【六川亨の日本サッカーの歩み】石川直宏の引退試合に思うこと

2017.12.04 15:30 Mon
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▽先週末は慌ただしい日々が続いた。まず1日深夜、ロシアW杯の組分け抽選会があり、日本はコロンビア、セネガル、ポーランドとグループリーグを戦うことが決まった。第4シードということもあり、どこのグループに入っても苦戦は免れないものの、ベストではないがベターなグループだと思う。こちらについては、また別の機会に感想を書きたい。

▽そして2日はJ1リーグの最終戦。川崎Fが大宮に5-0と大勝し、鹿島が磐田と引き分けたため、川崎Fのリーグ初優勝が決まった。これまでシルバーコレクターに甘んじていた川崎Fがタイトルを獲得したことで、ルヴァン杯を制したC大阪も含め、Jリーグには新しい風が吹いてきたことが予感される。

▽そして3日はJ1昇格プレーオフで名古屋が福岡と引き分け、1年でのJ1昇格を決めた。J3でも秋田が初優勝を飾り、2位の栃木がJ2復帰を果たすなど、全国各地で様々なドラマがあった。そうした中で、2日と3日はFC東京の石川直宏の引退試合を取材した。

▽石川が横浜FMからFC東京に移籍したのは2002年のことだった。小学6年生の時に開幕したJリーグを国立で観戦し、「選手は何を考え、どんな思いでプレーしているのか知りたくなった」ことでプロのサッカー選手になることが夢になったという。その夢を叶えたものの、当時の横浜FMでは出番も限られていた。
▽そんな石川に声を掛けたのが、2001年にアルゼンチンで開催されたワールドユースを視察した原博実だった。原はFC東京の監督に就任すると石川にオファーを出す。迷っている石川の背中を押したのが、チームメイトの松田直樹(故人)だった。「東京でいまのプレーを続けていたらチームの顔になれる。チームの象徴として戦うことができる」と言われたため、完全移籍を決断した。

▽そして移籍した3日後の2002年4月27日、駒沢で行われたナビスコ杯初戦の清水戦で、44分にケリーのゴールをアシストする。
▽それから16年、FC東京一筋にプレーを続けたが、右膝前十字靭帯、椎間板ヘルニア、左膝前十字靭帯と相次ぐ負傷に見舞われ、日常生活で階段の上り下りにも苦労する生活を強いられた。「朝、起きてみないと膝の状態はわからない」という毎日ながら、ここ2年間はリハビリの日々を続け、ようやく昨シーズン、J3の試合に2試合ほど交代出場できるまで復活した。

▽そんな石川が現役引退を決断したのは今年の8月2日、奇しくも2年前のフランクフルト戦で左膝を負傷した日であり、奥さんの誕生日でもあった。引退試合はJ1最終節、12月2日のG大阪戦と、翌日のJ3C大阪戦。G大阪戦にはスタメンで出場し57分プレーした。不思議に「朝起きたら膝に痛みはなかった」と言う。そして「憧れのピッチにいるが、こんなに素晴しい、パワーのある場所とは知らなかった。全力でプレーできたことは誇りに思います」と、幼い頃からの夢を叶えてプロになれたことの感慨を口にした。

▽さらに翌3日のC大阪戦では後半37分から試合に出場。対戦相手のリザーブには「負けたくない1人だったし、本当に嫌な相手だった。彼の良さはポテンシャルを感じたし、ずる賢さ、クレバーなところ。本当に嫌な相手だった」という、かつてのチームメイトの茂庭がいた。

▽石川がピッチに入っても、C大阪ベンチに動きはない。するとFC東京のサポーターから「茂庭コール」が起こった。その雰囲気は、サッカー場といよりプロレス会場に近い。そして41分、茂庭がピッチに入った。

▽試合は43分に石川の左CKからFC東京が追加点を奪い、これが決勝点となって2-1と有終の美を飾った。試合後のセレモニーで石川は、「駒沢のアシストで始まり、駒沢のアシストで終われた」と自身のサッカー人生を振り返った。これも何かの縁なのだろう。

▽川崎Fの劇的な初優勝の陰で、1人のサッカー選手が注目を集めることなく引退したが、最後の勇姿を見られたことは幸せだった。駒沢には田中隼磨、塩田、権田、阿部らかつてのチームメイトや友人が駆けつけたことからも、石川の人柄を物語っていると言えよう。

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