【東本貢司のFCUK!】サンダランド、明日への降格

2017.05.03 18:07 Wed
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▽しかるべくしてサンダランドの降格は決まった。シーズン第二戦、昇格組のミドゥルズブラに敗れた直後、デイヴィッド・モイーズが“予言”した「残留争いに明け暮れる見通し」がほんの一時でさえ覆される予感すら見せないままに。思えば大胆極まりない“賭け”だった。仮に、そのネガティヴなヴィジョンがプレーヤーたちの反骨を誘うと期待したとしてもである。しばし時計を巻き戻してみよう。2011年以降、このノースイーストの名門がたどってきた綱渡りの軌跡を。2012年、プレミア創設以来の最高位に当たる10位に導いた“功労者”スティーヴ・ブルースの“威光”をもってしても、降格の瀬戸際に追い込まれたブラック・キャッツはそのブルースを見切ってマーティン・オニールを招き、残留にこぎつけた。だが翌2012-13シーズンも同様の末路をたどり、パオロ・ディカニオへの乗り換えで降格を阻止するも、まるでこのスクランブル修復が定番と化したかのように、ディカニオ→ポジェ、ポジェ→アドフォカート、アドフォカート→アラダイスと、実に5季連続で“リフレッシュ式”監督交代作戦によって薄氷を踏む生き残りを果たしてきたのだ。

▽さて、監督/マネージャーの力量・手腕がチーム成績に重大な影響を及ぼすという理屈が、いかに当てにならないかはもはや明白だろう。いまだにそんな“幻想”をまことしやかに語る向きがいること自体、信じられないのだが、ここでいったん、イングランド代表監督に指名されたアラダイスを継いだモイーズの“思い”を推し量ってみたい。過去5年間のサンダランドの“うんざりするような綱渡り”を踏まえて、モイーズは就任に際して「確約」を要求したに違いない。たとえ「シーズンを通して残留争いに明け暮れる」事態が続こうと、仮にも(実際にそうなってしまったように)降格に甘んじる結果になろうと、身分を脅かされることのなきように! そう、3年なら3年、じっくりこのチームを作り上げていく保証を求めたうえでの就任に違いなかった(と、筆者は確信する)。クラブ側も、エヴァートンでの11年間で証明して見せたモイーズの実績を踏まえて「得たり、そのためにあなたを呼んだ」と諸手をあげたはずだ。だが、そんな相思相愛も、モイーズが期待した補強体制にクラブが応えられなかったために、不安でいっぱいの見切り発車を強いられ、その鬱屈が、ミドゥルズブラ戦敗退後のネガティヴな発言を引き出してしまったのだろう。

▽だとしても、今更ながらに取り返しのつかない失言だったと認めざるを得ない。サポーターは何事かと目を剥いただろう。それ以上に、プレーヤーたちはがっかりしたはずだ。開幕してわずか2戦を消化したに過ぎないのに? いや、それでも好意的に受け止めてみようじゃないか、エヴァートンの11年間を、ユナイテッドとソシエダードの我慢の無さを。モイーズはそもそも補強に慎重で、名前ばかりを追って無闇にカネをばらまくリクルーターではなかった。ティム・ケイヒル、フィル・ジャギエルカ、ジョリオン・レスコット、ミケル・アルテータらは、今なら考えられないような安値で仕入れてみせ、プレミア有数の戦士に仕立て上げたではないか。きっと、サンダランドでもその“眼力”を発揮してくれるに違いない、ならばたった1年や2年で実りがないのも覚悟しなくては。クラブはもとより、現有戦力もサポーターも、そう腹をくくる気になったはず・・・・が、何かが違った。しばらく離れていたプレミアに肌で触れて、ひと昔前のエヴァートン時代とは勝手が違うことを体感したのかもしれない。サンダランドのアカデミーの実態に世を儚んだのかも?

▽先日、あるインタヴューに応えたモイーズの口ぶりと表情を目にした、かつての教え子、リオン・オズマンが証言する。「あんなに憔悴して打ちひしがれた彼を見た記憶がない。まるで解任されたかのように」果たしてそれは、奇しくもあの2戦目後の“失言”を引き出すきっかけになったミドゥルズブラに再び敗れて(4月26日)降格に王手がかかってしまったときだったからなのだろうか。「エヴァートン時代のデイヴィッドは真性のファイターだった。燃え上がる炎のオーラを常にまとい、その両眼からも発散させていた。それが今は・・・・見る影もない」。とはいいつつも、もはやモイーズは後には引けない崖っぷちの心境だろう。ここで身を引けば、それは“完全敗北”を意味し、あの性格からして引退を決意する可能性すらある。いかなる事情、経緯にせよ、ユナイテッド、ソシエダードで失格の烙印を押されて、今また・・・・では、彼を引き受けるクラブなど(少なくともしばらくは)どこを見渡しても覚束ないだろう。ここで踏ん張るしか道はない(と、筆者は推察する)。むろん、その崖っぷちのプライドと決意がサンダランドに通じるかは不透明だが。

▽もっとも、どう転んでも茨の道は同じだ。ボーンマスとワトフォードの躍進、善戦を前にしては、言い訳の種は一切、間違っても拾えない。プレーヤーたちのヴァイタリティーに差があったと言われても仕方がない。そして、その責任は監督が負うことになる。一つ、忘れないように付記しておくなら、早くからオーナー権譲渡の希望を公言していたアメリカ人のエリス・ショートにも多きに責任がある。そして、ショートはそのことを認め、先日謝罪もし、善処(“再考(=資金の自己調達)”なのか、良き買い取り先の選択なのかはまだわからない)を確約した。モイーズ解任については一切、ほのめかしすらしていない。ファンの方も、少なくともヴェンゲルに対するアーセナルファンほどには、モイーズ不信をあからさまに叫んではいない。あらゆる事象が「再起」を望み、指示しているのだ。サンダランド降格決定とほぼ時を同じくして、宿敵ニューカッスルがプレミア復帰を確定させた。そのことも「ここでモイーズのクビを叫んでいる場合ではない」前向きな反骨に火をつけた節がある。めげるなモイーズ、そしてサンダランド。今こそ“そのとき”だ。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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