【座間健司の現地発! スペインの今】スペインのワールドカップ出場権剥奪は悪い冗談
2018.01.19 16:00 Fri
▽スペイン代表のピッチ内の話題とピッチ外のそれは対照的だ。
▽ロシアでのワールドカップ本大会を約半年後に控え、国民の代表に対する期待は高い。2017年12月1日に行われたワールドカップ組み合わせ抽選会後にスペイン紙「マルカ」が行ったインターネット投票では約4万人の投票の内、実に29パーセントの人がスペイン優勝を予想し、24パーセントのブラジル、23パーセントのドイツよりも多く票を集めた。2014年ワールドカップでグループリーグ敗退、2016年欧州選手権では決勝トーナメント1回戦敗退とメジャー大会3連覇の後に国際大会では惨敗しているが、ロシアでは優勝候補にふさわしい戦力を持ち、すばらしいパフォーマンスを示すだろうと国民の胸は高鳴っている。その期待は単なる願望を込めた希望的な観測ではない。裏付けがある。
▽スペインは、ワールドカップ予選で10試合9勝1分36得点3失点という文句のつけようがない結果を残した。内容でも、3-0で完勝したホームのイタリア戦などスペインのアイデンティティとも言える高いスキルを土台にしたボールポゼッションを高めるスタイルを体現し、観衆を魅了した。2016年の欧州選手権後に就任したフレン・ロペテギ監督は、イスコ、チアゴ・アルカンタラ、デ・ヘアなど彼がかつて率いた2013年U-21欧州選手権のメンバーとセルヒオ・ラモス、ピケ、イニエスタらメジャー大会制覇の経験のある選手たちを融合させ、スペインを再興した。スペイン代表は、ピッチ内ではこれ以上ないほど見事な形でプロジェクトが進められている。
▽その一方でピッチ外は、華麗な代表チームとはほど遠い醜態を露呈した。
▽決勝トーナメントに進出しても準決勝まではドイツ、ブラジルと当たらないというスペインにとっては不満がないワールドカップ組み合わせ抽選会から2週間後、国際サッカー連盟(FIFA)が本大会出場権を剥奪する可能性が報じられた。
▽事の発端は、昨夏までさかのぼる。
▽7月18日にスペインサッカー連盟(RFEF)会長アンヘル・マリア・ビジャール、彼の息子のゴルカ・ビジャール、同連盟の経営部門副会長フアン・パドロン、テネリフェ島連盟秘書官ラモン・エルナンデスの4人がスペイン治安警備隊に逮捕された。逮捕の動機は、不正な取引、書類、汚職、資金横領の疑いだ。同日にマドリード郊外にある同連盟の施設が同会長の立ち会いのもと、捜索された。
▽ビジャールは8期連続で会長選挙に当選し、約30年間同連盟の会長の座に就いていた。現役時代にスペイン代表に選出され、アスレティック・ビルバオで活躍したビジャールは、FIFAとUEFAの副会長も兼任するサッカー界の権力者だ。逮捕された息子は、弁護士だが、父親の後ろ盾もあったのだろう。南米サッカー連盟(CONMEBOL)の役員を務めていた。彼らはスペイン代表の国際親善試合の利益を不当に自分たちの懐に入れ、そして不正に資金を回し、地方の各連盟の会長選挙での票を買収したという疑いがかけられた。
▽高い地位に長くおり、魔が差したのか。もしくはあまりにも長いので、そういう組織が構築されてしまったのか。
▽前人未到のメジャー大会3連覇を達成したスペイン代表は人気が高く、親善試合の需要は高くなり、スペイン代表は親善試合1試合につき、最高で300万ユーロ(約3億9000万円)のギャラを手にしていた。同国の治安警備隊は、2010年から2013年の間に北米、南米で行われた親善試合10試合で不正があったのではないかと捜査している。つまりビジャールらは、スペインの黄金期を利用し、私腹を肥やしたと疑われている。
▽逮捕されたビジャールは2週間勾留されたが、30万ユーロ(約4000万円)の保釈金を払い、出所した。FIFAとUEFAの副会長を辞任したが、スペインサッカー連盟からは会長の資格停止処分を受けているだけ。そして本人は横領などの不正を否定し続けている。ビジャールの逮捕を受け、同国の政府の機関であるスポーツ評議会(CSD)が、同連盟に対して、会長選挙のやり直しを要求した。しかし、それがFIFAからは政治介入と見なされ、ワールドカップ出場権剥奪の可能性があると報じられたのだ。
▽ビジャールは12月18日に記者会見を開き、声高に政府を批判した。
「スペインがワールドカップに行かなければ、政府の責任になるだろう」
「留置所には戻らないだろう。悪いことはしていない」
▽国民の大半もそう思っているに違いない。
▽ビジャールの会見が掲載された「マルカ」の紙面にはイタリアからの寄稿の囲み記事があり、「ビジャールはイタリア人に希望を与えている」とタイトルがつけられていた。皮肉だ。本人は否定するが、スペイン国民の大半はビジャールを汚職をした政治家と同列と見なしている。
▽そして12月28日付の「マルカ」にはこんなタイトルの記事が掲載された。
「ビジャールがビデオアシスタトレフェリーのチーフになることで、和平に合意」
▽ビデオアシスタントレフェリーは、リーガ・エスパニョーラでは今シーズンはまだ導入されていないが、来シーズンから採用されることが決まっている。そんな新設される機関の役職が与えられることになることで、ビジャールもそれに納得し、同国連盟会長から退くというものだった。つまりビジャールにとってあの会見は交渉のカードだったわけだ。FIFAでも副会長だっただけに、ワールドカップ出場権剥奪というのもビジャールが保身のために起こしたものだったかもしれない。逮捕されてもなおビジャールは、いまだに権力や地位を欲しているのだろう。政治風刺など笑い話が好きなスペイン人が、こぞって酒の肴にしそうな悪い冗談がまた生まれた。
座間健司(ざま・けんじ)
1980年7月25日生まれ、東京都出身。2002年、東海大学文学部在学中から「フットサルマガジンピヴォ!」の編集を務め、卒業後もそのまま「フットサルマガジンピヴォ!」編集部に入社。2004年夏に渡西し、2012年よりフットサルを中心にフリーライター&フォトグラファーとして活動を始める。
▽ロシアでのワールドカップ本大会を約半年後に控え、国民の代表に対する期待は高い。2017年12月1日に行われたワールドカップ組み合わせ抽選会後にスペイン紙「マルカ」が行ったインターネット投票では約4万人の投票の内、実に29パーセントの人がスペイン優勝を予想し、24パーセントのブラジル、23パーセントのドイツよりも多く票を集めた。2014年ワールドカップでグループリーグ敗退、2016年欧州選手権では決勝トーナメント1回戦敗退とメジャー大会3連覇の後に国際大会では惨敗しているが、ロシアでは優勝候補にふさわしい戦力を持ち、すばらしいパフォーマンスを示すだろうと国民の胸は高鳴っている。その期待は単なる願望を込めた希望的な観測ではない。裏付けがある。
▽スペインは、ワールドカップ予選で10試合9勝1分36得点3失点という文句のつけようがない結果を残した。内容でも、3-0で完勝したホームのイタリア戦などスペインのアイデンティティとも言える高いスキルを土台にしたボールポゼッションを高めるスタイルを体現し、観衆を魅了した。2016年の欧州選手権後に就任したフレン・ロペテギ監督は、イスコ、チアゴ・アルカンタラ、デ・ヘアなど彼がかつて率いた2013年U-21欧州選手権のメンバーとセルヒオ・ラモス、ピケ、イニエスタらメジャー大会制覇の経験のある選手たちを融合させ、スペインを再興した。スペイン代表は、ピッチ内ではこれ以上ないほど見事な形でプロジェクトが進められている。
▽その一方でピッチ外は、華麗な代表チームとはほど遠い醜態を露呈した。
▽決勝トーナメントに進出しても準決勝まではドイツ、ブラジルと当たらないというスペインにとっては不満がないワールドカップ組み合わせ抽選会から2週間後、国際サッカー連盟(FIFA)が本大会出場権を剥奪する可能性が報じられた。
▽事の発端は、昨夏までさかのぼる。
▽7月18日にスペインサッカー連盟(RFEF)会長アンヘル・マリア・ビジャール、彼の息子のゴルカ・ビジャール、同連盟の経営部門副会長フアン・パドロン、テネリフェ島連盟秘書官ラモン・エルナンデスの4人がスペイン治安警備隊に逮捕された。逮捕の動機は、不正な取引、書類、汚職、資金横領の疑いだ。同日にマドリード郊外にある同連盟の施設が同会長の立ち会いのもと、捜索された。
▽ビジャールは8期連続で会長選挙に当選し、約30年間同連盟の会長の座に就いていた。現役時代にスペイン代表に選出され、アスレティック・ビルバオで活躍したビジャールは、FIFAとUEFAの副会長も兼任するサッカー界の権力者だ。逮捕された息子は、弁護士だが、父親の後ろ盾もあったのだろう。南米サッカー連盟(CONMEBOL)の役員を務めていた。彼らはスペイン代表の国際親善試合の利益を不当に自分たちの懐に入れ、そして不正に資金を回し、地方の各連盟の会長選挙での票を買収したという疑いがかけられた。
▽高い地位に長くおり、魔が差したのか。もしくはあまりにも長いので、そういう組織が構築されてしまったのか。
▽前人未到のメジャー大会3連覇を達成したスペイン代表は人気が高く、親善試合の需要は高くなり、スペイン代表は親善試合1試合につき、最高で300万ユーロ(約3億9000万円)のギャラを手にしていた。同国の治安警備隊は、2010年から2013年の間に北米、南米で行われた親善試合10試合で不正があったのではないかと捜査している。つまりビジャールらは、スペインの黄金期を利用し、私腹を肥やしたと疑われている。
▽ビジャールは12月18日に記者会見を開き、声高に政府を批判した。
「スペインがワールドカップに行かなければ、政府の責任になるだろう」
「留置所には戻らないだろう。悪いことはしていない」
▽ビジャールは政府の政治介入が悪いと同国首相ラホイの名を挙げた。その他にもスペインプロリーグ機構(LFP)会長のテバスなど多くの人を批評し、自身の潔白を訴えている。その会見を受けたスポーツ評議会の長官ホセ・ラモン・レテは「法律の責任を果たすことはFIFAも理解するだろう」とコメントしている。スペインプロリーグ機構会長テバスも「政府を支持すべき」と話した。スペインの政党「ポデモス」の党首パブロ・イグレシアスはこの件について「スペインサッカーにはビジャールがいない方がいい」と言及した。
▽国民の大半もそう思っているに違いない。
▽ビジャールの会見が掲載された「マルカ」の紙面にはイタリアからの寄稿の囲み記事があり、「ビジャールはイタリア人に希望を与えている」とタイトルがつけられていた。皮肉だ。本人は否定するが、スペイン国民の大半はビジャールを汚職をした政治家と同列と見なしている。
▽そして12月28日付の「マルカ」にはこんなタイトルの記事が掲載された。
「ビジャールがビデオアシスタトレフェリーのチーフになることで、和平に合意」
▽ビデオアシスタントレフェリーは、リーガ・エスパニョーラでは今シーズンはまだ導入されていないが、来シーズンから採用されることが決まっている。そんな新設される機関の役職が与えられることになることで、ビジャールもそれに納得し、同国連盟会長から退くというものだった。つまりビジャールにとってあの会見は交渉のカードだったわけだ。FIFAでも副会長だっただけに、ワールドカップ出場権剥奪というのもビジャールが保身のために起こしたものだったかもしれない。逮捕されてもなおビジャールは、いまだに権力や地位を欲しているのだろう。政治風刺など笑い話が好きなスペイン人が、こぞって酒の肴にしそうな悪い冗談がまた生まれた。
座間健司(ざま・けんじ)
1980年7月25日生まれ、東京都出身。2002年、東海大学文学部在学中から「フットサルマガジンピヴォ!」の編集を務め、卒業後もそのまま「フットサルマガジンピヴォ!」編集部に入社。2004年夏に渡西し、2012年よりフットサルを中心にフリーライター&フォトグラファーとして活動を始める。
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