決勝に肩入れできない…/原ゆみこのマドリッド

2019.05.25 13:15 Sat
「ただの冗談だったのにねえ」そんな風に私が呆れていたのは金曜日、前夜のラジオ番組でインタビューを受けたトッテナムのポチェッティーノ監督が6月1日にワンダ・メトロポリターノで開催されるCL決勝前の練習予定についてコメントしたんですけどね。すでに数日前から、マルベージャ(スペイン南部のビーチリゾート)で合宿に入っている対戦相手のリバプールとは違い、レアル・マドリーの施設を使わせてもらえることになったものの、「Pedimos dormir en Valdebebas pero se ve que Florentino no quiso/ペディモス・ドルミル・エン・バルデベバス・ペロ・セ・ベ・ケ・フロレンティーノ・ノー・キソ(バルデベバスに泊めてくれるように頼んだんだけど、ペレス会長がいい顔をしないようだ)」と言ったところ、マドリーが翌日にはcomunicado oficial/コムニカードー・オフィシアル(公式声明)を発表。
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「そんな依頼は受けていない」とマジメに抗議していたんですが、マルカ(スポーツ紙)などによると、トッテナムは準決勝でアヤックスを下す前から、敷地内にあるマドリー選手用の宿泊所を使えるかどうか打診していたのだとか。いやあ、偶然にも今週、施設の見学会に参加するチャンスがあって、私も実際に見てきたんですが、宿泊所の2、3階にある全てのシングルルームには各選手の名札があり、うーん、1年前、CL決勝前メディアオープンディの際に来た時は誰もがクリスチアーノ・ロナウドの部屋の前でポーズをとっていたものですけどね。今回は特に見学者が足を止めるような部屋の主はなく、逆にガイドのクラブ職員がプラスティック製の名札は抜き差しするだけで交換が可能で、部屋替えの時に簡単でいいと言っていたり、何故か指紋認証のキーが職員の指で開いてしまい、笑いを誘っていたなんてことも。聞けば、インテリアや間取りは公開用に空にしている部屋と同じながら、選手たちはそれぞれ私物を持ち込んでいるそうで、退団が噂されているメンバーもリーガ最後のベティス戦前に使った後、すぐバケーションに入ってまだ引き払っておらず。それこそがトッテナムに宿泊を断った理由なんですが、確かに立地的には部屋のバルコニーからワンダの屋根が見えてしまう程の近さですからね。
とはいえ、トッテナムの滞在先となるユーロスターズ・スイーツ・ミラシエラだって、高速道路を使えば、練習場もワンダもすぐですし、選手とコーチ陣ぐらいの部屋数しかないマドリーの宿泊所より、他のスタッフや家族も一緒に泊まれるのは利点かと。おまけにバルデベバスにも選手の賄いを出す社食のようなレストランがあるものの、いざCL優勝となった際、宴会場が使えるホテルの方がお祝いにも便利となれば、やはりポチェッティーノ監督の言葉はジョークだったとしか思えないんですが…もしや13回に渡るCL優勝時の写真がそこら中に飾られている空間にいれば、未経験のトッテナムにとっていいゲン担ぎになった?

ちなみにその日の見学会ではカンテラ(ユースチーム)にマドリッドの外から来ている12才から18才の選手たちが住む寮なども見せてもらったんですが、午前中は皆、学校に行っているそうで内部はほぼ無人。トップチームは1人部屋のところ、こちらは2人部屋だったり、多少なりと差はあるとはいえ、3食付きで学校にはバスで送り迎え、家庭教師に勉強も見てもらえて無料というのは物凄く恵まれた環境かと。ただし大成するのはほんの一握りで、いえ、実際、マドリーでプロデビューできるのはそのうち100万人に1人というのは寮監さんの誇張でしょうけどね。
実際、こんな大規模な施設はいまだにカンテラの練習場を郊外に作る計画をノンビリ進めているアトレティコを含め、他のマドリッドのチームはどこも持っていないため、羨ましい限りなんですが、1つ不満を挙げるとすれば、マドリーには女子のチームがないこと。まだまだバルデベナスの敷地には活用されていない更地があるため、その辺を使って、女子サッカーの育成にも少し力を入れてくれると、将来的にマドリー女子ダービーみたいなのもできて楽しいんじゃないかと思いますが、どうなんでしょうかね。

え、その日、唯一練習をしていたチームは土曜に2部昇格プレーオフ1回戦、カルタヘナ戦の1stレグにアルフレド・ディ・ステファノ・スタジアムで挑むRMカスティージャだけだったけど、1部リーガ2連覇という最強の女子チームを持つアトレティコの男子Bチームも日曜にミランデスとのプレーオフがあるんだろうって?その通りで現在、マハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場で汗を流しているのは彼らだけなんですが、実はこの火曜、兄貴分はそこから6人も徴用してイスラエルで親善試合。ベイタル・エルサレムと対戦したところ、今季の彼らの悪いところが全て詰まっているような展開だったから、TVで見ていた私も困ったの何のって。

そう、ゴディン、ファンフラン、フィリペ・ルイスのベテランDFたちを使わず、モンテーロと共にトマスをCBコンビに据えたシメオネ監督のチームは前半11分、早々とブサガロに先制ゴールを決められてしまう始末。レマルやビトロなど、相変わらず突破を試みてはボールを失くす一辺倒ですし、4月のバルサ戦で退場。8試合の出場停止を受け、144日ぶりの実戦となったジエゴ・コスタなど、27分に敵に足を踏まれて担架退場って、このチーム、今季はどこまで負傷禍に祟られているのやら。後の検査で重度2の左足首のネンザと判明しましたが、大丈夫。来季の開幕戦は8月19日の週末、更に当人は1節まで処分が残っているため、治療する時間は十分ありますって。

そんなことはともかく、これが引退試合となったベイタルのベナユンが拍手に送られて交代した前半が終わり、後半からはこちらも最後のご奉公となるグリーズマンを投入したアトレティコでしたが、再開早々に敵がエリア内でハンドを犯してPKをゲット。グリーズマンが無難に決め、コルチョネーロ(赤白ストライプのこと)のユニを着てラストとなるダンスを披露してくれたんですが、その10分後には見事にカウンターを喰らい、ブサガロにdoblete(ドブレテ/1試合2ゴール)を許しているって、一体どうなっている?私が知らないだけでベイタルが強いチームだったのか、すでにアトレティコの選手たちがバケーションモードに入っていたのが悪かったのか、結局そのまま2-1で負けてしまったんですが、はあ。

だってえ、試合後のシメオネ監督も「グリーズマンがいなくなるのはそのタレントを失う以上に辛いもの。沢山のゴールがなくなることになるからね」と言っていたように、いえ、ロナウドの移籍で年間50得点が消えたお隣さんに比べれば、26本程度ですから、傷は軽いように見えるんですけどね。元々、マドリーとはゴールの総量が違うため、割合で考えれば同じぐらいのダメージになるかも。となれば、その日はベンチ見学だった、今季で4シーズン連続してサモラ(リーガで最も失点率の低いGKに与えられる賞)を受賞したオブラクが、「No hay una sola cosa en la que no pueda mejorar/ノー・アイ・ウナ・ソラ・コーサ・エン・ラ・ケ・ノー・プエダ・メホラル(自分に改善できないことは1つもない)」と謙虚になお一層の努力を誓ってくれていたのは、僅かながらでもファンの慰めになる?

そして翌朝にチームはマドリッドに戻り、これで本当にバケーション入りとなったんですが、木曜にはすでにCL決勝のデコレーションが始まっているワンダでファンフランのお別れ会見が行われることに。いやあ、「Madrid 19 Final」の看板を見れば見るほど、筋書き通り、今季の決勝に出て優勝していれば、2016年のサン・シーロで最後のPKを失敗。その2年前に続き、むざむざお隣さんにトロフィーを持っていかれた悪夢を当人も忘れて気持ち良く、退団できたのになんて思ってしまう私も人が悪いんですけどね。

それでも意外と当事者たちは気にしていないのか、「Me quedo tranquilo porque está Koke/メ・ケド・トランキーロ・ポルケ・エスタ・コケ(コケがいるから、自分は落ち着いていられる)。新しい選手たちにどうすればタイトルが獲れるか、彼が伝えてくれるからね」と、7つのトロフィーを前にワンダの会見場の舞台に上がったファンフランから言われていた来季の第1キャプテンを始め、後輩のサウール、先だってお別れイベントを開いたゴディン、多分その機会はないだろうグリーズマン、そしてアル・サッドでの最初のシーズンをチャビと共にリーグ優勝で飾ったガビ、シメオネ監督就任時からの古いメンバーで、4年前からアスレティックでプレーしているラウール・ガルシア、2年前に引退したチアゴらが長い付き合いの同僚を見送るために出席。

更にはヒメネス、オブラク、サビッチら、来られなかったチームメートやビジャ(ヴィッセル神戸)、フェルナンド・トーレス(サガン鳥栖)、ファルカオ(モナコ)、マリオ・スアレス(ラージョ)ら、かつての仲間たちからもお別れのビデオメッセージが届いていましたが、ファンフランのスピーチの中で一番心に残ったのは、「El otro día leía que vino un vikingo y se va un indio y así fue/エル・オトロ・ディア・レイア・ケ・ビノ・ウン・ビキンゴ・イ・セ・バ・ウン・インディオ・イ・アシー・フエ(先日、バイキングとして来てインディアンとして去ると読んだけど、その通りだ)」という言葉だったかと。

ええ、マドリーのカンテラ育ちの彼はトップチームにもデビューしたものの、定着できずにエスパニョール、オサスナなどでプレー。2011年の冬にアトレティコに入団し、ポジションを右の中盤からSBに変えたことで実力を発揮するようになると、シメオネ監督にとって欠かせない選手に。退団を告げた時にはあと1年いてくれと引き留められたものの、「Siempre pensé en retirarme aquí, pero quería salir estando fuerte/シエンプレ・ペンセー・エン・レティラールメ・アキー、ペロ・ケリア・サリール・エスタンドー・フエルテ(いつもここで引退することを考えていたけど、まだ力のあるうちに退団したかった)。今のように監督の信頼を得てプレーしている間にね」という当人の決意は固かったよう。

実際、来季もスペイン国外のプレーを続ける気は満々で、日本にいるトーレスなどからも誘われているそうですが、まだ移籍先は決めていないのだとか。うーん、ヒメネス、サビッチ、アリアスの残留は一応、決まっていますが、ゴディンはインテル、リュカはバイエルンに移籍、フィリペ・ルイスも先行き不透明ということで、とにかくこのオフシーズン、アトレティコのフロントがDF探しで大わらわなのは確か。2年前のネイマールのPSG入り以来、移籍金が高止まりしているのも困りもんですが、何とかグリーズマンとリュカで稼いだ2億ユーロ(約250億円)を有効活用できるといいのですが。

え、そんな話をしている間に土曜午後9時(日本時間翌午前4時)にはいよいよ、コパ・デル・レイの決勝が迫っているんだろうって?そうなんですが、今回はセビージャ(スペイン南部の都市)のベニト・ビジャマリン(ベティスのホーム)での開催で、バルサvsバレンシアとマドリッドもマドリッド勢も関係ないため、いささか私の興味が薄れてしまうのは仕方ないところかと。おまけにここ4年間、アスレティック、セビージャ、アラベス、セビージャと試合前のファイナリストたちは皆、大層な盛り上がりぶりだったんですが、どこもバルサに土をつけることはできず、向こうは4連覇中ですからね。

そこへ、金曜には4年ぶりに記者会見に現れたメッシがCL準決勝2ndレグでリバプールを前にアンフィールドで犯した失態をファンに詫び、2年連続の2冠獲得を誓っていたとなれば、たとえ、ルイス・スアレスやデンベレをケガで欠いていたとて、果たしてバレンシアに勝算があるものかどうか。いやまあ、そのバレンシアにしてもリーガ最後の2試合で弟分のヘタフェから、憧れのCL出場権、4位の座を奪った相手ですし、コパ準々決勝でもメスタジャでロスタイムにまさかの逆転敗退を喰らわされていますから、彼らが最後にタイトルを獲得した2008年のコパ決勝の相手がまさに、そのヘタフェだったことまで合わさって、とても応援なんてできるもんじゃなかったりするんですけどね。

かといって、すでに優勝を決めていながら、37節でバルサがヘタフェに勝ったせいで、ヘタフェは5位に落ちてしまったという事実も見逃せませんしね。まあ、ボルダラス監督などはマルカのインタビューで、「Si hubiéramos sacado un punto en Anoeta.../シー・ウビエラモス・サカードー・ウン・プントー・エン・アノエタ(もしアノエタで勝ち点1を取っていたら…)」とその2つ前の試合でVAR(ビデオ審判)にも恵まれず、レアル・ソシエダに2-1と惜敗してしまったことを大願成就が叶わなかった原因に挙げていましたが、それはそれ。今はもうヘタフェ、レガネス、そして2部に戻ってしまったラージョも皆、バケーションに入ってしまいましたし、コパのみならず、CLやELも決勝が他人事なシーズンの終わりは本当に寂しくてイヤなもんです。

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