【東本貢司のFCUK!】「ヴァーディーマスク」大作戦
2016.12.27 13:10 Tue
▽恒例のボクシング・デイは、リヴァプール-ストーク戦、およびサウサンプトン-スパーズ戦(それぞれ、27日、28日に予定)を除く8試合が行われ、各チームの現況からしてほぼ順当な結果を見た。そう、初お目見えのチャンピオンズでは溌剌として申し分のない戦績を残しながら、プレミアではさっぱりのディフェンディングチャンピオン、レスターは、またホームで星を落とした。要のマーレズ、ドリンクウォーターをベンチに置く(いずれも後半交代出場)ショック療法も、復調気味のエヴァートンには通じず、その先制弾はゴールキーパー、ロブレスからのロングフィードをそのまま持ち込んだミラーラスのファインシュートから。つまり、控えキーパーと控えアタッカーのコンビにしてやられたという、レスターファンにとってはため息の出そうな皮肉・・・・。なんとなれば、その“めったにない”一撃が、事実上フォクシーズ(レスターの通称)に引導を渡す象徴になったからだ。それを素直に認めたクラウディオ・ラニエリは「今季は何をやっても上手くいかないね」。
▽一つ、救いはあった。主軸クリスチャン・フークスの出場停止でチャンスを得た、期待の新人、ベン・チルウェルだ。このオフ、リヴァプールのユルゲン・クロップが獲得に乗り出したほどの逸材で、しかも、その時点ではまだレスターのファーストチーム未体験だった。的確な守備とオーバーラップでキングパワー・スタジアムの観衆も、チルウェルの成長に納得したか、声援が絶えなかった。さて、そのレスターファンだが、ゲーム開始前、スタンドには異様な光景が見られた。ホームサポーター席に陣取るほぼ全員が、ジェイミー・ヴァーディーの顔をプリントしたお面をつけていたのである。仕掛け人は他ならぬクラブで、3万枚を用意したという。言わば、ストーク戦で“両足タックル”を咎められた末の「疑惑のレッドカード」に対する、クラブ挙げての抗議の一環。すげなくアピールを却下して規定通り3試合出場停止を科したFAへの意趣返しだ。ちなみに、ヴァーディー本人も自分のマスクをつけてスタンドで観戦。だが、それも勝利には結びつかなかった。
▽それぞれホームにボーンマス、ウェスト・ブロムを迎え撃って、チェルシーはディエゴ・コスタ抜きで破竹の12連勝(クラブレコード)、アーセナルは終了間際のジルーの一発で何とか連敗ストップ。いかにも、現在のチーム状況と勢いをそのまま映し出した格好である。サム・アラダイスの初采配ゲームとなったワトフォード-クリスタル・パレス戦は、あゝ、カバイェ26分のニートなゴールで先制したアウェイのパレスが、71分にPKで追いつかれるという、ため息ものの結末。しかし、内容的には希望の光も見え、特に過去2試合先発を外れていたアンディー・タウンゼントが、カバイェのゴールを演出した事実が挙げられよう。悔いが残るのは、1-0からクリスチャン・ベンテケがPKを決められなかったことと、やはりやや厳しすぎる感の否めないPK判定。ボックス内でセバスチャン・プロディと絡んで倒れたウィルフリード・ザハのそれが、ダイヴィングとみなされたのだ。なお、PKを決めたトロイ・ディーニーは、これがワトフォード在籍通算100ゴール目。
▽オールド・トラッフォードでは、解任以来初めての“帰還”となったディヴィッド・モイーズ率いるサンダランドが、ファーストハーフこそ、そこそこ互角に渡り合って抵抗を示したのだったが、80分過ぎからの連続失点で力尽きた。ショウを締めくくったのは、すっかり復調したイブラヒモヴィッチと、62分から出場のヘンリク・ムヒタリアン。モウリーニョは特にムヒタリアンのインパクト(体を投げ出してのスーパーヘディングゴール)を「beauty」と褒めたたえ、今後の先発起用を仄めかしたのかと思いきや、「ベンチにムヒタリアンとマーシアルがいるのは心強い」。う~ん、まだ全幅の信頼を置くまでに至らないのか。それに、故障欠場中のルーニーのこともある。マタとエレーラが好調な以上、編成のいじりようがないのはわかるのだが・・・・。一方のブラックキャッツ(サンダランドの通称)、デフォーにボリーニ、アニチェベを加えた3ストライカーで臨むも、終わってみればシュートはわずかに6本(うち1本が、ボリーニによる終了間際のゴール)。ここまでアウェイで5得点のみというゴール欠乏症を打開しないと、残留争いから抜け出せない。
▽モイーズのオールド・トラッフォード訪問が解任以来(2014年)初と述べたところで、意外なエピソードを一つ。モウリーニョはこのほど、サー・アレックス・ファーガソンを、キャリントンのトレーニングコンプレックスに何度か招いていたことを明らかにしたそうだが、実はこれ、モイーズにバトンを渡して勇退して以来のことだったという。つまり、それだけサー・アレックスは後任たちに気を遣ってきたということなのだろう。かつてのサー・マット・バズビーと同じ轍は踏むまいと。ただし、もちろん采配や練習に口を出すわけでは一切なく、モウリーニョによると「偉大な人間の存在をプレーヤーたちにそれとなく思い起こさせたかった」ということらしい。キャリントンの敷地内をぶらぶらしたり、ランチどきにはモウリーニョやプレーヤーたちと肩の張らないおしゃべりをする。「それは楽しくてね。そもそもここは彼の庭なんだし」と破顔一笑する“スペシャル・ワン”。唯我独尊、稀代のワンマン監督もやはり人の子、真正レジェンドには頭が上がらない?!
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽一つ、救いはあった。主軸クリスチャン・フークスの出場停止でチャンスを得た、期待の新人、ベン・チルウェルだ。このオフ、リヴァプールのユルゲン・クロップが獲得に乗り出したほどの逸材で、しかも、その時点ではまだレスターのファーストチーム未体験だった。的確な守備とオーバーラップでキングパワー・スタジアムの観衆も、チルウェルの成長に納得したか、声援が絶えなかった。さて、そのレスターファンだが、ゲーム開始前、スタンドには異様な光景が見られた。ホームサポーター席に陣取るほぼ全員が、ジェイミー・ヴァーディーの顔をプリントしたお面をつけていたのである。仕掛け人は他ならぬクラブで、3万枚を用意したという。言わば、ストーク戦で“両足タックル”を咎められた末の「疑惑のレッドカード」に対する、クラブ挙げての抗議の一環。すげなくアピールを却下して規定通り3試合出場停止を科したFAへの意趣返しだ。ちなみに、ヴァーディー本人も自分のマスクをつけてスタンドで観戦。だが、それも勝利には結びつかなかった。
▽それぞれホームにボーンマス、ウェスト・ブロムを迎え撃って、チェルシーはディエゴ・コスタ抜きで破竹の12連勝(クラブレコード)、アーセナルは終了間際のジルーの一発で何とか連敗ストップ。いかにも、現在のチーム状況と勢いをそのまま映し出した格好である。サム・アラダイスの初采配ゲームとなったワトフォード-クリスタル・パレス戦は、あゝ、カバイェ26分のニートなゴールで先制したアウェイのパレスが、71分にPKで追いつかれるという、ため息ものの結末。しかし、内容的には希望の光も見え、特に過去2試合先発を外れていたアンディー・タウンゼントが、カバイェのゴールを演出した事実が挙げられよう。悔いが残るのは、1-0からクリスチャン・ベンテケがPKを決められなかったことと、やはりやや厳しすぎる感の否めないPK判定。ボックス内でセバスチャン・プロディと絡んで倒れたウィルフリード・ザハのそれが、ダイヴィングとみなされたのだ。なお、PKを決めたトロイ・ディーニーは、これがワトフォード在籍通算100ゴール目。
▽モイーズのオールド・トラッフォード訪問が解任以来(2014年)初と述べたところで、意外なエピソードを一つ。モウリーニョはこのほど、サー・アレックス・ファーガソンを、キャリントンのトレーニングコンプレックスに何度か招いていたことを明らかにしたそうだが、実はこれ、モイーズにバトンを渡して勇退して以来のことだったという。つまり、それだけサー・アレックスは後任たちに気を遣ってきたということなのだろう。かつてのサー・マット・バズビーと同じ轍は踏むまいと。ただし、もちろん采配や練習に口を出すわけでは一切なく、モウリーニョによると「偉大な人間の存在をプレーヤーたちにそれとなく思い起こさせたかった」ということらしい。キャリントンの敷地内をぶらぶらしたり、ランチどきにはモウリーニョやプレーヤーたちと肩の張らないおしゃべりをする。「それは楽しくてね。そもそもここは彼の庭なんだし」と破顔一笑する“スペシャル・ワン”。唯我独尊、稀代のワンマン監督もやはり人の子、真正レジェンドには頭が上がらない?!
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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