【座間健司の現地発! スペインの今】カタルーニャの独立を他州はどう見ているのか?
2017.12.04 16:30 Mon
▽バルセロナの中心街は、日曜日だというのに多くの人で賑わっている。普段なら日曜は休業だが、書き入れ時のクリマスに向けて、12月は百貨店、ショップが開いている。プレゼントが入った袋を持った人の頭上には、クリスマスのイルミネーションが輝いている。いつもの師走だが、例年とは異なる風景もある。街を行き交う人の中に、黄色のリボンを胸につけている人が目立つ。黄色のリボンは、マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督も10月下旬頃から毎試合、胸につけている。10月16日にスペイン裁判所は、カタルーニャ州の独立を模索する組織「カタルーニャ国民会議」代表のジョルディ・サンチェスと「オムニム・クルトゥラル」の会長ジョルディ・クイシャルトの2人を扇動罪容疑で拘束した。「ジョルディたちに自由を」黄色のリボンは独立運動を扇動した政治犯として投獄された2人のジョルディの保釈と無罪を、そして自由を訴えるキャンペーンの象徴となった。11月2日に裁判所は、独立宣言の翌日にはブリッセルに飛んでいた州政府の元首相ら5人に逮捕状を請求し、副首相ら州政府の元幹部ら8人を拘束した。今では彼らの釈放と自由を訴える意味もある。
▽12月21日にカタルーニャ州議会選挙が行われる。ブリュッセルに滞在する元首相ら州政府主要役職らも選挙に立候補した。10月1日の強行した住民投票では投票率が約40パーセントで、そのうち90パーセント以上が独立支持と州政府は発表した。独立に反対する人は違憲の上で行われたものと理解しており、投票に行っていない。よって12月の州議会選挙は史上最高の投票率になるだろうと予想する声が多い。なぜなら独立に反対の人が、独立不支持の政党に票を投じると推測されるからだ。独立派が今まで大きな声を出していたが、独立反対派もスペイン国旗を掲げて、大規模なデモを行うなどついに主張を始めた。10月8日にバルセロナで行われたスペイン結束を訴えかける大規模なデモにはスペインプロリーグ機構(LFP)のハビエル・テバス会長も参加した。
▽独立反対のボリュームは、なぜこれまで小さかったのか。ひとつの要因として挙げられるのが、反対を支持すれば、かつて独裁でカタルーニャ自治州を弾圧したフランシスコ・フランコの思想、つまりファシズムに思想が近いフランキスモを支持と混同されるため言いにくかった。公言できなかった。「独立反対=ファシズム」ではない。主義、主張、思想、言論、信仰に自由はあって当然だ。独立派が言う自由は、あって然るべきだと考えているが、スペインからは独立したくないと考えている。だが、独立を主張する人の中には「独立反対=ファシズム」と短絡的に結びつける人がいる。またバルセロナには仕事を求めて、移住してきたアンダルシア州や他のスペインの地域にルーツがあるカタルーニャ人も多い。カタルーニャ人と言っても、ルーツはそれぞれだ。今まで黙っていた独立反対派の彼らの声が、12月21日に行われるカタルーニャ州議会選挙では今まで以上に反映されるだろうと予想されている。
▽カタルーニャ州独立問題は、国民を辟易とさせた。住民投票が強行されてから、国内はこの話題一色だ。バレンシア州の友人たちとこのテーマについて話せば「本当にしつこい」「面倒だよ」という意見は多く、独立を声高に求めるカタルーニャ人をまるでクレーマーのように冷めた目で見る人もいる。
▽どこの国でも同じだが、スペインにも各報道機関には編集方針という名の色がつく。スポーツ紙で言えば、その立場は鮮明だ。レアル・マドリード寄りの「マルカ」「アス」があり、バルセロナ寄りの「ムンド・デポルティーボ」「スポルト」があり、バレンシアは「スーペル・デポルテ」があり、セビージャ、ベティスには「エスタディオ・デポルティーボ」が存在する。政治報道も同じだ。中央政府寄り、カタルーニャ州政府寄りのメディアが存在し、互いが互いに自分たちに有益になるようなニュースを報じる。同じ物事でもアングルを変えて伝える。世論調査では自分たちの不利な数字は発表しない。デモの参加者の数もメディアによって違うのはもはや当たり前だ。自己批判をしない中央政府や州政府の政治家と同様のことを報道機関もやっている。ただ自分たちの主張を貫き通すだけで、何の解決策も見出そうとしない。問題はそんな情報を受け取る投票権を持つ人にまでその姿勢が伝播していることだ。独立反対派の人は自分たちの耳触りのいい中央政府寄りの報道だけを聞き、独立派の人は気持ちよく、かつ独立に奮い立たせるカタルーニャ州政府寄りのニュースだけを読んでいる。「ほら、こんなことを書いてあるよ」とニュースページを見せると決まって「どこの記事だ」とメディア名を訊かれる。情報過多の21世紀において、全ての情報を取り込んで、自分なりに見極めるリテラシーが必要なのだが、ほとんどの人は情報の取捨選択に疲れてしまったのか、自分の好きなメディアしか読まない。そんな他人の意見を尊重しない構図を憂い、心を痛めている友人もいた。
▽カタルーニャ独立と同時にバルセロナのリーガ離脱の可能性も併せて報じられている。では、彼らの最大のライバルであるレアル・マドリードは、このニュースをどう見ているのか。フロレンティーノ・ペレス会長のコメントがスペインデジタル新聞「エル・エスパニョール」の引用として、10月18日のスペイン紙「スポルト」に載っていた。
「カタルーニャなしのスペイン、バルサがいないリーガも考慮していない。ただ考えたことがないことを答える力を私は持っていない」
▽スペイン代表でプレーするピケについてはこう持論を述べている。
「自分が答えるのはふさわしくないと思うが、代表にはそのチームを誇りに思っている選手が行くべき場所で、彼らは結束し、いい雰囲気をつくらなければいけない。最近のスペイン代表の試合では、私にはそういうチームに見えた。ワールドカップ予選を勝ち抜いた。今あるチームをさらに強くしていかなければいけない」
▽さすが敏腕経営者であり、クラブの歴史に名を残す会長だ。波風が立ち、メディアが喜ぶようなコメントを避けている。10月29日にレアル・マドリードはジローナとアウェーゲームを戦った。ジローナは住民投票を強行した前州政府首相の出身地であり、かつては市長も務めた。カタルーニャの中で随一の独立意識が高い地域だ。ゆえにスタジアムは異様な雰囲気になるだろうとメディアは懸念したが、レアル・マドリードに対して、特に危険な事態は起こらなかった。スペイン紙「マルカ」の電子版が試合前にレアル・マドリードのバスが無事に会場に到着したと報じるとそのニュースのコメント欄には「そうやって事態を深刻化させようとあおるのがこういうニュースを報じるメディアだ」と書かれていた。中には気づいている人はいる。試合はクラブ史上初めて今シーズン1部を戦うジローナが、昨季王者に勝利した。するとブリッセルに滞在する前首相はすかさず「世界のビッククラブのひとつに対するジローナの勝利は、多くの状況に対するひとつの模範だ」とツイートした。フットボールはこうやって政治に利用される。カタルーニャ州政府だけではない。中央政府も含めて、こういう政治家の姿勢が未曾有の混乱を生み出す一因となった。
座間健司(ざま・けんじ)
1980年7月25日生まれ、東京都出身。2002年、東海大学文学部在学中から「フットサルマガジンピヴォ!」の編集を務め、卒業後もそのまま「フットサルマガジンピヴォ!」編集部に入社。2004年夏に渡西し、2012年よりフットサルを中心にフリーライター&フォトグラファーとして活動を始める。
▽12月21日にカタルーニャ州議会選挙が行われる。ブリュッセルに滞在する元首相ら州政府主要役職らも選挙に立候補した。10月1日の強行した住民投票では投票率が約40パーセントで、そのうち90パーセント以上が独立支持と州政府は発表した。独立に反対する人は違憲の上で行われたものと理解しており、投票に行っていない。よって12月の州議会選挙は史上最高の投票率になるだろうと予想する声が多い。なぜなら独立に反対の人が、独立不支持の政党に票を投じると推測されるからだ。独立派が今まで大きな声を出していたが、独立反対派もスペイン国旗を掲げて、大規模なデモを行うなどついに主張を始めた。10月8日にバルセロナで行われたスペイン結束を訴えかける大規模なデモにはスペインプロリーグ機構(LFP)のハビエル・テバス会長も参加した。
▽独立反対のボリュームは、なぜこれまで小さかったのか。ひとつの要因として挙げられるのが、反対を支持すれば、かつて独裁でカタルーニャ自治州を弾圧したフランシスコ・フランコの思想、つまりファシズムに思想が近いフランキスモを支持と混同されるため言いにくかった。公言できなかった。「独立反対=ファシズム」ではない。主義、主張、思想、言論、信仰に自由はあって当然だ。独立派が言う自由は、あって然るべきだと考えているが、スペインからは独立したくないと考えている。だが、独立を主張する人の中には「独立反対=ファシズム」と短絡的に結びつける人がいる。またバルセロナには仕事を求めて、移住してきたアンダルシア州や他のスペインの地域にルーツがあるカタルーニャ人も多い。カタルーニャ人と言っても、ルーツはそれぞれだ。今まで黙っていた独立反対派の彼らの声が、12月21日に行われるカタルーニャ州議会選挙では今まで以上に反映されるだろうと予想されている。
▽カタルーニャ州独立問題は、国民を辟易とさせた。住民投票が強行されてから、国内はこの話題一色だ。バレンシア州の友人たちとこのテーマについて話せば「本当にしつこい」「面倒だよ」という意見は多く、独立を声高に求めるカタルーニャ人をまるでクレーマーのように冷めた目で見る人もいる。
▽どこの国でも同じだが、スペインにも各報道機関には編集方針という名の色がつく。スポーツ紙で言えば、その立場は鮮明だ。レアル・マドリード寄りの「マルカ」「アス」があり、バルセロナ寄りの「ムンド・デポルティーボ」「スポルト」があり、バレンシアは「スーペル・デポルテ」があり、セビージャ、ベティスには「エスタディオ・デポルティーボ」が存在する。政治報道も同じだ。中央政府寄り、カタルーニャ州政府寄りのメディアが存在し、互いが互いに自分たちに有益になるようなニュースを報じる。同じ物事でもアングルを変えて伝える。世論調査では自分たちの不利な数字は発表しない。デモの参加者の数もメディアによって違うのはもはや当たり前だ。自己批判をしない中央政府や州政府の政治家と同様のことを報道機関もやっている。ただ自分たちの主張を貫き通すだけで、何の解決策も見出そうとしない。問題はそんな情報を受け取る投票権を持つ人にまでその姿勢が伝播していることだ。独立反対派の人は自分たちの耳触りのいい中央政府寄りの報道だけを聞き、独立派の人は気持ちよく、かつ独立に奮い立たせるカタルーニャ州政府寄りのニュースだけを読んでいる。「ほら、こんなことを書いてあるよ」とニュースページを見せると決まって「どこの記事だ」とメディア名を訊かれる。情報過多の21世紀において、全ての情報を取り込んで、自分なりに見極めるリテラシーが必要なのだが、ほとんどの人は情報の取捨選択に疲れてしまったのか、自分の好きなメディアしか読まない。そんな他人の意見を尊重しない構図を憂い、心を痛めている友人もいた。
▽カタルーニャ独立と同時にバルセロナのリーガ離脱の可能性も併せて報じられている。では、彼らの最大のライバルであるレアル・マドリードは、このニュースをどう見ているのか。フロレンティーノ・ペレス会長のコメントがスペインデジタル新聞「エル・エスパニョール」の引用として、10月18日のスペイン紙「スポルト」に載っていた。
「カタルーニャなしのスペイン、バルサがいないリーガも考慮していない。ただ考えたことがないことを答える力を私は持っていない」
▽スペイン代表でプレーするピケについてはこう持論を述べている。
▽さすが敏腕経営者であり、クラブの歴史に名を残す会長だ。波風が立ち、メディアが喜ぶようなコメントを避けている。10月29日にレアル・マドリードはジローナとアウェーゲームを戦った。ジローナは住民投票を強行した前州政府首相の出身地であり、かつては市長も務めた。カタルーニャの中で随一の独立意識が高い地域だ。ゆえにスタジアムは異様な雰囲気になるだろうとメディアは懸念したが、レアル・マドリードに対して、特に危険な事態は起こらなかった。スペイン紙「マルカ」の電子版が試合前にレアル・マドリードのバスが無事に会場に到着したと報じるとそのニュースのコメント欄には「そうやって事態を深刻化させようとあおるのがこういうニュースを報じるメディアだ」と書かれていた。中には気づいている人はいる。試合はクラブ史上初めて今シーズン1部を戦うジローナが、昨季王者に勝利した。するとブリッセルに滞在する前首相はすかさず「世界のビッククラブのひとつに対するジローナの勝利は、多くの状況に対するひとつの模範だ」とツイートした。フットボールはこうやって政治に利用される。カタルーニャ州政府だけではない。中央政府も含めて、こういう政治家の姿勢が未曾有の混乱を生み出す一因となった。
座間健司(ざま・けんじ)
1980年7月25日生まれ、東京都出身。2002年、東海大学文学部在学中から「フットサルマガジンピヴォ!」の編集を務め、卒業後もそのまま「フットサルマガジンピヴォ!」編集部に入社。2004年夏に渡西し、2012年よりフットサルを中心にフリーライター&フォトグラファーとして活動を始める。
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