【東本貢司のFCUK!】爆買いの魔の手を振り払え
2016.12.30 10:59 Fri
▽なるほど中国人は爆買いがお好きなようだ。いや、こちらの爆買いが真正か。さて、湯水のごとく湧き出ずるカネまたカネの出所はいずこか。かつて(それとも今でも?)レアル・マドリードはマドリード市の“ヒモつき”だと言われたものだが、ひょっとしてこちらの方にも“同じ事情”が当てはまるのだろうか。さんざ気を持たせ迷いに迷った(ふり?)カルロス・テヴェスも、ついにその軍門に下った。上海申花がクビを縦に振った移籍金総額こそ、オスカー(25歳)の6000万ポンドに遠く及ばない4000万だが、テヴェス自身の懐には「週給で31万ポンド」が入り、一気に(たぶん)世界最高給取りになる見込み。ふ~ん、上海ファンならいざ知らず、欲の張った(失礼)チャイニーズ小市民がはたして屈託もなくテヴェスのプレーにわくわくするものだろうか、などと勝手な心配をしてしまう。いや、そんなことよりこんな途方もない“価格逆破壊”がもたらす害の方が・・・・。
▽習近平はことのほかフットボールがお好きなんだそうだ。国庫からの援助のあるなしは脇においても、一説には「法外な免税措置」でバックアップしているのは間違いないのだとか。どうやら本気で「世界最高峰のリーグ」を目指しているらしい。なにせ、イングランドきってのレフェリー、マーク・クラッテンバーグの引き抜きまで画策しているというのだから。上海のボスはグル・ポジェ、スコラーリにエリクソンにカンナヴァーロに、と戦力充実のマグネット工作は着々と進んでいる。こういう状況は当然、来月解禁になるヨーロッパの移籍市場にも少なからず影響する。“彼ら”は「いくらでも出す」の看板を掲げて、殴り込み同然に割り込んでくる。公平に見て抗いようがない。当のプレーヤーも売り手側のクラブも潤うレベルが格段に上がる。ゆえに、逡巡する。ライバルチームに獲られるくらいなら、という思惑もちらつく。唯一の防波堤はプレーヤー個々のプライド。MLSならまだしもと都落ちを頑として拒否するプロフェッショナルの自負がある限りは・・・・。
▽しかし、真の問題点は、本来の地に足の着いたチーム作り、戦力要請が、さらにしにくくなってしまうことである。シーズン半ばの補強というものは、原則、即戦力の確保だが、そこに中国からの魔の手を念頭に、必然的にその新戦力には事実上レギュラーを保証する“脅迫観念”が芽生える。かといって「明日のスター候補」を即起用できる台所事情など、それがリーグ優勝争いをしているチームなら、なおさら考えにくい。結局、せっかく獲得してもローンに出す羽目になり、必然的に当人が低いレベルで実戦を積むうちに“逸材度”もあいまいになって、気が付けばプレミア昇格を目指すチームの主力になっていたりする。どだい、プレーヤーというものはクラブの思惑通りには動いてくれないものだ。例えば、夏に勇んで入団したまではいいが、クリスマスを迎える頃に監督が解任され、新任に冷遇されなどした日には、それこそさっさと割り切って、中国マネーでも何でもなびいてしまうだろう。そんなことにはならないように慎重な補強戦略を立てるはずなのだが・・・・。
▽そこであえて提案させてもらうならば、現在“ぎりぎり”の6位(ユナイテッド)までの上位陣は、この1月の補強にこだわらない方がいいかもしれない。一応は各チームが抱える“弱点”のほぼ一本釣りに狙いを絞り、獲れなければそれでよし。現有戦力への信頼のメッセージにもなるはずだし、主力の故障を心配したところで何も始まらない。そもそもチームにうまく溶け込めるかどうかわからない新顔を抜擢しても、プラスに働く可能性は五分、いや三分以下。所詮はギャンブルなのだ。折しも、ジョゼ・モウリーニョは狙い定めたリンドロフ(ベンフィカ)の獲得を撤回した。復活したジョーンズとロホのCBコンビが思いの外好調で、わざわざ波風を立てる補強は理も利もないと判断したからだという。英断だと思う。その他、コンテ、クロップ、ペップ、ヴェンゲル、ポチェッティーノにも動く気配は現時点で見えない。ネタが欲しいメディアが周りで騒いでいるだけだ。仮に動いても、ほとんど競合しない筋、手持ちスカウトの目を信じた上でのものになるだろう。
▽それもこれも、運営上層部が各監督にとことん信頼を置いているかどうかにかかってくる。オーナーサイド、それもイングリッシュフットボールをよく理解していないビジネス志向寄りがしゃしゃり出てくると、それ自体が問題の種になってしまう。このほど、スウォンジーがボブ・ブラッドリーをたったの85日で解任してしまった件も、まさにその悪例。同胞の元アメリカ代表監督を盲目的に信じようとしたアメリカ人オーナーグループに、何らヴィジョンがなかったことをさらけ出してしまった。外資オーナーシップブームがここまで進んでも、教訓が生かされない恐れはこの先も十分にある。是非、この一件を教訓にしてもらいたいものである。というわけで2016年はここまで。明年もどうぞよろしく。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽習近平はことのほかフットボールがお好きなんだそうだ。国庫からの援助のあるなしは脇においても、一説には「法外な免税措置」でバックアップしているのは間違いないのだとか。どうやら本気で「世界最高峰のリーグ」を目指しているらしい。なにせ、イングランドきってのレフェリー、マーク・クラッテンバーグの引き抜きまで画策しているというのだから。上海のボスはグル・ポジェ、スコラーリにエリクソンにカンナヴァーロに、と戦力充実のマグネット工作は着々と進んでいる。こういう状況は当然、来月解禁になるヨーロッパの移籍市場にも少なからず影響する。“彼ら”は「いくらでも出す」の看板を掲げて、殴り込み同然に割り込んでくる。公平に見て抗いようがない。当のプレーヤーも売り手側のクラブも潤うレベルが格段に上がる。ゆえに、逡巡する。ライバルチームに獲られるくらいなら、という思惑もちらつく。唯一の防波堤はプレーヤー個々のプライド。MLSならまだしもと都落ちを頑として拒否するプロフェッショナルの自負がある限りは・・・・。
▽しかし、真の問題点は、本来の地に足の着いたチーム作り、戦力要請が、さらにしにくくなってしまうことである。シーズン半ばの補強というものは、原則、即戦力の確保だが、そこに中国からの魔の手を念頭に、必然的にその新戦力には事実上レギュラーを保証する“脅迫観念”が芽生える。かといって「明日のスター候補」を即起用できる台所事情など、それがリーグ優勝争いをしているチームなら、なおさら考えにくい。結局、せっかく獲得してもローンに出す羽目になり、必然的に当人が低いレベルで実戦を積むうちに“逸材度”もあいまいになって、気が付けばプレミア昇格を目指すチームの主力になっていたりする。どだい、プレーヤーというものはクラブの思惑通りには動いてくれないものだ。例えば、夏に勇んで入団したまではいいが、クリスマスを迎える頃に監督が解任され、新任に冷遇されなどした日には、それこそさっさと割り切って、中国マネーでも何でもなびいてしまうだろう。そんなことにはならないように慎重な補強戦略を立てるはずなのだが・・・・。
▽それもこれも、運営上層部が各監督にとことん信頼を置いているかどうかにかかってくる。オーナーサイド、それもイングリッシュフットボールをよく理解していないビジネス志向寄りがしゃしゃり出てくると、それ自体が問題の種になってしまう。このほど、スウォンジーがボブ・ブラッドリーをたったの85日で解任してしまった件も、まさにその悪例。同胞の元アメリカ代表監督を盲目的に信じようとしたアメリカ人オーナーグループに、何らヴィジョンがなかったことをさらけ出してしまった。外資オーナーシップブームがここまで進んでも、教訓が生かされない恐れはこの先も十分にある。是非、この一件を教訓にしてもらいたいものである。というわけで2016年はここまで。明年もどうぞよろしく。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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