【東本貢司のFCUK!】FCUK“最良の日”の感動

2016.06.17 09:32 Fri
Getty Images
▽FCUKの管理人ならばこそ、この“良きお日柄”には正直「スピーチレス」、つまり言葉もない。まず、我らがイングランドの「すんばらしくカッコいい」勝ち方(相手がウェールズでなければもっと良かったが)。第一戦、勝利目前でロシアに追いつかれてしまった“負けに等しい”ショックを払しょくして余りあるものがあった。そして、ロシア戦では見ている方がいじいじさせられたロイ・ホジソンの“消極起用法”すらも、このウェールズ戦では逆転の大ヒットでほぼ帳消しに。すなわち、ハーフタイム明けに大胆にも揃って投入されたヴァーディーとスタリッジが、同点、逆転決勝弾を決めるという、およそ出来過ぎた筋書き。第一戦に続いてパットとしないケイン、早くもお疲れ様子のスターリング――という、おあつらえ向きの伏線があったとはいえ、それがまんまと大当たりするのだから喜びも倍加するというものだ。さて、スロヴァキア戦の先発はどうするのかな?

▽これでイングランドはスロヴァキア戦を引き分けで収めれば良くなったことになるが、だとするとウェールズは最終戦を勝ち切らねばならなくなる。ロシアも一縷の望みをかけてぶつかってくるだろうから、相当な死闘になるのは必定。このグループはまだ紛れがありそうで、突っ込んで語るのは20日以降にしよう。それよりも、なんたって北アイルランドだ。難敵ウクライナをこんな形でやっつけてしまうとは、果たして誰が予想しただろうか。一時は雹までが地を叩く悪天候が、タフネス頼みのスピリットが勝る北アイルランドに味方したと察せなくもないが、ウクライナもウクライナでミドルシュートに頼り過ぎたきらいもあったと思う。だが、やはりここでも、ひたむきさと無類の運動量では人後に落ちない新鋭、コナー・ワシントンを、あえて先発ワントップに送り出した監督マイクル・オニールの策が当たったと評価したい。トップレベルでの実績ほぼゼロのワシントンに引っ張られるように全軍が飽くことなくボールを追い続けたことが、感動の結末に昇華したのだ。

▽もう少し、オニール監督の“工夫”に踏み込んで振り返ってみよう。マコーリー、J・エヴァンズ、カスカートにマクネア、そして守備的MFのように見えるが実は本来右SBが本職のベアードまで揃えた「ディフェンス志向」は、結局、バランス抜群の試合巧者で体格で優るポーランドに通じなかった。いや、通じなかった訳ではないが、守勢一方に押しまくられた。そこで試合後、オニールは真っ先に「わが軍はもっとポジティヴにならなければならない」と述べ、その通りにこのウクライナ戦では攻守の要、スティーヴン・デイヴィスが意欲的に前線に侵入、マクネアに替わってスタートしたリーズの元気者ダラスが盛んにシュート性のボールを放って機先を制する役目を果たした。実は、前半の半ば過ぎ、ダラスの覇気と積極性を見てついつい「ダラスの熱い日」という見出し候補が頭に浮かんだほどだ。そして、どうしてもワントップのタワー役として前線に孤立しがちなラファティーではなく、タフですばしっこく小回りの利くワシントンがさらにかき回すという趣向。
▽やはり、北アイルランドの良さは、自ら動いて前へ前へのリズムを作ることで全軍が躍動してこそなのだと、この試合で思い知らされた次第。思えば、ハンガリーらテクニックで優るチームをねじ伏せて、予選グループをトップ通過したのも、常に一歩も引かない攻守の積極性あってだった。すなわち、ユーロ初出場の晴れの舞台、その緒戦を、彼らは大事にし過ぎたのだろう。それに気づいて吹っ切れ(もちろん、2連敗は是が非でも避けんがため)、しゃにむに走ってボールを追う最大の武器をぶつけた果実が、目の覚めるような感動的・対ウクライナ快勝に結び付いたのだ。しかも、一時間後にスタートしたドイツ-ポーランドが無得点ドローに終わった結果、グループリーグ突破の希望はさらに膨らんだ。あえて「北ア贔屓」の立場で考えれば、ウクライナにもけっこう手こずり、ポーランド戦がどこか“なまくら”に見えた今のドイツなら、けっこう対等に戦えるのではないか――なんていう期待も膨らむ。向こうも「北ア」を「厄介な相手だなぁ」と思ってるかも?

▽さて、ここで一つ、筆者ならでは(?)のメッセージを。結果的に惨敗を喫し、2連敗となってグループリーグ敗退がほぼ決まったウクライナ・イレヴンが、うなだれてサポーター席に三々五々歩み寄ったときのこと。そのとき、スタンドを黄色で染めたウクライナのファンはどう応えたか。清々しいほどの笑顔と心からのねぎらいの拍手・・・・間違っても期待を裏切った悔しさ、うっ憤をぶつける罵声などはみじんもなかった。いや、これはウクライナに限った話ではない(多分、優勝できなければ出場しない方がよかった、などと変に凝り固まる傾向にあるブラジル辺りは別にして?)。以前のJリーグで毎度のように見られた、まるで裏切者の敗者を鞭打つような弾劾裁判もどきのシーン・・・・かねてより筆者は「なんと思い上がった、似非サポーター的悪弊か」と批判してきた、あの醜態。ある人はそれを「日本的」だからと言い訳めかして擁護したものだが、是非この機会に喚起させて欲しい。そんな「日本的」なら要らない。負け方がどうあろうと、たとえ不本意で不甲斐ないパフォーマンス健闘を讃えるハートを持たずに何がサポーターだろうか。いかが?
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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