【原ゆみこのマドリッド】あれはサッカーじゃなかったかも…

2017.01.31 13:30 Tue
▽「一応、ボールはあるみたいだけど」、バカバカしいとは思いつつも目を皿のようにして、アトレティコのビデオを見入っていたのは月曜日。彼らが練習を再開した日の午後のことでした。いやあ、トレーニングセッションにボールが登場しないプロのサッカークラブなんて、体力作りメインのプレシーズンでさえ、ほとんどないとは思うんですけどね。ただシメオネ監督になってからのアトレティコは基本、マスコミに公開されるのは練習開始からたったの15分のみに限定。よって、スポーツ紙のサイトやTVニュースで見られるのはほぼ、ロンド程度で終わるアップの部分だけとなれば、もしやその後、ちゃんとボールを使ってパスや連係の練習をしているのかどうか、知る術はないってことにならない?

▽ちなみに何故、私がこうも懐疑的になってしまったのかというと、それはもちろん先週末の試合のせいで…。いえ、いろいろと幸運が続いて、シーズン開幕戦同様、アラベスに勝てなかったにも関わらず、アトレティコの順位は4位のままで変わらなかったんですけどね。その日は近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)では子供連れ家族数組が集まって、お誕生日会が開催中。余った隅のスペースでその団体越しに観戦していた私ですが、彼らがまったくTV画面に興味を示していなかったのがどんなにありがたかったことか。

▽その理由は土曜日の午後だというのに、よりによってアトレティコの試合なんか見ている自分が何年かぶりに恥ずかしくなったせいだったんですが…。だって、序盤から、「Alavés fue superior, sobre todo, en intensidad/アラベス・フエ・スペリオール、ソブレ・トードー、エン・インエンシダッド(アラベスの方が上だった。とりわけプレーの激しさで)」(シメオネ監督)だったんですよ。それだけでなく、その日、キャプテンのガビが累積警告で出場停止だったという事情はあるものの、代わって中盤を担ったコケ、サウールら、カンテラーノ(アトレティコB出身選手)の後輩を始め、カラスコ、ガイタン、ガメイロ、グリーズマン、さらにDFラインまでパスミスのオンパレード。選手によっては満足にトラップもできない状態となれば、前半終了間際、とうとうオンダ・マドリッド(ローカルラジオ局)の実況アナまで、「アトレティコはサッカーの練習をしてないんでしょうか」と言い出したとしてもまったく不思議はない?
▽いやまあ、その点に関してはここ数試合、私もこっそり疑っていたんですけどね。当然、何かの偶然でボールを取り戻しても、次のパスが敵目掛けて真っ直ぐ出ていくため、30%という惨めなポゼッションで前半を終えた彼らでしたが、幸い序盤に至近距離からシュートを放ったイバイ・ゴメスがGKモヤのparadon(パラドン/スーパーセーブ)に防がれたのを始め、総じてアラベスの選手たちに決定力がなかったのはラッキーだったかと。おかげでスコアは0-0のまま、ハーフタイムに入ることができます。

▽後半も変らず、ダメダメなプレーを続けていたアトレティコですが、得点チャンスが1度もなかった訳ではなく、71分にはガイタンがサビッチのロングパスに抜け出して、敵エリアまで独走するシーンも。でもねえ、いくらサッカーの神様は不公平だとしても、ここで点が決まって、どこを取っても最低だった彼らが勝ってしまうのはあんまりだと思ったんでしょうかね。実際、シュートを撃つ直前、ガイタンはGKパチェコにボールを取られてしまい、ゴールを決めることはできませんでしたっけ。
▽結局、交代で入ったフェルナンド・トーレスやコレアも状況を改善することはできず、あとはモヤがエドガルや、テオのシュートも弾き、試合はスコアレスドローで終了。いえ、ペレグリーニ監督など、「Merecimos ganar, ha sido uno de los mejores partidos de la temporada/メレシモス・ガナール、ア・シドー・ウノ・デ・ロス・メホーレス・パルティードス・デ・ラ・テンポラーダ(ウチは勝利に値した。今季最高の試合の1つだった)」と残念がっていましたけどね。

▽誰より目立ちながら、ゴールは奪えなかったカマラサを筆頭に、何度も何度もシュートを外し、フラストレーションが溜まったんでしょうか。あろうことか、ゴディンにツバを吐きかけ、自身も同じ方法でリベンジされていたデイベルソンなど、アトレティコの守備陣にほとんど邪魔されなかったにも関わらず、ああも点が取れないのではねえ。自業自得なところもありますが、一方のシメオネ監督はもう、あまりに反省するべき点が多すぎたか、「Fue un partido malo en general/フエ・ウン・パルティードー・マロ・エン・ヘネラル(全判的に悪い試合だった)」と簡潔な評価をしたのみ。

▽うーん、こんな悲惨なプレーを続けていたら、コパ準決勝1stレグでバルサの選手たちに笑われてしまうんじゃないかと、私なんかは心配でたまらないんですけどね。まあ、今になって、いい年をした部下たちに「パスは味方に向かって出すように」なんて言えるはずもなし。それに加えて、彼らには人員的に深刻な問題も発生して、このアラベス戦では後半序盤にヒメネスが右太ももの肉離れで交代。ピッチに座り込んだ当人が泣いていたことから、重傷なことは察せられたんですが、マドリッドに戻ってからの検査では全治に4週間程かかるのだとか。

▽結果、チアゴ、アウグストが負傷中、ガーナがコパ・アメリア準決勝に進出したため、まだ戻って来られないトーマス、そしてチェルチは員数外なため、しばらくフィールドプレーヤーが15人しかいなくなってしまったアトレティコですが、さて。翌日曜日の正午試合でバルサが幻のゴールのせいもあって、ベティスと1-1でドロー。イニエスタ、ブスケッツがケガでいない中盤はかなり残念だったなんて記事を読むと、ちょっとは慰めになるんですが、先週ミッドウィークのコパ準々決勝レアル・ソシエダ戦では5-2と余裕で勝っている相手ですからね。水曜日午後9時(日本時間翌午前5時)から、おそらくまた極寒であろうビセンテ・カルデロンのスタンドで見る一戦が、心まで凍り付かせるようなものにならないことを今は祈るしかありません。

▽え、そのバルサ引き分けに加え、午後にはセビージャがエスパニョールに3-1で負けたという報もあった後、お隣さんは日曜日最後の試合に挑んだんだろうって? その通りで、雨混じりの夜だったため、私がサンティアゴ・ベルナベウへ向かう足取りは重かったんですけどね。ジダン監督など、「ライバルが勝ち点を失うのを見ると、上手くやろうという意志がより強くなる。Lo comentamos en Valdebebas y vimos todos los partidos/ロ・コメンタモス・エン・バルデベバス・イ・ビモス・トードス・ロス・パルティードス(そのことはバルデベバスの合宿所で話して、試合も全部見たよ)」と後で打ち明けていましたから、「Me gusta tener una siesta larga/メ・グスタ・テネール・ウナ・シエスタ・ラルガ(自分は長い昼寝をするのが好き)だから、見る機会がなかった」なんていう、ケイロル・ナバスのような例外はあるものの、レアル・マドリーの選手たちも同じ思いだったかと。

▽ただ先週、セルタにコパ準々決勝敗退に追いやられてから、最初のホームゲームを迎える彼らのレアル・ソシエダ戦前の優先事項は“antisilbato(アンティシルバートー/反ブーイング)"で、キャプテンのセルヒオ・ラモスを始め、ルーカス・バスケス、ナチョ、クリスチアーノ・ロナウドらがベルナベウのサポーターにpito(ピト/ブーイング)でなく、応援をお願いするキャンペーンを張っていたんですけどね。ジダン監督は「Él no se borra, tiene personalidad/エル・ノー・セ・ボラ、ティエネ・ペルソナリダッド(彼はバックレたりしない。強い性格をしている)」と言っていたものの、負傷者多発の関係で先発せざるを得なかったダニーロなどが温かく迎えられたかどうかはまた別の話。

▽ええ、実際、同様にファンの批判の的になっているベンゼマも試合の前半はあまりいいリアクションはもらっていなかったんですが、何せ私など、昨日の今日で見るソシエダが、アトレティコと同じ勝ち点で5位と、ヨーロッパの大会出場圏内にいるチームであれば、当然のことなんですけどね。あまりに普通にパスを繋いでいるのに感嘆していたため、ブーイングの方はそれ程、気にならなかったんですが、それでもサッカーとは何とも奥深い。ええ、「Jugar bien no es sólo tener el balón y controlar el partido, sino generar problemas al rival/フガール・ビエン・ノー・エス・ソロ・テネール・エル・バロン・イ・コントロラール・エル・パルティードー、シノ・ヘネラル・プロブレマス・アル・リバル(いいプレーをするというのはボールを持って、ゲームをコントロールすることではない。敵に問題を起こすこと)」とエウセビオ監督も後で反省していましたが、敵陣でボールを奪って先制したのはマドリーの方だったんですよ。

▽それは37分のことで、少し前にボールを失ってブーイングを受けていたロナウドが敵DF間を通す絶妙なスルーパス。これに反応したコバチッチが高いドリブル力を見せつけ、GKルリを破ってくれたから、スタンドの重苦しくなりかけていた雰囲気を一掃するのにどんなに役立ったことか。前半はこの1点だけだったマドリーですが、50分にはこの2人が役目を取り替えて2点目をゲット。ええ、コバチッチのパスから、ロナウドがvaselina(バセリーナ/ループシュート)で決めてくれます。うーん、今季はゴール量産ペースが落ちて、昨今では度々、スタンドからピーピーされるようになっていたせいで、その日もピッチでは悪態をついていた当人ですけどね。これでちょっとは機嫌を直して、再びgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)を見せてくれるといいのですが。

▽そして73分にはソシエダのイニゴ・マルティネスが2枚目のイエローカードで退場となったおかげもあり、ベンゼマに代わって途中出場したモラタが82分、GKナバスから始まり、ロナウド、ダニーロ、ルーカス・バスケスを経て14秒でピッチを縦断した速攻で3点目を奪ったマドリーは3-0で快勝。アトレティコなどに比べると、計ったようなパスの繋がりぶりは雲泥の差ですが、まあそれは以前からわかっていたことですからね。才能の明らかな差に、より私が落ち込むということもなかったんですが、この勝利でマドリーはお隣さんが5位に落ちることを助けてくれた代わりに、とうとう両者の差は勝ち点10に。

▽同様に2位3位に勝ち点で並ぶバルサとセビージャとも4ポイント離れ、更にクラブW杯参加のため、延期しているバレンシア戦の分、消化試合が1つ少ないとなれば、もしやここからのリーガはマドリーの独走状態に入る? 何せ、今の彼らはスケジュール的にも恵まれていて、コパがなくなったおかげで今週は試合がありませんしね。次節は木曜日にアラベスとの準決勝1stレグを戦うセルタと日曜日に対戦。そのベリッソ監督の率いるチームは土曜の夜にレガネスを0-2で破り、「Los menos habituales han demostrado ser importantes/ロス・メノス・アビトゥアレス・アン・デモストラードー・セル・インポルタンテス(控え選手たちが重要になれると示した)」という指揮官の言葉通り、コパの合間となるマドリー戦でもレギュラーは温存されるはずですからね。

▽さらにミッドウィークの空いた次の試合も19位のオサスナと、組みし易い相手となれば、丁度、モドリッチやハメス・ロドリゲスが戻って来るのも重なって当分、マドリーの天下は脅かされることがないかも。いえ、先のことはわからないのがサッカーですけどね。ちなみに前節、降格圏ギリギリの17位に落ちてしまった弟分のレガネスですが、18位スポルティングとの差は勝ち点5のままキープ。もうシーズン後半戦が始まっているだけに早くまた、勝てるようになってほしいんですが…この土曜日はビセンテ・カルデロンでのミニダービーなんですよ。とりあえず、負けてもまだレッドゾーンには入りませんから、まあその次からということでどうでしょうか。

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