【原ゆみこのマドリッド】災難が降りかかりませんように…

2016.09.04 11:40 Sun
▽「ケガだけはしてこないといいんだけど」そんな風に私が心配してしまったのは土曜日、前節のアスレティック戦で左の太ももを痛めながら、この夏のコパ・アメリカ決勝でチリに負けた後には代表引退を口走って世間を騒がしたお詫びのつもりだったんでしょうかね。”タタ”・マルティーノ監督から引き継いだバウサ監督の初陣だったのにも配慮したか、代表招集を辞退せず、アルゼンチンに駆けつけたメッシのケガがW杯予選ウルグアイ戦で悪化。ゴディンとヒメネスのアトレティコCBコンビが守る中、自身が決勝点を挙げ、バルサの同僚のルイス・スアレスはノーゴールに終わったため、チームは1-0で勝ったんですが、次のベネズエラ戦には出られず、もうバルセロナ行きの飛行機に乗っていると聞いた時のことでした。
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▽いやあ、といってもバルサには同日のエクアドル戦でPKによるゴールを決め、ブラジルの0-3の勝利に貢献。あとは火曜、ベネズエラ戦では1ゴール1アシストの活躍をして、ジダン監督にレアル・マドリー残留決断後のやる気を示したハメス・ロドリゲスのいるコロンビアとの試合を済ませば、リオ五輪を経て、およそ3カ月ぶりのクラブ帰還となるネイマールもいますしね。実際、ルイス・スアレスだって不発の時の方が珍しいんですから、代表戦後、リーガ再開となるアラベス戦にメッシが出られなくても心配することはないような気がしますが、それはリーガ2強の片割れも同様。▽そう、マドリーも開幕から2試合先発をしたモラタが木曜のスペイン代表戦で太ももに打撲を負って交代。月曜のW杯予選初戦出場も危ぶまれていますが、だからって何?だってえ、こちららは連日、バルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場でガンガン、トレーニングに励んでいるクリスチアーノ・ロナウドとベンゼマの映像をオフィシャルウェブ経由で配信(http://www.realmadrid.com/noticias/2016/09/cuarta-sesion-de-la-semana)しているんですよ。もう2人ともゴールまでバシバシ入れているため、来週土曜のオサスナ戦ではBBC(ベイル、ベンゼマ、ロナウドの頭文字)が揃い踏みしていたって、まったく不思議はないかと。
▽逆に今のところ、特に負傷の報は入っていないものの、気苦労が絶えないのはアトレティコで、実は今回、総勢17名というリーガのチームで最多の人数が各国代表に招集され、マハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場で汗を流していたのはフェルナンド・トーレス、ガビ、チアゴ、ファンフランら、30代カルテットだけという有様に。シメオネ監督も木曜には母国のアルゼンチンに帰ってしまい、いえ、水曜にニヨンで行われた毎年恒例のUEFAエリートクラブ監督フォーラムは、自らデシマ(CL10回目の優勝のこと)とウンデシマ(同11回目)をプレゼントしてしまったアンチェロッテ監督(現バイエルン)とジダン監督と顔を合わせるのがイヤだったんでしょうかね。出席を辞退したんですが、どうやらまだ若い息子さんたちに会って、エネルギーを分けてもらいたくなったようです。

▽まあ実際、この開幕2試合、得点できず2引き分けを続けているチームを立て直すのに必要な攻撃陣主力は出向中とあって、残っていても仕方ないのは確かですけどね。木曜にイタリアとの親善試合に1-3で勝利したフランスは火曜にベラルーシとのW杯予選。とにかくグリースマンとガメイロには何事もないように祈るばかりですが、他もカラスコ、コケ、サウル、大西洋の向こうにもガイタン、コレアら、欠けては困る選手が散っていますからね。今季初勝利を何が何でも掴みたい土曜のセルタ戦では、シュート精度が改善しているかどうかは別として、全員が元気な姿を見せてくれると助かるんですが…。
▽え、リーガ再開はまだ先、今はロペテギ新監督下でスタートを切った新生スペインの初戦がどうだったか知りたいって?そうですね、月曜にラス・ロサス(マドリッド近郊)に選手たちが集合した当初は、まだレガネス戦を0-0で終えた後、頭に血が昇ったグリースマンが「こんなことをしていたら、ウチは降格を争うことになる」という、見当違いな発言をしたことに対し、若輩ながら、カンテラーノ(下部組織出身の選手)のサウルが意見。「Griezmann debe pensar lo que dice/グリースマン・デベ・ペンサル・ロ・ケ・ディセ(グリースマンは言うことを考えないといけない)。自分がどこにいて、どのチームを代表しているのかをね。ボクらには価値観があって、ああいうことは言ってはいけない」と、アトレティコの誇りを説いたなんて話もあったんですけどね。

▽ようやく水曜にチームがブリュッセル入りすると、相手はFIFAランキング2位のベルギーですし、昨年11月に予定されていた同カードがパリの多発テロ事件の影響で前日、急遽中止になったなんてこともありましたしね。試合についての関心も高まっていったんですが、夕方の早い時間にU21ユーロ予選のサンマリノ戦で6-0と、後輩たちがgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)を披露した後、始まったその試合の先発メンバーはほぼ予想通り。意外だったのは、この夏、UEFAスーパーカップでもスペイン・スーパーカップでもマドリー、バルサに敵わなかったものの、セビージャ唯一の希望のように見えたビトロが起用されたことぐらいでしょうか。

▽それがロペテギ監督の大ヒットだったのは後になってわかるんですが、最初の特筆すべきイベントは前半22分。モラタがムニエル(PSG)との接触プレーでダウンしてしまい、スペインは早々にCFをジエゴ・コスタ(チェルシー)に代えざるを得なくなることに。何せ、これまではあまりティキタカ(ショートパスをつなぐスタイル)と相性が良くないのか、この夏のユーロにも招集されなかったコスタでしたしね。これは得点するには時間がかかるだろうなと思ったんですが…大丈夫、その日はそんなには待たされません。

▽そう、33分にはカルバハル(マドリー)のスルーボールを追ったビトロがエリア内奥にGKクルトワ(チェルシー)を引き出し、ゴール前に折り返しのパス。敵DFに邪魔され、コスタはボールをスペースに押しやることしかできませんでしたが、タイミング良くシルバ(マンチェスター・シティ)が現われます。そのシュートが決まってスペインが先制してくれたから、嬉しいじゃないですか。一方、ロメル・ルカク(エバートン)は温存したものの、エデン・アザール(チェルシー)、デ・ブルイネ(マンチェスター・シティ)、カラスコらがオリジ(リバプール)を補佐するベルギーも反撃はしたかったんでしょうけどね。まだユーロでウェールズに負けて準々決勝敗退したことが響いているのか、リズムに乗れないまま、0-1でハーフタイムに入ります。

▽そして後半15分にもビトロがやってくれたんですよ!今度はルカクの弟、ジョルダンにエリア内で倒されてペナルティをゲット。いやあ、この時は夏のユーロではデル・ボスケ監督がPKキッカーを指名せず、キャプテン権限でセルヒオ・ラモス(マドリー)が蹴って失敗という逸話があったため、誰が担当するのか注目が集まったんですけどね。この日はコスタが少し色気を見せたものの、ベテランのシルバが責任を持って決めてくれます。まあ、試合前の記者会見ではコスタのアトレティコ復帰がこの夏、叶わなかったことについて、いえ、別に今は昨季サモラ(リーガで失点率の一番少ないGKに与えられる賞)を獲ったオブラクがいるため、自分には声がまったくかからないのが寂しかった訳じゃないでしょうけどね。

▽「el que está contento soy yo porque esté en el Chelsea/エル・ケ・エスタ・コンテントー・ソイ・ジョ・ポルケ・エステ・エン・エル・チェルシー(チェルシーに彼がいてくれて満足しているのはボクさ)」と言っていたクルトワですが、コスタとはそのアトレティコ時代からの長い付き合い。その日は2年前、リーガ制覇を果たした時のコネクションを思い出したか、コケが敵DFの裏に通すパスをコスタに供給した際も未然にシュートを防いでいましたし、きっとPKを蹴る時の癖などもわかっていたでしょうから、ここはシルバが蹴って正解だったかと。

▽え、デル・ボスケ監督時代のユーロではスタメンを獲得できなかったコケやチアゴ・アルカンタラ(バイエルン)がこの試合、ブスケツ(バルサ)と共に中盤に入っていたのは、ロペテギ監督になっての大きな変化じゃないかって?そうですね、今回はイニエスタ(バルサ)が負傷のリハビリ中で来ていませんし、セスク(チェルシー)もリスト落ちしてしまいましたからね。とりわけコケに関しては、ずっと次代のスペイン代表の司令塔になると言われていながら、なかなか実力が発揮できず、本人も「Es un reto personal ser un fijo en el once de la Selección, aquí no se ha visto al mejor Koke/エス・ウン・レトー・ペルソナル・セル・ウン・フィホ・エン・エル・オンセ・デ・ラ・セレクシオン、アキー・ノー・セ・ア・ビスオー・アル・メホール・コケ(代表のレギュラーになるのがボクの個人的な目標なんだ。ここではまだ最高のコケを見せてないからね)」と今回の合宿ではコメント。

▽どうやらU21時代から指導を受けてきたロペテギ監督が、パスをミスしたからといって選手を代えるタイプではないのを熟知していたのか、その日はA代表で失敗を恐れずにプレーしたのが功を奏したのでしょうか。キング・ボードワン・スタジアムではチーム最多の120回のパスを出したとかで、こうやって本人が自信をつけてくれるのはアトレティコにとっても有難いかと。

▽とはいえ、やはりスペイン代表でベストの出来だったと褒められていたコスタが、試合後のミックスゾーンで、「Si fuera del Madrid o del Barca o espanol natural se diria que he hecho un gran partido/シー・フエラ・デル・マドリッド・オ・デル・バルサ・オ・エスパニョール・ナトゥラル・セ・ディエラ・ケ・ケ・エッチョー・ウン・グラン・パルティードー(もし自分がマドリーかバルサでプレーしていたら、それとも生まれついてのスペイン人だったら、凄い試合をしたとマスコミは言うだろうね)」と、嫌味をかましていたのはどうかと思いますけどね。

▽ただ、当人もブラジル生まれなのにわざわざスペイン国籍を取って、La Roja(ラ・ロハ/スペイン代表の愛称)を選びながら、ピッチで相手選手と揉めることが多いのは別として、プレースタイルが合わずにゴールがなかなか決まらず、イロイロ辛かったでしょうからね。この試合ではGKクルトワだけでなく、カラスコ、自軍のデ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)、コケ、そして終盤に代表デビューを果たしたサウルと新旧のアトレティコ勢がピッチに数多くいたため、懐かしくて、ついつい口も緩んでしまったってことにしておきましょうか。

▽そして最後はバルトラ(ドルトムント)、アスピリクエタ(チェルシー)、ルーカス・バスケス(マドリー)、セルジ・ロベルト(バルサ)らも交代でピッチに入ったものの、大勢は変わらず、そのままスペインは0-2で勝利。ロペテギ監督と同じく初陣となったベルギーのロベルト・マルティネス監督など、サポーターから大きなpito(ピト/ブーイング)を浴びて気の毒だったんですが、まあ何にしろ、これは親善試合ですからね。スペインも好感触だったとは言っても、まだまだ油断はできないかと。そこで私も気になって、チームが金曜早朝にマドリッドに戻った後の土曜、ラス・ロサスまで練習を見に行ってみたんですが…。

▽マスコミのセッション公開がたったの15分だけと、完璧にアトレティコ化していたんですよ!大体、その時間帯と、選手たちがやるのはフィジカルとロンド(輪の中に入った選手がボールを奪うゲーム)ぐらいなもんで、私もチームの雰囲気が良く、皆元気そうだぐらいの情報しか得られず。すでにサウルはU21代表に加わっており、同じ敷地内で突破を懸けて大詰めが近づいている月曜のユーロ予選、スウェーデン戦に備え、またポルトに行ってしまったオリベルや移籍市場クローズ前日にバルサからバレンシアへのレンタルが来まったムニルらと一緒に練習していたため、姿が見えなかったことと、最初はいなかったモラタが遅れてグラウンドに出て行くところは硝子越しに確認できたんですけどね。セッションが終わるまではプレスルームを出ることもできないって、一体、リヒテンシュタイン相手に何を企むことがある?

▽ええ、そうなんですよ。24カ国参加体制のユーロはそれ程でもなかったんですが、大抵は強豪同士の対戦となる本大会と違って、予選になるとグループの大半はかなり格下の相手。よって、この月曜午後8時45分(日本時間翌午前3時45分)から予定されているW杯予選初戦では、新生スペインがどこまで強いのかを知ることはできそうにありませんが、どうやらロペテギ監督はあまりメンバーをベルギー戦から変えない様子。

▽まあ、現在移籍したマンチェスター・シティで絶好調のノリートやルーカス・バスケスはスタメンの候補になりますけどね。むしろ、監督にしてみれば、ここで頼りになる選手を見極め、グループ首位を懸けてイタリア、アルバニアと競う10月決戦の準備をするといったところかと。うーん、正直言って、2008年から2012年まで国際メジャータイトルを独占した黄金期を再現するのは不可能に近いんでしょうけどね。メンバーも結構、変わりましたし、またワクワクするようなサッカーを見せてくれるスペイン代表が戻ってきてくれるといいんですが。


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