【原ゆみこのマドリッド】希望を持ってもいいのだろうか…

2017.02.04 10:00 Sat
▽「この大事な時に何やってんだか」そんな風に私が呆れていたのは金曜日、いつものように朝、新聞を買うため、家の前の売店に寄ったところ、アトレティコファンの店主のお兄さんから「ルカスがDVで逮捕された」と聞いた時のことでした。いやあ、ネットで詳しく調べてみると、木曜深夜、チームメートとの食事から、酔って帰宅した20歳のDFは彼女と議論になった挙句にケガをさせ、マハダオンダ(マドリッド近郊)の警察署で一晩過ごしたそうなんですけどね。後で病院に行ったものの、彼女の方も同時に暴力行為で逮捕されていたとかって、要はこれって痴話喧嘩では?

▽うーん、1度こんな話が出ると、後追いのように、実はルカスは1年前にもカラオケ店でお酒を飲んで煙草を吸っていたところを他の客に注意され、相手を殴って現在、訴訟中だなんて記事も出てきたりもするんですけどね。今回の件で何とも情けなかったのは折しも丁度、その木曜の夜はアトレティコからレンタルでアラベスに修行に出ているテオがバライドスでドシャ降りの雨の中、セルタとのコパ準決勝1stレグで奮闘。まさか、その兄ルカスが1歳年下の弟がアウェイで0-0と引き分けたことを祝って遊びに出た訳もないと思いますが、何よりこの1週間、自分のチームは水曜の結果を引っくり返すべく、死に物狂いで努力しなければならない苦境にありますからね。

▽それもせっかく、お隣さんの専売特許のような奇跡のremontada(レモンターダ/逆転劇)を少しは信じられそうな雰囲気になってきたところで、こういう事件が起きると、ファンの気分が削がれてしまうかもしれないのが怖いんですが、さて。あ、金曜午後3時頃に保釈されたルカスは月曜に裁判所に出頭予定、彼女とは500メートル以内の接近禁止令が出ているそうですが、とりあえず、当人はベンチで応援していたバルサとのコパ準決勝1stレグがどうだったかをお伝えしていくことにすると…。
▽それがリーガ前節のアラベス戦で見せた目を覆うような惨状からすれば、序盤はまともに見えたアトレティコだったんですが、化けの皮が剥がれるのも早かったんですよ。そう、前半6分にはグリースマンが自陣でマスチェラーノにボールを奪われたのをキッカケにルイス・スアレスがゴール目指して猛ダッシュ。サビッチもゴディンも簡単にかわして、GKモヤを破った時には前夜、合宿先のモンテ・レアル・ホテルに到着したチームを昨季のCL準決勝バイエルン戦以来でしょうかね。盛大にbengala(ベンガラ/発煙筒)を炊いて迎えた300人余りの疑うことを知らない熱烈なファンも、試合前、「この5年間で6回目の準決勝を戦うウチの選手たちを心から誇りに思う」と話していたシメオネ監督もただただ、呆れるしかなかったかと。

▽1点リードを許した後のアトレティコはここ数試合のダメダメ気質が前面に出てしまい、いえ、バルサがある程度、引いてくれたため、追加点は32分まで取られなかったんですけどね。今度はメッシにエリア前から弾丸シュートでgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)を決められてしまうとは、ちょっとお。もしやアトレティコの選手たち、ここ9試合で計12得点されているMSN(メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールの頭文字)の恐怖を忘れてしまった?ええ、こうなったら次はネイマールだろうと私が覚悟したのと同様、その時点ではオンダ・マドリッド(ローカルラジオ局)の実況アナたちも「こりゃ0-5ぐらいになると思った」、「fin de ciclo/フィン・デ・シクロ(サイクルの終わり)という言葉が頭に浮かんだよ」と、試合後のミックスゾーンで話していましたっけ。
▽でもそうじゃなかったんですよ!後半頭からベルサリコ下げ、フェルナンド・トーレスを入れたアトレティコはまったく違うチームになっていたんです。再開早々、ガビがワンツーでGKシレッセンの前に躍り出たチャンスはジョルディ・アルバにシュート直前でボールをカットされて実らなかったものの、どうやらそれが反撃の狼煙だったようで、急に攻め始めたものだから、こちらもビックリしたの何のって。前半のひどい出来に意気消沈していたスタンドもしばらくは息を潜めて見守っていましたが、とうとう13分、ガビの出したFKをゴディンが頭で流し、ゴール左前にいたグリースマンがマークについたマスチェラーノを高々と上回ってヘッドをお見舞い。1点を返すことに成功したため、一気にスタジアムを満員にしたファンが盛り上がることに。

▽え、でもその時、ゴディンをフリーにするのにコケがルイス・スアレスを引き留め、倒してしまったのは明らかにファールで、本来なら、このゴールはスコアボードに上がらないものじゃなかったのかって?まあ、そうなんが、幸い審判もお目こぼししてくれましたし、元々、そういう形のセットプレーだったようですからね。それより感心したのはシメオネ監督の先見の明で、ファンフランによると、「Al descanso nos dijo que si metiamos el primer gol se crearia en el Calderon un aura especial/アル・デスカンソ・ノス・ディホ・ケ・シー・メティアモス・エル・プリメール・ゴル・セ・クレアリア・エン・エル・カルデロン・ウン・アウラ・エスペシアル(ハーフタイムに、もし最初のゴールを入れれば、カルデロンに特別な雰囲気が生まれると言われた)」のだとか。

▽実際、お隣さんのジダン監督同様、やはり現役時代から知っているクラブで監督をしているだけあって、ファンの気質をよくわかっているのはありがたいことで、以降は「Tiene una aficion increible, que le anima aunque vayan perdiendo/ティエネ・ウナ・アフィシオン・インクレイブレ、ケ・ラ・アニマ・アウンケ・バジャン・ペルディエンドー(信じられないようなファンを持っている。負けているにも関わらず、応援するんだから)」と後でジョルディ・アルバも羨んでいた場内の声援を受けて、アトレティコは更なる攻勢に。ええ、バルサの方は30分にメッシのFKをモヤが弾いたボールが枠に当たったぐらいだったのに対し、シメオネ監督のも後で「en el segundo tiempo nos acercamos al equipo que siempre hemos sido/エン・エル・セグンド・ティエンポー・ノス・アセウカモス・アル・エキポ・ケ・シエンプレ・エモス・シードー(後半はウチが常にそうだったチームに近づいた)」と認めていたように、グリースマン、トーレス、そしてカラスコから代わったガメイロと何度も危険なシュートを撃ったんですが…。

▽残念ながら、同点には至りませんでした。ただ、1-2で負けてしまったアトレティコとはいえ、やはり優勢で試合を終えたのは自信回復につながったようで、「No tengan ninguna duda de que estamos vivos/ノー・テンガン・ニングーナ・ドゥーダ・デ・ケ・エスタモス・ビボス(ウチがまだ生きていることに少しでも疑いを持たないでくれ)」というシメオネ監督を始め、選手たちも「La eliminatoria esta abierta y vamos a ir a morir a Barcelona/ラ・エリミナトリア・エスタ・アビエルタ・イ・バオス・ア・イル・ア・モリール・ア・バルセロナ(対戦は終わっていないし、ウチは死ぬ気でバルセロナに行く)」(ファンフラン)と来週火曜の2ndレグに向けて気合満々。

▽いやあ、だったら前半あんなにオタオタしないで、最初からやる気を見せていれば良かったんじゃないかと言うのは正論ですが、バルサの選手たちと彼らには明らかに天賦の才に差がありますからね。「En el descanso hemos recordado quienes somos/エン・エル・デスカンソ・エモス・レコルダードー・キエネス・ソモス(ハーフタイムにボクらは自分たちが何者かを思い出した)」とトーレスも言っていましたが、諦める前に才能では劣っていても、意志と体力を総動員した密度の高いプレーをすれば、バルサやレアル・マドリーとも互角にやり合えることを思い出してくれただけでもありがたいじゃないですか。

▽え、でもそのせいで、トーレスと共に後半、生え抜きのアトレティコ魂を見せてくれたガビがイエローカードをもらい、累積警告で2ndレグに出られなくなってしまったじゃないかって?うーん、バルサもネイマールが同じ憂き目にあっていますが、片や「Si hay un equipo en el mundo que no debe lamentarse de las ausencias es el Barcelona/シー・アイ・ウン・エキポ・エン・エル・ムンド・ケ・ノー・デベ・ラメンタールセ・デ・ラス・アウセンシアス・エス・エル・バルセロナ(世界に選手の不在を嘆くべきでないチームがあるとしたら、それはバルセロナ)」(ルイス・エンリケ監督)と自負している相手ですからね。もちろん個人的には、「Me pierdo el partido de vuelta, pero asi estoy en la final/メ・ピエルド・エル・パルティードー・デ・ブエルタ、ペロ・アシー・エストイ・エン・ラ・フィナル(自分は2ndレグを逃すけど、おかげで決勝には出られる)」というキャプテンの台詞を信じたい気持ちもありますが、こればっかりはねえ。

▽おまけに向こうはビセンテ・カルデロンでの試合には間に合わなかったイニエスタが復帰しそうだとか、これまでアトレティコはホームでの初戦を1-2で負けて、逆転突破したのは4回中1回しかないとか、逆にバルサは14回全部勝ち抜けているとか、更にはこの結果は先日、準々決勝で敗退したマドリーがセルタ戦1stレグで喫したのと同じだなんて、ネガティブな面を考え始めると決して楽観はできないんですけどね。とはいえ、リーガと違って、確かに「Siempre digo que la Copa es rara/シエンプレ・ディゴ・ケ・ラ・コパ・エス・ラーラ(コパは奇妙だと私はいつも言っている)」(シメオネ監督)という意見も一理ありますから、今はあまり悩まない方がいい?

▽というのも彼らにはもう、レガネスとのミニダービーが迫っているせいで、始めに書いた事情でルカスは招集されず。前節に肉離れを起こしたヒメネスもいないため、ますますDF陣が手薄になってしまったアトレティコはとうとうトップチームのフィールドプレーヤー自体、15人しかいないという事態に。対照的に1月31日の駆け込み補強も含め、この冬の市場で7人を獲得したマドリッドの新弟分はブエノやティト(どちらもグラナダから移籍)といったラージョ(今季は2部)でお馴染みだった選手やエル・ザール(ラス・パルマス)なども加わって少々、得点力が増した感が。

▽いえ、もちろん現在、17位と降格圏ギリギリにいる彼らにも頑張ってはもらいたいんですけどね。一応、すぐ下のスポルティングとは勝ち点差5ありますし、ここでまた、シーズン前半戦のように引き分けるようなことになると、アトレティコはミニマムマストのCL出場権獲得順位すら危うくなってきますから、やはり背に腹は変えられないかと。そんなアトレティコvsレガネス戦は土曜午後6時30分(日本時間翌午前2時30分)キックオフ。アフリカ・ネーションズカップ参加中のトマスがいるガーナも準決勝で敗退したそうですが、帰って来るにはまだ日数がいりそうですしね。中盤はチアゴやアウグストがリハビリ中とあって、シメオネ監督がコパに備えてローテーションできるのはせいぜい、前線ぐらいでしょうか(ただしグリースマンを除く)。

▽一方、今週からコパがないマドリーはずっとバルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場でトレーニング三昧の日々だったんですが、どうやらこの節は首位固めに最高の環境が揃っている気配が。だってえ、木曜にアラベスと準決勝1stレグでアドバンテージを取れなかったセルタのベリッソ監督がまた、「Para nosotros es prioritario el partido del próximo miércoles. El domingo, rotaciones/パラ・ノソトロス・エス・プリオリタリオ・エル・パルティードー・デル・ミエルコレス。エル・ドミンゴ、ロタシオネス(ウチにとって、優先されるのは次の水曜の試合。日曜はローテーションする)」と宣言しているんですよ。つまり、イアゴ・アスパスやバス、ボンゴンダといった、マドリーをコパから追い落としたメンバーが出て来ないってことじゃないですか。

▽となると、ジダン監督が狙うは、16強対決でのセビージャのようにコパでは苦杯をなめながら、続くリーガ戦で勝利して鬱憤を晴らすという道ですが、唯一の難点は今回、クロースが出場停止ということ。ただ、それ以外は朗報が多くて、負傷者が続々と戦列復帰に近づいているのは心強いかと。ええ、左右順番にふくらはぎを痛めていたハメス・ロドリゲスはこのセルタ戦で戻れそうですし、もう全体練習に参加しているマルセロも秒読み段階。モドリッチも次のオサスナ戦には準備ができる見込みな上、何とカルバハルや足首の手術をしたベイルまで予定を繰り上げて、15日のCLベスト16、ナポリ戦1stレグに出場できそうだとなれば、もう怖い物などない?

▽ちなみにそのサンティアゴ・ベルナベウで行われるそのナポリ戦はもうチケット完売だそうですが、まだ先のことなのでともかく、今週末は土曜に2位バルサがアスレティックと、日曜には3位セビージャがビジャレアルといった難敵と顔を合わせるだけに、取りこぼしも十分見込めますからね。その上、22日にはクラブW杯参加のため、延期されていたバレンシア戦もあるとなれば、この1カ月で現在、勝ち点4の差がもっともっと開く可能性も。まずはその第一歩となるセルタvsマドリー戦は日曜午後8時45分(日本時間翌午前4時45分)からですが、それまでにライバルたちの試合が終わっているのも選手たちの励みになるかもしれませんね。

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