【東本貢司のFCUK!】プロアスリートの熱き友情

2017.06.16 13:16 Fri
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▽済州-浦和戦終了直後の“事件”がまだ尾を引いている。ただ、奇跡的という飾り文句がつく逆転劇といえばあのバルセロナ-パリSG戦がまだ記憶に新しいところだが、そこで何等かの“穏やかならざる醜態”が演じられたわけでもない。それよりも“数字的に見劣りする”このゲームの結末に際して、予期せぬ異常なヒートアップと激高した暴力が噴出してしまった裏には、やはり歴史的な“民族敵対”の意識がなかったとはいえまい。似たような感情の迸りは、ロイ・キーンが現役時代のマン・ユナイテッドとアーセナルの間にもあったが、こちらはもちろん民族云々とは別次元の話である。そもそも、当事者のプレーヤー同士が我を忘れたように試合直後に怒りと悔しさをぶつけ合うことなど、言われるほど多くはない。ラグビーでいう「ノーサイド」の精神はフットボールとて本質的に違いはない。特に同じスポーツのピッチにおいて切磋琢磨する個人間の敬意、友情、仲間意識は、敵味方を問わず強く深い。それが嘘偽りのない(特に)プロアスリートの真実である。

▽例えば、ジョーイ・バートン。これまで数々の“悪名”を轟かせてきたイングランド有数の悪童だが、実はプレーヤー仲間の世界では意外なほど人望があるらしい。最近のエピソードで印象深いのは、後輩のロス・バークリーに対するいかにもプロらしい思いやりと接し方だ。ひょっとしてご存知ない方もいるだろうか、あるリヴァプールのベテランジャーナリストが唐突にバークリーの血筋に絡んで悪質な人種差別的揶揄記事を書いた事件。父型の祖父がナイジェリア人だというだけで、この記者はバークリーを「ゴリラ」と同類に扱い、プレーヤーとしても下劣だと言わんばかりにこきおろしたのだ。無論のこと、多方面から批判が相次ぎ、しばらくして当のジャーナリストは所属メディアから解雇された。バートンも口汚く罵りの言葉をツイッターにアップしたが、そこから先が一味違う。奇しくもそれからまもなく巡ってきたエヴァートン-バーンリー戦で、バートンはバークリーの厳しいマンマークに徹し、反発の闘志を掻き立てさせるかのごとく、プロとしての“激励”を施したのである。筆者はそれを見て本心で感動した。おそらくはバークリー本人も。

▽実に残念なことに、このことに気づいて指摘した記事は筆者の知る限りどこにもなかった。なぜだろうか。おそらくは、バークリーが被った謂れのない侮辱を蒸し返すこともない、と自粛したのかもしれない。そして、バートンのプレーもポジション柄、珍しくもないとスルーした・・・・。だが筆者の感触は少々違う。つまり、ジョーイ・バートンという人格を多くの人がまだ(ジャーナリズム界を含めて)誤解したままなのではないか、と。平たく言えば、バートンは“嫌われ者”で彼を美化したような記事やコメントをものするのに、多くの人々がためらいを感じている・・・・。以前にも別の機会に触れたことだが、バートンは知られざる努力家であり、その範囲は実際のプレーやスキルに限られていない。数年前のオフには大学の講義を受講したりしながら、フットボール理論の研究に努め、同時にコーチングライセンス取得の勉強も始めている。あの面構えで類を見ないインテリ志向なのだ。このような範疇の出来事について、かの国ではその途上でむやみに持ち上げたりしない。“成果”もしくはその現実的兆候を確認してから評価の素材として取り上げる。もちろんジョーイ・バートンという男の性格もあろう。が、筆者は期待していいと思っている。

▽どんな世界、業界でもそうだが、人間関係において「性格」が及ぼす効果は非常に大きい。端的に言えば「とにかく気に入らない、虫の好かないヤツ」は、どんなに成果を上げ、他人のために尽くしても、評価される度合いが、あるいは“スピード”が落ちてしまう。もちろん、そうなってしまうのは不幸なことであり、我々もそうあってはならないと肝に銘じるべきだ。逆に、俗にいう「気のいいヤツ」はそれだけでぐんと得をする。性別を問わず「愛される人格」とは、一緒にいるだけで和み、前向きにさせてくれる。先日、中国スーパーリーグ2部のクラブに所属する、元ニューカッスルなどでプレーしたコートジヴォワール代表、シャイク・ティオテが練習中に昏倒して急死した。この世界でごくまれに起きる予期せぬ不幸だったが、その死は想像を絶するレベルで悲しみの輪を広げた。その理由は、ティオテがまれにみる「いいヤツ」だったからである。事実、数多の同輩、特に彼と一度でも“同じ釜の飯を食った”経験のある元同僚から発せられた悲嘆と追悼と言葉は、若くして逝った者に対して通常捧げられる“決まり文句”にはない、真実の響きを感じる。

▽ベルギー、アンデルレヒトでチームメイトだったヴァンサン・コンパニー(マン・シティー)は「これまで出会った中で最高に気立てが良く、最高にタフな友人を失ってしまった」と天を仰ぎ、ニューカッスルで肩を並べてプレーしたパピス・シセは「おやすみ、兄弟。もう会えないなんて信じられない」と言葉を失った。他にも、現レスターのダニー・シンプソン:「本当に辛い。君と知り合えたことを神に感謝する」、現ニューカッスル監督のラファ・ベニテス:「本物のプロにして常に全力を惜しまなかった以上に、人としてすばらしい男だった」、オランダのトゥウェンテでティオテを擁して史上初のリーグ優勝を遂げたスティーヴ・マクラーレン:「シェイク・ティオテの笑顔は、フットボール界一すばらしかった」、同チームメイトだったシエム・デ・ヨンク:「ドレッシングルームで彼と一緒にいるだけで楽しい気分になれた。友よ、安らかに眠れ」と、枚挙の暇もない。もちろん中国のチームメイトも彼の大ファンだったとか。すでに近く彼の追悼試合が行われることも決まっている。史上有数の「いいヤツ」の魂に捧げんために。ただ、よりによってそんな「いいヤツ」が早逝してしまう、残酷な理不尽さも恨めしく思わずにはいられない。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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