なでしこジャパン高倉監督の目標は東京五輪でメダル獲得のはず/六川亨の日本サッカー見聞録
2019.06.27 21:30 Thu
コパ・アメリカの日本はグループリーグで敗退し、なでしこジャパンも決勝トーナメント1回戦でオランダに終了間際に与えたPKからの失点で1-2と敗れ、3大会連続の決勝戦進出はならなかった。
そして一部報道では高倉麻子監督の手腕を問う記事も目にした。確かに代表メンバー発表の際は、なでしこリーグ3年連続得点王の田中美南(日テレべーレーザ)を外した理由が今ひとつ明確ではなかったり、永里優季(シカゴ・レッドスターズ)と川澄奈穂子(スカイブルー)ら海外組を外したりしたのもその一因だろう。
高倉ジャパンにとっては若返りもテーマだっただけに、2人のベテランを外したのは理解できないでもない。その代わり、自身が率いてW杯で優勝したU-17やU-20から多くの選手を引き上げて若返りを敢行した。このため高倉監督を始めW杯を初めて経験する選手も多かったし、それなりの経験を積んだことだろう。
このため今回のW杯は、来年の東京五輪への強化の一環であり、得られた教訓は女子サッカー大国アメリカとドイツだけでなく、ヨーロッパ勢の急速なレベルアップだ。なでしこジャパンが簡単に勝てる相手は年を追うごとに少なくなっている。
そして、監督を代えようにも候補者がいないのも女子サッカーのネックになっている。前任者の佐々木則夫監督はW杯優勝1回、準優勝1回に加えロンドン五輪では銀メダルを獲得した名将である。しかし07年からリオ五輪出場を逃した16年まで10年間の長きにわたって監督を務めた。
主力選手が固定されたため若返りを指摘する声もあり、実際に佐々木監督もヤングなでしこの選手を招集して起用したものの、ベテラン選手を脅かすことはできずに世代交代は進まなかった。
技術委員会内部では、15年のカナダW杯後に佐々木監督には勇退してもらい、高倉氏を監督に推す声もあった。しかしリオ五輪まで1年しか準備期間がないこと、監督が代わっても主力選手の顔ぶれは変わらないだろうこと、そしてもう1点、決定的な不安要素があった。
ある関係者は言った。「高倉はなでしこジャパンの切り札です。もしも初舞台となるリオ五輪の出場権を逃すようなことがあれば監督交代となる。高倉には傷をつけたくないんです」というのが監督交代を見送った最大の理由だった。
そしてこの不安は的中した。2月から3月の寒い時期に日本で開催したアジア最終予選ではオーストラリアに1-3と完敗し、中国にも敗れ2勝1分け2敗の3位にとどまり3大会連続して出場していた五輪の出場権を逃した。
話を高倉監督に戻すと、現時点で高倉監督に代わる有力な候補者はいない。これは、なでしこジャパンの構造的な欠陥でもある。歴代の監督は黎明期の1986年に就任した鈴木良平氏、1996年に就任した鈴木保氏(元日産監督)、宮内聡(元日本代表)以降はJFA(日本サッカー協会)の技術委員が監督を務めてきた。
2002年~2004年にかけては元マカオ男子代表監督の上田栄治氏、2004年から2007年にかけては元アルビレックス新潟・シンガポールの監督だった大橋浩司氏、そして07年からは大橋監督のコーチだった佐々木氏が監督に就任した。
男子の日本代表監督は、98年フランスW杯の岡田武史監督以降、外国人監督を招聘してきた。昨夏のロシアW杯では大会直前に西野朗氏がヴァイッド・ハリルホジッチに代わって2010年の南アW杯以来となる日本人監督でチームをベスト16に導いた。
西野氏が代表監督に抜擢されたのはG大阪時代にJ1リーグを始め数々のタイトルを獲得した実績があるからだ。そして西野氏の後任に代表監督に就任した森保一監督も広島の黄金時代を築いた手腕を高く評価されたからだろう。
ところが女子の場合は、なでしこリーグでいくら結果・実績を残しても、代表監督の候補に上がることすらない。過去にはそれに不満を抱き、海外での指導者に転身した監督もいた。
なでしこジャパンの監督になるための明確な基準がJFAにはないことによる悲劇でもある。ポスト高倉は現コーチの大部由美が有力候補と思われるが、監督候補にはなでしこリーグの監督も含め、明確な基準を示して欲しいと願わずにはいられない。
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U-20W杯ポーランド、トゥーロン国際大会と6月は代表マッチが目白押しで、いずれもテレビ放送(コパ・アメリカはDAZN)で楽しめたが、もう少しなでしこジャパンの試合を見たかったと思う読者も多いのではないだろか。決勝点となるPKを与えたキャプテンの熊谷は、8年前のアメリカとの決勝戦でPK戦の5人目のキッカーとして登場し、初優勝を決めた選手だけに、不思議な縁を感じる。高倉ジャパンにとっては若返りもテーマだっただけに、2人のベテランを外したのは理解できないでもない。その代わり、自身が率いてW杯で優勝したU-17やU-20から多くの選手を引き上げて若返りを敢行した。このため高倉監督を始めW杯を初めて経験する選手も多かったし、それなりの経験を積んだことだろう。
しかしながら現時点での監督交代は“百害あって一利なし”だ。そもそも女子サッカーは、男子と違いW杯よりも五輪を重視する。レジェンドの澤穂希を始め歴代の選手は「W杯より日本では注目度の高い五輪でメダルを取ることで女子サッカーの認知度を高めよう」と努力してきたからだ。
このため今回のW杯は、来年の東京五輪への強化の一環であり、得られた教訓は女子サッカー大国アメリカとドイツだけでなく、ヨーロッパ勢の急速なレベルアップだ。なでしこジャパンが簡単に勝てる相手は年を追うごとに少なくなっている。
そして、監督を代えようにも候補者がいないのも女子サッカーのネックになっている。前任者の佐々木則夫監督はW杯優勝1回、準優勝1回に加えロンドン五輪では銀メダルを獲得した名将である。しかし07年からリオ五輪出場を逃した16年まで10年間の長きにわたって監督を務めた。
主力選手が固定されたため若返りを指摘する声もあり、実際に佐々木監督もヤングなでしこの選手を招集して起用したものの、ベテラン選手を脅かすことはできずに世代交代は進まなかった。
技術委員会内部では、15年のカナダW杯後に佐々木監督には勇退してもらい、高倉氏を監督に推す声もあった。しかしリオ五輪まで1年しか準備期間がないこと、監督が代わっても主力選手の顔ぶれは変わらないだろうこと、そしてもう1点、決定的な不安要素があった。
ある関係者は言った。「高倉はなでしこジャパンの切り札です。もしも初舞台となるリオ五輪の出場権を逃すようなことがあれば監督交代となる。高倉には傷をつけたくないんです」というのが監督交代を見送った最大の理由だった。
そしてこの不安は的中した。2月から3月の寒い時期に日本で開催したアジア最終予選ではオーストラリアに1-3と完敗し、中国にも敗れ2勝1分け2敗の3位にとどまり3大会連続して出場していた五輪の出場権を逃した。
話を高倉監督に戻すと、現時点で高倉監督に代わる有力な候補者はいない。これは、なでしこジャパンの構造的な欠陥でもある。歴代の監督は黎明期の1986年に就任した鈴木良平氏、1996年に就任した鈴木保氏(元日産監督)、宮内聡(元日本代表)以降はJFA(日本サッカー協会)の技術委員が監督を務めてきた。
2002年~2004年にかけては元マカオ男子代表監督の上田栄治氏、2004年から2007年にかけては元アルビレックス新潟・シンガポールの監督だった大橋浩司氏、そして07年からは大橋監督のコーチだった佐々木氏が監督に就任した。
男子の日本代表監督は、98年フランスW杯の岡田武史監督以降、外国人監督を招聘してきた。昨夏のロシアW杯では大会直前に西野朗氏がヴァイッド・ハリルホジッチに代わって2010年の南アW杯以来となる日本人監督でチームをベスト16に導いた。
西野氏が代表監督に抜擢されたのはG大阪時代にJ1リーグを始め数々のタイトルを獲得した実績があるからだ。そして西野氏の後任に代表監督に就任した森保一監督も広島の黄金時代を築いた手腕を高く評価されたからだろう。
ところが女子の場合は、なでしこリーグでいくら結果・実績を残しても、代表監督の候補に上がることすらない。過去にはそれに不満を抱き、海外での指導者に転身した監督もいた。
なでしこジャパンの監督になるための明確な基準がJFAにはないことによる悲劇でもある。ポスト高倉は現コーチの大部由美が有力候補と思われるが、監督候補にはなでしこリーグの監督も含め、明確な基準を示して欲しいと願わずにはいられない。
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