そして誰もいなくなった…/原ゆみこのマドリッド

2020.02.08 15:00 Sat
「バスクダービー祭りにはならなかったのね」そんな風に私が呟いていたのは金曜日、コパ・デル・レイ準決勝抽選の結果を見た時のことでした。いやあ、マドリッド勢最後の砦だったレアル・マドリーも前夜、レアル・ソシエダの前に散ってしまい、4月18日の決勝もセビージャ(スペイン南部)のカルトゥハに決まりましたし、正直、どんな組み合わせになっても自分には関係なかったんですけどね。それがまるで歩調を合わせるように、サンティアゴ・ベルナベウからふてくされながらの帰り道、通りかかったバル(スペインの喫茶店兼バー)の前で1人、缶ビール片手に喜んでいるオジさんが。それで私も中のTVを覗いてみたところ、何と後半ロスタイム、バルサがアスレティックのウィリアムスのヘッドで1点を取られていたから、もうビックリ。
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家に着く頃には1-0でバルサの敗退が確定していたため、折しも今週末のリーガではレアル・ソシエダとアスレティックがパイス・バスコ(バスク地方)の覇権を巡って激突するダービー。もしコパで両者が当たれば、準決勝だけは2試合制とあって、来週の1stレグ、3月第1週の2ndレグといつぞや、マドリーとバルサが短期間にコパやCLでぶつかりまくったクラシコ(伝統の一戦)祭りみたいで面白いと思ったものでしたが、そうは問屋が卸しません。ええ、レアル・ソシエダはミランデスと、アスレティックはグラナダとそれぞれ、来週の水木にホームで初戦となったんですが、サン・セバスティアンとビルバオは電車やバスで2時間以内と近いですからね。最近はあまり旅行にいい時期ではないかもしれませんが、丁度その頃、スペインに来ているファンにとっては観戦梯子ができるいい機会じゃないでしょうか。え、まずは準々決勝の話からしてくれないと、訳がわからないって?そうですね、今週のコパは火曜にグラナダとバレンシアの対戦で始まったんですが、丁度、土曜にはアトレティコが前者をワンダ・メトロポリターノに迎えますからね。中継もオープンチャンネルのクアトロでやってくれたため、私も自宅で見ていたんですが、前半3分にはソルダードがゴールを挙げてグラナダが先制。それからはやたら行ったり来たりの展開で、いかにもコパらしい攻め合いの戦いでしたが、バレンシアは前半終了間際にロドリゴが同点ゴールを挙げたものの、後半ロスタイムにPKを献上。ソルダードが再び決めて、2-1で昨季チャンピオンを敗退に追いやってしまうんですから、本当にリーガとコパは別物ですよね。
そして水曜には16強対決でセビージャを破り、唯一の下部カテゴリー生き残りのミランデス(2部)がビジャレアルを4-2で撃破。実は彼らのコパ準決勝進出は2012年にもあって、当時は何と2部Bだったんですよ。銀行員との兼業サッカー選手パブロ・インファンテがゴールを挙げまくり、全国的なスターになったりしていたんですが、現在、2016年に現役引退した元アスレティックのイラオラが監督を務めているチームは消化試合が1つ少ない状態で、1部昇格プレーオフ圏内の6位まで勝ち点3差の11位。リーガでも躍進を望める位置につけているとは、大いに成長しているじゃないですか。

ただねえ、ここまで1試合制だったコパは32強対決のセルタ戦以降、格下のホーム開催ということで、ずっとアンドゥーバで戦っていた彼らだったため、いよいよ憧れのカンプ・ノウorサンティアゴ・ベルナベウ訪問が実現すると喜んでいたはずなんですけどね。ラスボスが消えてしまったため、バスで1時間半のレアル・アレナに向かうことに。まあ、今とプレーする選手は全然違いますが、当時、イラオラ監督も出場していたアスレティックとの8年前のコパ準決勝(総合スコア3-8で敗退)で、ミランデスは古い方のサン・マメスなら体験済みですからね。ここで勝てば、セミフィナリストとして、来年またサウジアラビアで開かれるファイナルフォー形式のスペイン・スーパーカップにも参加できるとなれば、やる気も出てきますって。
え、それで大波乱が起きた木曜日、肝心のマドリーはここ21試合無敗と絶好調。単独首位に立つリーガ前節ではマドリーダービーに勝ちながら、何でレアル・ソシエダに後れを取ったのかって?いやあ、相手は先週末、まさしく同じ緑色のユニフォームを着て、弟分のレガネスに2-1で負けていましたしね。イマノル監督も「Alguno puede pensar que vamos al matadero/アルグーノ・プエデ・ペンサル・ケ・バモス・アル・マタデーロ(ウチが屠殺場に行くと考える者もいるだろう)」なんて言っていたため、私もそんなに心配はせず、サンティアゴ・ベルナベウに足を向けたんですが、とんでもない。

うーん、どちらのチームもローテーションをしていたんですが、日曜にはウーデゴーアとオジャルサバル、ミケル・メリーノも温存したレアル・ソシエダの方が、カセミロとルーカス・バスケスを風邪で欠き、アトレティコ戦で打撲を負ったカルバハルもベンチ外。ナチョ、ミリタオ、マルセロを守備のスタメンに使ってきたマドリーの意表を突くことに成功したんですよ。いえまだ、前半22分にイサクのシュートがGKアレオラに弾かれたボールをウーデゴーアが撃ち直し、先制点を奪われた時はそんなにファンも焦っていなかったんですけどね。ブタルケでもゴールを挙げていたアフリカ系スウェーデン人の20才FWにハーフタイムが来るまで2度もフリーでシュートされているとなれば、最近は無失点試合を誇っていたマドリーの堅守も怪しく見えない?

おまけに後半早々にはウーデゴーアのスルーパスから、とうとうイサクにゴールを決められてしまったんですが、幸いこれにはVAR(ビデオ審判)が入り、オフサイドが成立。でもねえ、そんなの単なるぬか喜びで、だってえ、もう9分にはヤヌザイと交代していたバレネチェアのエリア奥から上げたクロスを彼にvolea(ボレア/ボレーシュート)で叩き込まれているんですよ。更にその2分後なんて、オジャルサバルのパスがナチョに当たり、転がったボールを再びゴールにして、気づいてみたら、0-3って、いくら6年前を最後にタイトルから遠ざかっている大会だからって、あんまりじゃないですか。

とはいえ、そこは根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)体質のマドリー。その頃から、ミスの目立つマルセロに対してpito(ピト/ブーイング)がスタンドから聞こえるようになっていたんですが、まさに彼なんかその典型で何と14分、ブライムから受けたパスをゴールにねじ込んでしまったから、ファンもいよいよ反撃が始まるのかと身構えたんですけどね。でもダメです。それから10分もしないうち、またしてもマドリー守備陣が鷹揚に見守る中、イサクがゴール前に放ったラストパスをミケル・メリーノが決めて、レアル・ソシエダが4点目をゲット。

もうこうなれば、「Sabíamos que el Madrid en tres minutos te da la vuelta al marcador/サビアモス・ケ・エル・マドリッド・エン・トレス・ミヌートス・テ・ダ・ラ・ブエルタ・アル・マルカドール(マドリーには3分でスコアをひっくり返す力があるのはわかっていた)」というイマノル監督が、来季のマドリー帰還を歓迎するようにスタンドに拍手で送られたウーデゴーアに続いてイサクも下げて、DFのアイエンを入れたのも当然でしたが、これにはジダン監督もバルベルデ、ブライムをヨビッチ、ロドリゴに代えて対抗。すると34分にはその日、一番のキレを見せていたビニシウスがヘッドでゴールを入れたんですが、残念ながら、これはVARでオフサイドとされてしまうことに。

でも彼は落ち込みません。すでにもう4試合連続ベンチ外となっていたベイルが観戦していたパルコ(貴賓席)を離れ、奥さんと3人の子供の待つ家に帰ろうと車を出していた、その2分後にはゴール内奥からブラジル人の後輩、ロドリゴにアシストし、マドリーに2点目が入ります。ロスタイムにはCKから回り回ったボールをナチョが頭で決めて、とうとう1点差まで追いついたんですが…延長戦に持ち込むことはできず。「Al final hemos reaccionado un poco tarde/アル・フィナル・エモス・レアクシオナードー・ウン・ポコ・タルデ(結局、反撃するのがちょっと遅かった)」(マルセロ)というマドリーは準々決勝で敗退です(最終結果3-4)。

うーん、ジダン監督は「Cometimos errores que no suele hacer el equipo/コメティモス・エローレス・ケ・ノー・スエレ・アセール・エル・エキポ(ウチのチームは滅多にやらないミスを犯してしまった)が、今日のスタメンとも選手起用とも関係ない」と言っていたんですけどね。どうにも淋しかったのは試合後、レアル・ソシエダの選手たちが再びピッチに現れ、fondo norte/フォンド・ノルテ(北側ゴール裏)3、4階席に陣取る応援に駆けつけたファンと一緒に準決勝進出を喜んでいた(https://bit.ly/372YsMc)のはいいんですが、後で見たニュース映像ではバルサを迎えるサン・マメスなど、アスレティクがスタジアム入りするバスまで群衆に取り巻かれ、完全なビッグマッチ臨戦態勢。

劇的な1-0での勝利を挙げた後も観客は席を立たず、選手たちと共に盛大なお祝いをしていたというのに(https://bit.ly/2ODnCdQ)、負けたから試合後は当然ですが、試合前も今季のベルナベウはまったくコパの盛り上がりがないまま、終わってしまったんですよ。何せ、ヘタフェは2回戦でバダローナ(2部B)、アトレティコも32強対決でクルトゥラル・レオネサ(2部B)、レガネスも16強対決でカンプ・ノウでバルサに負けてしまったため、マドリッドで見ることができた1部チームのコパの試合はこのレアル・ソシエダ戦だけでしたからね。そう思うと、昨季までの最初から2試合制というのも悪いことばかりじゃないと思ったりするんですが、一番それを感じているのは2ndレグで得意の逆転勝ち抜けをするチャンスがなくなったマドリーの選手たちかもしれませんね。

まあ、こんな感じのコパでしたが、もう週末のリーガもすぐ始まるため、マドリッド勢の予定をお伝えしておくことにすると。ミッドウィーク、じっくり練習に励めた3チームは皆、土曜の日程でまず午後1時から、レバンテとのアウェイ戦に挑むのがレガネス。こちらは前節レアル・ソシエダ戦勝利のおかげで18位のマジョルカと勝ち点で並び、この試合に勝てば久々に降格圏から脱出できるかもしれないんですが、GKクエジェルとCBアワジエンは出場停止です。それでも1月の移籍市場クローズ寸前に獲ったアサレ(ヤングボーイズからレンタル)、ブライアン・ヒル(同セビージャ)、アマドゥ(同ノリッジ・シティ)ら、エン・ネシリ(セビージャに移籍)、サビン・メリーノ(同デポルティボ)の代わりに獲った選手たちがそろそろ、プレーできそうなのは心強いかも。

そしてサン・マメスで0-2と勝利し、堂々3位の高みに輝いているもう1つの弟分、ヘタフェは午後4時から、コリセウム・アルフォンソ・ペレスに傷心のバレンシアを迎えるんですが、ちょっと穿ってしまうのはバルサに勝ったアスレティックに勝った彼らだったら、来週カンプ・ノウでも勝ったりできない?うーん、またしてもデンベレが太ももを痛め、今度は手術が必要な重傷なため、サッカー協会の許可をもらって、緊急特例補強をしたい相手にアンヘルが河岸を変えたりしなければですけどね。今のところ、バレンシア戦には出られるようなので、再びホルヘ・モリーナ、マタとの30代FWトリオの一角として、チームがCL出場権に定着するためのゴールを挙げてもらいたいものですが、さて。

一方、いつしかヘタフェにマドリッド第2のチームの座を奪われていたアトレティコのグラナダ戦はその日、午後9時(日本時間翌午前5時)からなんですが、朗報はスペイン・スーパーカップ準決勝で復帰し、バルサ相手に先制点を挙げたものの、20分程で再び負傷。以来、ずっとリハビリをしていたコケが戻って来ることですが、「veremos si le toca comenzar de inicio o entrar después/ベレモス・シー・レ・トカ・コメンサール・デ・イニシオ・オ・エントラール・デスプエス(最初から出るか、後から入るかは見てみないと)」とシメオネ監督はスタメンを確約せず。

まあ、とにかく今の大問題はゴールが入らないことですからね。出ずっぱりだったモラタまでがマドリーダービーでとうとうダウン、ジエゴ・コスタも全体練習には戻ったものの、復帰はまだですし、ジョアン・フェリックスなどグラウンドにも姿が見えないといったFWの頭数不足に加え、コレアやビトロはシュートを撃っても入らない時が多いという有様ですからね。現在、51年ぶりのコパ準決勝進出で飛ぶ鳥落とす勢いのグラナダに一体、どう対抗したらいいものやら。

今週は恥骨炎のトリッピアーが手術、全治1か月になったという悪い知らせもありましたしね。水曜はチーム全員で練習後、マドリッドの郊外にあるレストランにバスで乗りつけ、ヒル・マリン筆頭株主のおごりでここ5試合白星なしのスランプを脱出すべく、決起ランチをしたと聞きましたが、とにかく現在の6位から、せめてCL出場権のもらえる4位に上がってシーズンを終えないと、ジダン監督やリバプールのクロップ監督の2倍以上、世界一高額となるシメオネ監督の年棒360万ユーロ(約4億3000万円)も払えなくなっちゃいますよ。

そしてマドリーは日曜午後4時(日本時間翌午前0時)から、エル・サダルでオサスナ戦となるんですが、幸い木曜お休みした3人は翌日には元気にバルデベバス(バラハス空港の近く)でのセッションに参加。もう1週間以上、チーム練習に加わっているアザールもそろそろ戻って来そうですが、何せこちらは健康な選手が多いため、ジダン監督も誰を招集するか選ぶのが悩みの種のよう。コパもなくなった今、あとは26日にCLマンチェスター・シティ戦1stレグを迎えるまで、リーガしかありませんしね。とりあえず、同様の条件になったライバル、バルサに勝ち点3を詰められないよう、しっかり勝ってほしいといったところでしょうか。

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