【東本貢司のFCUK!】ヤングライオンズ2017年夏の乱

2017.06.09 11:40 Fri
Getty Images
▽韓国で行われているU20ワールドカップにて、イングランドは同大会史上初めて決勝に進出した。昨夜の準決勝でイタリアを下した戦いぶりには、少なからず近い将来をまぶしく照らす手応えと興奮がにじみ出ていたようで、ギャリー・リネカー、フィリップ・ネヴィルらから届いた賞賛のコメントも、いつになく“簡潔で控え目”な、どこか込み上げてくる喜びをあえてぐっと抑えつけているような響きを感じてしまう。まだ「新たな黄金世代」と持ち上げるのは気が早すぎるとしても、きっと単なる快勝で終わらない底深い印象をもたらしたからだろう。チームメンバーの現所属をざっと眺めて目立つのは、エヴァートン、チェルシー、ニューカッスル、リヴァプール。クーマンの積極的な若手起用が進むエヴァートンや、晴れて復活昇格を果たしたニューカッスルの来シーズン、彼らがプレミアで躍動する機会もそこそこ期待できそうだが、大物感で突出して一気のブレークにありそうなのは大会直前にチェルシーからリヴァプールへの移籍が内定したドミニク・ソランキーだ。

▽「ソランキー」と書いたがこれは英語読み。フルネームはドミニク・アヨデレ・「ソランケ」=ミッチェル、身長185センチのFW。チェルシー監督時代に彼を見止めたジョゼ・モウリーニョは「ドミニクは間違いなく将来のイングランド代表、それもエースに育つめったにない逸材」と褒めちぎっていたらしい。そんなホープをチェルシーが手放してしまったのは、アントニオ・コンテにそこまで見極める余裕がなかったからなのか・・・・。また、モウリーニョはモウリーニョで、この突然のリヴァプール移籍に舌打ちしている? そして、ユルゲン・クロップの、イングランドにおけるリクルートネットワークは想像を越えて目敏いのかも・・・・。いやいや、まだ煽り立てるのはそれこそ気が早い。当面はクロップの腹一つ、エヴァートンのトム・デイヴィーズばりに使われてこそである。とはいえ、このU20W杯がソランキーの株を上げたのは紛れもない事実で、準々決勝では貴重なアシスト、イタリア戦では面目躍如の2ゴール(同点弾と勝ち越し)、存在感は他を圧している。俊足でスキルも柔軟、左右ウイング、トップ下もできるモダンアタッカーの資質も十分だ。
▽ソランキーの話ばかりでは礼を失するというもの。せめてあと二人くらいは持ち上げておこう。まずはアデモラ・ルックマン。チャールトンのアカデミー出身。すでに先シーズン、エヴァートンのファーストチーム入りして数試合出場を経験している。デビュー戦、マン・シティーを4-0で粉砕したメモリアルゲームで4点目を決めたのはまだ記憶に新しい。もう一人のリヴァプール所属シェイ・オジョは、ミルトン・キーンズ・ドンズのアカデミーを経て2011年11月11日(!)、チェルシーを含む有力クラブ入り乱れての争奪戦を制したリヴァプールの一員となり、昨年3月にプレミアデビューを果たしている。順調に運べば、いつの日かこの19歳トリオが居並ぶスリーライオンズの前線は、ちょっとした見ものとして衆目を集めるに違いない。U20チームの監督、ポール・シンプソン(マン・シティー、ダービーなどでウインガー)は「あいつらが(今大会の)優勝トロフィーを掲げる様子が今から目に浮かぶよう。それだけの実力とオーラがある」とやや浮かれすぎ気味に「これほどの素材が揃ったのはかつて記憶にない。とんでもなく楽しみだ」と手放しだ。

▽実はこれに先立って、現在開催中のトゥーロン・トーナメントでも、イングランドは首尾よく決勝にコマを進めている。明日10日に対決するのは準決勝でチェコを退けたアフリカの雄、アイヴォリーコースト。ヤングライオンズのエースはレスター所属のハーヴィー・バーンズで、同僚のジョージ・ハーストと仲良くここまで4得点をマーク。この二人も今後、要注目だ。ちなみに、日本も参加していて同じグループAに入り、キューバ、アンゴラと引き分け、イングランドに1-2で敗れた。また、“開催国”のフランスはアイヴォリーコーストと同じグループBで3位敗退、もう一つのグループCではブラジルがスコットランドに敗れ、そのスコットランドをイングランドが準決勝で下している。各国の詳しい状況がもう一つ定かでないため、実力および将来性などを測るわけにはいかないが、現21歳以下レベルでの戦力層と勝負強さにおいて、ヤングライオンズは少なくとも世界トップクラスにあると言えるだろう。そこからどれだけ“成長”が望めるのか楽しみにしたい。

▽なお、最新のニューズによると、マン・ユナイテッドがズラタン・イブラヒモヴィッチとの契約更新を見送る公算大とか。こうなるといよいよ、レアルのアラヴァロ・モラタ獲得へまっしぐら? また、レスターではクレイグ・シェイクスピアの正式監督就任が発表された。マーレズ(アーセナル?)に続いてヴァーディー(エヴァートン?)の退団も噂されているが、チルウェルや上記のバーンズを中心にあえて若手主軸に切り替えていくのか、それとも、あっと驚く大物リクルートに乗り出すか(チャンピオンズ参入で資金の方はそこそこ“がんばれる”)。意外に、オフの台風の目の役割はレスター辺りが演じることになるのかもしれない。あとはムバッパとラカゼットの仏大物ストライカーコンビ、その行方、はたまたルカクはやはりチェルシー入りなのか、バークリーはどうする、そしてルーニーの去就・・・・気になること満載の2017年夏の乱。うまく収まればいいのだが・・・・。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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