【原ゆみこのマドリッド】悪夢が戻って来た…

2016.11.22 12:45 Tue
▽「このままだと大変なことになってしまう!」そんな風に私が恐れおののいていたのは月曜日。前日中には憂鬱で見る気も湧かなかったリーガの順位表をスポーツ紙で確認した時のことでした。いやあ、惨々だったマドリーダービーの後、首位のレアル・マドリーの差が勝ち点9に開いてしまったのは重々承知していたんですけどね。土曜日にはセビージャが、日曜日にはレアル・ソシエダがそれぞれデポルティボ、スポルティングに勝っていたため、とうとうアトレティコは4位から、CL出場圏外の6位まで後退。このまま順位が動かなかったら、来季はペイネタでヨーロッパリーグを戦うことに。となれば、忠実なアトレティコファンでも木曜日にあるその大会は別腹で、収容人数が5万5000人だったビセンテ・カルデロンですら、ガラガラだったグループリーグなんぞ、7万人も入る新スタジアムでどうなるか、想像するだけで怖かったから。

▽え、いざとなればCLに優勝して、来季の出場権を得るという奥の手だってまだ残っているだろうって? いやあ、そういうのは絵に描いた餅というか、白日夢というか、クラブの博物館に11個も眩いトロフィーが並んでいるお隣さんならともかく、決勝に出場した3回とも負けている彼らですからね。おまけに土曜日の試合では、シメオネ監督が来る以前のダメダメなアトレティコに戻ってしまったような兆候も見られたため、とてもそんな強気ではいられないんですが、はあ。とにかく、そのダービーの話をしていくことにしましょうか。

▽家を出る前には驚かされたことに、試合前にメッシが吐き気で出られなくなったバルサが、マラガとカンプ・ノウでスコアレスドローに終わったなんて知らせもあったため、それを吉報と受け取ったファンも多かったはずですが…。さすがにビセンテ・カルデロンで開催される最後のリーガ・ダービーとあって、この日は満員御礼。Fondo sur/フォンド・スール(南側ゴール裏)には「Nuestro legado sera eterno/ウエストロ・レガドー・セラ・エテルノ(我々の遺産は永遠に)」という巨大な垂れ幕も現れ、ここ数年のビッグマッチの折には恒例となったhimno(イムノ/クラブ歌)のアカペラ合唱で雰囲気も大いに盛り上がってキックオフ。アトレティコが勢いよく攻めていたのは開始から、ほんの5分間程のこと。
▽あっという間にマドリーが反撃体制に入ると、11分にはクリスチアーノ・ロナウドに至近距離からのヘディングシュートを撃たれ、ボールがラインを完全に割るギリギリでGKオブラクが弾くといったドッキリもあったんですけどね。どうやらその日のアトレティコの運はそこで尽きてしまったよう…。22分にサビッチがエリア前でルーカス・バルケスを倒し、FKを与えるくらいのことはまだ序の口ですって。それどころか、ロナウドの蹴ったボールが、壁を作っていたサビッチとガビの間を抜けて変わった軌道にオブラクも反応できずに先制点を入れられてしまうなんて…。どこまで間の抜けたことをやっているんでしょう。

▽その日はリハビリを終えたベンゼマがいたものの、ジダン監督はBBC(ベイル、ベンゼマ、クリスチアーノ・ロナウドの頭文字)に執着せず、ロナウドをトップに据え、イスコが「Me siento mas comodo/メ・シエントー・マス・コモドー(より快適に感じる)」トップ下に配置。4-2-3-1のシステムで利き足側の左サイドに回ったせいか、ベイルもマメに守っていましたし、右サイドのルーカス・バルケスは生来の働き者ですからね。ファンフラン、フィリペ・ルイス、両SBの上がりを封じられ、シメオネ監督が「Buscabamos buen juego aereo, con el equilibrabamos su altura/ブスカモス・ブエン・フエゴ・アエレオ、コン・エル・エキリブラモス・ス・アルトゥラ(高さを拮抗させて、空中戦を強くしたかった)」という理由で、身長170センチのガメイロに代わって抜擢された183センチのフェルナンド・トーレスの出番もほとんどないまま、0-1で試合を折り返したところ…。
▽ロッカールームで檄を飛ばされたのか、後半のピッチに戻って来たアトレティコは持ち直したんですよ。フランス代表の試合で踏まれた足がまだ痛いのかと、前半の元気のなさに心配されたグリーズマンもシュートを撃って敵ゴールに迫ったものの、それでも得点できないとなると、60分にトーレス、ガビがガメイロ、コレアに交代。決して珍しくないシメオネ監督の攻撃力強化ですが、この過剰な前掛かりが裏目に出てしまいます。後でフィリペ・ルイスも「muchas veces hemos intentado llegar al area y ellos jugaban a la contra/ムーチャス・ベセス・エモス・インテンタードー・ジェガール・アル・アレア・イ・エジョス・フガバン・ア・ラ・コントラ(ウチは何度も敵エリアに入ろうとして、相手はカウンターで戦った)」と言っていたんですが、とにかく足が速いんですよ、マドリーのFWたちは。

▽それにアトレティコがまんまとはまったのは73分で、オブラクのゴールキック目掛けてロナウドが猛ダッシュ。必死で追ったサビッチがエリア内で相手の前に足を伸ばして止めたんですが、これがペナルティかどうかは微妙なところかと。ええ、ASとマルカ(スペインの2大スポーツ紙)でも意見が割れていましたからね。それもあって、審判があっさりPKマークを指したのには、以前の14年間、白星なしが続いたダービーでは吉凶が分かれる際、必ずアトレティコにとって悪い方向に転がるのがお約束だったのを思い出したファンも多かったかと。

▽え、そのPKを決めたロナウドがTVカメラに向かってアゴを撫でるポーズで祝うと、スタンドからはpeineta(ペイネタ/中指を立てる侮辱の仕草)の嵐が巻き起こり、シメオネ監督も「El penalti nos corto la ilusion de meternos en el partido/エル・ペナルティ・ノス・コルト・ラ・イルシオン・デ・メテールノス・エン・エル・パルティードー(ペナルティがウチのゲームに入り込みたいという希望を断ち切った)」と言っていたけど、2点差なら、先週のスペイン代表が土壇場でイングランドに追いついたように、アトレティコももっとガッツを見せれば良かったんじゃないかって? まあ、そうなんですが、残念ながら、彼らの遺伝子にはお隣さんのように奇跡のremontada(レモンターダ/逆転劇)体質は組み込まれていないんですよ。

▽それどころかその6分後には、再び見事なカウンターをかけられ、イスコのロングボールに疾走したベイルがゴール前でロナウドにバトンタッチ。ハットトリックで3点目を決められてしまっては、何人も席を立つファンがいても仕方なかった? うーん、実際、その日、ダービーでの復活を目指し、招集メンバーには入ったものの、「No se veia al cien por cien/ノー・セ・ベイア・アル・シエン・ポル・シエン(100%の調子には思えなかった)」(ジダン監督)というセルヒオ・ラモスがベンチで応援に回ることにしたため、先発入りを果たしたナチョも言っていたように、「Es dificil meternos manos si defendemos todos/エス・ディフィシル・メテールノス・マノス・シー・デフェンデモス・トードス(全員で守れば、ボクらから点を奪うのは難しい)」というのは本当ですからね。

▽そこへ、「大事なのはシステムじゃなくて、それぞれの選手が自身の力を出すこと。Hemos tenido calidad/エモス・テニードー・カリダッド(ウチには質の高さがあった)」(ジダン監督)と言われては、もう返す言葉もありませんが、柄にもなく、セットプレーでマークについたロナウドにからみ、額をくっつけていがみ合った挙句、喧嘩両成敗でイエローカードをゲット。その後もしつこく、悪口を言い続けていたコケなど、もう少し謙虚さを取り戻した方が良いかと。ええ、ウェンブリーでは「少なくともボクはダービーに出るよ」なんて、ナチョやイスコに上から目線で喋っていた結果がこれですもの。才能では明らかにマドリーの方が勝っているんですから、コケがボランチにいるせいで守備が脆くなったという意見はともかく、体力や気力で相手を負かさない限り、互角には戦えませんって。

▽それでも試合を0-3で終えた後、コケは「Somos el Atletico de Madrid, despues de un duro golpe siempre nos levantamos/ソモス・エル・アトレティコ・デ・マドリッド、デスプエス・デ・ウン・ドゥーロ・ゴルペ・シエンプレ・ノス・レバンタモス(ボクらはアトレティコ・マドリーだ。厳しい試練を受けても常に立ち上がる)」と前を向いていなかったかって? うーん、そうなんですけど、ミックスゾーンではロナウドとの一件を訊かれ、「Esto es futbol, ya esta/エスト・エス・フトボル、ジャー・エスタ(これがサッカー、それだけさ)」と言い捨てて、マイクの前から逃げちゃいましたからね。いい加減、休養日の日曜日を挟んで、月曜日にマハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場に出て来た頃には、途中交代させられた際、ベンチでウィンドブレーカーや水のボトルを投げて八つ当たりしていた先輩のガビ共々、頭も冷めたことと思いますが、こればっかりはねえ。

▽過ぎたことはもう仕方ないので、せめて、もうグループ突破は決まっていますが、バイエルンと首位を争っているCLのPSV戦では基本に立ち帰って、これ以上、ファンを失望させないことを祈るばかり。ちなみに水曜日午後8時45分(日本時間翌午前4時45分)からのこの試合もビセンテ・カルデロン開催となりますが、シメオネ監督がメンバーやシステムを変えてくるかはまだ不明で、今のところ、出場が危ういのはダービーでヒザに打撲を受けたガメイロだけだとか。

▽私も本音は、月曜日にマドリッドの新弟分、レガネスに2-0でリーガ1部ホーム初勝利を与えてくれたオサスナと当たる日曜日の試合が早くやって来て、リーガ2連敗のスランプを脱出してもらいたい感じなんですけどね。こんな時こそ、Partido a partido/パルティードー・ア・パルティードー(1試合1試合)を貫かないといけませんよね。

▽その一方で月曜日には早速、火曜日のスポルティングCP戦に備え、リスボンに飛んだマドリーでしたが、こちらはまだグループ突破が決まっておらず。といっても必要なのはあと勝ち点1だけですけどね。キャリアを始めた古巣相手ということで、ロナウドも張り切っていますし、たとえ1節ではモラタの後半ロスタイムのゴールで2-1の辛勝と苦労はしていても、チームが過剰なリラックス状態に陥らなければ、それ程問題はないかと。

▽ちなみにスタメン的には、アトレティコ戦で普段は控えの選手たちの活躍に満足したジダン監督も「Todos son los mejores pero la BBC un poco más/トードス・ソン・ロス・メホーレス・ペロ・ラ・ベーベーセー・ウン・ポコ・マス(皆、最高の選手たちだが、BBCはちょっと上)」と言っていたため、ビセンテ・カルデロンで足慣らしをしたベンゼマが戻る可能性が濃厚。ナチョもスペイン代表戦から、3試合皆勤が続いていますから、そろそろラモスと交代して、土曜日の、こちらはリーガのスポルティング戦に備えるかも。

▽そんなマドリーのCLグループ5節は火曜の午後8時45分(日本時間翌午前4時45分)キックオフ。そうそう、同日、ユベントスをサンチェス・ピスファンに迎えるセビージャもあと勝ち点1、水曜日にセルティック・パークを訪れるバルサもマンチェスター・シティとボルシアMGの試合結果にもよりますが、あと一息で突破が決定しますよ。

NEWS RANKING
Daily
Weekly
Monthly