【六川亨の日本サッカー見聞録】ドルトムントのチームバス襲撃事件に思うコト

2017.04.13 18:22 Thu
Getty Images
▽ドルトムントのチームバスが襲撃された事件で、スペイン代表DFマルク・バルトラが右手を負傷したものの、彼以外の選手が無事だったのは不幸中の幸いと言える。翌日に延期された試合ではモナコに2-3と敗れたものの、1点差に留められたことはセカンドレグに向けて好材料だろう。
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▽スポーツにおけるテロ行為は、古くは1972年の西ドイツ五輪でパレスチナの武装組織がオリンピック村に侵入し、敵対するイスラエルの選手を人質にとって立てこもった事件が有名だ。西ドイツ当局は人質の救出作戦を強行したものの、人質9人全員が死亡するなど痛ましい結果となった。▽当時は、政治的な対立から五輪がテロ行為のターゲットになったものの、「サッカーで同じことをしたら全世界を敵に回すことになる。だからW杯を標的にするテロリストはいないだろう」と言われたものだ。
▽しかし、それも昔の話。1996年にはEUROを開催中のイングランドで爆破事件が発生。こちらも政治的に対立するアイルランド共和軍(IRA)の犯行と見られた。そして2002年には、レアル対バルサのCL準決勝の数時間前に、サンティアゴ・ベルナベウ・スタジアム付近で車に仕掛けられた爆弾が爆発。こちらもバスク地方の分離独立を目指す民族組織「バスク祖国と自由」(ETA)の犯行とみられ、17人が負傷した。

▽サッカーを標的にしたテロは、最近では2010年にウガンダの首都カンパラで、W杯を観戦する飲食店で爆破事件が起こり、死者は50人にも及んだ。国際テロ組織アルカイダの関与が疑われたものだ。そして記憶に新しいところでは、2015年にEUROが開催されたフランスで、パリ同時多発テロ事件が起き、フランス対ドイツの行われていたサン・ドニ・スタジアムの入り口付近で3度の爆発があり、劇場や料理店なども含めると130人近くの人が亡くなった。こちらはイスラム国(IS)の犯行とされ、彼らは様々な国でテロ行為に及んでいる。
▽もはや「サッカーだから標的にされない」という時代は過去のものとなり、「サッカーだからこそ狙われる」時代になっているようだ。過去2回のW杯は南アフリカとブラジルという、ムスリム(イスラム教徒)とはあまり縁のない国だったため、テロよりも強盗に注意を払ったものだ。しかし来年W杯を開催するロシアはイスラム教徒も多く、1990年代以降はテロ事件も増加しているだけに、ターゲットにされる可能性も少なくはないだろう。

▽そしてドルトムントである。W杯やEUROといった国際大会ではなく、1クラブが狙われる事件が起きた。神戸に加入の決まったルーカス・ポドルスキは、トルコ(ガラタサライ)では常にテロの危険があるため日本行きを決断したという噂もあるほどだ。欧州でのサッカー観戦は、特にムスリムの多いフランスやベルギーでは十分な警戒が必要になるだろう。といっても、スタジアム周辺は人混みが多いため、どう警戒すればいいのか分からないのが実情だ。

▽香川については、FC東京のGK林が事件直後にメールで「大丈夫か?」と送信したところ、すぐに「大丈夫」との返信が来たことを明かしていた。続けて林は「ちょっと世界ではいろんな、ボクらの予測外のことが起きる状況で、死者が出ないで不幸中の幸いだった。どういう価値観なのか分からないので口のはさみかたがないけど、サッカーがどうのこうのではなく、人の命は尊いもの。容認できないことが多すぎるし、国内じゃないからいいやじゃなく、なくなるように願うしかない」と話していた。

▽林の言う通り、テロが「なくなるのを願うしかない」現実に無力感を抱かざるを得ないと思っているサッカーファンも多いことだろう。コトは宗教的な対立と貧困が根底にあるだけに、根の深い問題でもある。

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