まだバケーション入りするには早い…/原ゆみこのマドリッド

2019.06.04 12:00 Tue
「ようやく始まってくれたわ」そんな風に私がホッとしていたのは月曜日、午後1時を過ぎた頃から、スペイン代表選手がラス・ロサス(マドリッド郊外)のサッカー協会施設に到着する写真が公式ツィッター(https://twitter.com/SeFutbol)に上がっているのを見つけた時のことでした。いやあ、この6月の2020年ユーロ予選に向けた招集リストが発表されたのはもう2週間以上前のことだったんですけどね。それからリーガの最終節があったり、コパ・デル・レイ決勝があったり、先週はアゼルバイジャンのバクーでのEL決勝はともかく、マドリッドはワンダ・メトロポリターノでのCL決勝に向けてお祭り状態に突入。

え、コパ決勝にはバルサのバスケツ、ジョルディ・アルバ、セルジ・ロベルト、バレンシアのロドリゴ、パレホ、ガジャが出場していたとはいえ、それはもう1週間も前のこと。EL決勝だってチェルシーのケパしか出ておらず、それこそCL決勝の舞台に立った代表選手は1人もいなかったんだから、もっと早くから始めていても良かったんじゃないかって?そうですね、確かにそれ以外の選手たちはリーグ終了後、少々、間が空いてしまい、いえ、CL準々決勝バルサ戦2ndレグでは当人のポカもあってマンチェスター・ユナイテッドが敗退。翻って、立派にチェルシーのゴールをEL王者になるまでしっかり守ったケパに代表正GKの座を脅かされる危険を感じたんでしょうか。プレミアリーグ終了後、デ・ヘアなど、ラス・ロサスに通ってトレーニングする姿が目撃されてもいたんですけどね、
セルヒオ・ラモス、イスコ、アセンシオ、カルバハルといったレアル・マドリー勢も先週はバルデベバス(バラハス空港の近く)のクラブ練習場で汗を流していたそうですが、ネイションズリーグのファイナルフォー出場が決まっていたならともかく、今回は金曜にフェロー諸島戦、来週月曜のスウェーデン戦の予選2試合だけ。となれば、そんなに何日も合宿する必要はない?いえ、3月のマルタ戦直前に代表を緊急離脱したルイス・エンリケ監督がまだ不在なのはそのせいではないんですけどね。どちらにしろ、まだ予選3節ですし、2試合を終えて勝ち点6のスペインはグループ首位とあって、あまり今からカリカリする必要はないんですが…。

まあ、代表のことはまた後で話すことにして、せっかくですから、土曜のCL決勝の様子をお伝えしていくと。私もこのところ、チャンピオンス・フェスティバルがあるのにかこつけて、イギリスから来たファンたちで賑わうセントロを日々、散策していたんですが、試合当日には両チームのファンゾーンまで足を伸ばしてみることに。それが、トッテナム勢の集まるコロン広場は広いせいですかね。盛り上がりぶりを観察しながら、歩き回るスペースもあったんですが、メトロ2駅分を歩いて辿り着いたフェリペ2世大通りの方はまだランチ前の時間だというのに恐ろしい程の混みよう。あまりに人が多くて前に進めないのには弱ったの何のって。

チームカラーが赤というのも熱気を上昇させる効果があるのか、何人ものファンがスーパーなどで買ったらしい24缶パックのビールを持ち込んでおり、氷とバケツまで持参とはまったくもって用意がいい。そんなに飲み続けていたら、夜9時からの試合まで起きていられるのだろうかと心配にもなりましたが、大丈夫。実は私が立ち見を恐れてキックオフ1時間前に行った近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)も完全にリバプールファンに占拠されており、彼らもビール片手に割れるばかりの音量で皆すっと応援歌を歌っていたんですが、これまでに見たことのない速さでグラスビールを次々とつぎ、ガラスのピッチャーにワインとファンタオレンジを凄い勢いで注ぎ込んでサングリアを作っていた顔なじみの店員さんに訊くと、「今日はもう半日程、同じ状態」だったとか。
え、それよりこの日はワンダでも1分間の黙とうがあったように、お昼のニュースではスペイン中が予期せぬ訃報にショックを受けることになったんだろうって?はい、アーセナルでプレミアリーグ制覇した後、2007年にはカペッロ監督の指揮するマドリーでリーガ優勝に貢献、翌シーズンと2009~2011年にはアトレティコでもプレーして、キケ・サンチェス・フローレス監督時代にはEL優勝のタイトルをもたらしているレジェスが午前11時40分、セビージャ(スペイン南部)近くの高速道路で事故を起こし、同乗していた23才のいとこと共に亡くなってしまったんですよ。

今季は2部のエクストレマドゥラでプレーする彼は前節にほぼチームの残留が決定、この火曜のカディス戦のベンチには入らないことになったため、週末を実家のあるウトレラで過ごそうと、土曜の練習後に自家用車のメルセデス・ブラバスS550に乗って移動中だったようなんですけどね。警察の調べによると、どうやら200キロ以上のハイスピードで運転中、車線をはみ出し、ガードレールに当たってコントロールを失うと、数百メートル走った先で車体が炎上。3人目の同乗者も重度のヤケドで入院中だそうですが、2人は全焼した車内で死亡することに。

いやあ、レジェスはまだ35才だっただけにこの悲劇には周囲も茫然、翌日曜には遺体がカンテーラ時代を過ごし、16才という史上最年少でリーガにデビュー、復帰後には前人未踏のEL3連覇も達成したセビージャのホーム、サンチェス・ピスファンにお棺が運び込まれ、長年の友人だったラモス、ヘスス・バナスを始め、お隣さんであるベティスのホアキン、他にもマドリーのペレス会長、ブトラゲーニョ渉外ディレクター、RMカスティージャの来季監督になるラウールらの弔問を受けていましたが、前妻との間にできたレガネスのユースチームでプレーしていた11才の長男が来季から、マドリーでプレーするといった話も。うーん、本当にあまりに突然のことでしたしね。人生の不条理に私も今は何と言っていいかわからないんですが…。

いえ、話をCL決勝に戻さないといけません。オープニングセレモニーもこの大勢いるパフォーマーのうち、どれがUEFAにボランティアで採用された人々なのだろう、太鼓を叩く係は出演料をもらえるのだろうかとしょうもないことに私がまだ頭を巡らせているうちに試合は始まったんですが、まさか開始からたった25秒でバル中が大歓声に包まれることになろうとは!ええ、キックオフと同時に速攻をかけたリバプールはマネがエリア内からクロスを上げようとしたボールがシソッコの腕に当たりペナルティをゲット。VAR(ビデオ審判)の介入があったため、サラーがPKを決めて得点が入ったのは2分のことでしたが、何せ昨季の決勝では31分にラモスともつれて転倒。肩を脱臼して泣く泣く交代したエジプト人エースでしたからね。

今回のツキの良さには当人もビックリしたでしょうが、その後はトッテナムがボールを独占。といって、この試合でようやく4月以来の復帰を果たしたエースのハリー・ケインも本調子でなかったか、見せ場を作る訳でもなく、その後はかなり退屈な展開だったんですが、昨季のリバプールを違ったのはやはり一流の守護神のおかげだった?ええ、マドリーとのキエフでの決勝ではGKカリウスのミスが3-1での敗戦を招くことになりましたが、この日のアリソンはソンや準決勝アヤックス戦2ndレグでハットトリックを挙げ、チームを土壇場の逆転突破に導いたルーカス・モウラのシュートもしっかり弾き、1点差をキープしているんですから、バルにいたリバプールファンも安心できたかと。

そして後半42分にはやはり負傷上がりだったフィルミノから代わったオリジが2点目を挙げ、ここで勝負は決着。0-2でリバプールが勝ち、これまで7回の決勝全てに負けているというクロップ監督がとうとうCL初優勝…いや、周囲が赤いユニばかりだったため、逆だった場合のことはあまり考えたくないんですけどね。ホストとしてパルコ(貴賓席)にいたアトレティコのセレソ会長も「今日はリバプールが優勝したが、el campeón de campeones es el Atleti, por su fantástica organización/エル・カンペオン・デ・パンペオネス・エス・エル・アトレティ、ポル・ス・ファンタスティカ・オルガニサシオン(チャンピオンの中のチャンピオンはアトレティコだ。素晴らしいオーガナイズ能力を披露した)」と言っていたように幸い、マドリッドの街中でもスタジアム内外でもフーリガンたちの騒ぎが一切、なかったのは何よりでしょうか。

そしてCL決勝翌日、日曜には各地でリーガ昇格プレーオフ2ndレグがあったんですが、こちらはいい知らせと悪い知らせが。というのも午前中には3部のグループで1位となり、1ラウンドだけで良かったヘタフェBがレアルタッドとの1stレグに2-0と負けながら、コリセウム・アルフォンソ・ペレス横にある練習場の人工芝ブラウンドでの試合で4-1と逆転し、2部B昇格を達成。今季はほとんどトップチームで過ごしていたウーゴ・ドゥーロが2得点と大活躍だったんですが、もしやこれって、RMカスティージャで登録されていたビニシウスをプレーオフに出すぐらいの荒業だったかも。

そしてヘタフェ、レガネス同様、マドリッド南部の衛星都市チームであるフエンラブラダもレクレアティボをアウェイで破り、2部昇格を決めたのは朗報だったんですが、情けなかったのは兄貴分チームの後輩たち。ええ、コパ・アメリカのブラジル代表に呼ばれず、訪日して商業活動等をするため、ビニシウスにバケーションを与えてしまったのもマズかったんでしょうかね。1stレグでカルタヘナに3-1で勝利していながら、2ndレグで2-0と負け、RMカスティージャは逆転敗退。お隣さんのBチームも決して自慢できる結果ではなく、マハダオンダでスコアレスドローの後、ミランデスのホームでは先制しながら、最後は2-1で負け、どちらも2部昇格への望みを繋ぐ2回戦に進出できなかったのですから、困ったもんじゃないですか。

いやあ、まだシーズンが終わっていない2部の弟分、アルコルコンは13位と昇格にも降格にも関係ない位置にいるんですが、今季昇格したばかりのラージョ・マハダオンダはこの火曜のオビエド戦が最後の試合で、最終節は今季半ばに経営破綻で降格となったレウス戦の不戦勝分、勝ち点3が入る予定といっても現在、残留ラインのルーゴと勝ち点差3ありますからね。ここで勝っておかないと、2部Bに最速Uターンが決まってしまうというのは心配なところ。どちらにしろ、もう今季はマドリッドで見られるクラブの公式戦がないのは淋しい限りではあります。

え、それでもスペイン代表の2試合目、スウェーデン戦はサンティアゴ・ベルナベウであるんだろうって?その通りで、この月曜夕方には私もラス・ロサスまで公開練習を見学に行ったんですが、やはりセッションの始まりには全員一列に並んでレジェスの冥福を祈る1分間の黙とうが。それまでファンの歓声で賑やかだったスタンドもシーンとなって、しめやかなムードだったんですが、その後はそれそれが贔屓の選手にカンティコ(メロディのあるシュプレヒコール)を送るいつもの光景に戻ります。コパ決勝でふくらはぎを負傷、ベンチからバレンシアが4連覇中のバルサを倒して新王者の座につくのを見守ったパレホも回復しており、招集された23人揃っていたのには練習の一部始終を生中継で見守っていたという、現在、重病を患った娘さんにかかりっきりになっているルイス・エンリケ監督も安心できたかと。

ちなみにこの日のセッションはスペイン代表にしては珍しく、いえ、1、2週間のミニバケーションをはさんでいる選手がほとんどだったせいもあるんでしょうけどね。いつもは1時間弱で終わるのにランニング、ロンド(中に入った選手がボールを奪うゲーム)、軽いフィジカルメニューと続き、ピッチ半面でのパスシュート練習、守備攻撃練習の後も40分ぐらいを6人制のpartidillo(パルティディージョ/ミニゲーム)に当てて、計1時間半ほどの長丁場に。かといって、先発候補がわかるようなものではなかったんですが、モラタ(アトレティコ)やロドリゴ(バレンシア)が何発もゴールを決めていたのは心強かったかと。

火曜以降、彼らのセッションは全て非公開で、木曜にはフェロー諸島戦のため、トースハウンに移動。またラス・ロサスに戻って来た後もファンが見られるのはスウェーデン戦の前日のスタジアム練習ぐらいしかないというのは残念なんですが、国際メジャートーナメントのないこの夏は次の試合が9月までありませんしね。イスコやアセンシオら、今季はマドリーで活躍できなかったにも関わらず、招集してもらえた選手たちなど、ジダン監督にもアピールするいいチャンスだけにきっと皆、気合を入れてプレーをしてくれますよ。
【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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