【クラッキーの実況席の裏側】倉敷さんが考える放送界、サッカー協会の問題点は?
2018.03.31 12:30 Sat
▽インターネットでのスポーツ中継が広まり、スマートフォンでのサッカー観戦が可能となるなど、いつでもどこでもサッカーに触れられる時代となった。そんなサッカー中継で欠かせないものの1つが実況だ。白熱した試合を言葉巧みに視聴者に伝え、その場にいるような雰囲気にしてくれる。そんな実況者たちはどんな思いを持って、それを伝えているのだろうか。
――長く実況を続けてこられましたが、今後の目標はあるのでしょうか
「いずれ世界のスタンダードと肩を並べられるレベルになれるように努力を続けることです。力は競技の理解度と比例すると思いますが、それこそキックオフからの数分を見ただけで、その時点での問題点をズバリ指摘できる指導者のレベルにまで到達できたら嬉しいですね。解説者に対しての質問のレベルもグッと変わってきます。実況者の質問のレベルが高ければ中継のレベルも上がるので、もっともっとサッカーを理解したいと思っています」
「サッカー文化を育てる現場にはそれぞれのポジションと役割があり、今はどういうレベルで何が求められているのかを気にしなくてはいけません。僕の周りで考えれば放送局周辺ということになるわけですが、これがどうも落ち着かない。ほんの数年前までは変化もなく住み分けができていたサッカーコンテンツの放映権がここにきて大移動の時期を迎えてしまいました。もちろん僕のような小さな力ではどうすることもできないので、製作サイドのひとりとして、変化していく放送形態の中でどう作り分けをするかということを考えています。」
「例えば、テレビの大画面で観るサッカー中継とスマホで観る中継とは音声に関しては作り分けをしてもいいのでは?と考えます。スマホで見るなら聞いて楽しいラジオ中継的なアプローチをする、大画面ならスパイクのこの面のフェイスを使った技術が光ったね、といった視覚重視のプレー解説、技術解説を中心にするのはどうか?と提案したいですね。」
◆なくならない用語の誤用
――確かに実況を聞いていても同じような方が多いような気がしますね
「歌手の方や落語家の方は同じ楽曲、同じ噺を披露しても個性的ですよね。でないと商売にならない。実況って恐らく“アナウンサー”という言葉に縛られているんです。それもNHKのアナウンサーという品行方正なイメージですね。今やNHKだって個性を表に出している時代ですけど、ただ試合を追えばいいと考える実況者が多い。特にサッカーでは大多数に思えてしまう。不思議ですね。僕が憧れたスポーツの実況者はずっと昔から個性で勝負してきたのに。」
「個性的な表現もどんどん増えたらいいのにと思います。現在使われているサッカー用語を減らしたくはないのですが、実は違和感を覚える言葉もあって悩ましい。例えばPKは獲得するものなのか?“ペナルティ”は罰則です。だから相手の罰則を獲得するという表現はいかがなものか?P Kを与えられました、が正しいのではないかな、といつも疑問に思います。あとはPKを沈めた、も気になるんです。どこに沈むのか?これはカップにボールを沈めたというゴルフ用語から来た誤用でしょうね。同様の誤用は他の競技にもありますよ。プロレスラーはリングに上がる。フィギュアスケートの選手はリンクには上がりません。正しくはリンクに降り立つです。言葉狩りをするつもりはなく他の表現を増やしたいだけなんですが、難しいですね。」
――そういった誤用は確かに見受けられますね
「雑誌やWEB媒体も気をつけてください。ゴールマウスというのはあの四角い枠の中ではなく、シュートが打てる守り手にとって危険な区域のことを言います。キーパーが守っているあのゴールの枠は“マウス=口”に見えますが、違いますからね。ただ言葉は時代と共に変化していくので、時代が受け止めれば誤用も誤用ではなくなるでしょう。本当に“口”と考えれば面白い表現も生まれてくるはずなんですけどね。」
「あと多くの解説者が異なるニュアンスを共有しているのではないかと思われる言葉のひとつに“マリーシア”があります。ブラジルでも南部でしか使わない言葉を、そこの出身であるドゥンガが使ったことで広まりました。“マリーシアがない”という本来の意味は“女性の口説き方も知らないウブな奴”というニュアンスで、“騙す”という意味とは遠いんです。相手の気を引いたり、恋の近道をすることを言うわけで、おそらくドゥンガも“まだまだ青いな”という意味で使いたかったのではないでしょうか。もっと駆け引きをしろってね。」
「世界の言葉を上手に集めて、正しいニュンスで翻訳して、まだ日本にはない考え方を理解していけたらいいですね。そのために実況もたくさん勉強しないといけません。特にこれからのサッカー文化を語り継いでいく新しい実況者はかなり戦術的なことに言及できなくてはならないと思います。そういう部分をこれからサッカーを観始める人に上手に伝えてファンを獲得していく。日本のサッカーは個で足りない部分を組織で補うスタイルなのだから、組織としてのサッカーを語れないとだめですね。」
「現在の日本代表を率いるハリルホジッチ監督についても、どんなサッカーをしているのかわからないから教えてくれ、ではなく自分の意見をまとめた上で、高いレベルの質問をして欲しいとメディアには思います。一番影響力の大きいところ、テレビやスポーツ紙などがわかっていないとたくさんの人には伝わらないんです。彼のサッカーは魅力的ではないけれども、今の批評のされ方はおかしいと思います。もちろん監督も相手を説得する努力が欠けていると思いますけど。」
◆日本サッカー協会に物申す!!

「ワールドカップイヤーだというのに、残念ながら街の話題になっていません。流行語大賞にサッカーの何かがノミネートされてほしいのに、不満です。ピッチ外の話題で恐縮ですが、今、大切なのはワールドカップのプロモーションです。年頭に大きく発信して欲しかったですね。とにかく今は流通イメージがぼんやりしている。日本サッカー協会と広告代理店も既に手を打っているのかも知れませんが、少なくとも僕の近所の一般庶民にはまだ届いていない。近年の歴代監督って、岡ちゃん、ジーコさん、ザックさんって、親しみやすいイメージが流通してサッカーファン以外にも好意的に受け入れられていました。でもハリルホジッチ監督はそうではない。怒っているイメージ?記者会見でも自分の意見を一方的に述べるだけで、記者とのコミュニケーションがとれていない。心の交流が足りないと好意的な記事もなかなか出てこないですよね。ここをサッカー協会や広報はもっと気にするべきでは?と思います。質実剛健でも硬派でもいい。とにかくなにかキャッチーなイメージが欲しい。このままではこの夏一緒に戦い辛いです」
「端から見ていると、監督と協会との距離が気になります。E-1(EAFF E-1サッカー選手権)で惨敗した韓国戦の内容も、そのあとのコメントも、韓国と日本の強いライバル関係を協会はしっかりと監督に説明していたのかな、と感じてしまいました。ただ、今はまだあまり良いイメージはないですが、ロシア大会で決勝トーナメントにまで進出できたらOKなんです。それは、ジーコさんもザックさんもできなかったこと。ワールドカップで勝つための監督、このコピーで丸く収まるかは結果次第なので、なんとか実績をと思いますが、それが叶いそうもないのなら、せめて流通イメージを上げてほしいです。多くのファンに愛された方が良くないですかって、余計な心配をしています。」
「先ほどのE-1にしても、日本開催だったのですから、早くからもっとタダ券をバラ撒けなかったのでしょうか? 事情があっても満席にすることによって、スポンサーも納得させられるし、アジアに向けての画作りという点でも価値があった。監督やチームのモチベーションだって違ったと思います」
「同じE-1を戦ったなでしこジャパンのあのガラガラぶりは可哀想です。特に初日は雨で3000人しか入らなかった。訪れたファンは本物のサポーターばかりでしょう。しかし、試合に関して協会側から発信されたのは、なでしこの試合は内容が良くなかったとか責任もとらせるとかだった。では協会はどれだけの環境を整えてあげたのか。やっているなら僕らももっと報道すべきだし、そこはやっぱりメディアとして是々非々で批判しませんか? もっと一緒に(笑)」
――E-1の女子の取材に行きましたが、本当に日本のサポーターは少なく、決勝では逆に北朝鮮はおそらく朝鮮学校の生徒たちが応援に駆けつけて大声援を送っていたのが印象的でしたね
「どちらがホームなんでしょうね。北朝鮮の子供達はどうしても日本の中では嫌な思いをすることがあるはずですが、それでも学校やグラウンドでは礼儀正しい子ばかり。取材に行った誰からも評判がいい。まとまっていますよね」
「メディアは発信の方法や仕方がどんどん変わっている。テレビが地上波放送してくれたら人気が上がるという時代ではもうありません。近しいメディアから個人のファンを取り込んでいく時代なんです。なでしこの戦いを誰かがレビューやプレビューしたものを協会は公式ページでフォローしたらいいのになと思います。選手のコメントだけがオフィシャルのページにあって、悔しいとか、次につなげられるように頑張るとか、負けたら選手は悔しいし、すまないと言う気持ちはみんな持っているものでしょう。そんなコメントばかりでは建設的な未来には繋がらないですよね」
「サッカーを取り巻くメディアのあり方ってこれじゃいけないと思っているんです。色々な話を聞くことが多いので耳年増になったのか、去年は一生懸命に老害よろしく意見させてもらったんですけど、今年はただプレイヤーとして頑張ろうと思ってます。一兵卒として何か違ったことをしようかなと。変わり者で良い。欅坂46もそう言っていますもんね(笑)」
◆倉敷さんは野球も好き!?
――サッカー以外の実況もやられたと思いますが、その中で改めてやってみたい競技などありますか
「昔、ストックカーレースの中継を担当したんです。面白かった。モーターレースってあらゆるスピードでの優劣なんですよね。3年くらい前にもやはりNHK BSでヨットレースの中継を手伝わせていただいて、こちらはスケールの大きさ、自然と真剣に向き合うことの恐ろしさが印象的でしたね。たくさんの競技を中継して来ましたが、もう一度きちんと一から勉強してみたいのは野球かな。原点回帰ですね。MLBって独特な用語がいっぱいあって面白いんですよ。」
「イチローの守備を”エリア51”と名付けたセンスが好きですね、超常現象が目撃されるラスベガスの上空を”エリア51”と呼びますが、ヒット性のあたりも掴み取ったり、長打を狙えるヒットをアウトにさしてしまうイチローの守備能力と背番号をかけた格好いい言葉です。日本でもかつては”王シフト”とか”高田ファウル”とかありましたよね。言い換えが楽しいんです。サッカーのPK戦でも最初のキッカーをトップバッターという人もいます。野球用語って溶け込んでいるんですよ。ある有名なサッカージャーナリストの方も続投に代わる言葉が見つからないとおっしゃっていました。ちなみにトップバッターはMLBではリードオフマンですね」
――リードオフマンくらいならば日本でも耳にすることは増えてきましたね
「豊かな表現ができると良いですね。野球なら多くの変化球を見分けられるファンがグンと増えたらリテラシーのレベルがひとつ上がったという証明だと思います。最近は球種が多いから、フォーシーム、ツーシームなど僕はそこから勉強し直さないとダメですね。」
◆「まず面白い人間でいたい」
――以前からラジオに戻りたいとおっしゃっていましたが、その気持ちは今も変わらないんですか
「熱に浮かされたように時々思うんです。わあ、もっと勉強しないと!なんて急にどっさり本を買い込んだりしてね。先日もそう思っていたところでした(笑)。自分が満タンでないと自信が持てないんです。語りたいくらいに充実していないとラジオってできない仕事だと思うので、まず勉強してからですね。」
「他人から見て、面白いと言ってもらえる人間でいられたらいいですね。今年はもっとインプットを増やしたい。自分がもし面白い人間でいられたら別な仕事の機会があるかもしれないと思っています。サッカーと一緒ですね。良いプレーをしていれば、他からオファーが来る。引き出しは多い方がいい、でもストロングポイントははっきりさせないといけないでしょうね。」
「93年にJリーグが生まれた頃からサッカーの実況をしています。当時は一番若手だったのに今では自分よりベテランの方にはなかなかお会いしなくなりました。様々なサッカー界の変化も目の当たりにし、まだ大きく変化しています。実況者はやがてスカイプなどのツールで、解説者とは違う場所で中継を行う時代もやってくるでしょうね。まだ引退はしませんけど、新しいステップを踏むであろう後進にエールを送ります。スポーツ実況界にも新しいスターが欲しいですね。前衛か土着か。進化が一番ゆっくりしているのはNHKかな。現在のNHKのサッカー中継スタイルは多分野地(俊二)さんのスタイルですから、もう長く続いてます。起伏の付け方など、どなたもそっくりです。同業者の仕事って気になるものなんですよ」
――この5回のインタビューで本当に勉強になるようなことをお話しいただきました。倉敷さんのように強く自分を持っていらっしゃるのであれば、実況だけでなくメディアとして発信することは考えていないのですか
「編集担当の方がゆっくり育てて下さっているのに甘えてばかりいたものが、もうすぐ発表できるはずです。書下ろしです。表紙だけは最高の出来だと思いますので、その節はよろしくお願いします(笑) 」
▽全5回のインタビューを終え、改めて倉敷さんの魅力を大いに感じた。画一的な中継では面白みに欠けるからこそ、オリジナリティを追い求める。そういった中で、中継では視聴者のリテラシー向上を考え、さら少しでも現地の“空気”に近いものを感じてもらおうとその国の言葉をチョイスして視聴者を楽しませてくれる。
▽そのようなこだわりを持って長年サッカー中継の実況者を務めているのは、サッカーが『好き』だからだろう。サッカーが『好き』だからこそ学び、『好き』だからこそもっと良くしたいと思う。そのような情熱を持ちながら、少しずつ変化を加え、これからも実況席から試合を届けてくれるに違いない。実況者である倉敷さんの思いを感じながら試合を観戦すれば、今まで気づけなかった新たなものが発見できるだろう。
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▽20年以上もアナウンサーとして活躍している“クラッキー”こと倉敷保雄さんのインタビュー連載最終回は、倉敷さん自身の今後の目標や、放送界、サッカー協会への問題提起を語ってもらった。◆サッカーへの恩返しは色々なスタイルがあって良い!!――長く実況を続けてこられましたが、今後の目標はあるのでしょうか
「いずれ世界のスタンダードと肩を並べられるレベルになれるように努力を続けることです。力は競技の理解度と比例すると思いますが、それこそキックオフからの数分を見ただけで、その時点での問題点をズバリ指摘できる指導者のレベルにまで到達できたら嬉しいですね。解説者に対しての質問のレベルもグッと変わってきます。実況者の質問のレベルが高ければ中継のレベルも上がるので、もっともっとサッカーを理解したいと思っています」
「例えば、テレビの大画面で観るサッカー中継とスマホで観る中継とは音声に関しては作り分けをしてもいいのでは?と考えます。スマホで見るなら聞いて楽しいラジオ中継的なアプローチをする、大画面ならスパイクのこの面のフェイスを使った技術が光ったね、といった視覚重視のプレー解説、技術解説を中心にするのはどうか?と提案したいですね。」
「後進のためのアンテナショップになるのも良いかな、と思うんです。海外には詩人のように詠うタイプなど様々な実況スタイルがあります。日本ももっとしなやかでいい。中堅どころの実況者はもうスタイルを固めてしまった印象なので、まだ見ぬ未来の実況者への傾いた道標といった程度でしょうけど、サッカーに対する恩返しとして色々なスタイルを見せてあげるのもアリかな、と思っています。ただ、あの人はまた変なことやってるって感想で終わっちゃったら困るんですけどね(笑)。もっと極端にやってみたら?やればいいじゃん、誰が怒るの? って若者を唆したいですね。まあ、トライ&エラーですから失敗は必ずあるでしょうけど。それでも冒険をお勧めしたいです。」
◆なくならない用語の誤用
――確かに実況を聞いていても同じような方が多いような気がしますね
「歌手の方や落語家の方は同じ楽曲、同じ噺を披露しても個性的ですよね。でないと商売にならない。実況って恐らく“アナウンサー”という言葉に縛られているんです。それもNHKのアナウンサーという品行方正なイメージですね。今やNHKだって個性を表に出している時代ですけど、ただ試合を追えばいいと考える実況者が多い。特にサッカーでは大多数に思えてしまう。不思議ですね。僕が憧れたスポーツの実況者はずっと昔から個性で勝負してきたのに。」
「個性的な表現もどんどん増えたらいいのにと思います。現在使われているサッカー用語を減らしたくはないのですが、実は違和感を覚える言葉もあって悩ましい。例えばPKは獲得するものなのか?“ペナルティ”は罰則です。だから相手の罰則を獲得するという表現はいかがなものか?P Kを与えられました、が正しいのではないかな、といつも疑問に思います。あとはPKを沈めた、も気になるんです。どこに沈むのか?これはカップにボールを沈めたというゴルフ用語から来た誤用でしょうね。同様の誤用は他の競技にもありますよ。プロレスラーはリングに上がる。フィギュアスケートの選手はリンクには上がりません。正しくはリンクに降り立つです。言葉狩りをするつもりはなく他の表現を増やしたいだけなんですが、難しいですね。」
――そういった誤用は確かに見受けられますね
「雑誌やWEB媒体も気をつけてください。ゴールマウスというのはあの四角い枠の中ではなく、シュートが打てる守り手にとって危険な区域のことを言います。キーパーが守っているあのゴールの枠は“マウス=口”に見えますが、違いますからね。ただ言葉は時代と共に変化していくので、時代が受け止めれば誤用も誤用ではなくなるでしょう。本当に“口”と考えれば面白い表現も生まれてくるはずなんですけどね。」
「あと多くの解説者が異なるニュアンスを共有しているのではないかと思われる言葉のひとつに“マリーシア”があります。ブラジルでも南部でしか使わない言葉を、そこの出身であるドゥンガが使ったことで広まりました。“マリーシアがない”という本来の意味は“女性の口説き方も知らないウブな奴”というニュアンスで、“騙す”という意味とは遠いんです。相手の気を引いたり、恋の近道をすることを言うわけで、おそらくドゥンガも“まだまだ青いな”という意味で使いたかったのではないでしょうか。もっと駆け引きをしろってね。」
「世界の言葉を上手に集めて、正しいニュンスで翻訳して、まだ日本にはない考え方を理解していけたらいいですね。そのために実況もたくさん勉強しないといけません。特にこれからのサッカー文化を語り継いでいく新しい実況者はかなり戦術的なことに言及できなくてはならないと思います。そういう部分をこれからサッカーを観始める人に上手に伝えてファンを獲得していく。日本のサッカーは個で足りない部分を組織で補うスタイルなのだから、組織としてのサッカーを語れないとだめですね。」
「現在の日本代表を率いるハリルホジッチ監督についても、どんなサッカーをしているのかわからないから教えてくれ、ではなく自分の意見をまとめた上で、高いレベルの質問をして欲しいとメディアには思います。一番影響力の大きいところ、テレビやスポーツ紙などがわかっていないとたくさんの人には伝わらないんです。彼のサッカーは魅力的ではないけれども、今の批評のされ方はおかしいと思います。もちろん監督も相手を説得する努力が欠けていると思いますけど。」
◆日本サッカー協会に物申す!!

(C)CWS Brains,LTD.
――話にも出ましたが、今の日本代表をどうご覧になられていますか「ワールドカップイヤーだというのに、残念ながら街の話題になっていません。流行語大賞にサッカーの何かがノミネートされてほしいのに、不満です。ピッチ外の話題で恐縮ですが、今、大切なのはワールドカップのプロモーションです。年頭に大きく発信して欲しかったですね。とにかく今は流通イメージがぼんやりしている。日本サッカー協会と広告代理店も既に手を打っているのかも知れませんが、少なくとも僕の近所の一般庶民にはまだ届いていない。近年の歴代監督って、岡ちゃん、ジーコさん、ザックさんって、親しみやすいイメージが流通してサッカーファン以外にも好意的に受け入れられていました。でもハリルホジッチ監督はそうではない。怒っているイメージ?記者会見でも自分の意見を一方的に述べるだけで、記者とのコミュニケーションがとれていない。心の交流が足りないと好意的な記事もなかなか出てこないですよね。ここをサッカー協会や広報はもっと気にするべきでは?と思います。質実剛健でも硬派でもいい。とにかくなにかキャッチーなイメージが欲しい。このままではこの夏一緒に戦い辛いです」
「端から見ていると、監督と協会との距離が気になります。E-1(EAFF E-1サッカー選手権)で惨敗した韓国戦の内容も、そのあとのコメントも、韓国と日本の強いライバル関係を協会はしっかりと監督に説明していたのかな、と感じてしまいました。ただ、今はまだあまり良いイメージはないですが、ロシア大会で決勝トーナメントにまで進出できたらOKなんです。それは、ジーコさんもザックさんもできなかったこと。ワールドカップで勝つための監督、このコピーで丸く収まるかは結果次第なので、なんとか実績をと思いますが、それが叶いそうもないのなら、せめて流通イメージを上げてほしいです。多くのファンに愛された方が良くないですかって、余計な心配をしています。」
「先ほどのE-1にしても、日本開催だったのですから、早くからもっとタダ券をバラ撒けなかったのでしょうか? 事情があっても満席にすることによって、スポンサーも納得させられるし、アジアに向けての画作りという点でも価値があった。監督やチームのモチベーションだって違ったと思います」
「同じE-1を戦ったなでしこジャパンのあのガラガラぶりは可哀想です。特に初日は雨で3000人しか入らなかった。訪れたファンは本物のサポーターばかりでしょう。しかし、試合に関して協会側から発信されたのは、なでしこの試合は内容が良くなかったとか責任もとらせるとかだった。では協会はどれだけの環境を整えてあげたのか。やっているなら僕らももっと報道すべきだし、そこはやっぱりメディアとして是々非々で批判しませんか? もっと一緒に(笑)」
――E-1の女子の取材に行きましたが、本当に日本のサポーターは少なく、決勝では逆に北朝鮮はおそらく朝鮮学校の生徒たちが応援に駆けつけて大声援を送っていたのが印象的でしたね
「どちらがホームなんでしょうね。北朝鮮の子供達はどうしても日本の中では嫌な思いをすることがあるはずですが、それでも学校やグラウンドでは礼儀正しい子ばかり。取材に行った誰からも評判がいい。まとまっていますよね」
「メディアは発信の方法や仕方がどんどん変わっている。テレビが地上波放送してくれたら人気が上がるという時代ではもうありません。近しいメディアから個人のファンを取り込んでいく時代なんです。なでしこの戦いを誰かがレビューやプレビューしたものを協会は公式ページでフォローしたらいいのになと思います。選手のコメントだけがオフィシャルのページにあって、悔しいとか、次につなげられるように頑張るとか、負けたら選手は悔しいし、すまないと言う気持ちはみんな持っているものでしょう。そんなコメントばかりでは建設的な未来には繋がらないですよね」
「サッカーを取り巻くメディアのあり方ってこれじゃいけないと思っているんです。色々な話を聞くことが多いので耳年増になったのか、去年は一生懸命に老害よろしく意見させてもらったんですけど、今年はただプレイヤーとして頑張ろうと思ってます。一兵卒として何か違ったことをしようかなと。変わり者で良い。欅坂46もそう言っていますもんね(笑)」
◆倉敷さんは野球も好き!?
――サッカー以外の実況もやられたと思いますが、その中で改めてやってみたい競技などありますか
「昔、ストックカーレースの中継を担当したんです。面白かった。モーターレースってあらゆるスピードでの優劣なんですよね。3年くらい前にもやはりNHK BSでヨットレースの中継を手伝わせていただいて、こちらはスケールの大きさ、自然と真剣に向き合うことの恐ろしさが印象的でしたね。たくさんの競技を中継して来ましたが、もう一度きちんと一から勉強してみたいのは野球かな。原点回帰ですね。MLBって独特な用語がいっぱいあって面白いんですよ。」
「イチローの守備を”エリア51”と名付けたセンスが好きですね、超常現象が目撃されるラスベガスの上空を”エリア51”と呼びますが、ヒット性のあたりも掴み取ったり、長打を狙えるヒットをアウトにさしてしまうイチローの守備能力と背番号をかけた格好いい言葉です。日本でもかつては”王シフト”とか”高田ファウル”とかありましたよね。言い換えが楽しいんです。サッカーのPK戦でも最初のキッカーをトップバッターという人もいます。野球用語って溶け込んでいるんですよ。ある有名なサッカージャーナリストの方も続投に代わる言葉が見つからないとおっしゃっていました。ちなみにトップバッターはMLBではリードオフマンですね」
――リードオフマンくらいならば日本でも耳にすることは増えてきましたね
「豊かな表現ができると良いですね。野球なら多くの変化球を見分けられるファンがグンと増えたらリテラシーのレベルがひとつ上がったという証明だと思います。最近は球種が多いから、フォーシーム、ツーシームなど僕はそこから勉強し直さないとダメですね。」
◆「まず面白い人間でいたい」
――以前からラジオに戻りたいとおっしゃっていましたが、その気持ちは今も変わらないんですか
「熱に浮かされたように時々思うんです。わあ、もっと勉強しないと!なんて急にどっさり本を買い込んだりしてね。先日もそう思っていたところでした(笑)。自分が満タンでないと自信が持てないんです。語りたいくらいに充実していないとラジオってできない仕事だと思うので、まず勉強してからですね。」
「他人から見て、面白いと言ってもらえる人間でいられたらいいですね。今年はもっとインプットを増やしたい。自分がもし面白い人間でいられたら別な仕事の機会があるかもしれないと思っています。サッカーと一緒ですね。良いプレーをしていれば、他からオファーが来る。引き出しは多い方がいい、でもストロングポイントははっきりさせないといけないでしょうね。」
「93年にJリーグが生まれた頃からサッカーの実況をしています。当時は一番若手だったのに今では自分よりベテランの方にはなかなかお会いしなくなりました。様々なサッカー界の変化も目の当たりにし、まだ大きく変化しています。実況者はやがてスカイプなどのツールで、解説者とは違う場所で中継を行う時代もやってくるでしょうね。まだ引退はしませんけど、新しいステップを踏むであろう後進にエールを送ります。スポーツ実況界にも新しいスターが欲しいですね。前衛か土着か。進化が一番ゆっくりしているのはNHKかな。現在のNHKのサッカー中継スタイルは多分野地(俊二)さんのスタイルですから、もう長く続いてます。起伏の付け方など、どなたもそっくりです。同業者の仕事って気になるものなんですよ」
――この5回のインタビューで本当に勉強になるようなことをお話しいただきました。倉敷さんのように強く自分を持っていらっしゃるのであれば、実況だけでなくメディアとして発信することは考えていないのですか
「編集担当の方がゆっくり育てて下さっているのに甘えてばかりいたものが、もうすぐ発表できるはずです。書下ろしです。表紙だけは最高の出来だと思いますので、その節はよろしくお願いします(笑) 」
▽全5回のインタビューを終え、改めて倉敷さんの魅力を大いに感じた。画一的な中継では面白みに欠けるからこそ、オリジナリティを追い求める。そういった中で、中継では視聴者のリテラシー向上を考え、さら少しでも現地の“空気”に近いものを感じてもらおうとその国の言葉をチョイスして視聴者を楽しませてくれる。
▽そのようなこだわりを持って長年サッカー中継の実況者を務めているのは、サッカーが『好き』だからだろう。サッカーが『好き』だからこそ学び、『好き』だからこそもっと良くしたいと思う。そのような情熱を持ちながら、少しずつ変化を加え、これからも実況席から試合を届けてくれるに違いない。実況者である倉敷さんの思いを感じながら試合を観戦すれば、今まで気づけなかった新たなものが発見できるだろう。
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