補強は適切に行わないと…/原ゆみこのマドリッド

2019.07.30 13:00 Tue
「やっぱりそれが一番、手っ取り早い方法よね」そんな風に私が頷いていたのは月曜日、マルカ・レジェンダ(スポーツ紙の選定する賞)を受け取りにクリスチアーノ・ロナウド(ユベントス)が来るというので表彰式を覗きに行ったところ、何故かレアル・マドリーのペレス会長が登壇して祝福。その時、客席から「Fíchalo otra vez!/フィチャロ・オトラ・ベス(もう1度、彼を獲って!)」という野次が飛ぶのを聞いた時のことでした。いやあ、すでにこの夏の補強には3億ユーロ(約370億円)余りかけているマドリーなんですけどね。ジダン監督の望み通り、更にポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)が加わったとて、とてもロナウドの移籍と共に失われた年間50得点を補えるとは思えなかったから。

実際、そこまで彼らが切羽詰まってしまったのは先週土曜、アメリカの地で初めて行われたマドリーダービーのせいもあって、いえ、前日など、マドリーの選手たちはアディダスショップでグラフィッティにトライしていたり、アトレティコの方は皆でワン・ワールド天文台に昇って、マンハッタンの眺望をバックにインスタに写真をアップ(https://bit.ly/32Yl3J5)していたりと、どちらのチームもリラックスムードであったのは確かなんですけどね。キックオフ早々、速攻をかけたのは昨年の夏の対決、タリンでのUEFAスーパーカップ・ダービーで味をしめたアトレティコ。ええ、その時も開始から1分も経たないうちにゴールを挙げたジエゴ・コスタがこの日はジョアン・フェリックス(ベンフィカから移籍)の出したスルーボールをエリア内から撃ったところ、セルヒオ・ラモスの足に当たってコースが変わり、GKクルトワを破ってしまったから、ビックリしたの何のって。

でもそんなのは序の口でした。次は8分、サウールがエリア内右奥からゴール前に送ったボールをジョアンがマルセロに先んじて蹴り込んで2点目が入ります。これはまた、プレシーズン最初のヌマンシア戦前半27分に腰を打撲して交代、火曜のチバス・グアルダラハラ戦でシメオネ監督が温存した甲斐があったと思わせてくれましたが、その5分後にはモラタが足に痛みを覚え、またしても5000万ユーロ(約61億円)でミランへの移籍が近づいていると言われているコレアを投入って、もしやこれって、すでにこの夏の選手売却金が3億ユーロの大台を突破。彼を売らなくてもハメス・ロドリゲス(2年間、バイエルンにレンタル移籍した後、マドリーに帰還)の移籍金を払えるぐらいの余裕はあるってこと?
まあ、それも19分、コケの上げたボールを太ももでトラップ、そこからコレアがvolea(ボレア/ボレーシュート)で見事な3点目を決めるのを見たりすると、イロイロ欠点はあるものの、別に残留しても悪くはないんじゃないかなと思ったりもしたんですが、また28分には恐ろしいマドリーの気の緩みを目撃することに。ええ、セルヒオ・ラモスがエリア内からクリアしたボールがそんなに遠くない場所にいたサウールの前に落ち、そのスルーパスからコスタが自身2点目をゲットって、あまりにイージーにゴールが入りすぎじゃないですか。

その後すぐには、初めてアトレティコのエリア内に入ったビニシウスのクロスを追ったヨビッチ(フランクフルトから移籍)がGKオブラクの下敷きになってしまい、足首を痛めてベンゼマと交代するという不運もあったマドリーですが、ハーフタイム入り直前にはジョアンのシュートをGKグルトワが弾いたまでは良かったものの、続きのプレーでイスコがコスタを倒してPKを献上。それもコスタが決めたため、彼は前半だけでハットトリック達成、大体、0-5のgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)でアトレティコが勝っているなんて、折しも時間は午前3時、もしかして私は夢を見ている?
いやあ、そうではなくて、これはラモスによると、「Nosotros nos lo hemos tomado como un amistoso y ellos como si fuera una final/ノソトロス・ノス・ロ・エモス・トマードー・コモ・ウン・アミストーソ・イ・エジョス・コモ・シー・フエラ・ウナ・フィナル(ボクらは親善試合、彼らは決勝のように受け止めた)」結果だったようですけどね。ハーフタイムにロッカールームで「一番いい結論は前半を忘れること」(ラモス)と反省を怠った彼らは早くも後半6分に再び、プレシーズン3試合目にして初めて、シメオネ監督がハーフで11人総取り換えをしなかったおかげもあって、ジョアンとコスタの餌食になったんですよ。ええ、またしても19歳のFWからパスをもらったコスタが今度はvaselina(バセリーナ/ループシュート)でGKケイロル・ナバスの頭を越してゴール。

これでコスタは1試合4得点目ともなると、ケチ臭い私など、「リーガのダービーにとっておけばいいのに」なんて思ったりもしたものの、それでも14分にはマドリーも一矢を報いることに成功します。唯一、この夏の新戦力でここまで3試合、先発をリピートしていたアザール(チェルシーから移籍)がジョアンとコレアのマークをかわし、ゴール前に出したボールがベンゼマに当たると、更にはナチョに当たってゴールになったんですが、これにはちょっと勇気が沸いたか、ジダン監督は一気に5人の選手を交代することに。

いやあ、その中にこの日の試合前、いよいよ年棒2500万ユーロ(約31億円)で江蘇蘇寧へ移籍する話がまとまったと報じられていたベイルが混じっていたのは驚きましたが、同時に久保建英選手(FC東京から移籍)、ロドリゴ(同サントス)も入ったため、これなら大差でも楽しめるかと眠気を振り払ったところ…もう、何とかしてくださいよ。19分、カルバハルがレマルを乱暴なファールで倒したことにカッとなったコスタが相手を突き飛ばし、両チーム入り乱れてのtangana(タンガナ/小競り合い)が始まるって、これ、親善試合ですよお。付き合いの長いコケとサウールが必死で止めていましたが、そんなんでコスタが収まるはずがありませんって。

ええ、昨季後半のバルサ戦でも退場して8試合の出場停止処分、それで今季の開幕戦も出られない前科持ちだというのに頭に血が昇りやすいのは相変わらず。せめての慰めはこの日はカルバハルも一緒にレッドカードで退場、前の試合で一発退場していたナチョもマルコス・ジョレンテもお咎めがなかったため、アトレティコの次のインターナショナル・チャンピオンズ・カップ(夏の親善大会)の試合、8月10日のユベントス戦には影響がないんじゃないかということですが、これを機にシメオネ監督もGKオブラク以外、全員を入れ替えてチームをリフレッシュします。

すると25分、このプレシーズン、残留アピールに余念のないビトロが自陣からドリブルを開始。カンテラーノ(RMカスティージャの選手)複数が守るマドリーの守備を突破して、7点目を挙げているのにはもう、これではお隣さんがあまりに気の毒だから、手加減してあげてもいいのになんて、上から目線で思ってしまった私でしたが、大丈夫。カンテラーノ(アトレティコBの選手)のカメージョが2度程シュートに失敗した後の40分にはエクトル・エレラ(ポルトから移籍)がナチョをエリア内で倒し、ベンゼマがPKゴール、44分にもマドリーはハビ・エルナンデスが3点目を挙げて、最後は3-7と少しは見られるスコアとなってダービーは終了です。

え、試合後、「Nos ha faltado todo. Sobre todo intensidad/ノス・ア・ファルタードー・トードー。ソブレ・トードー・インテンシダッド(ウチには全てが欠けていた。とりわけ激しさがね)」と反省していたジダン監督はこの恐ろしい大敗にも関わらず、「Nuestra temporada va a ser buena. Estoy convencido/ヌエストラ・テンポラーダ・バ・ア・セル・ブエナ。エストイ・コンベンシードー(今季はいいシーズンになるだろう。私はそれを確信しているよ)」と前向きだったとはいえ、アメリカでの3試合はバイエルンに3-1で負け、アーセナルとは2-2で引き分けと1分け2敗。正直、このマドリー、昨季終盤の悲惨な状態からまったく進歩していないんじゃないかって?

まあ、そうなんですが、何せ、この夏、何人も補強した彼らですが、即レギュラーというのはアザールしかおらず、マルセロからポジションを奪うことを期待されていたメンディなど、先週の練習中に太ももケガして全治1カ月。いいスタートを切ったアセンシオも左ヒザの靭帯断裂で今季の大半を失うことになり、ほとんど先発の顔ぶれが変わっていませんからね。ベンゼマ頼りの前線も、この日はまだカセミロが合流していなかったとて、ミスの目立つ守備陣も一緒となれば、ポグバどころか、もっともっと補強しないといけない?

そんな不安を抱えたマドリーは翌日にはスペインの首都に帰京したんですが、チームの到着を待たずにセバージョス(アーセナル)、バジェホ(ウルバーハンプトン)、マジョラル(レバンテ)ら、U21ユーロ優勝スペイン代表トリオのレンタル移籍が決定。練習を再開した月曜、バルデベバス(バラハス空港の近く)でチーム本隊を迎えたのはバルベルデ、そしてこの日から練習を始めたコパ・アメリカ優勝ブラジル代表組のカセミロとミリタオ(ポルトから移籍)、移籍先がまだ決まっていないハメス・ロドリゲスだけとなりましたが、ジダン監督にとって、辛いのは態勢を立て直す暇もなく、もうこの火曜午後6時(日本時間翌午前1時)から、アウディ・カップ(バイエルンが主催する夏の親善大会)の準決勝、トッテナム戦に挑まないといけないこと。おまけに勝っても負けても翌日にはバイエルンorフェネルバフチェと決勝or3位決定戦をやらないといけませんからね。

それまでに何とか、選手たちもこのダービーでの失敗を反省して、改善に努めてもらいたいものですが、月曜夕方にミュンヘンに向かった招集メンバーにはその日の午前中の練習で左足首を痛めたクルトワのみならず、ベイルの姿がなし。どうやら江蘇蘇寧への移籍話は決裂してしまったようですが、この2試合でまたしても撃ち負けるような結果になれば、ペレス会長もベイルの残留、それどころか、ロナウドに戻ってもらって、BBC再結成を真剣に考えた方が良さそうな気がしますが、果たしてどうなるんでしょうかね。

一方、まだまだアメリカ大陸でのツアーが続くのはアトレティコで、ええ、ダービー後、「Preparamos bien el partido/プレパラモス・ビエン・エル・パルティードー(ウチは上手く試合の準備ができた)」と満足感を見せていたシメオネ監督はこの日、正確なパスから何度もチャンスが作れたことにことさら、感激していたよう。それには私もまったく同意で、この調子が公式試合でも続いてくれれば、毎年、「3度もパスが繋がらない」現象に忍耐の限界を試されているワンダ・メトロポリターノのファンもストレスがたまらなくていいかと。

実際、ジョアンが1億2600万ユーロ(約154億円)の超高額移籍金に値する選手というのもこの試合でかなり実感できましたし、ジョレンテとエレラにはもうちょっと慎重さがほしいものの、エルモーソやフェリペ、ロディらは十分、合格点を出しているとなれば、この夏はかなりの上物選手を獲得できた?あとはハメス・ロドリゲスが来てくれば、言うことないんでしょうが、この大敗の余波でお隣さんがこれ以上、アトレティコの戦力補強に協力してなるものかと意固地になってしまう懸念もなきにしろあらず。

どちらにしろ、日曜にはすでにオーランド入り、フロリダ大学のグラウンドで練習を行った彼らがこの木曜、午前3時(日本時間午前10時)からMLSオールスターズと対戦する試合や日曜のメキシコの弟分、アトレティコ・サン・ルイスと手合わせをする試合は今のメンバーのままで乗り切るばかりですが、幸いセッションに出てこなかったものの、モラタも軽傷だったそうですしね。とにかく今はUEFAスーパーカップ優勝で始まりながら、あとは尻つぼみだった昨季を反省して慢心せず、しっかり開幕に向けた準備を進めてほしいものです。

そして土曜の夜にはマドイッドの弟分チームたちも親善試合をやったんですが、残念ながら、こちらはTV中継がなかったんですよ。一応、結果だけでもお伝えしておくと、モロッコでの2試合目に挑んだレガネスはイティハッド・タンジェに0-2で快勝。エラソに加え、サビン・メリーノがこのプレシーズンマッチ3得点目を挙げたんですが、いよいよアフリカ・ネイションズカップのモロッコ代表に参加していたエン・ネシリも戻り、完全移籍したブライトバイテも合流したとなると、今後のレガネスはもっともっとゴールが期待できそう。まあ、その辺りはまたシウダッド・デポルティボ・ブタルケでトレーニングする今週、水曜午前9時からの早朝練習試合、2部の弟分アルコルコンとの一戦でチェックすることができるかと。

一方、サラマンカ(スペイン中央部の大学都市)で2部のスポルティング・ヒホンと対戦したヘタフェは1-1の引き分け、それも終了間際にククレジャがエリア外から見事なgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)を決めてくれたおかげでしたが、チームは今週、ムルシアのカンポアモールで第2次キャンプに突入。水曜のアルバセテ(2部)との親善試合もあちらで行うため、また何をやっているのか、情報が得にくくなってしまうのが玉に瑕ですが、こればっかりはねえ。いよいよリーガ開幕まで3週間となり、どのチームもプレシーズン練習が佳境に入りましたが、何はともあれ、マドリーのようにケガ人が続出することだけは避けられるといですよね。

NEWS RANKING
Daily
Weekly
Monthly