決勝は撃ち合いになるかも…/原ゆみこのマドリッド

2020.01.11 12:00 Sat
Getty Images
「スーパーカップダービーなんて久しぶりよね」そんな風に私がワクワクしていたのは金曜日、スペイン・スーパーカップの決勝がクラシコ(伝統の一戦)ではなく、マドリーダービーに決まった翌日のことでした。いやあ、水曜の準決勝第1戦には空席があったものの、第2戦で(サウジアラビアの)ジェッダのキング・アブドゥラー・スポーツ・シティ・スタジアムを満員した地元ファンの大多数はメッシの応援一択。世間も昨年12月、消化不良のスコアレスドローで終わったバルサvsレアル・マドリー戦のリベンジを期待していたことは知っているんですけどね。
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それがいきなり、昨季に関してCLは言わずもがな、リーガでもコパ・デル・レイでも優勝していないマドリッド勢のどちらかにタイトルが転がり込むことになったとなれば、収入を増やすためにサッカー協会が改変したファイナルフォー形式の新生スペイン・スーパーカップを私が天からの贈り物のように感じてしまったのは無理もない? だってえ、アトレティコがお隣さんとスーパーカップで最後に戦ったのは2018年8月、エストニアのタリンで開催されたUEFAのCLチャンピオンvs ELチャンピオンの試合だったんですが、その時はシメオネ監督のチームが当時、ロペテギ監督(現セビージャ)指揮下のマドリーに延長戦で2-4と勝利しているんですよお。おまけに2014年の2試合形式だったスペイン・スーパーカップでもアトレティコはマドリーを制して優勝と、スーパーのつく大会で異様な強さを発揮できているとなれば、いえ、まさかその第2戦で退場させられ、計8試合のベンチ入り禁止処分を喰らったシメオネ監督が新しいフォーマットになったせいか、サウジアラビアではパルコ(貴賓席)観戦しないで済むようになるとは思いませんでしたけどね。おかげで2月1日のリーガ戦に先立って、やはり昨年9月にスコアレスドローで終わったシーズン前半マドリーダービーの決着をこの日曜につけられるとなれば…。
いえ、物事は順番にお話ししていかないといけません。一足早く、水曜に昨季のコパ王者バレンシアと対戦したマドリーは現地に移動する直前、ベンゼマが左足を負傷、ベイルも気管支を患い、更にアザールはまだリハビリ中とあって、前線の常連3人が不在。ジダン監督はとりあえず、CFに代理でヨビッチを立てたものの、ロドリゴとビニシウスをベンチに残し、イスコ、モドリッチ、クロース、バルベルデ、カセミロのMF5人制でスタートすることに。でも、いくらこのチームのMFが得点力に恵まれているとはいえ、前半15分、クロースのCKがgol olimpico/ゴル・オリンピコ(五輪級ゴール、CKから直接入るゴールのこと)になってしまうなんてあっていい?

うーん、リーガ前節、ヘタフェとの兄弟分ダービーでもFKからバランにアシストしたセットプレーの達人によると、「コーナーまで走ってバレンシアのGKを見たら、ゴールから5メートルも離れたところでDFたちと話していたんだ。自分がボールを置いた時もまだ喋っていたから、素早い決断をしなきゃならなかった」そうなんですけどね。完璧な軌道を描いて落ちて来るボールに慌ててGKドメネクが戻ってパンチングしたものの、時すでに遅し。
実際、エースのロドリゴがエイバル戦のケガで帯同していないだけでなく、マキシ・ゴメスもベンチに置き、ガメイロのワントップで挑んだバレンシアはリードされた後もまったく精彩がなく、39分には再び失点する破目に。今度はエリア内右奥からバルベルデが折り返したパスをモドリッチがシュート、これはガライに当たってしまったものの、イスコが撃ち直して2点目をゲットします。夏のユーロでスペイン代表に呼んでもらいたい当人はルイス・エンリケ監督が現地観戦に訪れていることもあってか、その2分後にもヘッドで狙っていく程の張り切りようだったんですが、ゴールポストに阻まれてdoblete(ドブレテ/1試合2得点のこと)はならず。それでも復調アピールにはまずまず成功していたかと。

そして0-2で始まった後半も終始、主導権を握っていたのはマドリーで20分にはヨビッチのパスを受け、モドリッチが敵DF2人の間から、技ありのシュートを決めて3点目をゲット。いやあ、後でセラーデス監督も「ウチは自分たちのレベルに達していなかった。Nos ha costado defender ese talento del Real Madrid/ノス・ア・コスタードー・デフェンデール・エセ・タレントー・デル・レアル・マドリッド(レアル・マドリーの、あのタレントを阻むのが難しかった)」と嘆いていましたけどね。こうなるともうジダン監督も余裕でメンディをマルセロに、モドリッチをハメス・ロドリゲスにと、負傷上がりの選手たちに足慣らしの機会を進呈。今季1度もプレーしていないマリアーノまで出していましたが、最後はセルヒオ・ラモスのハンドで与えたPKでパレホに1点を返されただけで、1-3とマドリーの完勝です。

一方、翌木曜にこれまでシメオネ監督が20回対戦しながら、たった2勝しかしていない天敵バルサと当たったアトレティコはというと。うーん、立ち上がりは積極的に攻めようとしていた彼らだったんですが、前半12分、ゴール前のプレーでコレアがGKネトに潰されてしまい、「tuve un golpe muy fuerte en la rodilla/トゥベ・ウン・ゴルペ・ムイ・フエルテ・エン・ラ・ロディージャ(ヒザにとても強い打撲を受けた)」のを機に失速。そこから相手の独壇場となり、守備に特化してしまったため、とりわけこの日はヒメネスが筋肉痛で欠場、10月6日以来の復帰となったサビッチがフェリペとCBコンビを務めていたのもあって、GKオブラクがメッシ、グリーズマン、ルイス・スアレスのシュートをparadon(パラドン/スーパーセーブ)で防いでいるのを私も絶望的な気分で眺めていたんですが、おかげで前半は0-0のままで凌ぎ切ります。

希望の星であるはずのジョアン・フェリックスもハーフタイムでロッカールームに引き上げる際、ジョルディ・アルバに難癖をつけられ、負けずに言い返しているぐらいしか、目立つ場面がなく、いえ、その場は割って入ったサビッチとルイス・スアレスがイエローカードをもらって収まったんですけどね。これではまた、12月の対戦のように最後はメッシに決められて負けるのかと、私もあまり楽観的ではなかったんですが、いやまさか、後半頭から、エレーラに代わって入ったコケが先制点を挙げてくれたから、ビックリしたの何のって!

まさにそれはキックオフからのプレーで、ジョアンが繋いだボールをコレアがエリア内にラストパス。ハムストリングのケガから2試合ぶりに戻ったキャプテンがシュートを決め、ようやく12月に生まれた長男のレオ君にゴールを捧げられることに。

もちろん、これだけで逃げ切れる程、バルサは甘い相手ではなく、早くも6分にはコケもサビッチもメッシを止められず、あっという間に同点弾を決められてしまったんですが、幸い14分の2点目にはVAR(ビデオ審判)が発動。トラップの時にメッシが腕を使ったのが見つかり、ノーゴールとなりましたが、それで安心してしまったんでしょうかねえ。その3分後にはジョルディ・アルバのクロスをルイス・スアレスがヘッド。何とかオブラクが弾いたものの、そのボールをグリーズマンに頭で撃ち込まれてはどうしようもありませんって。

え、2-1と逆転されてしまってはもう、今季はとりわけゴール日照りが酷いアトレティコに成す術はなかったんじゃないかって? まあ、通常はそうなんですが、スーパーカップは特別なんでしょうかね。ロディをビトロに代え、サウールを左SBに回すという、最終攻撃態勢に早々と入った後、27分にはコケがケガを再発してダウン。CBエルモーソが入るところだったのを急遽、マルコス・ジョレンテに変更というアクシデントに見舞われたりもしたんですが、29分にメッシのFKから、ピケが入れたゴールは繋ぎのアルトゥロ・ビダルがオフサイドだったとVARが判定、失点が増えなかったことが選手たちに勇気を与えてくれたんですよ。

ええ、シメオネ監督も「ahí apareció el corazón, la garra, el creer, el buscar/アイー・アパレシオ・エル・コラソン、ラ・ガラ、エル・クレエル、エル・ブスカル(そこでハート、かぎ爪、信じること、探し求める気持ちが生まれた)。困難かつ不可能に見える状況でもし、追いつけたら勝てるという感覚が現れた」と言っていたんですが、34分、エリア内にドリブルで切り込んだビトロをGKネトが倒し、PKをゲットできるとは! キッカーを志願したジョアンを年上の貫禄で制し、これをモラタがしっかり決めてくれたため、同点に持ち込んだ彼らは続けて、ピケのエリア内でのハンドはVARで認められず、2本目のPKをもらえなかったことにも落ち込むことはなし。

いよいよ時間は41分、いえ、シメオネ監督は「Nosotros sabíamos que a partido largo teníamos opciones porque teníamos fuerza/ノソトロス・サビアモス・ケ・ア・パルティードー・ラルゴ・テニアモス・マス・オプシオネス・ポルケ・テニアモス・フエルサ(長い試合になれば、勝つオプションが増えるのを知っていた。ウチには体力があったからね)」と延長戦入りも辞さなかったようですけどね。モラタのパスで抜け出したコレアがようやく、ヒザの痛みも引いたのか、シュートを放つと、ボールがネトの手を弾いてゴール内へ。セルジ・ロベルトが掻き出したのも空しく、ゴールラインテクノロジーのおかげで完璧に中に入っているのが証明されたとなれば、え、アトレティコってこんなに強いチームだった?

いやあ、河岸を変えた後、バルサでの初タイトルを夢見ていたグリーズマンなども「Ellos estaban mejor de piernas en el final del partido/エジョス・エスタバン・メホール・デ・ピエルナス・エン・エル・フィナル・デル・パルティードー(試合の終盤、向こうの方が足が動いていた)」とアトレティコの体力が勝っていたことを認めていたんですが、結局、彼らはそのまま2-3で勝利。いやもう、前半の劣勢ぶりからしたら、試合後のシメオネ監督が選手全員を歓喜して迎えていたのも当然だったかと(https://bit.ly/2t3YNQR)。

まあ、この逆転劇にはバレンシアの正GKのシレッセンがケガ、ドメニクがプレーしたおかげで得をしたお隣さん同様、年末の練習再開のセッションでテア・シュテーゲンが右ヒザを痛め、シレッセンと入れ替わりで、バルサに来たネトがゴールにいたせいもあったかと思いますが、運も実力のうちですからね。元々、中日が1日、マドリーより少ないのに加え、延長戦で消耗することがなかったのも良かったんですが、日曜午後7時(日本時間翌午前3時)からの決勝にコケが出られないのはちょっと痛いかと。

相手も回復次第、マドリッドを発つ予定だったベイルが間に合わず、主力アタッカーが欠けているのは変わりませんが、ジダン監督も「En el próximo partido haremos otras cosas/エン・エル・プロキシモ・パルティードー・アレモス・オトラス・コーサス(次の試合では違うことをやるだろう)」と言っていたように、準決勝で温存できたロドリゴやビニシウスを使ってくる可能性もありますしね。決勝ではクルトワ、オブラクの新旧アトレティコのサモラ(リーガで一番失点率が低いGK)対決も楽しみですし、リーガとは絶対、趣が違うダービーは果たしてどんな結末になるんでしょうか。

そして最後にちょっと、この週末のマドリッドの弟分たちにも触れておくと、レガネスはレアル・ムルシア(2部B)と、ヘタフェはバラドーナ(同)とコパ・デル・レイ2回戦。どちらも土曜に一発勝負のアウェイゲームに挑むことに。いやあ、未だにリーガ19位の降格圏にいる前者はあまりコパで疲れてもらいたくないんですが、ブスティンサ、レシオ、マルク・ナバロらがケガから回復したのは朗報です。

ヘタフェの方は木曜にナイジェリア人のボランチ、エテボがストークシティからのレンタルで加入し、長期に渡る再三の負傷でこの冬、引退を決意したマルク・ベルガラの穴を埋めているため、早々にデビューもありそうな気配。戦力補強では狙っていたバルサのアレニャがベティスに行ってしまったため、今はマドリーとブライムのレンタルについて交渉しているなんて話もありましたが、リーガ再開となる来週金曜の弟分ダービーまでは時間がありますからね。コパの試合はレギュラー陣が休養、これまで出番の少なかった選手たちが勝ち抜ければコパ三昧、その後、ミッドウィークの休みなしで2月末から突入するEL決勝トーナメントというハードスケジュールに向けて、ボルダラス監督にアピールするいい機会となりそうです。

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