ミスはボールをもらう"前"に起きている!?ドイツで導入される新トレーニングメソッド『exerlights』で認知・処理・判断能力を向上
2019.07.10 12:45 Wed
『小幡塾』の後半は『exerlights(エクサライツ)』という最新のトレーニングシステムを活用したより実践的なトレーニングとなった。
まずはこの『exerlights』について詳しく説明していきたい。『exerlights』では、参加する選手たちは「exerlightsシャツ」と呼ばれる専用のビブスを着用する。このビブスはLEDで光る仕組みになっており、ビブスはタブレットやスマートフォン内の専用アプリから信号を送ることで、リアルタイムで色が変化していく。
そして、この「exerlightsシャツ」と同様の仕組みの「exerlightsマーカー」をゴールやコーンに設置する。これにより、ゴールの色も専用アプリからリアルタイムで変更することができる。
つまり、ピッチにいる選手は、味方や攻める方向がリアルタイムで変化していく中でプレーしていく。常に頭をあげ、視野を確保しながらプレーすることが求められ、標準的なサッカーよりも首を振って周りを見ること必要がある。
そうした状況でプレーすることで、必然的にプレー中の認知能力や判断能力を鍛え上げ、より早く、より正しいプレーができるようになる、というものだ。
実際、ボールコントロールにおけるミスの9割は実際にボールをコントロールしたりパスしたりする”前”の段階で起きているといわれており、『exerlights』ではその”前”の段階にあたる認知・処理・判断能力向上を目指している。基本的なトレーニングでは、最後の“実行”段階にあたるパスやドリブルだけの練習しかしていないことも多く、その点が大きな違いだ。
日本国内でこの『exerlights』を体験できる場は非常に限られているが、今回はこれをフル活用してみなで体験していく。説明するのもやや難題なこの『exerlights』をプレーすることはもっと難しい。
通常の試合やトレーニングなら敵と味方の選手は当然固定のため、ある程度ボールに集中しても問題ないが、『exerlights』ではその敵と味方すらもめまぐるしく変わっていくため、常に周りを見ていないといけない。ボールを見ていたらいつの間にか自分の味方が変わっていた、なんてこともよくある。加えてゴールの色、つまり攻める方向まで変化するので、素早い対応力も求められるのだ。
今回の講座では、手始めに女子生徒たち中心のメンバーがビブスのみを着用し、ゴールの色は固定して挑戦。『exerlights』を体験していくが、初めての体験に悪戦苦闘。「味方が変わる」という普段はないシチュエーションを想定できず、自分のビブスの色が変わったことに気づかない生徒が続出した。中には、攻めている途中でビブスの色が変わったことに気づかず、自分のゴールに向かって一直線、という選手もいた。
それでもさすがはサッカー部の生徒たち。ミニゲームを重ねる中で、この『exerlights』に必要なモノを自ずと理解してきているようだった。首振り、視野取りという能力はもちろんだが、何よりも大事になってくるのが味方同士の『声』だ。ここでいう『声』とは「がんばれ」といった声援の類ではなく、『指示』に近いものだ。それも、「こっち」とか「パスがほしい」というものよりも、「右」とか「味方が変わった」という具体的な『指示』が理想的だ。
『exerlights』をプレーする以上、『指示』なしでうまく連携をとることは不可能だ。生徒たちは感覚的にこのことに気づいていったようだが、驚いたのはこれまでの講座で少し大人しそうだった生徒が他のメンバーに向かって『指示』を出していたことだ。その生徒が『指示』を出していた自覚があったかは分からないが、もっとうまくプレーしたい、勝ちたいという気持ちが自然とそうさせたのだろう。ここに『exerlights』の強みを見た気がした。
後半は指導者たちも混ざって、ゴールの色も変える上級者仕様に。技術では女子生徒たちをやや上回る指導者や男子プレイヤーたちだったが、いざピッチに立つと『exerlights』の難しさを実感しているようで、戸惑いの声が多く上がっていた。初対面の人とのプレーでやや遠慮があったのか、ピッチ内での『指示』が減ると、プレイヤーたちは余計に混乱。せっかくゴールの色が変わって、後ろを向けば簡単にゴールができるという状況でも、それに気づかず、相手が前を固めているゴールを必死にこじ開けようとするシーンなどが見受けられた。
それでも、普段以上に頭をフル回転させながらサッカーをする時間を大いに楽しんでいるようで、悩みながらもみな笑顔でプレーしていたのが印象的であった。
終盤、レベルの高い男子プレイヤーたちでも悪戦苦闘する姿を見ていて、こんな選手がいたらより面白くなるのかなと思ったのが、日本代表MFの柴崎岳だ。森保JAPAN不動のボランチである柴崎は、「気の利いた」プレーをする選手だ。攻守のつなぎ役として、周りがやりやすくなるようなポジショニングを取り、ピッチ全体をみられる。自分の中で常に「ビジョン」を持っており、数手先のプレーまで考えられることが柴崎の特長だととらえている。
世界レベルでは、ヴィッセル神戸の元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタも近い存在かもしれない。柴崎やイニエスタのような選手がいるときこそ、この『exerlights』の効果が最大限発揮されるのでは、そんな気がした。
サッカー界において、「もっと周りを見ろ」、「首を振れ」という指導はあるが、その具体的なトレーニングとなるとそう多くはない。少年少女にとっては、シュートやドリブルの練習の方が面白く感じて、ついそちらばかりに時間を使ってしまうことも原因かもしれない。
しかし、この『exerlights』ならば、ゲーム形式で楽しみながら、自然とプレイヤーたちの認知・処理・判断能力を向上させられる。小さいうちから『exerlights』をプレーすることで、周りを見ながらプレーすることが習慣になり、一つ上のレベルのプレイヤーが育っていくのではないか。そんな新たな可能性を感じさせてくれた時間であった。
まずはこの『exerlights』について詳しく説明していきたい。『exerlights』では、参加する選手たちは「exerlightsシャツ」と呼ばれる専用のビブスを着用する。このビブスはLEDで光る仕組みになっており、ビブスはタブレットやスマートフォン内の専用アプリから信号を送ることで、リアルタイムで色が変化していく。
©︎CWS Brains, LTD.
©︎CWS Brains, LTD.
そして、この「exerlightsシャツ」と同様の仕組みの「exerlightsマーカー」をゴールやコーンに設置する。これにより、ゴールの色も専用アプリからリアルタイムで変更することができる。
そうした状況でプレーすることで、必然的にプレー中の認知能力や判断能力を鍛え上げ、より早く、より正しいプレーができるようになる、というものだ。
実際、ボールコントロールにおけるミスの9割は実際にボールをコントロールしたりパスしたりする”前”の段階で起きているといわれており、『exerlights』ではその”前”の段階にあたる認知・処理・判断能力向上を目指している。基本的なトレーニングでは、最後の“実行”段階にあたるパスやドリブルだけの練習しかしていないことも多く、その点が大きな違いだ。
日本代表MF原口元気やFW浅野拓磨が在籍するドイツのハノーファーでもこの『exerlights』がトレーニングに導入されているほか、ドイツを中心に複数クラブが主に育成年代ですでに取り入れているようで、その画期性は徐々に認められてきている。
Getty Images
日本国内でこの『exerlights』を体験できる場は非常に限られているが、今回はこれをフル活用してみなで体験していく。説明するのもやや難題なこの『exerlights』をプレーすることはもっと難しい。
通常の試合やトレーニングなら敵と味方の選手は当然固定のため、ある程度ボールに集中しても問題ないが、『exerlights』ではその敵と味方すらもめまぐるしく変わっていくため、常に周りを見ていないといけない。ボールを見ていたらいつの間にか自分の味方が変わっていた、なんてこともよくある。加えてゴールの色、つまり攻める方向まで変化するので、素早い対応力も求められるのだ。
今回の講座では、手始めに女子生徒たち中心のメンバーがビブスのみを着用し、ゴールの色は固定して挑戦。『exerlights』を体験していくが、初めての体験に悪戦苦闘。「味方が変わる」という普段はないシチュエーションを想定できず、自分のビブスの色が変わったことに気づかない生徒が続出した。中には、攻めている途中でビブスの色が変わったことに気づかず、自分のゴールに向かって一直線、という選手もいた。
©︎CWS Brains, LTD.
それでもさすがはサッカー部の生徒たち。ミニゲームを重ねる中で、この『exerlights』に必要なモノを自ずと理解してきているようだった。首振り、視野取りという能力はもちろんだが、何よりも大事になってくるのが味方同士の『声』だ。ここでいう『声』とは「がんばれ」といった声援の類ではなく、『指示』に近いものだ。それも、「こっち」とか「パスがほしい」というものよりも、「右」とか「味方が変わった」という具体的な『指示』が理想的だ。
『exerlights』をプレーする以上、『指示』なしでうまく連携をとることは不可能だ。生徒たちは感覚的にこのことに気づいていったようだが、驚いたのはこれまでの講座で少し大人しそうだった生徒が他のメンバーに向かって『指示』を出していたことだ。その生徒が『指示』を出していた自覚があったかは分からないが、もっとうまくプレーしたい、勝ちたいという気持ちが自然とそうさせたのだろう。ここに『exerlights』の強みを見た気がした。
後半は指導者たちも混ざって、ゴールの色も変える上級者仕様に。技術では女子生徒たちをやや上回る指導者や男子プレイヤーたちだったが、いざピッチに立つと『exerlights』の難しさを実感しているようで、戸惑いの声が多く上がっていた。初対面の人とのプレーでやや遠慮があったのか、ピッチ内での『指示』が減ると、プレイヤーたちは余計に混乱。せっかくゴールの色が変わって、後ろを向けば簡単にゴールができるという状況でも、それに気づかず、相手が前を固めているゴールを必死にこじ開けようとするシーンなどが見受けられた。
©︎CWS Brains, LTD.
それでも、普段以上に頭をフル回転させながらサッカーをする時間を大いに楽しんでいるようで、悩みながらもみな笑顔でプレーしていたのが印象的であった。
終盤、レベルの高い男子プレイヤーたちでも悪戦苦闘する姿を見ていて、こんな選手がいたらより面白くなるのかなと思ったのが、日本代表MFの柴崎岳だ。森保JAPAN不動のボランチである柴崎は、「気の利いた」プレーをする選手だ。攻守のつなぎ役として、周りがやりやすくなるようなポジショニングを取り、ピッチ全体をみられる。自分の中で常に「ビジョン」を持っており、数手先のプレーまで考えられることが柴崎の特長だととらえている。
世界レベルでは、ヴィッセル神戸の元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタも近い存在かもしれない。柴崎やイニエスタのような選手がいるときこそ、この『exerlights』の効果が最大限発揮されるのでは、そんな気がした。
Getty Images
(c) J.LEAGUE PHOTOS
サッカー界において、「もっと周りを見ろ」、「首を振れ」という指導はあるが、その具体的なトレーニングとなるとそう多くはない。少年少女にとっては、シュートやドリブルの練習の方が面白く感じて、ついそちらばかりに時間を使ってしまうことも原因かもしれない。
しかし、この『exerlights』ならば、ゲーム形式で楽しみながら、自然とプレイヤーたちの認知・処理・判断能力を向上させられる。小さいうちから『exerlights』をプレーすることで、周りを見ながらプレーすることが習慣になり、一つ上のレベルのプレイヤーが育っていくのではないか。そんな新たな可能性を感じさせてくれた時間であった。
©︎CWS Brains, LTD.
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