まだ改善する時間はある…/原ゆみこのマドリッド

2018.10.17 13:00 Wed
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▽「ある意味、早いうちにボロが出て良かったかも」そんな風に私が気分を切り替えようとしていたのは火曜日、ファンの期待を大きく裏切ったスペイン代表の試合から、一夜明けた時のことでした。いやあ、今年から始まったUEFAの新しい大会、ネイションズリーグに関しては、これまでの退屈な親善試合に代わるものとして導入されたものの、チマチマしたグループ分けのせいで、ファイナルフォー(準決勝と決勝)までたったの4試合、計6試合で優勝が決まるというお手軽さ。獲得してもあまり泊がつくタイトルじゃなさそうだなと思っていたんですけどね。
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▽ただ、このネーションズリーグ、FIFAランキング順にAからDまでリーグを分けたため、各グループ内のチームレベルが拮抗。イグランド戦を終えた直後、セルヒオ・ラモス(レアル・マドリー)も「この種類の対戦は相手にも左右される。世界的に上位のチームで、集団としてだけでなく、個人的にとても危険な選手や監督がいるのだから」と言っていましたが、そうですよねえ。普通のユーロやW杯の予選グループは玉石混合、というか、シード分けして抽選するため、互角の相手がグループ内に1つあればいい方で、あとはほとんど、勝って当然の小国ばかりとあって、スペインが無敗で本大会進出するのも近年では決して珍しいことではなし。▽その結果、かなり自信過剰な状態で本大会を迎え、2014年W杯グループリーグ敗退、2016年ユーロのベスト16敗退、まあ、昨夏のW杯では直前にロペテギ監督解任事件などもありましたけどね。やっぱりベスト16敗退と、残念な終わり方になっていることを考えたら、就任後3連勝と順風満帆で発進したように見えたルイス・エンリケ監督率いる新生スペインにとって、このイングランド戦での大失敗は早めに軌道修正をするいい機会になるかもしれない?
▽そんなことはともかく、まずは月曜の試合がどんなだったか、伝えていくことにすると。23年ぶりにスペイン代表を迎えたベニト・ビジャマリン(ベティスのホーム)はもちろん超満員となったんですが、キックオフ前の国歌斉唱時には、うーん、前日からセビージャ(スペイン南部)に乗り込んだ3000人のイングランド人ファンの一部が日曜の夜、市内で警官隊と衝突する騒ぎを起こしたせいもあったんですかね。”God save the Queen”が鳴っている間中、大きなpito(ピト/ブーイング)がスタンドから飛んでいたのはかなり、スペインの印象を悪くしたんですが、より最悪なことが起こったのは前半のピッチだったんですよ。

▽いえ、序盤からチアゴ・アルカンタラ(バイエルン)やアセンシオ(マドリー)がシュートを撃ったり、マルコス・アロンソ(チェルシー)のヘッドがゴール枠を直撃したりといったチャンスはあったんですけどね。いつものようにボールを持って相手を自陣閉じ込めていたスペインだったんですが、16分、GKピックフォード(エバートン)のゴールキックを受けたハリー・ケイン(トッテナム)がラッシュフォード(マンチェスター・ユナイテッド)に繋ぐと、速攻カウンターでスターリング(マンチェスター・シティ)がGKデ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)を破っているって、何かこんなシーン、9月のウェンブリーでもなかった?
▽うーん、試合前、イングランドのキャプテンも「ウチはポゼッションに関して、スペイン程のレベルにはない。でも他の資質がある」と言っていましたが、更にその日は30分にもそれが発現。ええ、またしてもピックフォードからのボールをケインがゲットしたかと思えば、今度はラッシュフォードが決めて2点差にされているって、ちょっとお。38分にもバークリー(チェルシー)がDF陣の頭の上を越えてケインに送り、ゴール前へのキラーパスからスターリングがイングランドの3点目を入ったとなれば、もう呆れて物も言えないとはまさにこのことかと。

▽ちなみにこの日、ルイス・エンリケ監督の選んだDF陣はCBがラモス、ナチョのマドリーコンビで右SBは本職からサイドを変えたジョニー(ウォルバーハンプトン)、左SBがマルコス・アロンソ。その4人の動き出しの遅さに加え、中盤のブスケツ(バルサ)が不活発だったのもあって、面白いようにイングランドのカウンターがはまっていたんですが、実はスペインがホームゲームでハーフタイムまでに3点も奪われたのはこれが史上初めてだったとか。ただ、それでも「La primera parte, malísima, hay que reconocerlo/ラ・プリメーラ・パルテ、マリシマ、アイ・ケ・レコノセールロ(前半は最悪だったと認めないといけない)」という流れを変えるため、ルイス・エンリケ監督が後半頭から交代カードを切らなかったのにはかなり意外。

▽「選手たちに雷を落とすのが普通だったろうが、元気づけることにした。偉大な代表チームには苦しみながらなるものと言った」そうで、でも結局、スペインが1点を返せたのは11分にサウール(アトレティコ)とイアゴ・アスパス(セルタ)がパコ・アルカセル(ドルトムント)とセバージョス(マドリー)に交代してからでしたけどね。ええ、13分に今季はバルサを離れ、絶好調のアルカセルがアセンシオ(マドリー)の蹴ったCKを敵DF陣のマークから見事に抜け出し、ヘッドで決めたんですが、もしや彼を最初から出していたら、前半が無得点に終わるなんてなかったかもと思ったのは私だけではなかった?

▽その2分後にはロドリゴ(バレンシア)がプレーを始めようとしていたピックフォードからボールを奪い、後ろから体を引っ張られてシュートし損ねたなんてことがあったんですが、「El penalti lo vimos claro, era roja y penalti/エス・ペナルティ・ロ・ビモス・クラーロ、エラ・ロハ・イ・ペナルティ(明らかなペナルティに見えた。あれはレッドカードでPKだよ)」(セバージョス)というスペインサイドの猛抗議にも関わらず、審判からのお咎めはなし。ただ、敵GKが退場していたらどうなっていたかはともかく、後半になってイングランドにカウンターのチャンスを与えなくなったとはいえ、彼らの追加点はロスタイム7分の最後のプレー、セバージョスのクロスをラモスが頭で決めるまで入りませんでしたからねえ。

▽直後にタイムアップとなり、最後は2-3での惜敗となりましたが、この日は「自陣に閉じこもっている訳にはいかなかった。攻めに出て行って楽しんで、プレスをかけて素早くプレーする」というサウスゲート監督の戦略の前に完敗してしまった感もなきにしろあらず。うーん、この試合に勝っていれば、早くもファイアルフォー進出が決まっていたスペインだったんですけどね。おかげで消化試合となるはずだった11月15日のクロアチア戦で勝たないといけなくなったんですが、まあ物を考えよう。ルイス・エンリケ監督も招集メンバーの再検討を示唆していましたし、一応、Bリーグに降格という辱めを受ける可能性だけはなくなったんですから、ここは落ち着いて、2年後のユーロで強さを発揮できるチームを育てていってほしいものです。

▽え、来月になればイスコやカルバハルら、今回負傷で来られなかったマドリー勢もスペイン代表に戻れるため、そんなに心配することはないんじゃないかって?そうなんですが、今はマドリー自体が不調なため、ベティス出資で里帰りとなったセバージョスこそ後半、反撃の起爆剤的な働きを見せたんですが、ラモスやアセシオがパッとしなかったという弊害も。その辺りの選手たちの調子が上向いてくれるかどうかはこの先、1カ月のロペテギ監督の手腕次第かと。もう月曜には結局、ケガはしていないものの、ウェールズ代表のアイルランド戦に出るのを諦めたベイルも帰還。バルデベバス(バラハス空港の近く)で別途、リハビリを始めていますし、火曜からはクロアチアの親善試合を免除されたモドリッチもチームに合流、土曜のレバンテ戦に向けて、ケガの治ったイスコ、マルセロらと共に全体練習に加わっていますしね。

▽一方、火曜の夜にあったネーションズリーグのフランスvsドイツ戦でフル出場したバランとクロースは水曜には戻って来られるはずですが、いやあ、PKでドイツの先制点を挙げたものの、最後は2-1で逆転負けを喫し、レーブ監督がますます危ない状態になっているだけに後者は結構、落ち込んで帰ってくるかも。ちなみにフランスのその2点を挙げたのはグリーズマンで、同点弾はアトレティコの同僚リュカのクロスからヘッドしてのgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)。勝ち越し点はPKからでしたが、これでバロンドール獲得に最後の一押しができたと、当人も気分を良くしてくれば、丁度、9月のparon(パロン/リーガの停止期間)から上向き始めたシメオネ監督のチームにとって、鬼に金棒となる?

▽そのアトレティコでは火曜から、イングランド戦で出場のなかったコケとロドリがマハダオンダ(マドリッド近郊)でのセッションに参加。先週は手術をした父親の付き添いでアルゼンチンに帰っていたシメオネ監督も戻っており、「ボールを失くしたって構わない。Si se pierde, rápido a recuperarla/シー・セ・ピエルデ、ラピド・ア・レクペラールラ(取られたら、すぐ取り返すんだ)」と始終、選手たちを叱咤激励していたとか。更には前日のイングランド戦の影響か、「Si no cerramos la calle por dentro son todo goles!/シー・オ・セラモス・ラ・カジェ・ポル・デントロ・ソン・トードー・ゴーレス(センターへのパスコースを塞がないと全部ゴールになるぞ)」と口を酸っぱくして言っていたそうですが、確かに次はここ3年、負け続けているエスタディオ・デ・ラ・セラミカでのビジャレアル戦ですからね。

▽まずはしっかり守ることが肝要かと思いますが、さて。まだジエゴ・コスタ、ヒメネス、サビッチはリハビリでグラウンドに出ていないものの、一応、土曜までには復帰する見込みのようで、日本に3-4で負けたウルグアイの親善試合に出ていたゴディンも含め、木曜までには各国代表に駆り出されていた選手たちも揃いそうですしね。来週水曜にはCLグループリーグでドルトムント遠征も控えているため、この先、後出しで負傷者が増えていないことを今は祈るばかりでしょうか。

▽そして同じ土曜にはレガネスがバレンシアとアウェイ戦、日曜にはラージョがヘタフェをエスタディオ・バジェカスに迎えてのミニダービーというのが今週末の予定になっていますが、代表選手の少ない弟分たちはそろそろ試合をしたくてウズウズしている頃かと。ちなみに来週は火曜に比較的、チケットの手に入りやすいCLビクトリア・プルゼニ戦がサンティアゴ・ベルナベウで午後9時から開催、翌水曜午後7時からは延期されていたリーガ3節のラージョvsアスレティック戦があるため、マドリッド観光が平日に当たると嘆いていたサッカーファンもスタジアムに行く機会がありますよ。

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