【東本貢司のFCUK!】平和で玉虫色の報道ワールド

2017.03.31 12:30 Fri
Getty Images
▽マデイラ島プロジェクトによるクリスティアーノ・ロナウドの「胸像」がちょっとした話題になっている。制作者のエマヌエル・サントスによると「けっこう苦心した。完成に15日間かかった。本人(ロナウド)からメッセージが来て、気に入ったそうだ。もう少し若く見えるようにシワなど手を入れてもらえると嬉しいなる“意見”が添えられていだけ」なんだそうだ。“意見”とはいっても要するに「感激」をジョークめかして表現したにすぎない。32歳の現役アスリートのために胸像彫刻が制作され、故郷の空港名にまでまつりあげられたのだから、こんな名誉なことはあるまい。なにしろ、唯一の先例、ベルファスト空港の「ジョージ・ベスト空港」改名は、ベストの死後だったのだから。世界遺産にもなっている洋上の島ならではの“特権”だろうか。むろん「どちらかといえば、元アイルランド代表のナイアル・クインの方に似てる」などという揶揄も、他愛のないジョークだ。

▽こんな“ほほえましい”ニューズも出たせいかどうかはともかく、インタナショナル・ウィーク(代表戦期間)がひとまず閉幕して、世は概ね平穏至極。マルセル・デュシャンは「玉虫色の判定齟齬」でスペインに敗れた一件をいやに鷹揚に受け止めているし、ギャレス・サウスゲイトの事実上の初陣采配も前向きな評価が大勢を占めている。ウェールズ-アイルランド戦で、クリス・コールマンの骨折を引き起こしたニール・テイラーにも、同情する気運が先行している。ウェールズのキャプテン、アシュリー・ウィリアムズの現所属が、コールマンと同じエヴァートンであり、両者を気遣う彼の言葉も不穏な感情の抑制に一役買っているようだ。そう言えば、このタイミングでミシェル・プラティニがかつての盟友、ヨーゼフ・ブラッターに愚痴の一刺しを漏らしたのも、なんとも平和だなぁと妙にほっこり。ちなみに、ブラッターの“謹慎期間”は8年、プラティニのそれは当初の8年から6年、さらに仲裁委員会によって4年に短縮されている。これも“玉虫色”だよな。
▽そうだ、もう一つ、アーセナルをめぐる“変化の予感”についても。退団(移籍)の可能性が取り沙汰されているエース、アレクシス・サンチェスの「ロンドンが好き」発言も、その中身をよく読むと“長閑”な印象でしかない。「ロンドンが好きで引っ越しはしたくない。ただ、ウィニング・メンタリティーに優れたチームで働きたい」などと宣ったものだから、週刊文春ばりの(?)ゴシップメディアが「そうか、あいつはチェルシー移籍に傾きかけてるんだ」と、“ジョーク”でまぜっかえす。ディエゴ・コスタとアントニオ・コンテの“絶えない不仲説”を引き合いに出す。およそ現実的とは思えないことは、“彼ら”自身がわかっている。もし仮にアーセナルがサンチェスを手放すとしても、よもやチェルシー(や、まさかのスパーズ)に差し出すはずがない。英国のゴシップ文化はジョークと切っても切れない日常的伝統、もとい、伝統的日常なのだ。もちろん、間違ってその瓢箪から駒が出たら出たで儲けもの。多分何事も起こらないだろうなと高をくくっている。

▽アーセン・ヴェンゲルの辞任説についてもしかり。ヴェンゲルの契約はもうすぐ切れる、エジルとサンチェスの移籍の噂が飛び交う中、そのエジルは遠まわしにヴェンゲル続投がカギだとほのめかす、新進FWイウォビは「ヴェンゲルは偉人」と声を上げ、不成績の責任はひとえに自分たちプレーヤーにあると強調する。一方のヴェンゲルは「エジルとサンチェスはアーセナル残留を望んでいる」と断言し、自らの去就だけは言葉を濁す。要するに、大勢は何も変わらない、もしくは、変わる気配がない。ヴェンゲルが現時点で続投希望を明確にしないのは、おそらく、不満を隠せないファンに対する一種の礼儀だと考えられる。ちなみに、イウォビ他によると「アーセナルはヴェンゲルの解任などまったく考えていない」。“変化もあり、必要”と口にするのは、お騒がせメディアと元プレーヤーも含めた“パンディット(=評論家)”たちくらいだ。そりゃそうだろう、彼らは“先を読む”のが商売。“あれやこれや”を俯瞰した物言いで“玉虫色”にしてキャリアを守る!

▽ニューズなんて所詮「話半分」である。「こういう話がありますよ」とアピールしている程度に思っておいた方がいい。要するに「ケムリを立てる」。つまり、そこでは大なり小なり何等かの意思が働いている。「モリトモ-アキエフジン」騒動の相反する報道内容を垣間見てもそれがよくわかる。いわゆるチャイナマネーが“自粛”の方向にあり、プレーヤー爆買いから大会スポンサーシップ(フットボールのみならず、バスケット、ラグビー他にまで)へ“劇的”にシフトしつつあるというニューズも、慎重に受け止める必要がある。ただ、それで法外にバカげたカネが動く流出(その実態は「孫の代まで裕福に暮らすため」の都落ち?)に歯止めがかかれば、それに越したことはない。ゆえに、少々先走りになってしまうが、この夏の「へえ」と驚く変化はほとんど期待できない。ニューズメディアが“仕事”を掘り起こそうとする、それに慣れたファンがインスタントな変化に飛びついて大騒ぎする。平和、である。本田圭祐がMLSに行くとか何とかの憶測のように。

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