【原ゆみこのマドリッド】主役は一体…

2016.07.13 12:35 Wed
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▽「あまり慰めになってないなあ」そんな風に私が呟いていたのは火曜日。「ユーロで得点王とMVPになった選手はCLに優勝する」というマルカ(スポーツ紙)の記事を読んだのですが、そんなんでグリーズマンが元気になってくれるかは少々、怪しかったから。

▽またこの記事には、同じシーズンにCLとユーロのダブル優勝を果たすのは、2008年のチェシシー時代のフェルナンド・トーレスとマタに続く偉業で、これまで10人の選手しか達成していないというものもありました。その真逆に、CLとユーロのダブル決勝負けというのはやはり、2008年にチェルシーとドイツで失望を味わったバラックだけのようです。

▽さてグリーズマンの記事ですが、これまでユーロで両賞を独占したのはゲルト・ミュラー(1984年ドイツ)、プラティニ(1984年フランス)、ファン・バステン(1988年オランダ)の3人しかおらず、後者2人は翌年、それぞれユベントス、ミランでCLを制覇。ミュラーも2年後にはバイエルンで優勝しているんですが、ちょっと待って。彼らは皆、そのダブル受賞したユーロで優勝しているんですよ…。確かに6得点で大会ピチチ(得点王)に輝き、チームを決勝に導いたことが評価されてMVPにも選ばれたグリーズマンですが、当人も「No es algo que celebrare, no oculta mi decepcion/ノー・エス・アルゴ・ケ・セレブラレ、ノー・オクルタ・ミ・デセプシオン(お祝いすることじゃないよ。ボクの失望を埋めたりはしない)」と言っていたように、一番大事な試合で負けてしまってはねえ…。
▽おまけに先達たちは「Segunda final perdida en un mes.... es una mierda/セグンダ・フィナル・ペルディーダ・エン・ウン・メス…エス・ウナ・ミエルダ(1カ月のうちに2度目の決勝に負ける…最悪だよ)」(グリーズマン)なんて思いはしていませんでしたしね。ただ、それより怖いのはユーロでの活躍で一気にフランスのアイドルになってしまった彼にこの夏、移籍のオファーが殺到すること。いえ、アトレティコも用心して、大会前にグリーズマンとの契約を延長、違約金も1億ユーロ(約116億円)に上げていますけどね。お隣さんが悪しき前例をどんどん作っていくため、昨今では億越えにも怖気づくことなく、支払いの用意があるお金持ちクラブも幾つかありますし、実はまだかなりの負債が残っていて、芯のところでは今だに貧乏なアトレティコ。ひょっとすると、経営幹部たちが、札束に目がくらんでしまうなんてことも…?

▽となると、プレミアリーグやパリのビッグクラブで彼が来年6月、CLの優勝杯を掲げて、そのジンクスを踏襲するなんてことも起きるかもしれませんが…。でも前回大会のピチチに輝き、アトレティコの同僚であるフェルナンド・トーレスが「Mi mas sincera enhorabuena a mi companero @antogriezmann/ミマス・シンセーラ・エンホラブエナ・ア・ミ・コンパニェロ・グリーズマン(ボクのチームメート、グリーズマンに心からオメデトウを言うよ)。君よりいいボタ・デ・オロ(ゴールデンブーツ賞)の後継者はありえない」と、お祝いのメッセージを贈ってくれましたからね。ここはグリーズマンも自分は大一番に弱いのかもしれないなどと悲観しないで、バケーション明けの8月5日には気持ちも新たにアトレティコに戻って来てくれることを願うしかないんですが…。
▽え、日曜日のサンドニでのユーロ決勝の後、グリーズマンは「El Balón de Oro es para Cristiano/エル・バロン・デ・オロ・エス・パラ・クリスチアーノ(バロンドールはクリスチアーノの物だよ)」とも言っていたけど、それもどうかという気がしないかって? うーん、確かにコパ・アメリカ決勝のPK戦で失敗して、アルゼンチンを優勝に導けなかったのはともかく、リーガとコパ・デル・レイのdoblete(ドブレテ/2冠優勝のこと)のメッシより、CLとユーロの2つのタイトルの方がインパクトはありますけどね。実を言うと、前者の決勝はPK戦最後のゴールを決めたものの、フアンフランの失敗があってこそのレアル・マドリー優勝でしたし、後者の決勝に至ってはピッチでは全然貢献してなかったのはご存知の通り。

▽そう、日曜日のフランスとの決勝では先発したロナウドでしたが、前半9分にパイエにぶつかられて左ヒザを痛めるアクシデントに遭遇。1度はバンデージを巻いてもらって、ピッチに戻ったんですが、結局23分には再び地面に座り込み、涙ながらに担架で退場することになってしまったから、ポルトガルのサポーターもどんなに不安になったことか。いえ、これがマドリーならロナウドがいなくなってもベイルがいるし、ベンゼマもいるし、モドリッチやクロースにだって、さらにはセルヒオ・ラオスにだってゴールを期待できますけどね。もちろんナニやロナウドの代わりに入ったクアレスマもこの大会では得点していましたが、相手はとにかくフィジカルの強いフランス。GKロリスの守るゴールに近づくのだって、彼なしでは難しかったかと。

▽でも大丈夫。というのもその日はグリーズマンがシュートを再三、失敗していたからで…。GKルイ・パトリシオに序盤、paradon(パラドン/スーパーセーブ)されたヘッドもありましたけどね。後半になっても彼はシュートを決めることができず、ロスタイムにはジルーに代わってプレーしていたジニャクの一撃がゴールポストを叩くという残念なシーンがあったものの、試合は0-0のまま終了。このユーロで5回目、ポルトガルにとっては3度目の延長戦に突入です。

▽その時間になってベンチに姿を現したのがロナウドで、交代の際には「nos dijo que teníamos que ganar por él/ノウ・ディホ・ケ・テニアモス・ケ・ガナール・ポル・エル(自分のためにボクらは勝たないといけないと言っていた)」(ペペ)そうですが、延長戦中はピッチ際で何だか、凄いエキサイトぶり。若いレナト・サンチェスに代わって投入されたFWエデルによると、「勝利のゴールを挙げるのはボクだと言った」と自信をつけてもらったそうですが、とりわけ、その彼が延長戦後半4分にエリア外から強烈な一撃を放ち、値千金のゴールを決めた後など、もう誰もロナウドを止めることはできません。

▽ええ、サントス監督の後ろからチームメートたちに大声で指示を出すわ、勢い余って監督までド突くわと、とても正気の沙汰とは思えませんでしたが…。それでも後で「彼がベンチにいてくれたのは大きな助けになった。選手たちを励ますのに素晴らしい支えとなってくれた」と褒めていた指揮官は相当、心が広い? そのおかげもあってか、ポルトガルは審判が終了の笛を吹くまでフランスの捨て身の猛攻に持ちこたえ、1-0で逃げ切りに成功することに。

▽その後はトロフィー授与の時もピッチでのお祝いの時も、さらには翌日、リスボンに凱旋。市内パレードのオープンデッキバス、ベレン宮殿での大統領によるレセプション、マルケス・デ・ポンバル広場での祝賀行事でも「自分のキャリアにおいて最高に幸せな瞬間の1つ」を味わい、ヒザの痛みももとのともせずに踊っていたロナウドが全ての中心にいたため、まるで決勝には彼の大活躍で勝ったような錯覚をしてしまうんですけどね。この試合のMVPは堅守で貢献したペペで、決勝点を挙げたのは今大会でそれまでたったの13分間しかプレーしていなかったエデル。

▽昨季、スウォンジー・シティで成功せず、シーズン後半にレンタルに出たリールにこの夏から完全移籍したFWですが、「ゴールを入れることができるとわかっていた」と、その彼を信頼したサントス監督の名采配も忘れてはいけません。いえ、スペインのメディア的には、母国代表がベスト16であっさり敗退した悔しさもあるのか、見応えのあるサッカーが披露された決勝という評価はされてなかったんですけどね。実際、ポルトガルの選手たちもベースキャンプ地のマルクシに戻るバスの中では、大会中にチームに向けられた批判の揚げ足をとって、「いいプレーをしようがしまいが、全然関係ない。オレたちは優勝杯をポルトガルに持ち帰るんだ」と歌っていたそうなので、一応、自覚はあった?

▽まあ、それでもユーロ初優勝に喜んでいるポルトガルの選手たちを見るのは、スペインが2008年に久々にタイトルを獲った時同様、微笑ましいので、別にいいんですけどね。祝賀行事が終わり、バケーションに入ったロナウドは左ヒザの靭帯を痛めていて、全治3週間、もしくは6~8週間という報が伝わってきているので、8月9日にセビージャと戦うUEFAスーパーカップまでに治るかどうかは微妙なところ。

▽並行して、コパ・アメリアのコロンビア代表で左肩の脱臼が再発したハメス・ロドリゲスもレクリエーションを優先して治療をせず。カカの二の舞が懸念されていますが、(2010年のW杯後、マドリーに合流してから練習ができない状態だったことが発覚。そこから手術したため、シーズンの半分を棒に振った)ご心配なく。前にも言ったように、ジダン監督にはユーロに呼ばれず、1カ月半のバケーションを満喫したベンゼマや準決勝進出したウェールズの大健闘でこの上なく士気が上がっているベイルがいるんですから、問題なんてありませんよ。

▽そんなマドリーはいよいよ、この金曜日にバルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場に代表のお勤めがなかった選手たちが集まって、プレシーズン練習を開始。一方で、先週からすでにフィジカルトレーニングを進めているアトレティコはどうしているかというと…。いやあ、日曜日の夜にロス・アンヘレス・デ・サン・ラファエル(マドリッドから1時間の高原リゾート)入りした彼らは、今年は常宿のホテル・ナイデではなく、改装オープンしたモダンなTrypセゴビアに滞在。以前の場所の方が食堂やジムが別棟にあり、移動のたびに選手たちがゾロゾロ道を横切るため、サインが頼みやすかったんですが…。それはともかく、相変わらずの超ハードスケジュールのよう。

▽ええ、2週間のキャンプ中、ダブルセッションが5回、朝の7時45分からグラウンドに連れて来られるトリプルセッションが4回もあり、お休みは日曜日だけとなれば、マハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場での初日のセッションから、あまりのハードさに吐いてしまい、キャンプでもまだ全てのメニューをコンプリートできないという、昨季は弟分のヘタフェ(今季は2部)で楽をしていたベルナルド・メンサーでなくたって、気が遠くなるってもんじゃないですか。おまけに46歳のシメオネ監督自ら、ダッシュや走り込みに混ざり、先頭に立ってプレッシャーをかけているとなれば、もう皆、歯を喰いしばってついていくしかない?

▽うーん、その割に選手たちはベテランのトーレスやガビ、チアゴを含め、楽しそうにやってはいるんですけどね。この夏は23日に最初のプレシーズンマッチ、ヌマンシア(2部)とのヘスス・ヒル杯をやった後、オーストラリツアーがありますからね。例年より移動距離が長いため、昨夏のマドリーみたいに途中でバテないよう、今のうちに体を鍛えておくのは正しいんですが、今季はもうちょっと、上手なサッカーができるアトレティコを見せてもらいたいかも。ちなみに昨季、2部を2位で終えて昇格したマドリッドの新しい弟分、レガネスのプレシーズンスタートはこの木曜日。まだまだ私も勉強不足なんですが、ようやくユーロも終わったことですし、近いうちに偵察に行けたらいいんですけどね。

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