まだ勝ち抜けた訳ではないけれど…/原ゆみこのマドリッド

2020.02.22 19:15 Sat
「今週は何か、存在感が薄かったわね」そんな風な印象を私が抱いていたのは金曜日、レアル・マドリーTVでジダン監督記者会見の生中継を見ていた時のことでした。いやあ、火曜には1月にフラメンゴから移籍した18才のトップ下、ヘイニエルの入団プレゼンがあったんですけどね。感激のあまり、プレス応対中に涙ぐんでしまい、言葉が続かないなど、初々しかったのはいいんですが、彼が今季プレーするのはラウール監督率いるRMカスティージャ(マドリーのBチーム)。
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今は負傷していたルーカス・バスケス、アザール、ハメス・ロドリゲスらも戻っていますし、昨年、CLグループリーグのガラタサライ戦でハットトリックを挙げたロドリゴですら、昨今は招集リスト落ちすることも多いとなれば、近々、トップチームの試合で見る機会はないのでは?それ以外、水曜から再開したバルデベバス(バラハス空港の近く)でのセッション前にはベイルとヨビッチがウィルス性急性胃腸炎と診断され、チーム内感染を防ぐため、即座に帰宅させられたぐらいで、その2人も金曜には回復。ただ、やはり土曜午後9時(日本時間翌午前5時)からのレバンテ戦のバレンシア遠征メンバーからは落ちてしまっているんですが、来週水曜にマンチェスター・シティ戦を控えるマドリーと同様に、CL16強対決ナポリ戦の1stレグは来週火曜ながら、宿敵バルサはこの1週間、経営陣がバルトメウ会長の立場を強化するため、チームのOB、現役有力選手や監督、その身内の評判をSNSを使って貶める工作を外部会社に委託していたというスキャンダルが発覚して大騒ぎに。
そこへ全治6カ月となったデンベレの代理として、特例市場外補強の動きが加わったため、結果的にマドリー関連のニュースが減ってしまったのは仕方ないんですが、今週は他のマドリッド勢にも主役の座を奪われてしまった感は否めないかと。そう、火曜にCLリバプール戦1stレグのあったアトレティコ、木曜にEL32強対決アヤックス戦1stレグのあったヘタフェ、そしてただでさえ、ゴールが不足しまくっている中、虎の子のFWを奪われてしまったレガネスにスポットが当たっていたんですよ。

とりあえず、嬉しい話からしていくことにすると、何とあれだけ戦前、悲観的な予想に包まれていたアトレティコがワンダ・メトロポリターノで発奮。いやあ、シメオネ監督も「Empezamos ganando el partido cuando en la rotonda que lleva al estadio giramos con el autobús/エンペサモス・ガナンドー・エル・パルティードー・クアンドー・エン・ラ・トトンダ・ケ・ジェバ・アル・エスタディオ・コン・エル・アウトブス(バスでスタジアムに向かうロータリーを回った時から、勝ちながら試合を始めた)」と言っていた通り、この奇跡は夜空が赤く染まるぐらい大量のbengala(ベンガラ/発煙筒)を焚き、選手入場の際には大きな垂れ幕とモザイク、そしてアカペラのクラブ歌合唱で喝を入れてくれた(https://bit.ly/2VdJD7g)ファンの存在抜きには語れないんですけどね。
スタメンにレマルとベルサイコが入っているのを知り、相手は昨季CLチャンピオン、今季もプレミアリーグ独走中のリバプールだけに、まさか勝負を捨てたのかなんて思ってしまったのは私のような不心得者だけで、ファンに後押しされたアトレティコは序盤から積極的に出ていくと、早くも4分にはCKからチャンスをモノにすることに。ええ、コケの蹴ったボールがサビッチの頭をかすめ、ファビーニョの足に当たって転がったところにサウールが登場。至近距離からGKアリソンを破ってしまったとなれば、どんなに場内が歓喜に沸いたことか。

実際、得点はそれだけで、うーん、モラタなど2度程、チャンスがあったんですけどね。前半はアリソンに弾かれ、後半にはシュートする前に足を滑らせてしまい、「自分で自分にペナルティしちゃったよ」なんて言いながら、ミックスゾーンを通って行ったんですが、それでも「De los ocho años que llevo aquí el público pocas veces estuvo a este nivel/デ・ロス・オチョ・アーニョス・ケ・ジェボ・アキー・エル・プルビコ・ポカス・ベセス・ストゥーボ・ア・エステ・ニベル(8年自分がここにいる間、観客がこのレベルにあったことは滅多にない)」(シメオネ監督)という、途切れない応援を受けたアトレティコは組織的な守備でそのリードを最後までキープ。

「I was afraid his opponent would go down now even if Sadio takes a deep breath(サディオが深呼吸しただけで敵が倒れたらと心配になった)」(クロップ監督)相手が、イエローカードをもらっていたマネをハーフタイムで下げてくれたおかげもあって、無失点で勝てたのは立派だったんですが、え?いくら「Hay mucha gente que nos quiere matar y nos critican/アイ・ムーチャ・ヘンテ・ケ・ノス・キエレ・マータル・イ・ノス・クリティカン(ボクらの息の根を止めたくて、批判する人が沢山いる)けど、ここにいるのは本物のアトレティコファン。いい時も悪い時も寄り添ってくれる」(サウール)からって、試合後、スタンドに感謝するため、vuelta de honor/ブエルタ・デ・オノール(場内一周)までやる?

もちろん、この日はサラーを押さえ、懸念の守備でも面目躍如して、マン・オブ・ザ・マッチをもらったロディを始め、サビッチ、フィリペらのおかげで敵に枠内シュートを1本も許さなかったのは褒めてあげないといけませんけどね。クロップ監督も「今日はアトレティコの人々が幸せな笑顔を浮かべるのを見たが、勝負はまだ終わっていない。It is only 1-0. We are not 5-0 down or whatever(ただの1-0だ。ウチは5-0とかで負けた訳じゃない)」と言っていましたが、まったくもって、そうなんですよ。だってえ、昨季は同じ16強対決1stレグ、やはりワンダでユベントスに2-0と勝利しながら、トリノでの2ndレグでクリスチアーノ・ロナウドにハットトリックを喰らい、総合スコア2-3で逆転敗退した彼らですからね。

逆にリバプールは準決勝でバルサに3-0とカンプ・ノウで負けながら、2ndレグに4-0と勝って決勝進出した経験を持っているとなれば、「For all Atletico fans who can get a ticket for the game, welcome to Anfield(試合のチケットを手に入れられる全てのアトレティコファン、ようこそアンフィールドへ)」(クロップ監督)となるのは当然だった?

それでも近頃では珍しいぐらい士気上がる勝利だっただけに、翌日のマハダオンダ(マドリッド近郊)でのリハビリセッションではジムで自転車をこぎながら、選手たちのお祝いが続いていた(https://bit.ly/39ZG74J)のも仕方ありませんが、次は南野拓実選手の出番もあるかもしれない3週間後の2ndレグより、今考えないといけないのはこの週末のリーガ戦。ええ、日曜午後9時からのワンダでは勝ち点差2でCL出場圏入りを狙っているビジャレアルとの対戦となりますし、リバプール戦の最後15分間で頸椎のヘルニア手術から復帰したジエゴ・コスタもプレーしたとはいえ、まだまだ足慣らし中。レマルも前半プレーしただけでまた負傷、金曜からチーム練習に合流したジョアン・フェリックス、エレラ、トリッピアーらの助けもまだ得られそうにないため、今度はモラタ、コレア、ビトロ辺りが頑張って、ゴールを入れてくれるとありがたいのですが。

そして水曜のCLではバレンシアがサン・シーロでアタランタに4-1と大敗。いやあ、その日の夕方、コリセウム・アルフォンソ・ペレスに前日公開セッションを見に行った時もアヤックスは20分程、ロンド(中に選手が入ってボールを奪うゲーム)とお座なりのパス交換をしただけと、あまり気合が感じられなかったのもあるんですけどね。昨年のグループリーグではそのバレンシアに負けてCL決勝トーナメント進出を逃し、ELに回って来た相手でしたし、ヘタフェは先週末、カンプ・ノウで2-1と引分け寸前までバルサを追い詰めた試合の前節、バレンシアに3-0と完勝していましたからね。

12年ぶりとなるEL決勝トーナメントの舞台に張り切ったファンも兄貴分を見習って、こちらは青い煙でチームバスをお出迎え(https://bit.ly/2HGidim)と、スタジアムの規模や構造上、ワンダ並みの迫力はなかったものの、キックオフ前から熱烈に応援。最初はガツガツと敵からボールを奪うことに専念していたヘタフェですが、前半36分、アランバリが横に蹴ったFKをダミアンが上げると、エリア内でオリベイラがワンタッチでボールを流し、その日、先発に抜擢されたデイベルソンもワンタッチでゴールにしてくれたから、驚いたの何のって。

え、そのお祝いに1300人のアヤックスファンが陣取るスタンドに近づいた彼がmecherazo(メチェラソ/ライターの投げ込み)を喰らったのは自業自得じゃないかって?うーん、当人は太ももに彫った奥さんのタトゥーを披露しただけと言っていましたが、激高したオランダ人ウルトラが引き抜いて投げ込んだシートの方が当たらなくて助かったかと。そういえば、ヘタフェのクラブ史上に残るUEFAカップ準々決勝でバイエルンが訪れた時もドイツ人ファンたちがシートを投げまくっていたんですが、これから先もヨーロッパの名門チームがコリセウムに来ることになれば、座席も簡単に取れない作りにする工夫が必要かもしれませんね。

そしてマクシモビッチにも2度の絶好のチャンスがあったヘタフェは後半も相手に得意のパスサッカーをさせず、そのままアトレティコを追随するのかと思われたんですけどね。アヤックスも昨季はCL16強対決1stレグでマドリーに1-2と負けながら、サンティアゴ・ベルナベウで4ゴールを挙げて、総合スコア5-3で逆転突破した強者。今季はデ・ヨング(バルサ)、デ・リフト(ユベントス)らを失い、その日はGKオナナが出場停止、ネレスも負傷中という有利な状況を利用しようと、ボルダラス監督もデイベルソンをアンヘルに、マタをホルヘ・モリーナに代えて追加点を狙ったところ、最後に盛り上げてくれたには3人目の交代選手ケネディでした。

ええ、ロスタイムにカウンターから敵エリア前までドリブルすると、そのシュートがデストに当たって2点目のゴールになってくれたとなれば、来週木曜、アムステルダムのヨハン・クライフ・アレナでの2ndレグにも大船に乗った気で挑める?いえ、それこそ身近に兄貴分の悪い前例があるため、過信は禁物なんですけどね。「何で審判は相手がダイブするたび、ファールを取るのか理解できない」(デスト)という不満はあったものの、ボルダラス監督も言っていたようにタレントに欠けるチームながら、「Hemos sido capaces de minimizar a un equipo con una vocación ofensiva fantástica/エモス・シードー・カパセス・デ・ミニニサル・ア・ウン・エキポ・コン・ウナ・ボカシオン・オフェンシバ・ファンタスティカ(ウチは素晴らしい攻撃サッカーをするチームの力を最低限にすることができた)」のはまさに選手たちの努力の賜物。

おまけにヘタフェにはこの日曜にもビッグマッチが待っていて、3位の彼らはアトレティコと同じ勝ち点差2で5位につけるセビージャとの上位決戦。何せ相手は同日のEL32強対決1stレグ、ルーマニアでクルージュとエン・ネシリのゴールでようやく1-1と引分けていますしね。コリセウムのファンの応援があれば、勝てるんじゃないかと思いますが、さて。何はともあれ、ヘタフェがシーズンのこんな時期まで、目の離せない戦いを見せてくれるのは喜ばしい限りです。

そしてその真逆を行くのがお隣さんのレガネスで、折しもアンヘルが拍手を浴びてピッチに入った頃にはブライトバイテのバルサ入団プレゼンがカンプ・ノウで進行中。うーん、水曜には普通にレガネスで練習をしていた彼なんですが、その日の夜、契約破棄金1800万ユーロ(約22億円)が払われたそうで、クラブ同士の交渉もなかったのだとか。実際、この長期離脱選手の代わりに市場外で補強ができるという特例はスペインにしかなく、お金のあるクラブにとっては願ってもない規則なんですが、これが不公平なのはチームの大黒柱をいきなり奪われた方は補強できないということ。

そう、1月こそ、セビージャに契約破棄金2000万ユーロ(約24億円)で移籍したエン・ネシリの後釜として、駆け込みでゲレロ(オリンピアコスからレンタル)とアサレ(ヤングボーイズからレンタル)に来てもらえたんですが、FWを獲れるよう、今からレガネスに大ケガする選手がいればなんて不吉なことは考えたくもないですからね。リーガ協会が想定外の被害に遭った彼らにも市場外補強を認めるようにという要請を聞いてくれるかは不明ですが、木曜のELでバルサがこの冬、レンタルに出したカンテラーノ(バルサBの選手)、カルレス・ペレス(ローマ)とアベル・ルイス(スポルティング・ブラガ)がゴールを挙げているなんて聞くと、もうやるせないとしか言いようがない?

土曜には前節、マドリーとベルナベウで2-2と分けたため、勝ち点差2でかろうじて降格圏外の17位につけるセルタとの残留争いの直接対決を迎えるアギーレ監督は、「ウチには26人選手がいるし、最悪の状況と言ったら、彼らに失礼だ。Vamos a pelear como animales, con el ejemplo del Getafe y del Atleti esta semana/バモス・ア・ペレアル・コモ・アニマレス、コン・エル・エヘンプロ・デル・ヘタフェ・イ・デル・アトレティ・エスタ・セマーナ(ウチはアニマルのように戦う。今週のヘタフェやアトレティコの例に倣ってね)」と、それでも白旗は挙げていませんでしたが…あ、もしリバプール戦やアヤックス戦を見て、スペインサッカーも変わったものだとガッカリした日本のファンがいても大丈夫ですよ。きっと来週のCL組、マドリーとバルサはもっと華麗なプレーを見せてくれますって。

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