【東本貢司のFCUK!】ルーニー泥酔事件は良い兆し?
2016.11.18 13:15 Fri
▽It's the same old story(よくある話)。飲酒問題である。「アスリートが酒を飲むなんて」と目くじらを立てるようになったのは、ほんのつい最近定着したも同然の通念だ。運動生理学的な道理もあろう。アーセン・ヴェンゲル当たりなら「もってのほか」と断言するだろう。一方で、古くから「酒は百薬の長」ともいう。つまり、少量のアルコールならいい? いいや、何等かの憂さを晴らすなりなんなり、たまには度を超してみるのも、精神衛生学上は益もなくはない。ウェイン・ルーニーが泥酔して羽目を外す様子を“パパラッツィ”された。イングランドが宿敵スコットランドに快勝したその夜のことだ。腐ってもスリーライオンズのキャプテン、社会的影響度を考えれば確かによろしくない。とはいえ、さすがに騒ぎすぎではあるまいか――。さて、皆さんはどう思う? もしも、サウジを下したその夜、長谷部がスポーツバーで真っ赤な顔をしてはしゃいでいたとしたら?
▽うーん、実は“母国”周辺では意外なほど同情的、もとい、寛容らしいのだ。ヴェンゲルや、ヴェンゲル以上にうるさいグアルディオラ辺りのコメントは今のところ伝わってきてはいないが、リヴァプールの将ユルゲン・クロップときた日には「それのどこが悪い?」と言わんばかりに苦笑している。「プレーヤーたちの身にもなってやれよ。当たり前のことだが、連中だって人間なのさ。そもそも、今のフットボール界はかつてなくプロフェッショナル化しているってことなんだろうよ」――クロップが言う「プロフェッショナル化」とは、つまり「ガチガチの管理社会」に相当するようだ。「昔のレジェンドたちは浴びるほど酒を飲み、気が遠くなるようにタバコを吸って、それでもなお優れたプレーヤーでいられた。今じゃそんなこと誰もしなくなったが、ウェインがどの程度羽目を外したにせよ、大した問題じゃない」。いかが? これでクロップファンが激増したに違いない?
▽「時代が変わって(ルーニーには)気の毒な点も多い」と気を遣うのは、元チームメイトで、スコットランド代表キャプテンのダレン・フレッチャー。「ウェインだってちゃんと反省してるじゃないか。何も親友だから、あるいは、彼に限らずほとんどのフットボーラーがたまには羽を伸ばしたいものだからって、弁護してるわけじゃない。SNSとそれをもてあそぶ風潮が事を大げさにしてしまってるんじゃないか? ぼくの知る限り、あいつ(ルーニー)ほどはクソ真面目なヤツはいないというのに。ごく普通に接してみたらあいつほど気のいい、付き合いやすい男はいないんだ。つまり、良い意味で隙も多いってことかもね」。続いて、現ラグビー・イングランド代表監督のエディー・ジョーンズ。「騒ぎすぎだ。彼らはみんな大人の男。酒を飲んだってベッドに行く時間は心得てる。次の朝にはしっかりといつものように練習をやる。それがプロってもんだ」・・・・。そう、ルールにしてしまった方が問題を起きやすくする。自己責任の意識がなければプロは務まらない。
▽ルーニーの所属クラブのボス、ジョゼ・モウリーニョですら同情的だ。それも“ジョゼ流”に。「その場にFAのスタッフが何人かいたというじゃないか。なぜ彼らはウェインを制御しなかったんだ?そっちの方がはるかに問題だろう」ひょっとしたら、ユナイテッドでルーニーを“冷遇”している後ろめたさもあった(?)かもしれないが、いずれにせよ、モウリーニョの“巧妙な”いちゃもんが利いたのか、FAはこのほど代表試合期間中の飲酒を禁止する御触れを出した。個人的に、どこか筋違いな気がしなくもない。クロップやジョーンズの言う通り、彼らが大人なら余計なお世話だからだが、世間体を考慮した、つまり、野次馬的なメディアや軽々に騒ぐファンに向けた、体裁づくりとして受け取っておこう。ちょうど、ギャレス・サウスゲイトの「つなぎ監督期間」が終了した区切りでもあることだし。そう、無用な火の粉は払っておくに限る。サウスゲイトにかかる火の粉は。
▽大勢は「サウスゲイトの正式就任」だ。これといった有力な対抗馬なりがいないこともあるが、何より、プレーヤーたちはもちろん、元プレーヤー組の識者もこぞって「続投」を支持している。悠々完勝ムードだった対スペイン・フレンドリーが終了間際に追いつかれた後味の悪さは残るも、取り立てて指揮官の不手際があったわけではない。それをあえて「見送り」、どこぞの異邦の大物指導者を連れてくる方がFAへの風当たりが強くなるはず。また、キャプテンの酒乱(?)事件の根っこにサウスゲイトへの不満があったわけでもない(ルーニーは陽気に羽目を外しただけで誰かに迷惑をかけたわけでもない)。そう考えれば、ルーニーは図らずも“格好のお騒がせネタ”を提供したと言えなくもない。そもそも、フレッチャーが言うように、昨今のプレースタイルからいっても、ルーニーほど責任感の強い男もいないのだ。むしろ、それが彼の長所を自らぼかしてしまっていると思えるほどに。ならばこの一件で彼が本来の自己に目覚めれば好都合。頼むぞ、ウェイン。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽うーん、実は“母国”周辺では意外なほど同情的、もとい、寛容らしいのだ。ヴェンゲルや、ヴェンゲル以上にうるさいグアルディオラ辺りのコメントは今のところ伝わってきてはいないが、リヴァプールの将ユルゲン・クロップときた日には「それのどこが悪い?」と言わんばかりに苦笑している。「プレーヤーたちの身にもなってやれよ。当たり前のことだが、連中だって人間なのさ。そもそも、今のフットボール界はかつてなくプロフェッショナル化しているってことなんだろうよ」――クロップが言う「プロフェッショナル化」とは、つまり「ガチガチの管理社会」に相当するようだ。「昔のレジェンドたちは浴びるほど酒を飲み、気が遠くなるようにタバコを吸って、それでもなお優れたプレーヤーでいられた。今じゃそんなこと誰もしなくなったが、ウェインがどの程度羽目を外したにせよ、大した問題じゃない」。いかが? これでクロップファンが激増したに違いない?
▽「時代が変わって(ルーニーには)気の毒な点も多い」と気を遣うのは、元チームメイトで、スコットランド代表キャプテンのダレン・フレッチャー。「ウェインだってちゃんと反省してるじゃないか。何も親友だから、あるいは、彼に限らずほとんどのフットボーラーがたまには羽を伸ばしたいものだからって、弁護してるわけじゃない。SNSとそれをもてあそぶ風潮が事を大げさにしてしまってるんじゃないか? ぼくの知る限り、あいつ(ルーニー)ほどはクソ真面目なヤツはいないというのに。ごく普通に接してみたらあいつほど気のいい、付き合いやすい男はいないんだ。つまり、良い意味で隙も多いってことかもね」。続いて、現ラグビー・イングランド代表監督のエディー・ジョーンズ。「騒ぎすぎだ。彼らはみんな大人の男。酒を飲んだってベッドに行く時間は心得てる。次の朝にはしっかりといつものように練習をやる。それがプロってもんだ」・・・・。そう、ルールにしてしまった方が問題を起きやすくする。自己責任の意識がなければプロは務まらない。
▽大勢は「サウスゲイトの正式就任」だ。これといった有力な対抗馬なりがいないこともあるが、何より、プレーヤーたちはもちろん、元プレーヤー組の識者もこぞって「続投」を支持している。悠々完勝ムードだった対スペイン・フレンドリーが終了間際に追いつかれた後味の悪さは残るも、取り立てて指揮官の不手際があったわけではない。それをあえて「見送り」、どこぞの異邦の大物指導者を連れてくる方がFAへの風当たりが強くなるはず。また、キャプテンの酒乱(?)事件の根っこにサウスゲイトへの不満があったわけでもない(ルーニーは陽気に羽目を外しただけで誰かに迷惑をかけたわけでもない)。そう考えれば、ルーニーは図らずも“格好のお騒がせネタ”を提供したと言えなくもない。そもそも、フレッチャーが言うように、昨今のプレースタイルからいっても、ルーニーほど責任感の強い男もいないのだ。むしろ、それが彼の長所を自らぼかしてしまっていると思えるほどに。ならばこの一件で彼が本来の自己に目覚めれば好都合。頼むぞ、ウェイン。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
|