【東本貢司のFCUK!】「地獄の4月」はまだ終わらない

2017.04.06 11:35 Thu
Getty Images
▽全チーム6試合のすし詰めスケジュール、曰く、プレミアリーグ2016-17「地獄のエイプリル」。しかも、現実的に勝ち負けがほとんど“響かない”ウェスト・ブロムを除いて、決して大げさではなく“天国か地獄か”の切羽詰まった状況。ヨーロッパで勝ち残っているレスターとマンチェスター・ユナイテッドには、さらに2試合多くのしかかってくるわけだから、気の遠くなる強行軍となる。ちなみに、FAカップ準決勝組(アーセナル、マン・シティー、チェルシー、スパーズ)については、それぞれ当初予定のリーグ戦が後回し開催にされるため、試合数の増減はない。いずれにせよ、常日頃以上に気の抜けない、一試合一試合が“カップファイナル”・・・・そのせいか、このミッドウィークに行われたゲームはどれをとっても火の出るような激戦続出となった。ファンにとってはこたえられない? いいや、プレーヤーたちの体が、バックラッシュが、来シーズンが思いやられる。

▽それにしても、ネット視聴のおかげでほぼ全試合をライヴでザッピングできるのはいいが、無論、それではゲームの機微をじっくり見極められず、痛しかゆしの考え物。だからだろうか、このミッドウィーク最大の目玉、チェルシー-シティー戦が一等“胸が騒がない”展開と結果に見えた。序盤に全得点が記録されたこともあったろうし、いつもより厳しいチェックでかかってきたシティーと、ボール支配にこだわらない効率とめりはりで受けて立ったホーム、チェルシーのコントラストが、なぜかつまらないものにさえ思えたほどだ。試合前日、シティーのグアルディオラは、「コンテは最高の指揮官かもしれない」などと、褒め殺しにも聞こえる“マインドゲーム”を仕掛けたものだが、蓋を開けてみればそんな“ベストチーム”に真っ向から挑戦するかのごとき、シティーイレヴンの覇気と熱気を目の当たりにできたにもかかわらず、にだ。ひょっとしたら、今シーズン屈指のゲームと評価すべきかもしれない。これは改めて後ほどリプレーでじっくりおさらいする必要がある。
▽それはさておき、最もドラマティックな展開になったのはスウォンジー-スパーズで、フットボールの醍醐味を十二分に見せつけてくれたのはサウサンプトン-クリスタル・パレス、内容の妙味の点で唸らされたのがアーセナル-ウェスト・ハム、というのが、5日水曜日(日本時間では6日深夜)に行われた6試合の個人的“総括”。ああ、それにリヴァプールにミソをつけたボーンマスの、どこかとらえどころの難しい二枚腰も忘れてはいけない。まだまだ実質的に残留争いの渦中にいるボーンマスだが、ここまでスコアに関わらず、ほぼ全試合、侮りがたい、かつ、味のあるゲーム運びで出色のチームと言ってはばからない。少々先走りすぎるが、たとえ運悪く降格の憂き目に遭ったとしても、2016-17プレミアシップの「チーム・オヴ・ザ・シーズン」として記憶にとどめたいくらいだ。主というべきか、その名もジョシュア・“キング”と、笑顔が憎めないベキク・アフォベの前線コンビは意外性の塊、左ウィングバックのチャーリー・ダニエルズの迸る汗も頼もしい。実に好ましい集団、ジャック・ウィルシャーが「ここにいたい」とほだされるわけだ ?!

▽ホームでしびれるような終盤のゴール連発で快勝したサウサンプトンも、日に日に好感度が増してきた感十分。このパレス戦、前半2度のPK疑惑を見過ごされても萎むことなく攻守に粘り抜いたチームの一体感は、圧巻の一言に尽きた。筆者のマン・オヴ・ザ・マッチ、ネイサン・レドモンド以下、ファイターの粒も揃って容易に腰を割らない。勝ち越しゴールがなぜかゴール前ファーポストに居残っていた吉田麻也から、というのはおまけ・・・・と言っては可哀そうか(笑)。自身今シーズン初ゴールがよほどうれしかったのか、パフォーマンスも堂に入って、今や決して格も名前負け(?)もしないセインツのキャプテン。一時、これは戦力外に向かうかとさえ思われたにしては、よく這い上がってこれたと思う。フォンテの移籍という運があったにせよ、与えられたチャンスを不足なく務めて、クロード・ピュエルの信頼を勝ち取った恰好。今のところ、史上最高の日本人プレミアリーガーと称しても言い過ぎではなさそうではないか。代表ではちと物足りないとはしても。

▽今回の締めに、レスターについて少々。現地メディアが「蘇った、生まれ変わった」とまで誉めそやすほどに、すっかり昨シーズン並みのエッジが随所に見られるようになった。最下位サンダランドが相手だったとはいえ(サンダランドも前半は善戦した)、主役たちがきっちり役どころを発揮して快勝で片を付けるところが、再生、復活の所以。孫と遊園地に行ったりして命の洗濯中のクラウディオおじさんも、さぞかし誇らしく、かつ胸をなでおろしていることだろう。司令ドリンクウォーターと左の“槍”フークスの本領発揮が大きい。何度も言うが、思わぬミラクル優勝とチャンピオンズ参戦で、フォクシーズはつい、何かを見失って“借り物”状態になってしまっていたのだろう。ラニエリ解任は痛恨の極みだったが、それが原点に戻る格好の引き金に(結果的に)なったのだ。ひょっとしたら、凱旋復帰だってなくはない? それはともかく、ますますチャンピオンズが楽しみになってきた。是非、戦々恐々となっている(?)アトレティコを青ざめさせてやってくれ!
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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