【東本貢司のFCUK!】ヴェンゲル:Time For Change

2017.06.01 12:30 Thu
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▽彼ははっきりと岐路に立っている。ウェイン・ルーニーはジョゼ・モウリーニョととっくり話し合う必要がある。それもできるだけ早く。このまま出番の増える見込みがなかろうと「ユナイテッドのルーニー」でキャリアを終えるのか、それとも改めてレギュラーポジションを争える新天地でもう一花咲かせるか―――腹を決めるために。サウスゲイト・イングランド代表監督は事実上、後者を明瞭に推奨している。その場合、自ら示唆した「他に選択肢はあり得ない」候補地、エヴァートンのクーマン監督は、早くから歓迎の意を表している。シーズン最終戦、ユナイテッドのキャプテンマークをつけて先発したルーニーに全盛期の面影などなく、動きに精彩を欠き、それどころかキック一つにももどかしいほど力強さが感じられなかった。ゲーム終了間近、16歳の超新星アンヘル・ゴメスと交代した瞬間は、切ないほど映画のワンシーンさながらに目に焼き付いた。筆者はそれをモウリーニョの大いなる親心、メッセージと受け取ったのだが・・・・「さあどうする、残りたいのならそれでいい。あるいはこれを引き時のサインと受け止めるどうかはすべて君次第だ」

▽もう一つの重大な「to be or not to be」は、筆者の予想通りに一昨日30日、決着した。アーセン・ヴェンゲル、アーセナル監督として続投の契約更新。「2年」は諸々の状況を考えて妥当な線だろう(正式発表は昨日)。ただ、この件については一言申し添えておきたい。なにゆえ、ヴェンゲルは自らの去就問題をシーズン最終戦(FAカップ決勝)後まで引き延ばしたのか。自身、その「不確かさ」がチームパフォーマンスにも影響してきたと認めながらもである。対チェルシー・FAカップ決勝の前日、彼はいささか唐突に不快感を口にした。「礼を失してはいないか」。もちろん、それが直接向かう先はこの数か月間“WEXIT”(英国のEU脱退:BREXITにちなんだ「ヴェンゲルの退場」)を盛んにアジテートしてきた一部サポーターたちだったろう。悲しかった。“彼ら”は何もわかってくれていなかった、アーセン・ヴェンゲルという指導者がそれまでのアーセナルをいかに変え、ひいては、いかにイングランドのフットボール全体に“革命”をもたらしたかについて。ヴェンゲルは今一度“彼ら”にそれを思い起こしてほしかったに違いない。

▽「革命」とは何か。こう問われてすぐに思い当たる人は相当のプレミア通・・・・というよりも、ヴェンゲル到来以前から少なくとも今世紀に入って数年を経るまで“観続けて”きた人でなければ、明確に答えを導き出せないかもしれない。今回はあえて「じっくり考えていただくため」に答えを差し控えよう。ヒントをいくつか。当初よく言われてきた「フィットネス強化のための新機軸、特に食餌法」などではない。それならすでにアリーゴ・サッキらを中心にセリエAで実践されてきた、すなわちヴェンゲル・オリジナルでも何でもないからだ。決め手となるヒントは、ちょうどあの「インヴィンシブルズ(シーズン無敗優勝を達成したチーム)」の直前に、ハイベリー(当時のアーセナル本拠地)にやってきたプレーヤーたちにある。彼らがそれまでどんなプレーヤーだったか、ヴェンゲルが彼らに期待して誘導していったか。その具体的手法と、それがもたらした果実、言い換えれば戦術上の新コンセプト。いかが? 戦術論がメシよりも好きな(?)方々ならわからないはずはないのだが・・・・それとも今や事実上当たり前になってしまって気が付かないかも?

▽さて、もしもアーセナルがFAカップ決勝で“失敗”していたら、アーセン・ヴェンゲルの契約更新はなかったかもという疑問も、まだ少しは引っかかっているかもしれない。筆者はそもそも、少なくともアーセナル内部に限ればその懸念などなかったと信じているが、「Time For Change(この際心機一転)」に傾いていた一部(主にサポーターの)セクションでなら多分に現実的な展望だったはず。実は、晴れてFAカップを手にした今でさえ、「大変なのはこれから。2年の猶予が短縮されてしかるべき可能性は十分にある」との冷めた声は燻っている。サポーターではないがその代表格となる不安と提言をものしているのが、ギャリー・リネカーその人だ。「アーセナルははるかに後手に回っている。ヴェンゲルの方針が今後も続くようなら、いつまで経ってもチェルシーやシティー、ユナイテッドらに追いつけないだろう」要するに補強戦略が“甘い”と言いたいのだろう。チェルシーらに匹敵する散財をして世界的スーパースター級を狩り集めるのでなければ、現状維持が精いっぱいだというのだ。現状では哀しいかな正論かもしれない。しかし、筆者にはどうしてもそこに根源的な違和感を覚えてしまう。おそらくはヴェンゲルも同じだろう。

▽アーセナルの現筆頭株主、アメリカンスポーツの大君のひとり、スタン・クローンキーは、一途なほどヴェンゲルの手腕に最大級の賛辞を絶やすことはない。一時“業を煮やしかけた”ナンバー2株主、ウズベキスタン出身のアライシャー・ユスマノフも、ヴェンゲルに対する信頼度はクローンキーに負けず劣らず、全面的支援を改めて約束している。いざとなれば“そこそこのカネ”は引き出せる態勢にはあるということだ。だが、肝心のヴェンゲル自身がどれをどこまで受け容れて“活用”するかとなると・・・・あるいはそこのところで「Time For Change」の合言葉が働くのか。だとしたら・・・・? インヴィンシブルの元メンバー、マーティン・キーオンは、現二大エースのアレクシス・サンチェスとメスート・エジルを「甘やかされている」と断じ、この際“売却”してより将来的にヴェンゲル・アーセナルを支えるに足る若い逸材を、と提唱している。例えば、リヨンのアレクサンドル・ラカゼット、そしてモナコのワンダーボーイ“アンリの再来”キリアン・ムバッパ。それでFFP問題(収支の黒字化)も対処できる。あくまでも「例えば」だが、いずれにせよ、このオフ、アーセナル周辺は忙しくなること必至だ。ちなみに現在、移籍志願を表明したレスターのマーレズの名が早速俎上に上がっている。ヴェンゲルが腹をくくって主導実践する(かもしれない) Time For Change。楽しみではあるが、さて鬼が出るか蛇が出るか。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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