ゴールが眩しい…/原ゆみこのマドリッド

2019.12.10 17:00 Tue
「でも冬に選手獲るには使えないお金だからなあ」。そんな風に私が溜息をついていたのは月曜日、CL最終節に向けて何とかモチベーションを上げようとしていた矢先、AS(スポーツ紙)でアトレティコにシメオネ監督が赴任して以来、UEFAから獲得した報奨金リストを見つけた時のことでした。いやあ、グループリーグで伏兵カラバフに2引き分けをかまされ、3位敗退で回ったELで優勝した2017-18シーズンは4780万ユーロ(約57億円)だったんですが、CLの16強対決で姿を消しながら、昨季は6903万ユーロ(約83億円)とその差は歴然。つまり3月でヨーロッパの大会が終わろうと、CLに残っていた方が断然、実入りがいいんですが、ELに優勝すれば、来季のCL出場権をもらえますからね。

おまけに根深いゴール日照りに悩む彼らが、「reconocido en Europa, goleador acreditado, con jerarquía y capacidad para rendir de manera inmediata/レコノシードー・エン・エウロッパ、ゴレアドール・アクレディタードー、コン・ヘラルキア・イ・カパシダッド・パラ・レンディル・デ・マネラ・インメデアタ(ヨーロッパで名が知られ、実績のあるストライカーで、格があって、直ちに成果を挙げられる)」FW(byマルカ)を冬の移籍市場で連れて来られるかどうかは如何にして、現有戦力で上限スレスレになっているサラリーキャップを越えないようにするかに懸かっていますからね。将来的に今季のクラブの収入が増えても当座の役には立たないんですが、一体、どうしてここまでアトレティコが切羽詰まってしまったのかというと…。
先週末のリーガ戦が性懲りもなくまた、スコアレスドローだったんですよ。ええ、金曜にラ・セラミカでのビジャレアル戦に挑んだところ、いえ、この日はとりわけジョアン・フェリックスなど、9回もシュートを撃つ張り切りようだったんですけどね。それが、信じられないことにゴールポストに当たるわ、GKアセンホにセーブされるわと1つも成功しなかったばかりでなく、他の選手が放ったシュートも入れて、計18本で1点も取れず。実際、グラナダ戦から始まって、CLユベントス戦、バルサ戦と続く白星なしの4試合中、計67回撃ってゴールは1個だけって、もう本当に呪われていない?

それでもトリゲロスの危険なシュートをGKオブラクが弾いてくれたおかげもあって、0-0で勝ち点1をマドリッドに持ち帰ることができたんですが、シメオネ監督によると、こうもゴールが決まらないのは結果が出ないことから起きる焦りが原因。「Tener más tranquilidad, que la ansiedad no te gane, aparecerá la precisión/テネール・マス・トランキリダッド、ケ・ラ・アンシエダッド・ノー・テ・カネ、アパレセラ・ラ・プレシシオン(もっと落ち着いて、焦燥感に負けないようにすれば、正確なプレーができるようになるだろう)」と言っていましたが、でもねえ。

バルサ戦ではゴール前でのチャンスを2度も失敗したエルモーソなども、「チャンスが沢山あるのに点が取れない時は焦りが生まれて、何でも早く終わらせたくなるけど、quizás deben ser más pausadas, no precipitarse tanto/キサス・デベン・セル・マス・パウサーダス、ノー・プレシピタールセ・タント(もっとゆとりをもって、そんなに急いちゃいけない)」と反省していましたが、いや、飛んでくるボールに足を出すのが遅れては全然、対応が間に合わないのでは?
まあ、キャプテンのコケによると、全ては「de cara al gol nos está faltando tener suerte/デ・カラ・アル・ゴル・ノス・エスタ・ファルタンドー・テネール・スエルテ(ゴールに対してボクらはツキが欠けている)」せいなので、もうこうなると大殺界の時期が通り過ぎるのをじっと待つか、お祓いにでも行くしかないんですけどね。土曜にはビトロが1カ月前に治った左太ももを再び負傷、日曜にはグランダ戦でデビューをしたカテンラーノのFWダリオ・ポベダがアトレティコBのヘタフェB戦で先制ゴールを挙げながら、右ヒザの靭帯断裂で長期離脱と日を追うごとに攻撃力が乏しくなっていくアトレティコにとって、慰めになるのは水曜午後9時(日本時間翌午前5時)から、ワンダ・メトロポリターノに迎えるロコモティブ・モスクワはCLグループ最下位敗退が決定していること。

更にアトレティコが勝たないといけないのは、2位突破の座を争っているレバークーゼンがユベントスに勝利した場合だけのため、ヒメネスだけは戻れるようすですし、少しでも運が向いてくれれば、スコアレスドローでも何とかなるかもしれないんですが、さて。ただ何と言うか、こうも不毛な日々が続くと、とにかくゴールが入るだけで、他のチームが羨ましく思えてしまうというのはきっと、私だけではなかったかと。

というのも翌日、土曜のお昼にサンティアゴ・ベルナベウであったエスパニョール戦でアザール、ベイル、マルセロをケガで欠きながら、お隣さんは余裕で勝ってしまったんですよ。いえ、先週からマドリッドで開かれている国連気候変動会議に賛同して、ホームチームでありながら、緑の第3ユニを着て、前線に入ったブラジル人ティーンエイジャーコンビ、ロドリゴとビニシウスは得点しなかったんですけどね。前半37分にはベンゼマのラストパスをバランが決めて先制すると、後半34分にもバルベルデの折り返しを今度はベンゼマが自身でフィニッシュ。終盤にメンディが2枚目のイエローカードをもらって退場しながら、2-0でリーガ4連勝を飾ったとなれば、久々に青空の広がる中、スタンド観戦を楽しんだファンも満足できたかと。

まあ、相手がマチン監督に代わってからもリーガでは不調が続いているエスパニョールというのもありましたしね。これで同胞のフランス人エースはリーガトップの12得点目となれば、かなり復調した感じだったビニシウスが相変わらず、決定力に欠けていても、「Yo no pido goles a nadie, eso es consecuencia de lo que hace el equipo/ジョ・ノー・ピド・ゴーレス・ア・ナディエ、エソ・エス・コンセクエンシア・デ・ロ・ケ・アセ・エル・エキポ(自分は誰にもゴールを入れることは頼まない。チームがやることの結果だからね)」とジダン監督が余裕でいられるのも当然でしょう。

ただその日、せっかく勝ち点差3をつけて単独トップに立ったレアル・マドリーでしたが、喜んでいられたのは数時間だけで、夜にはカンプ・ノウでバルサがメッシのハットトリックなどで大勝。久保建英選手が先発したマジョルカもブドミルが2得点と頑張ったんですが、5-2で負けてしまったため、ベンゼマが得点王レースでメッシに1点差をつけられてしまったばかりか、チームも同じ勝ち点で得失点差による2位に戻ってしまったんですが、その辺は18日のクラシコ(伝統の一戦)で決着をつければいいことですからね。

それより肝心なのは日曜のバレンシア戦で差をつけられないことで、何せ同日、相手はレバンテとのダービーに2-4と逆転勝ち。最近は調子を上げてきているんですが、このミッドウィークのCL最終節、火曜試合の向こうはグループ突破を懸けて、アヤックスとの大勝負に挑まないといけないのに比べ、すでにマドリーの2位通過が決定しているのは有利かと。おかげで水曜午後9時からのクラブ・ブルージュ戦にセルヒオ・ラモス、クロースは遠征参加免除され、お休みが取れますしね。予想外の早さで打撲から回復したベイルが招集リスト入りした上、メンディが出場停止、マルセロはまだリハビリ中で左SBがいなくなる週末に備え、1カ月以上離脱していたナチョもこの消化試合で足慣らしをできるとなれば、願ったり叶ったりの展開じゃありませんか。

え、それより翌日曜、弟分のヘタフェがとうとうCL出場圏の4位に躍進していなかったかって?いやあ、その栄光は前日の兄貴分のようにほんの数時間のことだったんですけどね。正午からイプルアでエイバル戦だったヘタフェは後半、マタの得点はVAR(ビデオ審判)でオフサイドとなり認められなかったものの、21分にはアンヘルがゴール右脇の角度のないところからシュートを決めて1点をゲット。このリードをしっかり守り、0-1で手堅く勝利をもぎ取っているとなれば、5試合連続でリーガのアウェイ戦を引き分け続けている、もう1つの兄貴分が追い越されてしまったとて、一体、何が言えましょう。

そう、16節終了時にはヘタフェはレアル・ソシエダと同じ勝ち点で5位となり、アトレティコはヨーロッパの大会出場圏外の7位となっていたんですが、それもこの木曜午後6時55分(日本時間翌午前2時55分)、コリセウム・アルフォンソ・ペレスにクラスノダールを迎え、グループ突破をガチンコで争うボルダラス監督のチームにとって、大きな自信になったはず。一応、この対戦に引き分ければ、直接対決で勝っているため、ヘタフェが上になるんですけどね。ここまで来たら、万が一、バーゼルがトラブゾンスポルに勝てなかった場合、ゲットできる首位の座を目指して、勝利を狙ってみるのもいいんじゃないでしょうか。

そして同じ日曜日、何より喜ばしかったのは私が再び雨の降りだした夕方、足を運んだブタルケでとうとうレガネスがアギーレ監督に交代後、初勝利を挙げたことで、何せ、ここまでレアル・ソシエダ、バルサ、セビージャと上位チームとの対戦ばかりが続いていましたからね。それがこの日は同じ降格圏にいるセルタを迎えたせいか、選手たちもまったく臆することなくプレー。それどころか、前半15分に直接FKで先制点を決めた弱冠、21才のオスカルが39分にもエリア外からの弾丸シュートでdoblete(ドブレテ/1試合2得点のこと)を達成って、まったく驚かせてくれるじゃないですか。

ええ、後でアギーレ監督も「Tiene un talento inmenso/ティエネ・ウン・タレントー・インメンソ(測り知れない才能を持っている)。着任した時、彼はマドリーからレンタルで来ていると知ったが、マドリーは間違えないからね」と彼を手放しで褒めていましたけどね。ただこの試合、何より大きかったのは後半10分に左SBのケビン・ロドリゲスもセットプレーからクリアされたボールをエリア外からネットに突き刺し、3点目を取ってくれたこと。

というのもその後、セルタの反撃にあったレガネスは19分にCKからアラウホのヘッドを許すと、やはりずっと勝てていない反動でしょうか。うーん、アギーレ監督は最初の3試合、5失点全てがセットプレーからだったのを反省。「Lo entrenamos todos los días/ロ・エントレナモス・トードス・ロス・ディアス(毎日、練習していた)」そうなんですが、こうも簡単に守備を破られては、「ゾーンから、マンマークに変えて、ウチは選手の身長も高いし、プロだし、何が起こっているのやら」と困惑するのも当然で、それは選手たちも同じだったか、いきなりチームががたついてしまったんですよ。26分には途中出場のガブリエル・フェルナンデスが2枚目のイエローカードをもらい、相手が1人少なくなったにも関わらず、その10分後にはイアゴ・アスパスにDF陣が突破され、1点差に迫られてしまったから、さあ大変。

それでも何とか3-2まま逃げ切って、1部残留を「Si, se puede, si, se puede/シー、セ・プエデ(イエス、ウィ・キャン)」とチャントで励ますファンたちに応えることができたため、同じ勝ち点ながら、長らく定位置となっていた最下位をエスパニョールに譲ることに成功です。いやあ、月曜には2011年5月、サラゴサが1部残留できるよう、レバンテの選手に負けるよう、お金を払ったという八百長事件の裁判が結審。ガビ(現アル・サッド)やアンデル・エレラ(現PSG)らと一緒にその42人の被告の1人に入っていた当時、サラゴサを率いていたアギーレ監督も無罪とされたため、これで心おきなくチームの指導に専念できますしね。

ちなみにレガネスの年内残り試合はこの金曜にアラベス戦、次はエスパニョール戦と、ちょっと最下位を巡ってのババ抜きに近い様相を呈しているんですが、残留ゾーンにいる17位マジョルカとの勝ち点差もこれで5に縮小。勝利した後、ブタルケのミックスゾーンでは、「まだまだ試合数は沢山あるし、そのぐらいの差なら残留は可能」と話していたのはオスカルでしたが、どこのチームでもゴールを決めてくれる選手はカッコ良く見えるもんですよね。
【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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