【東本貢司のFCUK!】ドリンクウォーターを何故外す
2016.06.03 14:00 Fri
▽ユーロのウォームアップマッチ最終戦・対ポルトガルでロイ・ホジソンが送り出した布陣は、ほぼ仮想ベストメンバーだと考えられる。GKハート、DFに右からウォーカー、ケイヒル、スモーリング、ローズ、MFアンカーのダイアーに両サイドのミルナーとアリ、そしてダイアモンドの頂点にキャプテンのルーニー。ケインとヴァーディーが2トップを組む。代わるとすれば、ウォーカー→クライン、ミルナー→スターリング、アリ→ララーナといった辺りだろう。ゲームそのものは、前半、ケインに対する危険プレーでブルーノ・アウヴェスが退場して数的優位に立ちながら、ようやく86分のスモーリングのヘディングゴールで勝つという、お世辞にも快勝とはいえない体たらく。敵方が大エース(クリスティアーノ・ロナウド)を欠いていたからなおさらと言うべきだろう。もっとも双方に無理をしない心理的ブレーキがかかっていた試合ならではの、無難な最終調整だともいえる。
▽ホジソンは「10人相手では往々にしてやり辛いこともある。チーム全体が流れをつかんで機能するためにも、11人対11人が望ましい」と“前置き”して、FIFAランキング上位のチームに失点無しで勝ったのだから良しとすべきだろう。何が良くて何が悪かったとかについて今この時点で語るつもりはない」と、メディアをかわした。スリーライオンズ史上最年少(平均年齢25)チームを率いることにした手前、手の内を明かすこともないということだろう。ひょっとしたら、終了間際の決勝ゴールとそれまでの文字通りの“ウォームアップ”状態(つまり、各プレーヤーの連携が“温まる”まで時間がかかったこと)は、本番で必ず生きてくる、なりのプラス思考によるものかもしれない。しかし、今更詮無いこととはいえ、大方の識者やメディアが首を傾げた「最終23名」に至る取捨選択に関して、言ってみれば遠まわしの煙幕を張ったという印象もぬぐえない。なぜ、ラシュフォードに加えてスタリッジを入れたのか。そしてなぜ、ドリンクウォーターを外してしまったのか。
▽アラン・シアラーはホジソンが「名を取って実を捨てた」と断じた。ヨーロッパリーグ決勝で復調を印象付け、また、大舞台での実績が捨てがたいスタリッジにこだわったことはまあいい。が、今シーズン最も目覚ましくかつ安定したパフォーマンスを示したドリンクウォーターを袖にしてまで、ウィルシャーとヘンダソンを残したことは「何よりも危険なギャンブル」ではないのか、と。正論だ。故障でシーズンの半分以上を棒に振った後者の二人が、たとえ“未知数の新参者”だとしても、レスター快進撃の陰の立役者よりもあてにできるとでも? ホジソンはそれについて「より攻撃的なシフトを施した」と言い訳したが、むろん説得力は薄い。ラシュフォードの抜擢を「勢いと運」によるものだとすれば、なおさら筋が通らないはず。チーム編成は監督の特権であり、知恵者ホジソンならではのさらに深い思惑が働いているのだろうとは考えたいものの、せっかくの「50年ぶりの栄冠奪取」の熱い期待に水を差した印象は免れない。言っちゃあ悪いが、W杯南アフリカ大会の例にならって大会開幕直前の“急遽故障交代”でも起こらないだろうかと思いたくなる。
▽話しはがらりと変わるが、サウサンプトンのロナルド・クーマン獲得にエヴァートンが全力を挙げつつあるという。故国オランダではメディアが「その可能性あり」と報じている。これは、前回触れたペジェグリーニ招聘の噂以上に現実性を帯びてささやかれていた事実。おそらくは、出来合いのスター軍団を率いたペジェグリーニよりも、2シーズン前に主力をごっそり失いながら、若手主体にセインツをものの見事に立て直したクーマンの手腕の方がずっと魅力的に映ったからだろう。ぐずぐずしていると、バークリーやストーンズというエヴァートン自慢の若い看板スターが背を向けかねない。現に、ストーンズのバルセロナ移籍問題は話題を集めていることもある。サウサンプトンにしてみれば迷惑この上ない話だが、さてどうなるだろうか。筆者の直感では「筋書き通り」に運んでしまう線が濃厚。異邦の将にとって「ひと仕事終えて新たな挑戦」にそそられる筋書きは過去の例が実証しているからだ。落ち目の名門を復活させた日にはクーマンの名前に一層の箔がつく。
▽他にも、ヨーロッパリーグ3連覇を果たしたセヴィージャのウナイ・エメリや、アヤックスのフランク・デブールの名も挙がっているというが、本命の座は揺るがない、というのが、オランダメディアの“結論”らしい。また、新たにエヴァートンの筆頭株主(事実上のオーナー)となったイラン人億万長者、ファラド・モシリが、補強資金に糸目をつけない意向を示しているのも、クーマン招聘の追い風となりそう。ちなみに、ファシリ氏はロンドン大学卒後、UKやロシアで数多くの企業経営を展開、フォーブズ誌によるとその資産総額はリヴァプールのオーナー、ジョン・ヘンリーよりも上だという。そしてエヴァートンに肩入れする直前まで、あのアライシャー・ユスマノフを補佐してアーセナル株を多数保持していた。つまり、エヴァートンはマン・シティー、チェルシーに迫る資金源を手にしたことになる。ああ、それにしてもプレミアのオーナーシップ多国籍化にはますます拍車がかかる一方で・・・・。畢竟、プレーイングスタッフの方もとめどなく多国籍化への道へ。ちなみに、今回のユーロ出場メンバーではプレミア在籍勢が断トツで圧倒している。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽ホジソンは「10人相手では往々にしてやり辛いこともある。チーム全体が流れをつかんで機能するためにも、11人対11人が望ましい」と“前置き”して、FIFAランキング上位のチームに失点無しで勝ったのだから良しとすべきだろう。何が良くて何が悪かったとかについて今この時点で語るつもりはない」と、メディアをかわした。スリーライオンズ史上最年少(平均年齢25)チームを率いることにした手前、手の内を明かすこともないということだろう。ひょっとしたら、終了間際の決勝ゴールとそれまでの文字通りの“ウォームアップ”状態(つまり、各プレーヤーの連携が“温まる”まで時間がかかったこと)は、本番で必ず生きてくる、なりのプラス思考によるものかもしれない。しかし、今更詮無いこととはいえ、大方の識者やメディアが首を傾げた「最終23名」に至る取捨選択に関して、言ってみれば遠まわしの煙幕を張ったという印象もぬぐえない。なぜ、ラシュフォードに加えてスタリッジを入れたのか。そしてなぜ、ドリンクウォーターを外してしまったのか。
▽アラン・シアラーはホジソンが「名を取って実を捨てた」と断じた。ヨーロッパリーグ決勝で復調を印象付け、また、大舞台での実績が捨てがたいスタリッジにこだわったことはまあいい。が、今シーズン最も目覚ましくかつ安定したパフォーマンスを示したドリンクウォーターを袖にしてまで、ウィルシャーとヘンダソンを残したことは「何よりも危険なギャンブル」ではないのか、と。正論だ。故障でシーズンの半分以上を棒に振った後者の二人が、たとえ“未知数の新参者”だとしても、レスター快進撃の陰の立役者よりもあてにできるとでも? ホジソンはそれについて「より攻撃的なシフトを施した」と言い訳したが、むろん説得力は薄い。ラシュフォードの抜擢を「勢いと運」によるものだとすれば、なおさら筋が通らないはず。チーム編成は監督の特権であり、知恵者ホジソンならではのさらに深い思惑が働いているのだろうとは考えたいものの、せっかくの「50年ぶりの栄冠奪取」の熱い期待に水を差した印象は免れない。言っちゃあ悪いが、W杯南アフリカ大会の例にならって大会開幕直前の“急遽故障交代”でも起こらないだろうかと思いたくなる。
▽話しはがらりと変わるが、サウサンプトンのロナルド・クーマン獲得にエヴァートンが全力を挙げつつあるという。故国オランダではメディアが「その可能性あり」と報じている。これは、前回触れたペジェグリーニ招聘の噂以上に現実性を帯びてささやかれていた事実。おそらくは、出来合いのスター軍団を率いたペジェグリーニよりも、2シーズン前に主力をごっそり失いながら、若手主体にセインツをものの見事に立て直したクーマンの手腕の方がずっと魅力的に映ったからだろう。ぐずぐずしていると、バークリーやストーンズというエヴァートン自慢の若い看板スターが背を向けかねない。現に、ストーンズのバルセロナ移籍問題は話題を集めていることもある。サウサンプトンにしてみれば迷惑この上ない話だが、さてどうなるだろうか。筆者の直感では「筋書き通り」に運んでしまう線が濃厚。異邦の将にとって「ひと仕事終えて新たな挑戦」にそそられる筋書きは過去の例が実証しているからだ。落ち目の名門を復活させた日にはクーマンの名前に一層の箔がつく。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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