【東本貢司のFCUK!】歴史的事件、また歴史的事件
2016.06.27 22:00 Mon
▽ユーロ2016本大会・グループリーグでどこかまどろっこしい印象を残した優勝候補トップ3が、この日曜日に揃って貫禄の快勝。特にフランスとベルギーは、それぞれ要の小兵スーパーエース、グリーズマンとアザールが目の覚めるような本領発揮で、地元ファンの枠を超えて大いにその存在を示した。締めくくりのマルセイユでは、敗れたハンガリーのサポーターまでアザールに盛大な喝采を送っていたほどだ。FCUKの管理人としても、プレミア所属のスターが大半を占めるベルギーの覚醒は小躍りするほど嬉しい。あゝ、でも次はウェールズと当たるのか。なんたる皮肉なめぐり合わせ。そしてイングランドは明日のアイスランド戦に勝てば、雨降って(アイルランドに早々の失点を許した)地固まったフランスと。詮無いことだが、この4チームのラスト4が見たかったところだが・・・・。
▽アイルランドも健闘した。もうダメかと肩を落としかけたグループリーグ最終戦で起死回生のイタリア撃破(1994年W杯グループリーグの興奮をつい思い出す)。そして今、タレント有り余るホスト国をも立派に苦しめた。Hail to the Irish spirit! そう、北アイルランドだってウェールズとほぼ互角に渡り合った。コールマン(ウェールズ監督)が「内容ではうちが負けていた」とお世辞抜きに認めたほどに。さて、お気づきだったろうか。ウェールズ-北アイルランド戦を仕切った審判団が「イングランドのセット」だったことを。たまたまだったのか? いや、あえて粋な計らいだったと決めつけさせてもらおう。なぜなら、もしグループBの一位が入れ替わっていたら、北アイルランドの相手はイングランドになっていたはずなのだから。かくてあの日、パルク・デ・プランスがほぼ何から何までが「UKカラー」で染められていたという、歴史的事件が紡がれたのである。
▽それはもう、いとおしくも、身を切られるような2時間余だった。文句なしに今大会有数のハイライトマッチ。明日のイタリア-スペイン戦なんて目じゃないぜ! しかも、あゝなんという劇的でほろ苦い幕切れの余韻。だからこそ、「北」の大黒柱、ギャレス・マコーリーを責める人などどこにもいない。なんとなれば、彼は敵方の大黒柱、もうひとりのギャレスの、渾身のクロスに真っ向から立ち向かった結果だったのだ。カスカートでもジョニー・エヴァンズでもなく、そこにいたのがマコーリーだったことをむしろ誇りに思うべきなのだ。負けては何もならない、などと今更言うなかれ。そう、多分人生最高のスーパーバイシクルゴールを決めながら、よりにもよって“理不尽”極まりないPK戦に屈してフランスを後にするシャチリの胸の内を思うべし。シャチリもプレミアなら、唯一PKを外す不運に身を焦がしたのも、アーセナル入りが決まっているジャカだったのだから。
▽FCUK流の想いはさらに天を駆ける。ウェールズ-北アイルランド戦と相前後して、あの歴史的国民投票の一部始終がニュースソースを席捲していた。思い出していただきたい。「残留か離脱か」を問う国民投票の帰趨を示したブリテン島/アイルランド島の、あまりにもシンボリックな地図を。あくまでも“大勢”としての色分けだとしても、そこにはくっきりと、今回のユーロにつながる不思議な縁故が映し出されていたではないか。すなわち、英国圏勢で唯一ユーロ本大会出場を逃したスコットランドと、敢然とEU離脱にほぼ心を一つにしたスコットランド。実際の関連など何もない。ただの偶然。それでも、筆者の埒もない夢想は直ちに明快な形をとってしまっていた。さて、果たして「どちらが勝ち」なのか。いや「何が勝ち」なのか。どうです、皆さん。いずれ、このEU脱退はUK、特にイングランドのフットボール界にも余波が及んでくるはず。だとすれば、もしもスコットランド独立(=単独EU加盟)が成った日には、外国人流入の潮目が変わるのかも?
▽すると、例えば、「今の内に」の機運が一気に燃え上がるかもしれない。「2年」が過ぎるまでに、プレミアのクラブ、プレミア昇格を目指すクラブは、先を争って、即戦力か否かを問わず、これまで以上に異邦の助っ人獲得の拍車をかけるかもしれない。一方で、高騰必至の“資金”調達を旨に、海外からのミリオネア・オーナーシップが、これから激増するかもしれない。いや、それとも・・・・イングランドはこの“孤立”を時代の運命と見切り、国産の才能発掘・開発に向かっていくかもしれない。ならば、ひょっとしたら、今大会のイングランド代表の成果、成績が、その追い風になる、はたまた「しばらくの様子見」に腰を落とす・・・・いずれかの道を占う歴史的な「事実」として刻まれていく可能性なきにしもあらず。さあて、大会終了後に一体何が起きて何が起きないのか。個人的“妄想”の中に浮かび上がる名前は・・・・ミリク、ペリシッチ、ゾマー、コノプリャンカ、ナジ、コマン、バチュアイ、それにもちろんグリーズマン・・・・。この中に「当たり」はあるだろうか。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽アイルランドも健闘した。もうダメかと肩を落としかけたグループリーグ最終戦で起死回生のイタリア撃破(1994年W杯グループリーグの興奮をつい思い出す)。そして今、タレント有り余るホスト国をも立派に苦しめた。Hail to the Irish spirit! そう、北アイルランドだってウェールズとほぼ互角に渡り合った。コールマン(ウェールズ監督)が「内容ではうちが負けていた」とお世辞抜きに認めたほどに。さて、お気づきだったろうか。ウェールズ-北アイルランド戦を仕切った審判団が「イングランドのセット」だったことを。たまたまだったのか? いや、あえて粋な計らいだったと決めつけさせてもらおう。なぜなら、もしグループBの一位が入れ替わっていたら、北アイルランドの相手はイングランドになっていたはずなのだから。かくてあの日、パルク・デ・プランスがほぼ何から何までが「UKカラー」で染められていたという、歴史的事件が紡がれたのである。
▽それはもう、いとおしくも、身を切られるような2時間余だった。文句なしに今大会有数のハイライトマッチ。明日のイタリア-スペイン戦なんて目じゃないぜ! しかも、あゝなんという劇的でほろ苦い幕切れの余韻。だからこそ、「北」の大黒柱、ギャレス・マコーリーを責める人などどこにもいない。なんとなれば、彼は敵方の大黒柱、もうひとりのギャレスの、渾身のクロスに真っ向から立ち向かった結果だったのだ。カスカートでもジョニー・エヴァンズでもなく、そこにいたのがマコーリーだったことをむしろ誇りに思うべきなのだ。負けては何もならない、などと今更言うなかれ。そう、多分人生最高のスーパーバイシクルゴールを決めながら、よりにもよって“理不尽”極まりないPK戦に屈してフランスを後にするシャチリの胸の内を思うべし。シャチリもプレミアなら、唯一PKを外す不運に身を焦がしたのも、アーセナル入りが決まっているジャカだったのだから。
▽すると、例えば、「今の内に」の機運が一気に燃え上がるかもしれない。「2年」が過ぎるまでに、プレミアのクラブ、プレミア昇格を目指すクラブは、先を争って、即戦力か否かを問わず、これまで以上に異邦の助っ人獲得の拍車をかけるかもしれない。一方で、高騰必至の“資金”調達を旨に、海外からのミリオネア・オーナーシップが、これから激増するかもしれない。いや、それとも・・・・イングランドはこの“孤立”を時代の運命と見切り、国産の才能発掘・開発に向かっていくかもしれない。ならば、ひょっとしたら、今大会のイングランド代表の成果、成績が、その追い風になる、はたまた「しばらくの様子見」に腰を落とす・・・・いずれかの道を占う歴史的な「事実」として刻まれていく可能性なきにしもあらず。さあて、大会終了後に一体何が起きて何が起きないのか。個人的“妄想”の中に浮かび上がる名前は・・・・ミリク、ペリシッチ、ゾマー、コノプリャンカ、ナジ、コマン、バチュアイ、それにもちろんグリーズマン・・・・。この中に「当たり」はあるだろうか。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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