【原ゆみこのマドリッド】根性を見せられた…

2016.08.11 13:03 Thu
▽「体力もポゼッションも上なのに勝てないんだ」そんな風に私が首を振っていたのは水曜日、前夜のUEFAスーパーカップではセビージャのチーム総走行距離が151.941キロと、レアル・マドリーの147.253キロを上回っていたのを知った時のことでした。いえ、延長戦に入って1人退場者を出したセビージャがそのカバーをするのに大変で、選手別では1位のエンゾンジが15.712キロ、2位の清武弘嗣選手の15.723キロ、その次にマドリーで最長距離を走ったルーカス・バスケスが15.627キロでランクインしているんですけどね。ただ、普段からよく走るアトレティコなどはパスが続かない分、足でカバーしなきゃいけないという面があるんですが、サンパオリ新監督率いるセビージャはボール支配率でも58%と上回っていたというから、何とも納得がいかないじゃないですか。

▽となると、今週は猛暑の中、ようやく意を決して見学に行ったマハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場で、ジムセッションで40分待たされた後、マスコミへの公開時間はたった15分だったとはいうものの、その間、アトレティコの選手たちはガンガン走っているだけ。そんな彼らがまたお隣さんと決勝で当たった時、果たして勝てるのかどうか、非常に不安になったものですが、大体、シーズンラストのCLやコパ・デル・レイでの決勝でBBC(ベイル、ベンゼマ、クリスチアーノ・ロナウドの頭文字)全員がスタメンにいないなんてラッキー、余程のことがない限り、ありえませんからね。それでも勝てなかったセビージャにはどう言葉をかけていいのかわかりませんが、とりあえず、どんな試合だったか、お話ししておくことにすると。

▽3年連続のスペイン勢対決となりながら、ノルウェーのトロンハイムという遠い場所で行われた今季のUEFAスーパーカップは応援に行ったサポーターもそれぞれ1000人程ぐらいしかいなかったんですが、まずは両チームともスタメンからサプライズを提供してくれます。いえCLチャンピオンの方はジダン監督がバケーションから戻って来たばかりのクロースとベイルを、とりわけ後者などは出場を熱望していたようですが、自身のプランを変えずに帯同せず。腰痛でアメリカツアー中、1度も試合に出なかったベンゼマもいきなり先発はないだろうと見られていたため、ある程度、予測は可能だったんですけどね。ハメス・ロドリゲスではなく20歳のアセンシオ、モドリッチではなくクロアチア代表の後輩コバチッチというのは結構、面喰った人も多かったかと。
▽ヨーロッパリーグ・チャンピオンのセビージャもセビージャで、この夏、アトレティコからレンタルで行ったアルゼンチン人コンビ、ビエットとクラネビテルのスタメン入りが確実視されていたにも関わらず、蓋を開けてみれば、キックオフ前の集合写真に写ったのは前者だけ。練習中のケガもあって、プレシーズンマッチではほとんどプレーしていない清武選手をタイトルの懸かった大一番、強豪マドリー相手に2列目左で起用って、こちらではあまり記事を目にすることはないものの、実はサンパオリ監督に物凄く信頼されている?とはいえ、先に指揮官の期待に応えたのはマドリーのアセンシオでした。

▽そう、どちらかと言えば、マドリー優勢だった前半20分、エリア外から左足を一閃。そのシュートがGKセルヒオ・リコを破って、ネットに突き刺さったから、もうこれで今季のマドリー残留は決まった?でもセビージャもこの試合には2年前の同じ大会で2点を奪われた天敵、ロナウドがユーロ決勝での負傷が治らず、出ていませんし、昨年はバルサに4-4と追いついて延長戦に持ち込むぐらいの意地のあうチームですからね。決してこの程度ではへこたれず、マイペースでパスをゆっくり繋ぎながら、40分にはマリアーノのクロスをビトロが受け、はずんだボールをバスケスが敵DF陣の隙間を縫うvolea(ボレア/ボレーシュート)で捻じ込んで、ハーフタイム前に同点に追いつくことに。
▽後半に入ると、ジダン監督も90分はもたないだろうと先発を避けたベンゼマ、モドリッチをそれぞれモラタ、イスコの代わりに入れ、勝ち越し点を狙ったんですが、逆に調子を上げてきたセビージャが26分にはとうとうリードを奪います。ええ、ビトロに翻弄されたセルヒオ・ラモスが相手をエリア内で倒してしまいPKを献上。こちらは、チームを変わってもまだ存在感を発揮できていないようなビエットと交代したコノプリャンカがしっかり決めたため、残り時間もそこそこでしたし、月曜にヘセのPSG移籍が決まったマドリーにはもうFWはいませんでしたしね。もちろん、すぐにコバチッチと代わって入ったハメスはゴールを期待できる選手とはいえ、いよいよ3度目の正直でセビージャがUEFAスーパーカップのトロフィーを掲げることができるのかと、私も思っていたものの…。

▽いえ、決してマドリーには根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)の伝統があるのを忘れていた訳ではないですよ。試合終了が近付くにつれ、「Le he dicho que subiese un poco más/レ・エ・ディッチョー・ケ・スビエセ・ウン・ポコ・マス(もうちょっと上がれと言った)」というジダン監督の指示で、敵陣でラモスの姿が目に付くようになった時もそんなには気にしていなかったんですが、いよいよ後半ロスタイム。まさか2年前のあの時間、悪夢の93分にルーカス・バスケスが上げたクロスをフリーのラモスが頭で叩き込んでしまうとは!

▽うーん、「De Raúl decían que la empujaba, pero hay que estar ahí/デ・ラウール・デシアン・ケ・ラ・エンプハバ、ペオ・アイ・ケ・エスタル・アイー(ラウールの頃から、押し込んだだけのゴールって言われるけど、その場にいないといけないんだよ)」と、自身の功績を強調していましたけどね。彼は今年の5月のミラノでのCL決勝でも先制点を挙げていますし、またしてもチームを敗戦から救う土壇場のゴールって、もう神懸かっていない?

▽この、あと一歩で優勝確定だったという状態で延長戦に入ると、2年前のアトレティコでなくても選手たちはガックリしてしまうものですが、セビージャもそれは一緒です。おまけに延長前半2分には2枚目のイエローカードを受けて、早々にコロジエチャクが退場となり、勝利の可能性はかなり遠のいたんですが、ただ違ったのはベイルとロナウドがいなかったこと。おかげでgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)は避けられたんですが、そこは何はなくてもマドリー。延長前半8分にもファールでゴールを取り消されたラモスは別格としても、DFに至るまで得点力があるんですよ。

▽ええ、2年前はマルセロでしたが、この日はカルバハル。それもセビージャがPK戦に唯一の光明を見出していた延長後半13分、右サイドからフル出場していたとは思えないような爆走で駆け上がり、「La robé, vi el espacio, tiré para adelante y al final entró/ラ・ロベ、ビ・エル・エスパシオ、ティレ・パラ・アデランテ・イ・アル・フィナル・エントロ(ボールを奪ったら、スペースが見えた。だから前方に撃って最後は入ってくれたね)」(カルバハル)って、いえ、あの場面、死ぬ気で止めなかったセビージャの選手たちもいけないんですけどね。やはりこういうシーンを見ると、「マドリーのDNAには勝つことだけでなく、最後の1秒まで戦うことが刷り込まれている」(ラモス)というのが実感できるかと。

▽結局、この1点がモノを言い、マドリーが3-2で勝利して、今季最初のタイトルを手にしたんですが、試合後の監督記者会見では盛り上がった選手たちがマルセロを先頭にプレスコンファレンスルームに乱入。ルーカス・バスケス、ラモス、モラタ、カセミオ、アセンシオらがジダン監督に水をかけて大騒ぎしていましたが、そんな光景は2年前のリスボンで悲願のデシマ(CL10回目の優勝のこと)を達成した後、アンチェロッティ監督(現バイエルン)が会見場にいた時のデジャブのよう。

▽うーん、その前のモウリーニョ監督(現マンチェスター・ユナイテッド)の時も国内タイトルは何度か獲っていたんですけどね。やっぱり、選手たちもおふざけが許される上司を選んでやっているような気もしないではなし。実際、それだけチーム内の雰囲気がいいということでしょうが、ロナウドやベイルのような超人的な選手がおらず、普通の選手たちが努力と根性で優勝を勝ち取ったという意味では、私にも好感が持てる試合ではありましたっけ。

▽とはいえ、サンパオリ監督も「Me siento orgulloso del juego/メ・シエントー・オルグジョーソ・デル・フエゴ(プレーに誇りを感じる)。あの短い時間の練習でヨーロッパのチャンピオンと戦う勇気を持っていた」と言っていたように、これで3年連続UEFAスーパーカップに負けてしまったセビージャも決して悪いチームではなく、何せ、毎年夏に優秀な選手たちが引き抜かれてしまうのはEL3連覇の代償のようなものですからね。そのため新顔がまだ馴染んでいないプレシーズンの大会でハンディキャップがあるのは当然ですし、それでもシーズン終盤にはいつも強いチームになっているのはフロントの目利きが誤っていないという証明でしょう。

▽加えて、この日はカリーソ、イボラがケガで交代を余儀なくされ、最後までプレーしたパレハも途中から足を引きずっていたという不運もありましたしね。もうこうなったら、早く逃がした魚は忘れて、狙いを次のスペイン・スーパーカップに定めるしかありません。ええ、相手は天下のバルサとはいえ、昨季のようにUEFAスーパーカップでセビージャに勝った後、国内の方ではコパ・デル・レイ決勝で勝っていたアスレティックに5-1で負けてしまうなんてこともありましたからね。このところ、リバプールに4-1と大敗、火曜のガンペル杯でもサンプドリアに3-2と追い上げられるなど、守備に弱みも見せているので、日曜午後10時(日本時間翌午後5時)の1stレグまでに何とか、体勢を立て直せれば、ホームのサンチェス・ピスファンではセビージャにもきっと勝機がありますよ。

▽そしてあとは来週火曜のサンティアゴ・ベルナベウ杯でスタッド・ランスと対戦した後、リーガ開幕のレアル・ソシエダ戦を迎えるマドリーでは、とうとうロナウドとペペもバルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場でトレーニングをスタート。ただ、2人も第1節に間に合う保証はありませんが、しばらくは地元で過ごす静かな日が続きます。その傍らで、スーパーカップの喧騒とは無縁に暑いマドリッドで日々、ダブルセッションやトリプルセッションで練習に励んでいるのがアトレティコなんですが、彼らもこの木曜、金曜には開幕前、最後の親善試合に挑むことに。

▽いえ、月曜にようやくユーロ後のバケーション終え、戻って来たグリースマンは翌日には筋肉痛が治り、チーム練習に復帰した同国人の新顔、ガメイロ(セビージャから移籍)相手にフィジカルコーチのプロフェ・オルテガの複雑な体力強化メニューのやり方を教えてあげたりと、楽しそうにやってはいるんですが、まだ試合には出られないと思いますけどね。それでも先週末のセリエAのクロトーネとの親善でゴールを挙げたガイタン(同ベンフィカ)やディオゴ・ジョタ(同パソス・デ・フェレイラ)、そしてサントス・ボレ(同デポルティボ・カリ)、ブウサイコ(同サッスオーロ)らこの夏の補強選手や、遅れて合流したカラスコ、コケ、ファンフアンらの調子の上がり具合を確かめるには丁度いい機会になるかと。

▽ただ、まず2部に昇格したカディスと対戦、続いてマラガvsナイジェリア・オールスター戦のどちらかという、カランサ杯(カディス主催の伝統的な夏の親善トーナメント)を前にして、チームでは人員整理も進んでいて、カンテラーノ(アトレティコB出身の選手)ではエルナンデスのDF兄弟の弟テオがアラベスにレンタル移籍、兄のルーカスの方は2020年まで契約を延長と離れ離れになってしまったり、プレシーズン練習中に手首を骨折したボルハ・バストンは昨季のエイバルでの18得点という働きが認められ、プレミアのスゥオンジーに1800万ユーロ(約20億円)で移籍が決定したとか。

▽あとはオリベル、マンキージョらがクラブ同士の契約がまとまるのを待っている状態ですが、どうやらもう新規選手の入団はなさそうです。そんなアトレティコのリーガ開幕戦は昇格組のアラベスとのホームゲーム。その前にできれば、私もボールを使った練習をしているところをマハダオンダに見に行きたいんですけど、どうやらあまり期待はできなさそうですね。

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