【東本貢司のFCUK!】ラニエリとポチェッティーノ
2016.11.24 09:45 Thu
▽初体験のチャンピオンズリーグ、その予選リーグを4勝1分の堂々たる戦績で乗り切り、1試合を残して首位通過を果たした「イングランドチャンピオン」レスター。紛れもなく「快挙」である。相手に恵まれたグループに入ったという但し書きなど、ほとんどやっかみに等しい。なにせ、レギュラーメンバーの一人として、この舞台を経験したことがないのだ。仮に以前の所属クラブが云々の話にもっていったところで、チームスポーツの世界では何の意味もない。もしかしたら、プレミアで運が向かずにもがいているストレスが、失うもののない立場で発散できていると考えることはできる。賭けてもいいが、おそらくは始まる前から格上のプライドを持つアーセナルやマン・シティーなら、こうもスイスイとは行かなかったに違いない。スポーツの真剣勝負において、そのマッチアップを最も左右する、言い換えれば最後に「差がつく、違いがわかる」要素は「メンタル」なのだから。
▽そこで、逆に敗退が決まってしまったトテナムの将、マウリシオ・ポチェッティーノがつぶやいた「敗軍コメント」がクロースアップされてこないか。「今シーズンが始まった頃からわたしは、我々のチャレンジはフィジカルではない、タクティカルだと言い続けてきた。土曜日に続いて火曜、水曜に試合があることへの気構えをコントロールすることだと」注目すべきなのは、「タクティカル」つまり「戦術」とは、週末の国内リーグ戦+ミッドウィークのチャンピオンズ戦への臨戦マインドを“整える"(とまあ、筆者なりに翻訳してみた)ことだと表現している点だ。これをさらに平たく解釈しようとするとくどくなってしまいそうだが、要するに、どんなに優れた理論であっても、それを生かし切るにはメンタルフィットネスが欠かせない、ということだろう。レスターの面々ほどではないとしても、スパーズのメンバーとてチャンピオンズ参戦のスケジュール調整には、いざとなると戸惑いもあるはずだからだ。だからこそ、レスターの無敗通過決定は「快挙」なのだ。
▽なるほど、理屈は通っている。が、かく宣うポチェッティーノ自身にも“迷走”もしくは“調整失敗”のきらいも否めない。そのことは、敗退が決まったモナコ戦の先発メンバーを見れば明らかだろう。ディフェンスラインの名前を見て思わず目を疑ったのは筆者だけだったろうか。CBがケヴィン・ヴィマーとエリック・ダイアー? トビー・アルダーヴァイレルトの故障不在は致し方ないとしても、なにゆえ最も頼れるはずのジャン・ヴェルトンゲンがベンチスタートだったのか。それに、右SBがカイル・ウォーカーではなくキーラン・トリピアーとは! ここで負ければ絶望必至のあとがない状況では、少々無理をしても可能な限りベストの布陣を組んでしかるべきだった。案の定、スパーズはモナコの猛攻に為すすべもなく、敗れるべくして敗れた。そう、スカイスポーツが選んだマン・オヴ・ザ・マッチがGKロリスときては、思わず笑ってしまったほどに。つまり、もっと酷いスコアで惨敗していただろうに、という皮肉、ブラックジョークの含みがあったのでは?
▽そんなスパーズの体たらくを、解説者として観戦していたフィル・ネヴィルは「今シーズンのここまで目にした中で最悪のパフォーマンス」と酷評した。そしてこうも述べている。「プレミアでは(若手主体の変則起用などが)通用することはあっても、チャンピオンズではそうはいかない。彼ら(とポチェッティーノ)はかくて罰を受けた。良い教訓になっただろう」―――辛辣に聞こえるかもしれないが、ネヴィルはむしろ温かい目でスパーズを“思いやった"のだ。それが「経験」というものなのだ、と。現役時代、ユナイテッドで必ずしもレギュラーではなかった身でありながら、豊富な“ヨーロッパ体験”を積んだ彼ならではの言葉だと思う。無論そこには、言葉にはせずとも、サー・アレックスが幾度となく身をもって甘んじ、そしてそれを糧に栄光を築いてきた「蹉跌と成功」へのオマージュもにじみ出ているようだ。キレるだけの頭脳では壁は超えられない。負けるが勝ちの反骨のエナジーこそ、何よりも尊いのだ。挫折を知らないことほど後が怖いものはない。
▽その点、クラウディオ・ラニエリの感想は、ごくごく素直であっけらかんとして、かつ、いかにも含蓄がある。「(あっさり通過を決めたことが)信じられない。夢のようだ。決勝トーナメントの相手がどこになろうと関係ない。いや、楽しみなくらいだ。それより、この素晴らしきパフォーマンスをプレミアでもやってもらわないとね。そっちの方が心配で頭が痛い、気が気じゃないよ」彼は開幕前から言い続けていた。チャンピオンズはあくまでもオマケ、肝心なのはプレミア―――だから歯がゆい、悔しい。チャンピオンズ5戦で4勝、ところがプレミアでは10試合以上経過してまだ3勝。敗戦の数はすでに昨シーズンのダブルスコア。確かに「目も当てられない」。ちなみに、スパーズはここまで唯一プレミアで無敗を堅持している。次なる相手は、レスターが昇格ミドゥルズブラ、スパーズは復調して絶好調のチェルシー。38試合のうちの一つではあっても、この、それぞれの結果とその内容は、今後に大きな意味を持つ。少なくともラニエリにはそれがわかっている。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽そこで、逆に敗退が決まってしまったトテナムの将、マウリシオ・ポチェッティーノがつぶやいた「敗軍コメント」がクロースアップされてこないか。「今シーズンが始まった頃からわたしは、我々のチャレンジはフィジカルではない、タクティカルだと言い続けてきた。土曜日に続いて火曜、水曜に試合があることへの気構えをコントロールすることだと」注目すべきなのは、「タクティカル」つまり「戦術」とは、週末の国内リーグ戦+ミッドウィークのチャンピオンズ戦への臨戦マインドを“整える"(とまあ、筆者なりに翻訳してみた)ことだと表現している点だ。これをさらに平たく解釈しようとするとくどくなってしまいそうだが、要するに、どんなに優れた理論であっても、それを生かし切るにはメンタルフィットネスが欠かせない、ということだろう。レスターの面々ほどではないとしても、スパーズのメンバーとてチャンピオンズ参戦のスケジュール調整には、いざとなると戸惑いもあるはずだからだ。だからこそ、レスターの無敗通過決定は「快挙」なのだ。
▽なるほど、理屈は通っている。が、かく宣うポチェッティーノ自身にも“迷走”もしくは“調整失敗”のきらいも否めない。そのことは、敗退が決まったモナコ戦の先発メンバーを見れば明らかだろう。ディフェンスラインの名前を見て思わず目を疑ったのは筆者だけだったろうか。CBがケヴィン・ヴィマーとエリック・ダイアー? トビー・アルダーヴァイレルトの故障不在は致し方ないとしても、なにゆえ最も頼れるはずのジャン・ヴェルトンゲンがベンチスタートだったのか。それに、右SBがカイル・ウォーカーではなくキーラン・トリピアーとは! ここで負ければ絶望必至のあとがない状況では、少々無理をしても可能な限りベストの布陣を組んでしかるべきだった。案の定、スパーズはモナコの猛攻に為すすべもなく、敗れるべくして敗れた。そう、スカイスポーツが選んだマン・オヴ・ザ・マッチがGKロリスときては、思わず笑ってしまったほどに。つまり、もっと酷いスコアで惨敗していただろうに、という皮肉、ブラックジョークの含みがあったのでは?
▽その点、クラウディオ・ラニエリの感想は、ごくごく素直であっけらかんとして、かつ、いかにも含蓄がある。「(あっさり通過を決めたことが)信じられない。夢のようだ。決勝トーナメントの相手がどこになろうと関係ない。いや、楽しみなくらいだ。それより、この素晴らしきパフォーマンスをプレミアでもやってもらわないとね。そっちの方が心配で頭が痛い、気が気じゃないよ」彼は開幕前から言い続けていた。チャンピオンズはあくまでもオマケ、肝心なのはプレミア―――だから歯がゆい、悔しい。チャンピオンズ5戦で4勝、ところがプレミアでは10試合以上経過してまだ3勝。敗戦の数はすでに昨シーズンのダブルスコア。確かに「目も当てられない」。ちなみに、スパーズはここまで唯一プレミアで無敗を堅持している。次なる相手は、レスターが昇格ミドゥルズブラ、スパーズは復調して絶好調のチェルシー。38試合のうちの一つではあっても、この、それぞれの結果とその内容は、今後に大きな意味を持つ。少なくともラニエリにはそれがわかっている。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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