【東本貢司のFCUK!】歴史が培ってきたクラブカラー

2017.02.08 13:25 Wed
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▽ふ~ん・・・・「ヴェンゲル解任を求めるプラカードにツイート」? アレックス・オクス=チェンバレンが“誤って”「いいね」を押したとかどうしたって? ま、メディアが「事実」を報道するのは致し方ないとしても、こんなこと日常茶飯事なんですよ、皆さん。ファンたるもの、熱ければ熱いほど、何かしなきゃという強迫観念にとらわれて、一時の激情、それも最も“過激でわかりやすい”文言を吐き散らしたくなるのが世の習い。要するに欲求不満のはけ口、その発露なのであって、それ以上でもそれ以下でもない。昨年末辺りじゃ「今シーズンこそ(優勝まで)行けるぞ」と、期待に胸を膨らませていたはずだろうから、悔しさ、やり切れなさのほどはよ~くわかる。しかし、そんな彼ら自身とて、今この現状を確実に好転させる監督交代などあり得ないことも、よ~くわかっている。仮にもしそうなってしまったら、今度は「アーセナル理事会解散」を叫び出すに違いない?!

▽「ミラクル」から一転、残留争いのアリジゴク(の穴)でもがいているレスターの上層部はこのほど、クラウディオ・ラニエリに引き続き全幅の信頼を置く、と明言した。そもそも昨シーズンが出来過ぎだったこともあるだろうが、ならばなおのこと、解任させる根拠がないからだ。初年度で望外の結果を出して次年度に揺り戻しが来たという、まともな神経の持ち主なら当然、「想定内」と受け取ってしかるべきであり、つまり、ラニエリを評価する材料など、まだ何ひとつと言っていいほど見当たらない。もし仮に、プレーヤーサイドからの“要請”なりがあれば、レスターの理事会も「動く動かない」の議論を持つだろうが、それも一切聞こえてこない。さもありなん、非のほとんどはプレーヤーたちの方にこそある。動きが緩慢、パスミス続出、何をやっても思い切りが悪い・・・・二つ三つゲームを眺めていればすぐ、それがわかる。どこぞの訳知り顔(大抵は戦術論を振りかざす輩)が「カンテがいなくなったのがね・・・・」? 失礼にもほどがある。5人6人が抜けたのならいざ知らず、たった一人のせいでプレミアを制したチームがガタつくなんてあるものか。
▽それでも、彼らはまだチャンピオンズで生き残っている。大したものではないか。何年か前のエヴァートンに比べれば、超のつく快挙と言ってもはばからない。クラブ史上初、本人たちも夢か幻か、てな心境だったに違いないのだから。(グループリーグの)相手に恵まれた? またしても失礼千万。こういう、一握りの“常連強豪”ばかりをもてはやす通気取り(実際、こういう手合いは“それら以外”のチームについてロクに知っている節もなければ、勉強した跡すらない!)が、年々フットボール観戦の面白さを台無しにし、純粋なファンの楽しみを矮小化している・・・・違うと言い切れますか? ごくごく要約して言うなら、やることなすこと上手くいってプレミアの王者になってしまった、実にむずがゆくてどうやってもどんと構えてなどいられない重圧と、ここだけは失うもののない格下チャレンジャーとしてぶつかっていける解放感の対比が、今季のレスターなのである。だからこそ、レスターは今後もラニエリを全力でバックアップする意志をあっさり更新した。

▽さて、ここで考えていただきたい。では、アーセナルの経営陣、理事会は、ヴェンゲル支持を改めて確認する何らかの言動をものしたか。していない。多分、今後もする“予定”はない。なぜなら、彼らはヴェンゲルの方から辞任の意思を伝えてこない限り、何もするつもりはないからだ。いや、ヴェンゲルが辞めたいと言ったとしても、全力で翻意を促すだろう。この世界には、成績が悪くなると監督のクビをすげ替えるのを当たり前と考える人々がうようよしている。クラブ経営陣のお歴々も、専任ジャーナリストも、元プレーヤーの評論家も、元プレーヤーで評論家経験も持つ監督経験者も、例外ではない。率直に言おう。そういう方々、手合いからは、歴史についてロクに(本心は「これっぽちの」と言いたいところだが)知識も、理解も、リスペクトも感じられない。ざっと10年ほど前、ある高名なコーチ経験者の評論家が、筆者に向かって「ファーガソン、まだ辞めないんですか?」と呆れ顔で問いかけたときは、正直唖然とし、内心ひどくがっかりしたものである。

▽そして、本来なら「わかっているはずの」オーナーサイドですら、最近はしびれを切らすのが早くなったきらいがある。無論、そのほとんどが異邦の投資家グループだという事実と密接にリンクしている。つまり、クラブの歴史、言い換えれば、当クラブならではの伝統に基づくスピリット、優に百年以上をかけて培ってきた“カラー”に対する敬意など、多分、彼らはもはや何の役にも立たないと見切っている節がある。が、現実は正直だ。ファーガソン勇退後のユナイテッドがどんな行く末をたどってきたかを振り返れば、言葉を尽くす必要もないだろう。そして、アーセナルもアーセン・ヴェンゲルあっての“今そこにある”アーセナルなのである。もし、ヴェンゲルが去った日には、アーセナルもそっくり別物になり果ててしまうだろう。このざっと20年間、見続け、それなりに理解してきたアーセナルではなくなってしまうだろう。それでも「結果オーライ」なら良しとするかどうかは“彼ら”の問題だ。いや、いずれはそんな日も必ず訪れる。そして「ヴェンゲル解任」を叫んだあの熱血ファンが、いざその日が来て失望に暮れ、あのときの“暴言”を後悔するのも目に見えている。ひょっとしたら、それを“予見”してしまったからこそ、その“恐怖”に怯えたからこそ、彼は思わず“逆噴射”してしまったのだろうか・・・・。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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