【東本貢司のFCUK!】改革の柱は「ルーニーの意識」?
2016.09.08 16:00 Thu
▽2018年ワールドカップに向けたヨーロッパ予選が幕を開け、英国圏5か国代表は揃ってまずまずのスタートを切った。アイルランド勢2か国のみ勝ち点1に終わったが、それぞれ相手が過去の実績からして同等以上、しかもアウェイだったことを考えると、文句のない上々の成果だと言える。残る3か国の方はいずれも格下に順当勝ち。ただし・・・・。ふと思い出すのが、先のユーロ本大会。不参加のスコットランドを除く全4チームが史上初めて決勝トーナメントに勝ち上がった時点での“最大の不安”、すなわち、どこか覚束なげではっきりとしない、肝心のスリーライオンズの戦いぶりが、デジャヴのように甦るのである。しかも、その“病根”たるや、ほぼ瓜二つ。エース、ハリー・ケインに冴えも覇気も見えず、そして何よりも、このスロヴァキア戦でデイヴィッド・ベッカムを抜いてフィールドプレーヤーでは最多キャップ数に到達したウェイン・ルーニーの“迷走”・・・・。
▽ユーロでの教訓、あるいは本質的な適性を踏まえて、新監督サム・アラダイスは、キャプテンのポジションを「一歩」前に上げた。何といってもイングランド代表歴代最多ゴール“更新中”のストライカーであり、自信喪失気味のケインの孤立解消を実現する意味でも、ルーニーの「トップ下」復帰は、ごく自然な路線変更だったはず。ところが、ふたを開けてみると、ルーニーの「ドロップバック癖」は相変わらずで、まさに絵に描いた餅の「ユーロの二番煎じ」に終始する始末。試合後、その点について見解を求められたアラダイスの一言は、驚くべきものだった。「ルーニーのポジションを決めるのはわたしではない」! 受け取りようのよっては「匙を投げた」とでも言わんばかりの、指揮官らしからぬ突き放しよう、もとい「信頼の置きよう」?! しかし、それですべてが上手く運んでいるのならまだしも、現実にスロヴァキアに大苦戦を強いられ、アダム・ララーナの終了間際の一撃に救われた格好ではどんな誹りを受けても致し方ない。果たせるかな「炎上」である。
▽元プレーヤーたちの指摘は必ずしも説得力をもって聞こえてこない。悪く言えば、素人でも言えそうな、ありきたりな問題点のおさらい以上の、核心を突いた例えば改善策の類をめったに聞くことがない。だが、ことルーニーの唯我独尊風チーム貢献マインドに関しては、さすがにわかりやすく、かつ指摘に具体性が伴っていたように思う。かつて、ただ一度プレミアを制したブラックバーンで黄金の2トップを組んだアラン・シアラーとクリス・サトンは、ほぼ明確に「ルーニーをどうにかすべし」と口を揃えるのだ。そこには二通りの“示唆”がにじみ出ている。「ケインとルーニーの2トップを確立」すること。さもなくば・・・・ルーニーの「立ち位置を考え直す」こと。後者は、そう、場合によっては思い切って「外してみる」勇気を、新監督に打診している(少なくとも、そう受け取れる)。なんと目下、スリーライオンズは「ルーニーの処遇」が最大の難問になっているようなのだ。
▽アラダイスは「ホジソン式の修正点」として(?)、アリをベンチに下げてヘンダソンをダイアーの相棒に据えたが、これはスロヴァキア戦に関する限り、ミスキャスティングに終わったと言っていい。むろん、そこにはルーニーが盛んに下がってプレーすることによって中盤の底周辺が“渋滞”状態になり、連携がぎくしゃくした言い訳もできそうではある。だが、それならばせめて、ケイン=アリ=ダイアーのスパーズラインで割り切った方がましだと考えたくなるというものだ。同じ意味合いで、ヴァーディーを使う場合はドリンクウォーターをセットにする。部分的な“クラブのよしみ”手当で、チーム全体がどうなるものではないだろうが、ケインの不発(もしくはチャンスのつかみ損ね)による決定率向上には、そこそこ効果がありはしまいか。あるいはもっと踏み込んで「3トップ」を試してみる。中央ケイン、右にララーナ、左がルーニーだ。ルーニーをワイド気味のポジションに置くことで、彼の“動きすぎ”を縦ではなく横に生かせないかという案。無論、左からならルーニーは中央に流れてパスの渦の中心に身を置き、シュートもしやすいはず。
▽とまあ、あれこれ机上の空論を披露はしてみたものの、ルーニー自身が現状の問題を把握して自覚しない限りは意味がない。それに、ルーニーばかりに論点が集まっているが、ケインにも危機感をもってもらう必要はないか? ヴァーディーは深く引いて「バスを置く」チームには使い辛いイメージがあるようだが、ならばDFの裏をつくロングボールを多用する“振り”を足してみればどうなのか。それともいっそのこと・・・・マーカス・ラシュフォードの魅力に賭けてみる手もありますぞ。なんとなれば、彼はつい先日、U21ユーロ予選のデビュー戦でハットトリックを決めてみせたばかり。監督ギャレス・サウスゲイトはいみじくも“進言”したものである。ラシュフォードの再抜擢は「food for thought(十分考慮に値する栄養素)for Allardyce」! 確かに迷うところだ。「すぐの抜本的改革はできない相談」と慎重なアラダイスだが、かといってこのままでは・・・・。FAからも諦めに似た警告:「2020年の優勝を目標とするのは控えたい」が届いていることだし?
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽ユーロでの教訓、あるいは本質的な適性を踏まえて、新監督サム・アラダイスは、キャプテンのポジションを「一歩」前に上げた。何といってもイングランド代表歴代最多ゴール“更新中”のストライカーであり、自信喪失気味のケインの孤立解消を実現する意味でも、ルーニーの「トップ下」復帰は、ごく自然な路線変更だったはず。ところが、ふたを開けてみると、ルーニーの「ドロップバック癖」は相変わらずで、まさに絵に描いた餅の「ユーロの二番煎じ」に終始する始末。試合後、その点について見解を求められたアラダイスの一言は、驚くべきものだった。「ルーニーのポジションを決めるのはわたしではない」! 受け取りようのよっては「匙を投げた」とでも言わんばかりの、指揮官らしからぬ突き放しよう、もとい「信頼の置きよう」?! しかし、それですべてが上手く運んでいるのならまだしも、現実にスロヴァキアに大苦戦を強いられ、アダム・ララーナの終了間際の一撃に救われた格好ではどんな誹りを受けても致し方ない。果たせるかな「炎上」である。
▽元プレーヤーたちの指摘は必ずしも説得力をもって聞こえてこない。悪く言えば、素人でも言えそうな、ありきたりな問題点のおさらい以上の、核心を突いた例えば改善策の類をめったに聞くことがない。だが、ことルーニーの唯我独尊風チーム貢献マインドに関しては、さすがにわかりやすく、かつ指摘に具体性が伴っていたように思う。かつて、ただ一度プレミアを制したブラックバーンで黄金の2トップを組んだアラン・シアラーとクリス・サトンは、ほぼ明確に「ルーニーをどうにかすべし」と口を揃えるのだ。そこには二通りの“示唆”がにじみ出ている。「ケインとルーニーの2トップを確立」すること。さもなくば・・・・ルーニーの「立ち位置を考え直す」こと。後者は、そう、場合によっては思い切って「外してみる」勇気を、新監督に打診している(少なくとも、そう受け取れる)。なんと目下、スリーライオンズは「ルーニーの処遇」が最大の難問になっているようなのだ。
▽とまあ、あれこれ机上の空論を披露はしてみたものの、ルーニー自身が現状の問題を把握して自覚しない限りは意味がない。それに、ルーニーばかりに論点が集まっているが、ケインにも危機感をもってもらう必要はないか? ヴァーディーは深く引いて「バスを置く」チームには使い辛いイメージがあるようだが、ならばDFの裏をつくロングボールを多用する“振り”を足してみればどうなのか。それともいっそのこと・・・・マーカス・ラシュフォードの魅力に賭けてみる手もありますぞ。なんとなれば、彼はつい先日、U21ユーロ予選のデビュー戦でハットトリックを決めてみせたばかり。監督ギャレス・サウスゲイトはいみじくも“進言”したものである。ラシュフォードの再抜擢は「food for thought(十分考慮に値する栄養素)for Allardyce」! 確かに迷うところだ。「すぐの抜本的改革はできない相談」と慎重なアラダイスだが、かといってこのままでは・・・・。FAからも諦めに似た警告:「2020年の優勝を目標とするのは控えたい」が届いていることだし?
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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