サウジの変貌とアジアカップの醍醐味/六川亨の日本サッカーの歩み
2019.01.23 12:35 Wed
1月21日のアジアカップ2019の決勝トーナメント1回戦で、日本はサウジアラビアを冨安健洋のゴールで1-0と下してベスト8に進出した。2大会連続とはいえ、前回までは参加チームが16か国だったため、グループステージを突破すればベスト8だったが、今回は8チーム増の24か国のためラウンド16が加わった。
イタリア人は1-0の試合を「最も美しい」と言う。サッカーはミスのスポーツだが、無失点で勝つということは、ミスがなかったからに他ならないからだ。実際、試合を見ていても、押されてはいたがサウジのシュートミスにも助けられ、GK権田修一を脅かす場面はほとんどなかった。
日本に敗れたサウジにしても、もしもベスト8に勝ち残っていれば優勝候補の一角に数えられただろう。それだけ彼らのボールポジションの能力の高さには驚かされた。なぜなら伝統的に堅守からのカウンターがサウジの“お家芸”であり“伝統”だったからだ。
当時からサウジはスピード豊かな強力2トップを擁し、2~3人でゴールを陥れてしまう。敏捷性に優れ、しなやかな肉体を持つ黒人選手を称え、地元紙のシンガポール・ストレートタイムスは「アラビアンナイト」とか「ブラックダイナマイト」と形容したものだ。
残念ながらロス五輪では3戦全敗で終わったものの、10年後のアメリカW杯ではFWオワイランを擁し、グループリーグのベルギー戦ではオワイランが4人抜きのゴールを決めてベスト16に進出。いまでもサウジのW杯における最高成績だ。
そんなサウジが短期間でカウンタースタイルからボールを保持してパスをつなぐサッカーで日本を圧倒したのだから、驚いたのも当然だろう。ただ、日本を終始押し込む試合展開のため、逆に得意とするカウンターを仕掛けるシーンは皆無に近かった。なぜなら長友佑都が「スピードモンスター」と形容した1トップのアル・ムワラッドが、スピードを生かすためのオープンスペースがほとんどなかったからだ。自らスペースを消してしまったとも言える。
もしかしたら森保監督は、それを見越してあえて自陣に引いて「サウジにボールを持たせた」のなら、かなりの策士である。そしてそれを忠実に遂行して1-0の勝利を収めたのであれば、選手も“したたかな戦い”ができるまで成長したと言える。
サウジ戦では長友、遠藤航、柴崎岳、武藤嘉紀、酒井宏樹、吉田麻也のW杯戦士6人が出場した。彼らがロシアで経験した“駆け引き”がサウジ戦では生きたのかもしれない。サブ組ながらウズベキスタン戦で同点ゴールを決めた武藤は、試合前日に「ワールドカップは3戦目(ポーランド戦)で戦い、負けてしまったら非難された。もうこういう思いはしたくないという思いがありました」と、負けていながら時間稼ぎをした屈辱をいまも忘れていない。
そしてサウジ戦では「4年前の経験があるので、先を見据えず、サウジ戦がすべてです。チーム全員で勝ちに行きたい」と決意を語り、その言葉通りチーム全員で勝利をつかんだ。
次の試合は24日の準々決勝ベトナム戦である。ベトナムは中3日、日本は中2日とインターバルの違いはあるが、両国の過去の対戦成績からすれば日本の優位は動かないだろう。ウズベキスタン戦で採用したターンオーバーの経験がベトナム戦では生きるかもしれない。
ただ、油断や慢心は禁物だ。今大会はグループステージから“ジャイアントキリング”が起こっている。ベトナムもその主役の一人でもある。昨日は優勝候補の韓国がバーレーンを相手に先制点を奪いながら、後半にロングシュートの流れから同点弾を許して延長戦に突入した。何とか延長前半のアディショナルタイムに元新潟DFのキム・ジンスが決勝点を奪って粘るバーレーンを突き放したが、どのゲームも“紙一重”の接戦という決勝トーナメント1回戦だった。
大会は終盤にさしかかり、アジアカップはここからが本番と言ってもいいだろう。予断を許されない戦いが続くが、これもアジアカップの醍醐味と言える。
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W杯もそうだが、グループステージを突破しても、ベスト8進出のためのラウンド16を無事に突破できるかどうか。組み合わせにもよるが、多くのチームにとってラウンド16は鬼門でもある。今大会でもグループA1位のヨルダンがグループD3位のベトナムにPK戦で敗れたほか、ウズベキスタンは同じくPK戦でオーストラリアに敗退。ベスト8に勝ち進んだものの中国はタイ2-1、地元UAEはキルギスに3-2と苦戦を強いられた。そうしたなかで、日本は先制点をきっちり守って最少得点差ながら、サウジにほとんど決定機を作らせず1-0のまま試合を締めた。日本に敗れたサウジにしても、もしもベスト8に勝ち残っていれば優勝候補の一角に数えられただろう。それだけ彼らのボールポジションの能力の高さには驚かされた。なぜなら伝統的に堅守からのカウンターがサウジの“お家芸”であり“伝統”だったからだ。
初めてサウジの試合を現場で取材したのは1984年のロス五輪アジア最終予選だった。シンガポールでセントラル開催された大会で、サウジは日本とグループは違ったものの、圧倒的な強さでロス五輪行きを決めた。
当時からサウジはスピード豊かな強力2トップを擁し、2~3人でゴールを陥れてしまう。敏捷性に優れ、しなやかな肉体を持つ黒人選手を称え、地元紙のシンガポール・ストレートタイムスは「アラビアンナイト」とか「ブラックダイナマイト」と形容したものだ。
残念ながらロス五輪では3戦全敗で終わったものの、10年後のアメリカW杯ではFWオワイランを擁し、グループリーグのベルギー戦ではオワイランが4人抜きのゴールを決めてベスト16に進出。いまでもサウジのW杯における最高成績だ。
そんなサウジが短期間でカウンタースタイルからボールを保持してパスをつなぐサッカーで日本を圧倒したのだから、驚いたのも当然だろう。ただ、日本を終始押し込む試合展開のため、逆に得意とするカウンターを仕掛けるシーンは皆無に近かった。なぜなら長友佑都が「スピードモンスター」と形容した1トップのアル・ムワラッドが、スピードを生かすためのオープンスペースがほとんどなかったからだ。自らスペースを消してしまったとも言える。
もしかしたら森保監督は、それを見越してあえて自陣に引いて「サウジにボールを持たせた」のなら、かなりの策士である。そしてそれを忠実に遂行して1-0の勝利を収めたのであれば、選手も“したたかな戦い”ができるまで成長したと言える。
サウジ戦では長友、遠藤航、柴崎岳、武藤嘉紀、酒井宏樹、吉田麻也のW杯戦士6人が出場した。彼らがロシアで経験した“駆け引き”がサウジ戦では生きたのかもしれない。サブ組ながらウズベキスタン戦で同点ゴールを決めた武藤は、試合前日に「ワールドカップは3戦目(ポーランド戦)で戦い、負けてしまったら非難された。もうこういう思いはしたくないという思いがありました」と、負けていながら時間稼ぎをした屈辱をいまも忘れていない。
そしてサウジ戦では「4年前の経験があるので、先を見据えず、サウジ戦がすべてです。チーム全員で勝ちに行きたい」と決意を語り、その言葉通りチーム全員で勝利をつかんだ。
次の試合は24日の準々決勝ベトナム戦である。ベトナムは中3日、日本は中2日とインターバルの違いはあるが、両国の過去の対戦成績からすれば日本の優位は動かないだろう。ウズベキスタン戦で採用したターンオーバーの経験がベトナム戦では生きるかもしれない。
ただ、油断や慢心は禁物だ。今大会はグループステージから“ジャイアントキリング”が起こっている。ベトナムもその主役の一人でもある。昨日は優勝候補の韓国がバーレーンを相手に先制点を奪いながら、後半にロングシュートの流れから同点弾を許して延長戦に突入した。何とか延長前半のアディショナルタイムに元新潟DFのキム・ジンスが決勝点を奪って粘るバーレーンを突き放したが、どのゲームも“紙一重”の接戦という決勝トーナメント1回戦だった。
大会は終盤にさしかかり、アジアカップはここからが本番と言ってもいいだろう。予断を許されない戦いが続くが、これもアジアカップの醍醐味と言える。
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