肩に力を入れて試合を見ることはもうないとはいえ…/原ゆみこのマドリッド

2019.04.17 17:30 Wed
「絶対、初仕事だなんて思ってないから」そんな風に私が呟いていたのは火曜日、CL準々決勝2ndレグでマンチェスター・ユナイテッドの一員として、夜にはカンプ・ノウでプレーするはずのポグバが映った時、お昼のスポーツニュースのアナウンサーがレアル・マドリーに貢献する最初のチャンスと言っているのを聞いた時のことでした。いやあ、3月半ばには今季が終わり、長いプレシーズンに入ったお隣さんには昨今、補強選手候補の話題しかなく、彼もアザール(チェルシー)と共に日替わりでスポーツ紙のマドリーページで取り上げられる選手ではあるんですけどね。

だからって、別にユナイテッドが0-1で負けた1stレグの結果をポグバの活躍で引っくり返し、バルサを敗退に追いやってくれたとて、16強対決で消えたマドリーにミッドウィークのビッグマッチが戻って来る訳じゃありませんしね。おかげでリーガ前節など、月曜試合に回されたため、バルベルデ監督の前日記者会見やユナイテッドの練習風景をスマホで見ながら、ブタルケに向かう私の情けなさったらなかったんですが、まあそれはそれ。とりあえず、マドリッド勢の週末の試合をお伝えしていくことにすると。
土曜に先陣を切ったのはアトレティコで丁度、その日は毎年恒例のDia del Nino/ディア・デル・ニーニョ(子供の日)のイベントがワンダ・メトロポリターノ周辺で開催。トランポリンや人間フットボリンで楽しむ家族連れはもちろんのこと、大人のファンたちもすでにこちらもコパ・デル・レイ、CLを敗退。バルサがユナイテッド戦に備え、ローテーションをしたため、最下位のウエスカとずっと0-0だった試合に「直接対決に勝っていれば、勝ち点差5になったはずだったのに」なんて私のように嘆くこともなく、セマナ・サンタ(イースター週間)のお祭り気分に包まれていたのは羨ましかったかと。スタンドの入りも上々であとはチームがファンを楽しませるプレーができるかどうかだったんですが…。

最初に脚光を浴びたのはやっぱりオブラクでした。ええ、前半はボールを支配していたアトレティコだったんですが、何故かセルタにチャンスを作られて、17分にはマリオ・ゴメスとブデブスの至近距離からのシュートを連続paradon(パラドン/スーパーセーブ)。30分にもブファフの意表を突くシュートを超人並の反射神経で弾いているとなれば、彼に「Es el mejor portero del mundo, ojala siga creciendo/エス・エル・メホール・ポルテーロ・デル・ムンド、オハラ・シガ・クレシエンドー(彼は世界一のGK、成長し続けてくれますように)」と望むシメオネ監督はもしや、バルサ戦終盤のルイス・スアレスの先制ゴールですら阻止できる超人レベルを求めている?

いやあ、この日はイアゴ・アスパスが出場停止でいなかったため、何とか1部残留を争っている相手をかわして、前半を無失点で切り抜けたアトレティコでしたが、ハーフタイム間際には「Adan me dijo de pegar al lado del portero/アダン・メ・ディホ・デ・ペガール・アル・ラドー・デル・ポルテーロ(アダンがボクにGKのいる側のサイドに蹴るように言った)」というグリーズマンが第2GKのアドバイスに従い、FKから直接ゴールを決めるという嬉しいおまけも。贅沢を言えば、ユベントス戦やバルサ戦で決めてほしかったものですが、おかげで当人も先週生まれた次女のアマロちゃんにゴールを捧げることができたのは良かったかと。
後半にもグリーズマンは28分、カウンターから途中出場のモラタに独走できるスルーパスを自陣から供給。GKルーベン・ブランコをかわして決まったゴールが2点目となり、そのままアトレティコは2-0で勝利を飾ることに。ちなみにこの日はゴディン、サビッチの負傷、ヒメネスの出場停止でトップチームのCBが不足。1月に合流した18才のネウエン(アルヘンティーノ・ジュニアーズから移籍)を避け、カンテラーノ(アトレティコBの選手)のモンテーロとトニ・モヤのコンビで何とか凌いだ形でしたが、そんな逆境にも「Si no podemos quedar primeros haremos todo lo posible por quedar segundos/シー・ノー・ポデモス・ケダール・プリメーロス・アレモス・トードー・ロ・ポシーブレ・ポル・ケダール・セグンドス(もし1位になれないのなら、ボクらは2位になるため全力を尽くす)」(グリーズマン)という言葉にウソはなかったよう。

ええ、シメオネ監督も「2014年の前が1996年だったようにアトレティコがリーガ優勝するのは難しい。その分、王者となった時はどこよりも満喫する。Hay que quedar segundos, terceros hasta que te toca/アイ・ケ・ケダール・セグンドス、テルセーロス・アスタ・ケ・テ・トカ(それまで2位、3位でいないといけない)」と言っていましたしね。土曜のエイバル戦では8試合の出場停止処分が下っているジエゴ・コスタはもとより、グリーズマンも累積警告となるため、またしてもゴールを入れるのに苦労しそうな彼らですが、ここは足首のネンザが完治したモラタに期待ですかね。

そして土曜の夜にはアンダルシアダービーでベティスを3-1と制したセビージャに4位の座を奪われ、日曜正午のバジャドリー戦にCL出場権奪還を懸けて挑んだ弟分のヘタフェだったんですが、前半14分にはアランバリのエリア外からのgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)で先制したものの、30分にはこの冬に移籍したセルジ・グァルディオラに“恩返し”のゴールをお腹で決められ、1-1の同点で折り返すことに。いやあ、実際ツキもなかったのか、前半途中にはアントゥネスがヒザの靭帯断裂という重傷に見舞われ、後半18分にはオリベイラが2枚目のイエローカードで退場されられた上、24分にはジェネが不可抗力のハンドでPKを献上。ウナルにバジャドリーの2点目を決められてしまった時にはもう、万事休すかと思ったんですが…。

捨てる神あれば拾う神ありとはまさにこのことで、何とロスタイム4分、ウーゴ・ドゥロがオスカル・プラーノに倒され、今度はヘタフェの方がPKをもらえるとはこれ如何に。近々、37歳のバースデーを迎えるエースのホルヘ・モリーナがしっかり決め、2-2で引き分けたため、4位は取り戻せなかったものの、勝ち点1差で日曜にセビージャをコリセウム・アルフォンソ・ペレスに迎えられるとなれば、チームの士気も上がったのでは?ただアントゥネスが今季絶望、ダミアンとオリベイラが次戦出場停止とあって、ボルダラス監督もDF陣の編成に苦労しそうなんですけどね。もう半分バケーションに入ってしまった兄貴分たちと違って、まだ大きな目標があるっていうのはいいことですよ。

そして同じく、もしくはそれ以上の残留という課題を担ったラージョの試合が始まったんですが、サン・マメスでは前半のうちからVAR(ビデオ審判)が大忙し。ええ、2分に決まったウィリアムスのゴールはともかく、18分にはメドランがラウール・ガルシアをエリア内で倒したとされると、いえ、ラウール・ガルシア自身が蹴ったPKはGKアルベルトが前節のバレンシア戦に続き、跳ね返りの撃ち直しまで弾いて、事なきを得たんですけどね。39分にもアブドゥライ・バがウィリアムスにペナルティを犯したという嫌疑を受け、この時はVARでお咎めなしになることに。するとようやくハーフタイム前にはアレックス・モレノのシュートが決まり、何とか同点に追いついた彼らだったものの…。

後半早々、ウィリアムスに自身2点目を挙げられた上、アドビンクラが4分間でイエローカードを2枚もらって退場していてはねえ。おまけにせっかくマリオ・スアレスが同点ゴールを挙げたと喜んでもVARでオフサイドが発覚。そこへ29分、ラウール・ガルシアの一発で加点されてはロスタイムにラウール・デ・トマスが1点を返しても焼け石に水ですって。うーん、土曜の前日記者会見では丁度、セマナ・サンタで休暇を取っている記者が多いからでしょうかね。シュダッド・デポルティバのプレスルームでの会見にマルカ(スポーツ紙)のラージョ番1人しかおらず、「Esto sera una broma, no? Si lo se no vengo/エストー・セラ・ウナ・ブロマ、ノー?シー・ロ・セ・ノー・ベンゴ(これは何かの冗談か?知っていたら、私は来なかったぞ)」と怒っていたパコ・ヘメス監督でしたけどね。

それだけにホセ・ソリージャのプレスルームでは複数のカメラを前に「Cuando no había VAR iba todo mucho mejor que ahora/クアンドー・ノー・アビア・ヴァル・イバ・トードー・ムーチョ・メホール・ケ・アオラ(今より、VARがなかった時の方が全てずっと上手くいっていた)」と文句を言えたのは良かったんですが、先週末はウエスカ、セルタ、ビジャレアルと残留を争うライバルが負けていたのを利用できなかったのは残念。もうあと6試合しかありませんし、現在、17位と5ある勝ち点差を縮めるにはこの土曜、エスタディオ・バジェカスでのウエスカとの最下位決戦が本当に最後のチャンスとなるかもしれませんよ。

そして月曜にはブタルケで兄弟分ダービーがあったんですが、昼間は気温20度以上となってもまだまだ夜のマドリッドは油断がならず。その日も吹きつける風で氷つきそうな思いをした私でしたが、このところのマドリーがさっぱり気合を見せてくれないのもその寒さに輪をかけることに。ええ、レガネスは元々、沢山ゴールを入れるチームではありませんから、最初の得点がハーフタイム間際だったのも頷けるんですが、ブスティンサのスローインをカリージョがエリア内で落とすと、ブライトワイテがキープして外へ。アセンシオが鷹揚に見守る中、ジョナタン・サントスに撃ち込まれているとなれば、まったく困ったもんじゃないですか。

それでも後半6分には、おそらく前節のエイバル戦同様、ジダン監督がロッカールームで檄を飛ばしたんですかね。モドリッチからパスを受けたベンゼマが1度はGKクエジェルに弾かれながら、戻って来たボールを角度のないところからネットに収めて同点にしてくれたんですが、あれ?もしかして最近、マドリーでは彼のゴール以外見ていなくない?実際、それは私の錯覚ではなく、ウエスカ戦の3点目以来、2-1で負けたバレンシア戦、逆転勝ちしたエイバル戦の2点と全て得点者はベンゼマで他の選手は全然、スコアシートに名前を刻んでおらず。

大体、クリスチアーノ・ロナウドのユベントス移籍後、ゴール数の穴埋めを期待されたベイルなど、この日も残り10分になってようやく登場と、むしろ早めにエル・ザールや急いでヒザのケガを治したエン・ネシリを投入したレガネスの方が2点目ゲットに近そうに見えたんですが、もしや彼らが勝った場合、事前に60ユーロ(約7600円)のユニフォームをオフィシャルショップで買ったファンに全額返金するという公約が災いした?それでもここ2試合、後半ロスタイムに得点して、勝ち点を稼いできただけに最後にブスティンサが長いFKを蹴った時には私ももしやと目をこらしていたんですが…ボールが空中にある間に審判の笛が鳴ってしまいましたっけ(最終結果1-1)。

え、試合後はジダン監督が、前日バルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場で見た時と打って変わって深刻な表情を浮かべていたのには私も驚いたんだろうって?そうですね、マスコミに公開される15分間の練習中も笑顔で選手たちのロンド(輪になって中の選手がボールを奪うゲーム)を眺めていましたし、記者会見でも「No le he dicho a ningun jugador si cuento con el o no para la proxima temporad/ノー・レ・エ・ディッチョー・ア・ニングン・フガドール・シー・クエントー・コン・エル・オ・ノー・パラ・ラ・プロキシマ・テンポラーダ(来季、戦力として数えるか、1人の選手にも言っていない)」と持ち前の幸せオーラに包まれて答えていたのが、この日はさすがに手応えのなさに参ったんでしょうか。

「Debemos jugar mejor con los jugadores que tenemos por muy mala que sea la temporada/デベモス・フガール・メホール・コン・ロス・フガドーレス・ケ・テネモス・ポル・ムイ・マラ・ケ・セア・ラ・テンプラーダ(いくら今季が悪いシーズンとはいえ、この選手たちなら、もっといいプレーをしないといけない)」と真剣な顔で言っていましたが、そんな時、チームの印象と折しもその夜、母国のパリでノートルダム寺院が大火事に遭っていた件についてどう思うかという質問をまとめてする記者の神経もちょっと、並ではなかったかと。もちろんジダン監督は人間のできた方ですから、ちゃんと対応していましたが、あとでそこだけ時事ニュースに使うのが見え見えとはいえ、本当に有名人は大変ですよね。

そんなマドリーは次戦、日曜にサンティアゴ・ベルナベウにアスレティックを迎えるんですが、あと一歩で兄貴分にリーガ初勝利を挙げるところだったレガネスのペジェグリーノ監督は「No es lo mismo para el club salir décimo que decimosexto/ノー・エス・ロ・ミスモ・パラ・エル・クルブ・サリール・デシモ・ケ・デシモセストー(クラブにとって10位で終わるのと16位で終わるのは同じじゃない)」とTV放映による配分金も増えるためえ、現在、11位という順位を更に改善するのに意欲的。とはいえ、もうほぼ残留は確定していますからね。今週末のビジャレアル戦は同じ弟分のラージョへの援護射撃といったところでしょうが、あまりに活躍する選手は売却されてしまうという宿命を背負ったチームだけに今季の成果が先に繋がらないのはちょっと、寂しいかと。

そんな話をしているうちにバルサはユナイテッドにメッシの2発とコウチーニョのゴールで3-0の完勝。試合は見られなかったため、ポグバが株の上がる働きをしたのかはわからないんですが、同日の試合でユベントスを来季バルサへの入団が決まっているデ・ヨングとそれに続きたいデ・リフトのいるアヤックスが1-2で破り、総合スコア3-1で準決勝に進出したのには驚いたの何のって。しかもロナウドに先制されながら、逆転するなんて、それだけの根性がアトレティコにもあったら良かったんでしょうが、こればっかりはねえ。おかげで4月の末にあるCL準決勝のミッドウィークもマドリッド勢は肩身の狭い思いをしないとならなくなったのは確かですが、もしかしてその分、バルサはリーガで勝ち点落とすかもなんて、ほんの僅かでも夢を見ちゃダメでしょうかね。
【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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