諸刃の剣になりかねない「外国人枠拡大」と「ホームグロウン制度」/六川亨の日本サッカー見聞録

2018.11.22 18:00 Thu
©︎J.LEAGUE
▽Jリーグは11月20日の定例理事会で、来シーズンから1チーム5人以内だった外国籍選手の登録制限を撤廃し、J1は5人、J2とJ3は4人と出場枠の拡大を決めた。これまでの外国籍選手の出場枠は、3人プラスAFC(アジア・サッカー連盟)加盟協会の選手1人が上限で、Jリーグと提携する東南アジア諸国(タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、シンガポール、インドネシア、マレーシア、カタール、オーストラリア)の選手は外国籍選手から除外していた。

▽Jリーグの村井チェアマンは今夏のロシアW杯を観戦し、ヨーロッパでプレーする大半の選手が5大リーグで活躍しているため、「制限の撤廃」を訴えてきた。しかしJFA(日本サッカー協会)やJクラブの反対により、「枠の拡大」で今後の「撤廃」に含みを持たせた。

▽Jリーグとしては、神戸がポドルスキやイニエスタを獲得して観客動員やSNS等の会員を飛躍的に伸ばしたように、DAZN(ダ・ゾーン)との巨額放映権を原資に、優秀な外国籍選手を招いてチーム間の競争を激化することで、日本人選手のレベル向上により代表チームの強化につながると期待している。
▽ヨーロッパの5大リーグでプレーするような選手がJ1リーグに増えることは、Jリーグへの注目度も高まり、観客増にもつながるため歓迎したい。しかしながら、今シーズンもGKやCBは190cm超の韓国人選手を始めとする外国籍選手に占められていて、なかなか日本人選手が育っていないという現状もある。

▽日本人の平均身長はそう簡単に伸びず、身体能力の優れた選手は野球を選択するなど厳しい現実もある。ともすれば、今回の「規制緩和」がその傾向に拍車をかけかねない危惧も残る。
▽そのためにJリーグは、各クラブに自前の育成選手を保有するよう「ホームグロウン制度」も来シーズンから導入することを決めた。12歳~21歳の間に3シーズンか36ヶ月以上同じクラブに所属するなどの「生え抜き選手」をJ1は2人以上保有しなければならない。そして21年からはその数を増やす方針で、J2とJ3は22年から1人以上となる。

▽制度そのものは素晴らしいと思うが、こちらにも予想される弊害がある。例えば今年のルヴァン杯で優勝し、MVPも獲得した湘南の杉岡大暉は、中学時代の3年間をFC東京U-15深川でプレーした。しかしボランチやCBには岡崎慎と鈴木喜丈らライバルがいたためU-18への昇格を果たせなかった。そこで杉岡は高校時代の3年間を市立船橋高校で過ごしてプレーに磨きをかけ、湘南では押しも押されもしないレギュラーとなった。これはこれで成功例の1つである。

▽FC東京は杉岡のU-18への昇格を見送ったものの、もしも「ホームグロウン制度」のために引き続きFC東京が保有したとして、J1でレギュラーを取れていたのかどうか。本来は、クラブとしてプロ契約をする意思のない選手を、「ホームグロウン制度」を守るためだけに登録するようなことがあれば、それは選手本人にとってもクラブにとっても不幸な出来事と言わざるを得ないだろう。

▽趣旨そのものは素晴らしいが、諸刃の剣となりかねない「外国籍選手の出場枠拡大」であり「ホームグロウン制度」と言えよう。

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