18分にはエリア内に入り込んだカラスコをアルトゥーロ・ビダルが倒し、アトレティコはPKをゲット。ところが、先制点献上の汚名払拭とばかり、コスタが蹴ったPKがGKテア・シュテーゲンに弾かれてしまったとなれば、もうどうしたいいものやら。
でも大丈夫だったんですよ。ええ、その時はVAR(ビデオ審判)が、コスタが蹴る前にテア・シュテーゲンの足がゴールラインから離れていたことを発見。やり直しを命じてくれたため、今度は先輩のコケが出場停止、マドリッドでお留守番している中、一番古株のカンテラーノ(アトレティコB出身の選手)であるサウールがキッカーに。1月にサウジアラビアで行われたお隣さんとのスペイン・スーパーカップ決勝でのPK戦で1番手を務め、見事に失敗するという黒歴史を乗り越えて、同点ゴールを決めてくれたから、助かったの何のって。

その後はハーフタイム近くにメッシのFKをGKオブラクがparadon(パラドン/スーパーセーブ)で防ぐなんてこともあったんですが、1-1だったスコアは後半5分に再び動きます。ええ、今度はサビッチの出場停止により、折よく負傷も治って、再開後、初先発をしていたCBフェリペがセメドをエリア内で倒してペナルティ。こちらは定番通り、メッシが決めて、自身のバルサ700得点目を祝っていましたが、まさか18分にはそのセメドが律儀にもお返しをしてくれるとは!ええ、それは後でシメオネ監督も「Está volviendo a su mejor versión, a la de su primera etapa/エスタ・ボルビエンドー・ア・ス・メホール・ベルシオン、・アラ・デ・ス・プリメーラ・エタパ(彼自身のより良いバージョン、最初の在籍時の状態に戻りつつある)」と褒めていた選手のおかげでした。

1月に中国の大連一方からレンタルで戻って来たカラスコが、またしても敵ゴールを目指してドリブル。後ろからセメドの足が触れて倒れたところ、この日の審判は太っ腹ですねえ。こちらもPKに取ってくれたため、サウールがリピートして、再度アトレティコは同点に追いつくことに。ただその後は両者共々、決勝点を挙げることができず、更に昨夏、契約解除金1憶2000万ユーロ(約145億円)で河岸を変えたグリーズマンをセティエン監督が後半丸々近く、ピッチサイドでアップさせた挙句、後半ロスタイム入り直前で入れたりしたものですから、いやまあ、一番はこれまで16試合で5分け11敗と、リーガのバルサ戦で1勝もしていないシメオネ監督が今回も初白星を手に入れることができなかったせいなんでしょうけどね。

2-2という結果に世間はアトレティコがお隣さんの優勝を後押しすることになったこと、これで3連続引き分けとなったバルサのセティエン監督と選手たちのフィーリングのなさ、更には鳴り物入りの補強だったはずのグリーズマンの不遇ぶりなどの方に注目していたんですが、いやまあ。3位のアトレティコは、レガネスに4位セビージャが勝ってもまだ勝ち点差2、CL圏外5位のビジャレアルとは5差あったため、とりたてて騒ぐ必要もなかったってことでしょうか。

そして1日おいた木曜日、バルデベバス(バラハス空港の近く)にあるエスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノにもう1つの弟分、ヘタフェを迎えたマドリーはというと。実はこちらも試合を決定づけたのはペナルティで、いえ、これまでリーガの3強には14試合2分け12敗と1勝もしておらず、マドリー戦でもパッとしたところを見たことがないボルダラス監督のチームはかなり善戦したんですけどね。通常ならツートップにするところをマタ1人にして、中盤を厚くしながら、とりわけ32分に頭に喰らったbalonazo(バロナソ/ボール直撃)のせいで気分が悪くなったバランがミリトンに代わった前半など、むしろ押していたぐらいだったんですが…まさか殊勲のスコアレスドローも見えてきた後半34分、オリベイラがカルバハルをエリア内で倒してしまうとは!

もうその頃にはジダン監督も先発したビニシウス、イスコ、モドリッチをアセンシオ、ロドリゴ、バルベルデに一斉交代していたんですけどね。しかも前半にはそのカルバハルがオリベイラにペナルティ疑惑のあるファールをしていたとなれば、悔しさも一際かと思いますが、この日もそつなくPKを成功させ、ベンゼマに次ぐチーム堂々2位となる今季9本目を挙げたセルヒオ・ラモスには文句のつけようがありませんって。結局、その1点がモノを言い、ウーゴ・ドゥーロ、ホルヘ・モリーナ、ジェイソン、アンヘルらが入ったヘタフェも反撃に努めたものの、試合は0-1で終了。残念ながら、6位となって、4位のセビージャとの差も勝ち点5に開いてしまいましたっけ。

え、それでも木曜に2年間、レンタル移籍先のドルトムントで大活躍したマルチSBのアクラフがインテルに4000万ユーロ(約48億円)で売却となり、来季もレギュラーの座が安泰となったカルバハルもが「El Getafe ha hecho un partido muy complete/エル・ヘタフェ・ア・エッチョー・ウン・パルティードー・ムイ・コンプレトー(ヘタフェはとても完璧な試合をやった)。ウチに最も困難を与えたチームの1つだよ」と認めていたように、このレベルのプレーができれば彼らもまだ、クラブ史上初のCLデビューを諦める必要はないんじゃないかって?

そうですね、ちなみに今もナチョが負傷中で、控え不在のポジションをカバーするには最適だった人材をマドリーが放出した理由は、ジダン監督によると「Aquí está la parte económica y la deportiva/アキ・エスタ・ラ・パルテ・エコノミカ・イ・ラ・デポルティバ(ここには経済的とスポーツ的な部分がある)」とのことなんですが、ヘタフェも6月末でレンタル契約が終わるケネディとデイベルソンを引き留めることができず。こちらもやはり「un tema económico/ウナ・テーマ・エコノミコ(経済的な課題)」(ボルダラス監督)だったため、やや攻撃力が削がれた面はありますが、何にしろ、夢は大きく持った方がいいですからね。

そんなヘタフェはこの週末、すでに残留確定がほぼ確実となっているオサスナとエル・サダルで対戦。一方、この勝利でいよいよバルサとの差が勝ち点4に拡大、このままだと37節には優勝の決まるマドリーも同じ日曜午後2時(日本時間午後9時)から、サン・マメスでのアウェイ戦なんですが、とにかくリーガ再開後は破竹の6連勝中ですからね。コパ・デル・レイ決勝を来年に延期したため、コパ優勝によるEL出場権獲得を諦めながら、リーガ7位に回ったその権利を奇しくもその決勝の相手でもあるレアル・ソシエダと争っているアスレティックとはいえ、今回はヘタフェも兄貴分の援護射撃を期待してもいいんじゃないでしょうか。

そしてこの連日、試合がある再開リーガの恐ろしさというか、もう金曜にはアトレティコが34節トップバッターとして、ワンダ・メトロポリターノでマジョルカと戦っているんですが、いやあ、カンプ・ノウでは相当自信をつけたんでしょうか。前半から積極的に攻めた彼らは26分、この日のCFを務めたモラタがサドラルに倒され、PKをゲット。いやまあ、ここは先日のコスタ同様、キッカーに立ったモラタも最初、GKレイナに止められ、跳ね返りも敵DFにクリアされてしまったんですけどね。デジャブのごとく、またしてもVARからやり直しの指示が届くとは!

この日の理由はモラタが蹴る前にペナルティエリアに選手が入ってしまったからだそうですが、コスタと違い、2度目のPKトライにサウールの手を借りなかった当人はかなり意地っ張り?幸い、今度はゴールが決まって、アトレティコの先制点となったものの、本当に安心できたのは前半ロスタイムで、ええ、ジョレンテがエリア内右から出したラストパスをモラタがゴール前で2点目にしてくれた時のことでしたっけ。

後半はマジョルカが攻勢に出て、久保建英選手をカバーしていた左SBのカンテラーノ、マヌ・サンチェスもかなり苦労していたんですが、残念ながら、得点までには至らず。そうこうする間に頻繁に敵エリアに近づいていたアトレティコは、コケが中途半端にクリアされたボールに駆けつけてシュートしたところ、ライージョに当たって3点目となってくれるんですから、まったくラッキーなこともあるもんです。

おかげで3-0という快勝で4位とは勝ち点5差、5位とも8差と、いよいよ3位フィニッシュに近づいた彼らですが、ちょっと気掛かりなのは、いえ、後半、モラタと交代したコスタにはツキがなく、カンプ・ノウでのリベンジができなかったのはまだいいんですけどね。むしろ、この日は先発に選ばれたジョアン・フェリックスのシュート照準が相変わらず狂っていることの方で、後半早々、引き上げさせられた際には彼もかなり怒っていたようなんですが、まあまだ20才と若い選手ですからね。

ここは来週火曜のセルタ戦での挽回を期待することにして、やはり大変そうなのはレガネスとは勝ち点差4あるものの、降格圏の末席18位にいるマジョルカ。いえ、久保選手などは試合後のピッチインタビューで、「17位のセルタとは5差だから、もしボクらが残り4試合全てに勝てば、残留の可能性はかなりある」と気丈に答えていたものの、現実的には相当に厳しいかと。一応、次節ではアトレティコもお手伝いできるとはいえ、その前、土曜のベティス戦でセルタが勝ってしまったりすると、レガネスやエスパニョールみたいな諦めモードが漂ってくるかもしれません。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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