【六川亨の日本サッカー見聞録】退場者を間違える誤審に改めて主審の苦労を痛感

2017.09.21 21:00 Thu
Getty Images
▽今年から開催されているレフェリーブリーフィングの第5回目が9月21日に開催された。今回は冒頭に小川審判委員長から、この会を催す趣旨が改めて紹介された。それは次の3点である。
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1)クラブと審判アセッサー間で意見交換。
2)クラブによるレフェリングに関するフィードバック。
3)メディア関係者へのレフェリング説明会▽と、いうものだ。なぜ改めて趣旨を説明したかというと、メディア関係者に、表現について配慮を求めるためだった。覚えている読者もいるかもしれないが、8月16日のJ2リーグ第28節の町田対名古屋戦で、PR(プロフェッショナルレフェリー)の家本政明主審が誤審をした。
▽試合終了間際の89分、名古屋の青木がこぼれ球を拾いゴールへ突進し、GKと1対1になりかけた。すると町田DF深津と奥山が両側から挟むように体を寄せ、深津が足を引っ掛けて青木を倒した。走り寄った家本主審は即座にレッドカードを取り出しが、彼がカードを突きつけたのはプレーに関与していないMF平戸だった。

▽審判委員会のヒアリングによると、家本主審は「誰がやったのか」と聞いたところ、町田の選手からは、「それは主審が決めて下さい」という返事だったそうだ。試合後、キャプテンでもある深津は「自分がやった」と告白したが、すでに試合は成立している。
▽小川審判委員長は、「犯人捜しはしない」と審判委員会の基本的立場を述べつつ、メディアに要請したのは、「誤審」という表記についてだった。誤審であることは認めるものの、家本主審の子供が学校で嫌がらせを受け、泣きながら帰宅したことを明かした上で、メディアに配慮を求めたのだった。

▽過去には08年4月6日のJ2第6節、甲府対C大阪戦で56分に西村雄一主審からレッドカードを提示されたDF池端が退場となったが、後日行われた規律委員会で“人違い”であったと判断され、本来退場処分を受けるべきだったGK桜井に退場処分が付け替えられたことがある。

▽Jリーグではそれに続く2度目の誤審で、今後はルヴァン杯のように追加副審を置くか、VAR(ビデオアシスタントレフェリー)を導入しないと対応は難しいと審判4人制の限界を話していた。

▽2日後の規律委員会では「警告、退場、出場停止処分」の懲罰の運用上、平戸には「退場処分及び出場停止処分を科さないこととする」とし、「本来退場処分を受けるべきであった深津選手に退場処分を付け替え、1試合の出場停止処分を科す」と訂正。ただし、サッカー競技規則第5条で主審の決定「プレーに関する事実についての主審の決定は最終である」ことから公式記録は変更されず、平戸の退場処分は残ったままだ。

▽この試合で返す返すも残念なのは、深津が素直に自分の非を認めていれば、違った意味で注目を集めたかもしれないということだ。そして、この件を聞きながら、JSL(日本サッカーリーグ)時代のあるエピソードを思い出した。

▽古河(現ジェフ千葉)のある選手が、特定の主審からよくイエローカードをもらった。自分では反則ではないと思っても警告されてしまう。あまりにも厳しいジャッジに、意を決し主審に理由を聞いてみた。すると主審は「背番号●はダーティーなプレーヤーだから気をつけろと先輩から聞いている」と答えたそうだ。

▽確かに自分の背番号ではある。そこで念のために選手の名前を聞いたところ、それは自分の前に同じ背番号でプレーしていた先輩で、すでに引退していた。そのことを主審に伝えたところ、以後はイエローカードもめっきり減ったという。

▽これは先入観の悪しき例で、今日のブリーフィングでも小川審判委員長は「先入観を持って笛を吹くことはない」と強調していた。ただ、先入観と予備知識の違いはどこにあるのかを判断するのは難しいところではないだろうか。

▽かつてJリーグの審判技術向上のため招かれたレスリー・モットラム主審は、離日の際の会見で、「Aというチームは主審が背中を向けていたり、ボールがないところでの反則が巧妙なので気を遣った」と述懐していた。それがAというチームの伝統であり強さかもしれないが、今回の件も含め、改めて主審は「労多くして功少なし」と実感せずにはいられなかった。

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