【クラッキーの実況席の裏側】倉敷さんの実況のこだわり。視聴者に伝えるための学ぶ姿勢
2018.02.28 12:00 Wed
▽インターネットでのスポーツ中継が広まり、スマートフォンでのサッカー観戦が可能となるなど、いつでもどこでもサッカーに触れられる時代となった。そんなサッカー中継で欠かせないものの1つが実況だ。白熱した試合を言葉巧みに視聴者に伝え、その場にいるような雰囲気にしてくれる。そんな実況者たちはどんな思いを持って、それを伝えているのだろうか。
▽20年以上もアナウンサーとして活躍している“クラッキー”こと倉敷保雄さんのインタビュー連載第4回は、倉敷さんが実況者として視聴者に伝える際のこだわりや、解説者とのコミュニケーションについて語ってもらった。
◆プレーは貶しても選手は貶さない
――20年以上も実況を務めてきて、視聴者に伝える際のこだわりはありますか
「明日学校とか会社で話せるような話題にしてあげたいなとはいつも思いますね。あと気をつけていることは選手を貶さないことです。選手のプレーは貶すけど、選手自体を貶すことはしないようにしようとしています。ただ、非紳士的な行いやラフプレーに関しては言います。そこに情状酌量の余地はあるのか、精神的にコントロールできなかっただけなのかということに関しては見極めなくてはいけないですし、そのためには(実況者も)努力をしなければいけないと思うんですよね」
「どんな努力をするかと言うと、その競技の理解度やその選手、チームへの理解度を深めること。そうしておかないと思い切った発言ができないです。こういう選手ではないと言い切れるのか、この選手は今日は良くないと言うぐらいに留めるのか。程度の問題になってくるんですけどね。ただ汚いプレーは誰でも見れば分かると思うんですけど、なぜ彼がそれをしたのか、彼はどのくらいのコンディションでやっているのか、使われてどのくらいなのか、他の選手とのコンビネーションとかチームとしての、組織としての連帯的なものが今日はできていたのか、相棒に責任はないのか、あるいは相手方に責任はないのかということに関しては、そのプレーや試合を真摯に観ていたかとか、予習をしてきたかとかそういうところが問われると思うので、選手に関して何か言う時にそこは注意しようと思っています」
――チームに対しても同じように理解度を深めてから発言されているのですか
「そのチームが今どういう状況に置かれているのか、優勝争いをしているのか、ヨーロッパのコンペティションを争っているのか。Jリーグの中であれば、ライバルとの対戦なのか、中何日なのか、気温が何度なのか、湿度は何%の状況の中でやっているのかとか、相手のコンディションはどうなんだとか。キックオフの時間だって2時間違えば全然違ってきますから、そういうことも加味して近代サッカーと言うもの中で判断しています」
「あとは知らなくても良い情報を知ってしまった時に面倒臭いですね。この監督は四面楚歌なんだとか。あーここはラインがあってこれが親分なのかとかを知ってしまった時に、これはどこまで喋って良いんでしょうかというのはあって(笑)そういうのはかえってJの方が入ってくるので、Jの難しさでもあります。これは言わない方が良いですよねとか(笑)言えないこともいっぱい出てきたりとか、難しいです」
――そういう言えないようなことを思わず言ってしまったことは
「ないです。誰かのせいにしたことはあると思います。『って言ってましたっけ?』って(笑) そこは理論武装というか転び方です。転ぶことはどうしてもあるんですよ生放送だから。転んだ時にどうするかが大事だと。転び方が大事。大ケガをしない転び方をどうするかということはどんな時でも大切なことなので、すぐに立ち上がれる転び方なのか、打撲してしまうのかというのは大事だと思いますけどね。処世術として」
◆解説者から学ぶこと
――実況者にとって、解説者とのコミュニケーションは大事な要素だと思いますが、その中で気を使われていることはありますか
「その人がDF出身なのか、指導者にすでになっている人なのか、FWなのか、どんなチームでやってきたのかということはかなり気にします。例えばセンターバックだった人が解説だとして、スイーパータイプだったのか、ストッパータイプだったのかということを考えますね。だとするとこの動きはどうなんだというのは聞いてみます。ただその中でもその人が現役を退いた後もどれだけサッカーを勉強していたかということはなんとなく分かったりします。なのでこれ以上聞いてはいけないとか、これ以上喋らせてはいけないのではないかというのはちょっとありますね。まあでもつまらない試合だったらいっぱい喋らせてしまった方が、時間が進むのかなとかずるいことも考えたりすることはあるんですけども(笑) この人が喋りたいことは何だということを考えます。今この人は何を喋りたいのかなということを聞いてあげたいなといつも思っていますね」
「解説者に対しての気の使い方ってそういうことです。今この人は喋りたいんだろうか。よく人が喋っているのを遮ってまで喋る実況ってあるんですけど、僕はあまり好きじゃない。だってゴールは観たら分かるし、なぜゴールと言わなくてはいけないのかとか必要を僕は感じないので。後から『綺麗でしたね』って言えばいい。もちろん遮らなくてはいけない時もありますよ。すごく綺麗で美味しいプレーってなれば、すごい綺麗なパスだったからこれはゴールになったら見逃したくないなという時ってあったりして」
「逆にやっちゃいけないのは、解説の人が右サイドバックのことをずっと話していたとしても、それに付き合っていて左から上がってきちゃってどうするのかなって時に、左が上がってきてますと言うとします。でも結局右が起点になってゴールになったら視聴者に対してあっち向いてホイしたことになるんですよ。観るべきところを逸らした。だから左が上がっていますとか、左が手を挙げていますとか言うアナウンサーも結構いるんですけど、それは危険だっていつも僕は思うんです」
「手を挙げている選手のところが必ず起点になる保証はないし、そこにボールが来る保証もないし、嘘かもしれないし。それに簡単に騙されてはダメでしょって思うんですよね。だから解説が観ていることに関しては、常にリスペクトを払いつつ、自分のサッカー感というものを研ぎ澄まさないと、どれがゴールに直結するプレーかということは見逃さないで、そこのベクトルさえ観ていれば外れていても構わない。あっち向いてホイはしないということが大事。左がオープンスペースとかって言ったってオープンスペースに何の意味があるの? 近代サッカーにおいて、そこを使うことによってやり直しになるケースがいっぱいあるじゃないですか。狭い方で密集しているところを抜いていった方がゴールに近いケースもある訳じゃないですか。オープンに出すことによってはい最初からってなっちゃうじゃないですか。だからサッカーも変わってきています」
◆実況も解説も先を読む力と長いスパンでの記憶力が大事
「先を読まなくてはいけないんです。本当は。でもそれも色々な経験をさせてもらったからです。色々な解説の方と一緒にいて勉強になりますいつも。この仕事をしていて良いなと思うのは、僕もサッカーが好きなんですね。サッカーが好きで観ていて、自分はこのくらいまで観られて、このくらいまでまだ観られていないんだなって限界も分かっています。そういう時に今こういうふうになっている時の疑問みたいなものは、視聴者の代わりに聞くケースと自分が知りたくて聞くケースがあるんですよ。自分が知りたいケースを聞ける訳ですよ。これ得ですよ。今何でこうなったんですかって自分がすごく知りたいから、視聴者じゃなくて自分が知りたいから聞くことってあって勉強になりますね。知識になっていくと思うからそれって必ずメモります。こういうことか〜とか、でも同じ質問をすると違う答えが返ってくることもあるんですよ。ここもまた違う考え方があるのか、深いものだな〜とか考えながらね。それは実況していて楽しいです。誰よりも先に聞ける。こんな面白い仕事なかなかないですね。サッカー好きであれば」
――そこもまた解説者の力量によりますね
「この人はこれが得意だからとか、これは苦手だからとかあります。でも良い解説の人ってプレーを3つ、4つ戻れる。凄みを感じますね。だからその人が何か違うことを喋っているうちに1つシュートまでいってしまったとする。喋り終わってから僕は戻るんですよ。今シュートにいったのってボランチの人がルーズ奪われましたよねって言うと、そこから戻った解説をしてくれる。そういうレベルの高い人が何人かいます」
――つまり先を読むだけでなく、長いスパンで状況を覚えていないといけないのですね
「現場に行った時って日本の解説者は大抵レベル高いですよ。パッと見て何が起こっているか分かるんです。気づくのはアナウンサーよりも多分5分くらい早いです。以前、チャンピオンズリーグの中継をしに行った時に城福さんとザッケローニさんとやったことがあるんですよ。パッと見て僕はザッケローニさんが指摘したことが何のことかわからなくて。『今中盤でこういうことが起こっている』って言ったんですよ。観ていてもそんな感じしないんですよね。で、2分後に城福さんが気づいてその2分後に俺が気づいたんですよ。あっこのタイムラグがサッカーの観る力の差なんだなって思って。『えっこんなに早くザックさん気づいていたんだ』と思って『はぁ〜敵わないね』って思って。何のことかわからなかったんですよ。城福さんにしても2分差があるんですよ。僕なんてそこから2分遅いんですよ(笑) そっかーこれのことだったのかって。そっかーここが機能していないのかってパッと分かるんですね。この辺の凄さというのはまだまだ勉強になりますね」
「後から分析するのとは違ってリアルタイムでそういうサゼッションをしてあげることによって、視聴者の目線とか考え方を変えられる余地っていうのが解説の方によっていくらでもあるんだなという可能性の話です。良い解説がいなきゃ無理です。競技の面白さを伝えるのは無理ですね。アナウンサーにできることはたかが知れています。聞きやすくとか情報を与えてあげるとか。ボールホルダーをきちっと追ってあげるとか、時間を守るとかそういうことですね」
◆倉敷さんが考える実況の魅力とは
――20年以上続けてこられて、改めて喋る魅力とは
「何を喋ってもいいんだということが楽しいですね。やっぱり。それが電波に乗っているというのが楽しいです僕は。サッカーって何を喋っても良い競技だと思うんですよ。その地域のパンの話、ビールの話、文化の話、今日のプレーの話、選手に対するエピソードの話だって良いし、チームとして何を目標にしているかっていう話でも良いし、サポーター席の話だってしても構わない。その中で今日観たプレーが何かの絵に似ているとか、何かの音楽に似ているとか、何かの料理に似ているとか、こんな香りのするゲームだったとか、こんな味付の料理を思い出させるものだったとか、自分なりに表現して伝えるということがある程度許されている。1つのものに対して、良い物を紹介したり、こういう考え方はどうでしょうとか、こういう感想を持つことも楽しいんじゃないですかということをずっと進めています。デパートの試食販売的な面白さが常にあります。目の前に常に次のゲームがあるというのは、選手にとっても幸せなことだと思うんですけど、中継する側にとっても本当に幸せなことで、今日は楽しいかなって思いながらいつも何時間もかけて準備をするんですよ1試合にかけて。頭に入っていくうちにビジョンができてくるんですね。その多分何倍ものことを監督とかコーチはやっているんですよ、きっと。そこに近づいてやっていくためにはどうしたら良いか考えていますね。また生放送の時と、生放送でもオフチューブの現場で作っていない時は作り方が違ってしまいます。特にJリーグ本当に難しいのは、注意力が妨げられることが多いことです」
「要するに下手くそなディレクターもいるんですよ。間違った指示をしたりとか、時間が違っていたりとか、余計なお知らせ原稿が入っていたりとか余計なお知らせ原稿の字が間違っていたりとか、日本語が違っていたりとか結構あるんですよ(笑)集中したいのに。さっき言ったように解説と違うところを観ているし、モニターを観てくれよって。モニターばっかり追っていてもしょうがないけど、モニターにもある程度寄り添ってあげないと困るじゃないですか。さっきのプレーの解説でイニエスタがこういうプレーをしていると画面に出ているのに、すでにリスタートしているからしょうがなかったとしても、すでにリスタートしてボールはこうで誰かなと言われたって観ている人は、イニエスタのプレーを観ているわけじゃないですか」
「そこはある程度寄り添ってあげないと、そこはじゃあ逆に現場がリスタートしたから追わなきゃいけないのかって話ですよ。そこは見極めですね。こんなプレー別に言わなくて良いでしょとかいう時は言わなくて良いし。ただ、スイッチャーが下手なケースもあるんです。リスタートからゴールが決まるシーンってすごく最近多くてそこでリプレイを入れるかなっていうのはあるんですよ。あーあやっちゃったって。起点が全然分かりませんって(笑)どこからですかねとか言って。そういうのはありますね」
◆実況での失敗談
――中継の現場でハマった時もあればハマらなかった時もありますよね
「両方あります。ハマった時は面白いですね。現場でハマった時ってカメラとスイッチャーとの一体感というのは、痺れるぐらいの快感がありますね。こうきて、こうなったらこうですよねってなった時は本当にこう握りこぶしを作っちゃうくらいにやったーって感じがあって、オフチューブでやっていても『ここってこの選手を使わなくて良いんですかね』、『監督は何考えているんですかね』って言った途端にそれが映ると、あー気持ち通ってるねって思ったりすることがあるんですよね。逆にハマらない時って『この選手出さなくて良いんですかね』って言っているのに結局出さないで、カメラも抜いてくれなくて、視聴者の人は停滞しているゲームだから温存している選手を使って欲しいのになんで?って。監督は指示しているから抜いて欲しいのに全く抜かない。なんだこいつらって思ったりすることが現場でもオフチューブでもあって、全然気持ち通ってないなって思って。もっと気持ちが通わないっていうのは、ハイライトシーンで結局ここが起点でこれが良かったですと言った部分が全く入ってなくて、『ここゴールに関係ないけどここがポイントだったって言いましたよね』って解説が言っていて、『なんで入れないんですかね? 信用されていないんですかね』って話になることもあって。それはチームとしての限界を感じるというか絶望感を感じる瞬間で、あーこのスタッフともうやりたくないとか、今日誰だ編集とか見たりすることもあるんですけどね。当たり外れというのはありますね。向こうにしてみてもあるのかもしれないですけどね」
「逆に迷惑をかけたりすることもあります。体調が悪かったりとか。これ本当にまずいなと思ったことがあったのは、2回ぐらいあったかな。1回はすごく頭痛がして、目が見えなくなってしまったことがあったんですよ。それってしばらく経つと治るんですけど、その時にこれはまずいなと思って危ない中継をしていたことがあったのは、かなりスリリングなことでした。それ以来薬は持ち運ぶようにしていますけどね」
「もう一つは薬のことです。Jリーグで絶対やめようと思ったことなんですけど、僕は花粉症なんですね。それがかなりひどい時期があって、かなりきつい薬をお医者さんに処方してもらったことがあったんですよ。まさか生中継の現場で眠くなることはないだろうと思っていたら眠くなったんですね。目の前でJリーグの試合をしているのにあー起きてられないと思って、『えーこれ像でも眠りますよ』っていう強い薬でもういくらガーって引っ掻いてもダメなんですよね。寝る寝る寝るみたいな(笑)。これは本当に危ないなと思って本当に歯を食いしばって中継したことがあって、あれ以来花粉で鼻垂らしていても垂らしている方が良いと思って、その薬は止めましたね。その日に捨てました(笑)。これのせいで苦労したと。先生が悪い訳じゃないけどこれ飲んじゃダメなんだって。本当に気をつけた方が良いですよ。寝る薬ってあるんですね。でも実況席にいるって極度な緊張なんですよ。それでも寝ることがあるんだと思って。薬って怖いなって思って。それは失敗談ですね」
「実況してきた数がいっぱいあるから失敗も多いんです。言い過ぎちゃった時とかね。頑張って欲しい故に言い過ぎちゃったというのはあって、それは反省ですね。そういう時の方がかえって帰ってネット見たりしますね。あーやっぱり怒られてるとか。普段は全然気にしないです。良くても悪くても気にしないですけど、自分が悪かったんだろうなって思う時は見てあーやっぱ怒ってる。ごめんなさいって。自分に罰を与えるというか。それはありますね。あーごめんって。どっかで謝りますという感じはありますね。うまくいったなって時は見ない」
――ユーザーからの評判は解説者も気にされているでしょうね
「それは気にしていますよ。解説の方の方がおそらく色々な評判とか気にしているので割とあれですね、盛り上げを必要とする人はいますね。手がかかるというか。子供みたいな人だなって思って。この人は上げていかなきゃダメなんだって。あとは情報を入れておいてあげないといけない人もいます。勉強してこないからこの情報を入れておこうと思ってわざと喋っておくと、放送の中でそれを言うのでうんシメシメって(笑) 誰とは絶対に言えないですけどいますね。入れておいた方が良いなって。背景でこういうことありますよねとかって言っておくと、さも自分が気づいたかのように言うので面白くて」
▽サッカーに対するあくなき探求心をもつ倉敷さん。「自分が知りたいケースを聞ける訳ですよ」と語る倉敷さんの目は少年のように輝いていた。それだけ好きなサッカーだからこそ、もっとちゃんと視聴者に伝えたい。そのために、20年以上続けてきた実況でもまだまだ多くを学び、吸収している。その精神は我々も学ばなければいけないところだと痛感した。最終回となる次回は、倉敷さんが考える今後の活動について語ってもらった。
▽20年以上もアナウンサーとして活躍している“クラッキー”こと倉敷保雄さんのインタビュー連載第4回は、倉敷さんが実況者として視聴者に伝える際のこだわりや、解説者とのコミュニケーションについて語ってもらった。
◆プレーは貶しても選手は貶さない
――20年以上も実況を務めてきて、視聴者に伝える際のこだわりはありますか
「明日学校とか会社で話せるような話題にしてあげたいなとはいつも思いますね。あと気をつけていることは選手を貶さないことです。選手のプレーは貶すけど、選手自体を貶すことはしないようにしようとしています。ただ、非紳士的な行いやラフプレーに関しては言います。そこに情状酌量の余地はあるのか、精神的にコントロールできなかっただけなのかということに関しては見極めなくてはいけないですし、そのためには(実況者も)努力をしなければいけないと思うんですよね」
――チームに対しても同じように理解度を深めてから発言されているのですか
「そのチームが今どういう状況に置かれているのか、優勝争いをしているのか、ヨーロッパのコンペティションを争っているのか。Jリーグの中であれば、ライバルとの対戦なのか、中何日なのか、気温が何度なのか、湿度は何%の状況の中でやっているのかとか、相手のコンディションはどうなんだとか。キックオフの時間だって2時間違えば全然違ってきますから、そういうことも加味して近代サッカーと言うもの中で判断しています」
「近代サッカーで言えば栄養であったり、物理理学であったりとかそういうことも含めて色々な形で分析されながら行われているものですから、そこのところも踏まえてどういう状況でできているのか。あと踏みこめるのであれば、予算がどうで、ここはちゃんとフィジコがいるのかとか、食事がちゃんとできている環境なのかとか。そういうこともJ2レベルになれば出てきますよ。この予算じゃな〜っていうのって。『6億で1年は無理でしょ〜』とか。結構それは出てきてしまうので、『バスで帰るのも自腹だよね』とかも出てくるので、そこは割増したり割り引いたりとか、逆に良い環境にいる人のところはこれだけの環境が整えられているのにというのがあったり、勉強していれば言いたくなりますね。それをひけらかすのではなくて、ある程度は選手を守ってあげたいなという気持ちはありますね」
「あとは知らなくても良い情報を知ってしまった時に面倒臭いですね。この監督は四面楚歌なんだとか。あーここはラインがあってこれが親分なのかとかを知ってしまった時に、これはどこまで喋って良いんでしょうかというのはあって(笑)そういうのはかえってJの方が入ってくるので、Jの難しさでもあります。これは言わない方が良いですよねとか(笑)言えないこともいっぱい出てきたりとか、難しいです」
――そういう言えないようなことを思わず言ってしまったことは
「ないです。誰かのせいにしたことはあると思います。『って言ってましたっけ?』って(笑) そこは理論武装というか転び方です。転ぶことはどうしてもあるんですよ生放送だから。転んだ時にどうするかが大事だと。転び方が大事。大ケガをしない転び方をどうするかということはどんな時でも大切なことなので、すぐに立ち上がれる転び方なのか、打撲してしまうのかというのは大事だと思いますけどね。処世術として」
◆解説者から学ぶこと
――実況者にとって、解説者とのコミュニケーションは大事な要素だと思いますが、その中で気を使われていることはありますか
「その人がDF出身なのか、指導者にすでになっている人なのか、FWなのか、どんなチームでやってきたのかということはかなり気にします。例えばセンターバックだった人が解説だとして、スイーパータイプだったのか、ストッパータイプだったのかということを考えますね。だとするとこの動きはどうなんだというのは聞いてみます。ただその中でもその人が現役を退いた後もどれだけサッカーを勉強していたかということはなんとなく分かったりします。なのでこれ以上聞いてはいけないとか、これ以上喋らせてはいけないのではないかというのはちょっとありますね。まあでもつまらない試合だったらいっぱい喋らせてしまった方が、時間が進むのかなとかずるいことも考えたりすることはあるんですけども(笑) この人が喋りたいことは何だということを考えます。今この人は何を喋りたいのかなということを聞いてあげたいなといつも思っていますね」
「解説者に対しての気の使い方ってそういうことです。今この人は喋りたいんだろうか。よく人が喋っているのを遮ってまで喋る実況ってあるんですけど、僕はあまり好きじゃない。だってゴールは観たら分かるし、なぜゴールと言わなくてはいけないのかとか必要を僕は感じないので。後から『綺麗でしたね』って言えばいい。もちろん遮らなくてはいけない時もありますよ。すごく綺麗で美味しいプレーってなれば、すごい綺麗なパスだったからこれはゴールになったら見逃したくないなという時ってあったりして」
「逆にやっちゃいけないのは、解説の人が右サイドバックのことをずっと話していたとしても、それに付き合っていて左から上がってきちゃってどうするのかなって時に、左が上がってきてますと言うとします。でも結局右が起点になってゴールになったら視聴者に対してあっち向いてホイしたことになるんですよ。観るべきところを逸らした。だから左が上がっていますとか、左が手を挙げていますとか言うアナウンサーも結構いるんですけど、それは危険だっていつも僕は思うんです」
「手を挙げている選手のところが必ず起点になる保証はないし、そこにボールが来る保証もないし、嘘かもしれないし。それに簡単に騙されてはダメでしょって思うんですよね。だから解説が観ていることに関しては、常にリスペクトを払いつつ、自分のサッカー感というものを研ぎ澄まさないと、どれがゴールに直結するプレーかということは見逃さないで、そこのベクトルさえ観ていれば外れていても構わない。あっち向いてホイはしないということが大事。左がオープンスペースとかって言ったってオープンスペースに何の意味があるの? 近代サッカーにおいて、そこを使うことによってやり直しになるケースがいっぱいあるじゃないですか。狭い方で密集しているところを抜いていった方がゴールに近いケースもある訳じゃないですか。オープンに出すことによってはい最初からってなっちゃうじゃないですか。だからサッカーも変わってきています」
◆実況も解説も先を読む力と長いスパンでの記憶力が大事

(C)CWS Brains,LTD.
――実況者の方は先を読む力も大事ですね「先を読まなくてはいけないんです。本当は。でもそれも色々な経験をさせてもらったからです。色々な解説の方と一緒にいて勉強になりますいつも。この仕事をしていて良いなと思うのは、僕もサッカーが好きなんですね。サッカーが好きで観ていて、自分はこのくらいまで観られて、このくらいまでまだ観られていないんだなって限界も分かっています。そういう時に今こういうふうになっている時の疑問みたいなものは、視聴者の代わりに聞くケースと自分が知りたくて聞くケースがあるんですよ。自分が知りたいケースを聞ける訳ですよ。これ得ですよ。今何でこうなったんですかって自分がすごく知りたいから、視聴者じゃなくて自分が知りたいから聞くことってあって勉強になりますね。知識になっていくと思うからそれって必ずメモります。こういうことか〜とか、でも同じ質問をすると違う答えが返ってくることもあるんですよ。ここもまた違う考え方があるのか、深いものだな〜とか考えながらね。それは実況していて楽しいです。誰よりも先に聞ける。こんな面白い仕事なかなかないですね。サッカー好きであれば」
――そこもまた解説者の力量によりますね
「この人はこれが得意だからとか、これは苦手だからとかあります。でも良い解説の人ってプレーを3つ、4つ戻れる。凄みを感じますね。だからその人が何か違うことを喋っているうちに1つシュートまでいってしまったとする。喋り終わってから僕は戻るんですよ。今シュートにいったのってボランチの人がルーズ奪われましたよねって言うと、そこから戻った解説をしてくれる。そういうレベルの高い人が何人かいます」
――つまり先を読むだけでなく、長いスパンで状況を覚えていないといけないのですね
「現場に行った時って日本の解説者は大抵レベル高いですよ。パッと見て何が起こっているか分かるんです。気づくのはアナウンサーよりも多分5分くらい早いです。以前、チャンピオンズリーグの中継をしに行った時に城福さんとザッケローニさんとやったことがあるんですよ。パッと見て僕はザッケローニさんが指摘したことが何のことかわからなくて。『今中盤でこういうことが起こっている』って言ったんですよ。観ていてもそんな感じしないんですよね。で、2分後に城福さんが気づいてその2分後に俺が気づいたんですよ。あっこのタイムラグがサッカーの観る力の差なんだなって思って。『えっこんなに早くザックさん気づいていたんだ』と思って『はぁ〜敵わないね』って思って。何のことかわからなかったんですよ。城福さんにしても2分差があるんですよ。僕なんてそこから2分遅いんですよ(笑) そっかーこれのことだったのかって。そっかーここが機能していないのかってパッと分かるんですね。この辺の凄さというのはまだまだ勉強になりますね」
「後から分析するのとは違ってリアルタイムでそういうサゼッションをしてあげることによって、視聴者の目線とか考え方を変えられる余地っていうのが解説の方によっていくらでもあるんだなという可能性の話です。良い解説がいなきゃ無理です。競技の面白さを伝えるのは無理ですね。アナウンサーにできることはたかが知れています。聞きやすくとか情報を与えてあげるとか。ボールホルダーをきちっと追ってあげるとか、時間を守るとかそういうことですね」
◆倉敷さんが考える実況の魅力とは
――20年以上続けてこられて、改めて喋る魅力とは
「何を喋ってもいいんだということが楽しいですね。やっぱり。それが電波に乗っているというのが楽しいです僕は。サッカーって何を喋っても良い競技だと思うんですよ。その地域のパンの話、ビールの話、文化の話、今日のプレーの話、選手に対するエピソードの話だって良いし、チームとして何を目標にしているかっていう話でも良いし、サポーター席の話だってしても構わない。その中で今日観たプレーが何かの絵に似ているとか、何かの音楽に似ているとか、何かの料理に似ているとか、こんな香りのするゲームだったとか、こんな味付の料理を思い出させるものだったとか、自分なりに表現して伝えるということがある程度許されている。1つのものに対して、良い物を紹介したり、こういう考え方はどうでしょうとか、こういう感想を持つことも楽しいんじゃないですかということをずっと進めています。デパートの試食販売的な面白さが常にあります。目の前に常に次のゲームがあるというのは、選手にとっても幸せなことだと思うんですけど、中継する側にとっても本当に幸せなことで、今日は楽しいかなって思いながらいつも何時間もかけて準備をするんですよ1試合にかけて。頭に入っていくうちにビジョンができてくるんですね。その多分何倍ものことを監督とかコーチはやっているんですよ、きっと。そこに近づいてやっていくためにはどうしたら良いか考えていますね。また生放送の時と、生放送でもオフチューブの現場で作っていない時は作り方が違ってしまいます。特にJリーグ本当に難しいのは、注意力が妨げられることが多いことです」
「要するに下手くそなディレクターもいるんですよ。間違った指示をしたりとか、時間が違っていたりとか、余計なお知らせ原稿が入っていたりとか余計なお知らせ原稿の字が間違っていたりとか、日本語が違っていたりとか結構あるんですよ(笑)集中したいのに。さっき言ったように解説と違うところを観ているし、モニターを観てくれよって。モニターばっかり追っていてもしょうがないけど、モニターにもある程度寄り添ってあげないと困るじゃないですか。さっきのプレーの解説でイニエスタがこういうプレーをしていると画面に出ているのに、すでにリスタートしているからしょうがなかったとしても、すでにリスタートしてボールはこうで誰かなと言われたって観ている人は、イニエスタのプレーを観ているわけじゃないですか」
「そこはある程度寄り添ってあげないと、そこはじゃあ逆に現場がリスタートしたから追わなきゃいけないのかって話ですよ。そこは見極めですね。こんなプレー別に言わなくて良いでしょとかいう時は言わなくて良いし。ただ、スイッチャーが下手なケースもあるんです。リスタートからゴールが決まるシーンってすごく最近多くてそこでリプレイを入れるかなっていうのはあるんですよ。あーあやっちゃったって。起点が全然分かりませんって(笑)どこからですかねとか言って。そういうのはありますね」
◆実況での失敗談
――中継の現場でハマった時もあればハマらなかった時もありますよね
「両方あります。ハマった時は面白いですね。現場でハマった時ってカメラとスイッチャーとの一体感というのは、痺れるぐらいの快感がありますね。こうきて、こうなったらこうですよねってなった時は本当にこう握りこぶしを作っちゃうくらいにやったーって感じがあって、オフチューブでやっていても『ここってこの選手を使わなくて良いんですかね』、『監督は何考えているんですかね』って言った途端にそれが映ると、あー気持ち通ってるねって思ったりすることがあるんですよね。逆にハマらない時って『この選手出さなくて良いんですかね』って言っているのに結局出さないで、カメラも抜いてくれなくて、視聴者の人は停滞しているゲームだから温存している選手を使って欲しいのになんで?って。監督は指示しているから抜いて欲しいのに全く抜かない。なんだこいつらって思ったりすることが現場でもオフチューブでもあって、全然気持ち通ってないなって思って。もっと気持ちが通わないっていうのは、ハイライトシーンで結局ここが起点でこれが良かったですと言った部分が全く入ってなくて、『ここゴールに関係ないけどここがポイントだったって言いましたよね』って解説が言っていて、『なんで入れないんですかね? 信用されていないんですかね』って話になることもあって。それはチームとしての限界を感じるというか絶望感を感じる瞬間で、あーこのスタッフともうやりたくないとか、今日誰だ編集とか見たりすることもあるんですけどね。当たり外れというのはありますね。向こうにしてみてもあるのかもしれないですけどね」
「逆に迷惑をかけたりすることもあります。体調が悪かったりとか。これ本当にまずいなと思ったことがあったのは、2回ぐらいあったかな。1回はすごく頭痛がして、目が見えなくなってしまったことがあったんですよ。それってしばらく経つと治るんですけど、その時にこれはまずいなと思って危ない中継をしていたことがあったのは、かなりスリリングなことでした。それ以来薬は持ち運ぶようにしていますけどね」
「もう一つは薬のことです。Jリーグで絶対やめようと思ったことなんですけど、僕は花粉症なんですね。それがかなりひどい時期があって、かなりきつい薬をお医者さんに処方してもらったことがあったんですよ。まさか生中継の現場で眠くなることはないだろうと思っていたら眠くなったんですね。目の前でJリーグの試合をしているのにあー起きてられないと思って、『えーこれ像でも眠りますよ』っていう強い薬でもういくらガーって引っ掻いてもダメなんですよね。寝る寝る寝るみたいな(笑)。これは本当に危ないなと思って本当に歯を食いしばって中継したことがあって、あれ以来花粉で鼻垂らしていても垂らしている方が良いと思って、その薬は止めましたね。その日に捨てました(笑)。これのせいで苦労したと。先生が悪い訳じゃないけどこれ飲んじゃダメなんだって。本当に気をつけた方が良いですよ。寝る薬ってあるんですね。でも実況席にいるって極度な緊張なんですよ。それでも寝ることがあるんだと思って。薬って怖いなって思って。それは失敗談ですね」
「実況してきた数がいっぱいあるから失敗も多いんです。言い過ぎちゃった時とかね。頑張って欲しい故に言い過ぎちゃったというのはあって、それは反省ですね。そういう時の方がかえって帰ってネット見たりしますね。あーやっぱり怒られてるとか。普段は全然気にしないです。良くても悪くても気にしないですけど、自分が悪かったんだろうなって思う時は見てあーやっぱ怒ってる。ごめんなさいって。自分に罰を与えるというか。それはありますね。あーごめんって。どっかで謝りますという感じはありますね。うまくいったなって時は見ない」
――ユーザーからの評判は解説者も気にされているでしょうね
「それは気にしていますよ。解説の方の方がおそらく色々な評判とか気にしているので割とあれですね、盛り上げを必要とする人はいますね。手がかかるというか。子供みたいな人だなって思って。この人は上げていかなきゃダメなんだって。あとは情報を入れておいてあげないといけない人もいます。勉強してこないからこの情報を入れておこうと思ってわざと喋っておくと、放送の中でそれを言うのでうんシメシメって(笑) 誰とは絶対に言えないですけどいますね。入れておいた方が良いなって。背景でこういうことありますよねとかって言っておくと、さも自分が気づいたかのように言うので面白くて」
▽サッカーに対するあくなき探求心をもつ倉敷さん。「自分が知りたいケースを聞ける訳ですよ」と語る倉敷さんの目は少年のように輝いていた。それだけ好きなサッカーだからこそ、もっとちゃんと視聴者に伝えたい。そのために、20年以上続けてきた実況でもまだまだ多くを学び、吸収している。その精神は我々も学ばなければいけないところだと痛感した。最終回となる次回は、倉敷さんが考える今後の活動について語ってもらった。
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