【東本貢司のFCUK!】AFCの奇跡とラシュフォード
2016.05.31 12:38 Tue
▽AFCウィンブルドンがプリマス・アーガイルとのプレーオフに勝利してリーグ1(3部)昇格を果たした。2002年5月に結成、イングランドの9部に当たるコンバインド・カウンティーズ・リーグから出発して“苦節”13シーズン、ついに名実ともにプロのチームとして名乗りを上げたことになる。無論、ここでいう「苦節」とは「特筆すべきスピードで」という意味だ。つまり、このこと自体が新記録に等しい軌跡なのだが、ウィンブルドンがその間、いくつかの目覚ましい(というか、めったにない)記録を打ち立てている事実はあまり知られていない。一つ、21世紀に誕生したチームで史上初めてフットボールリーグ(4部以上)に参入したこと(4部昇格は2011年)。二つ、2003年2月から翌年12月にかけて達成した最長連続無敗記録:78試合! そう、レベルがどうあろうと、やはり並みのチームじゃない。それも、4部以上では唯一無二の「市民が経営する」クラブなのだ。
▽その本拠地はキングストン・アポン・テムズ市。ロンドンの中心からやや南西よりの主要ターミナル、チャリング・クロス駅からざっと16キロに位置する“古都”の一つだ(都市としての成立は1835年)。それは、かつて「クレイジー・ギャング」の異名をとってプレミアで暴れまくっていた母体のクラブ「ウィンブルドンFC」の縄張り圏内でもある。そのウィンブルドンFCが当時間借りしていたクリスタル・パレスのホーム「セルハースト・パーク」を後にし、2004年にロンドン北方56キロの実験都市ミルトン=キーンズに新天地を求めて「ミルトン=キーンズ・ドンズ」として再出発したのはご存知の通り。その移転を良しとしない大多数の“地元”ウィンブルドンサポーターが結成したのが、このAFCなのである。いわば、ファンの願いから生まれたゼロからの手作りのチーム。それがようやく努力の甲斐あって3部に上がってきた。しかも、そのリーグ1には仇敵MKドンズがいる。来シーズンのリーグ1は「ドンズ-ウィンブルドン」で大いに盛り上がるだろう。
▽対プリマスのプレーオフ決勝では名物男のアデバヨ・アキンフェンワ(34歳)が勝利を決定づける2点目のPKを決めた。パッと見にボブ・サップを思わせるような巨漢でニックネームは「ザ・ビースト(野獣)」。ゲームの世界では「世界最強のプレーヤー」とも称される。ロンドン出身、両手に余る数のクラブを渡り歩いて2014年にAFC入団以来、今日までの2シーズン出場83試合で19得点は、エースストライカーとしてはやはり物足りない。それでも、その独特の体形からファンの人気には絶大なものがあった。しかし、一部で予想はされていたとはいえ、このプレーオフを最後にザ・ビーストはAFCを去ることが、試合直後に本人の口からもたらされた。幾分心残りなトーンながら、本人はさばさばと「これがふさわしい区切り。寂しい別れだが、ある意味でこれ以上ないタイミング。AFCはこれからもっと強くなる。すばらしい。夢のようだ」と語っている。一部ではエヴァートンに入ってルカクとの巨漢2トップを築けば面白い、との声もあるが、年齢だけを考えても現実味は薄い。多分ノンリーグのどこかで余生を楽しむことになるのではないか。
▽そのエヴァートンだが、現時点ではまだ噂にすぎないが、マン・シティーを去るマヌエル・ペジェグリーニの監督就任がささやかれている。筆者は少し前にデイヴィッド・モイーズの復帰を示唆したが、思い切った改造とテコ入れを図るのであればペジェグリーニは悪くない選択肢かもしれない。実はあれから密かにナイジェル・ピアソン(“奇跡のチーム”レスターの土台を築いた将)の名前もひらめいていたのだが、そのピアソンは2部ダービー・カウンティーの新監督におさまってしまった。こうなってみると、マルティネスの後を継ぐには、出戻りのモイーズよりもペジェグリーニがふさわしいような気もしてくる。この連載で何度も触れてきたように、新監督にはできるだけホットな“ハク”が欠かせない。何よりも補強の点で有利だからだ。ユーロの喧騒を挟んで予測はなかなかつけにくいが、直感だけで言えば「ペジェグリーニ・エヴァートン」実現の目はかなりありそうだ。
▽さて、目前に控えたユーロに関して、イングランド最大の話題は、マーカス・ラシュフォードが晴れて代表の一員に呼ばれるのかどうか。現実的にその答えはほぼ「イエス」、というのが大方の一致するところ。何よりも、この18歳が大舞台に強い、動じないオーラを発散させているからだ。初デビューのヨーロッパリーグ戦でいきなり2得点、続くリーグのアーセナル戦でも2発、シーズン終盤のマンチェスター・ダービーでは決勝ゴールを決め、さらに先日の対オーストラリア・フレンドリーでも代表デビューゴール。故障がちのダニエル・スタリッジとの二択だとすれば、もはや迷うことはないと思われる。それよりも問題なのは、ケインとヴァーディーがいてラシュフォードをどう使うのか。さすがに3者揃踏みとはいかない。だとしても、彼の足跡を振り返ればいきなり初戦にぶつけてもらいたい気もする。当然ホジソンにとっては大きな賭け。だがその賭けこそが何かを・・・・?
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽その本拠地はキングストン・アポン・テムズ市。ロンドンの中心からやや南西よりの主要ターミナル、チャリング・クロス駅からざっと16キロに位置する“古都”の一つだ(都市としての成立は1835年)。それは、かつて「クレイジー・ギャング」の異名をとってプレミアで暴れまくっていた母体のクラブ「ウィンブルドンFC」の縄張り圏内でもある。そのウィンブルドンFCが当時間借りしていたクリスタル・パレスのホーム「セルハースト・パーク」を後にし、2004年にロンドン北方56キロの実験都市ミルトン=キーンズに新天地を求めて「ミルトン=キーンズ・ドンズ」として再出発したのはご存知の通り。その移転を良しとしない大多数の“地元”ウィンブルドンサポーターが結成したのが、このAFCなのである。いわば、ファンの願いから生まれたゼロからの手作りのチーム。それがようやく努力の甲斐あって3部に上がってきた。しかも、そのリーグ1には仇敵MKドンズがいる。来シーズンのリーグ1は「ドンズ-ウィンブルドン」で大いに盛り上がるだろう。
▽対プリマスのプレーオフ決勝では名物男のアデバヨ・アキンフェンワ(34歳)が勝利を決定づける2点目のPKを決めた。パッと見にボブ・サップを思わせるような巨漢でニックネームは「ザ・ビースト(野獣)」。ゲームの世界では「世界最強のプレーヤー」とも称される。ロンドン出身、両手に余る数のクラブを渡り歩いて2014年にAFC入団以来、今日までの2シーズン出場83試合で19得点は、エースストライカーとしてはやはり物足りない。それでも、その独特の体形からファンの人気には絶大なものがあった。しかし、一部で予想はされていたとはいえ、このプレーオフを最後にザ・ビーストはAFCを去ることが、試合直後に本人の口からもたらされた。幾分心残りなトーンながら、本人はさばさばと「これがふさわしい区切り。寂しい別れだが、ある意味でこれ以上ないタイミング。AFCはこれからもっと強くなる。すばらしい。夢のようだ」と語っている。一部ではエヴァートンに入ってルカクとの巨漢2トップを築けば面白い、との声もあるが、年齢だけを考えても現実味は薄い。多分ノンリーグのどこかで余生を楽しむことになるのではないか。
▽さて、目前に控えたユーロに関して、イングランド最大の話題は、マーカス・ラシュフォードが晴れて代表の一員に呼ばれるのかどうか。現実的にその答えはほぼ「イエス」、というのが大方の一致するところ。何よりも、この18歳が大舞台に強い、動じないオーラを発散させているからだ。初デビューのヨーロッパリーグ戦でいきなり2得点、続くリーグのアーセナル戦でも2発、シーズン終盤のマンチェスター・ダービーでは決勝ゴールを決め、さらに先日の対オーストラリア・フレンドリーでも代表デビューゴール。故障がちのダニエル・スタリッジとの二択だとすれば、もはや迷うことはないと思われる。それよりも問題なのは、ケインとヴァーディーがいてラシュフォードをどう使うのか。さすがに3者揃踏みとはいかない。だとしても、彼の足跡を振り返ればいきなり初戦にぶつけてもらいたい気もする。当然ホジソンにとっては大きな賭け。だがその賭けこそが何かを・・・・?
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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